Episode:27 Take1



 ゴオオオオオオオオ…
 飛行機が飛んでいく。
 ここは空港で、ここはロビーだ。
 そこまではわかっていた。
「はい、シンちゃんパスポート」
 嬉しそうに差し出すレイ。
 顔には満面の笑みが広がっていた。
 明らかに「追っ手からは逃げ切った」と言う安心が広がっている。
「さ、はやくしてくれよ、スケジュールつまってるんだからな?」
「は〜い!」
 タタキにも機嫌よく手を振って返した。
 呆然と、手に渡されたパスポートを見るシンジ。
 シンジは唖然としたままで、自分が這い出してきたトランクケースをぼうっと見つめた。
 その肩を誰かがぽんっと叩く。
 シンジはゆっくりと振り返った。
「…加持さん」
「シンジ君、何事も諦めが肝心だぞ?」
 そうだろうか?
 本当にそうなんだろうか?
 シンジの顔にはありありと疑惑の色が渦巻いていた。
 窓の外を見る。
 今のシンジに、朝の陽射しはちょっぴりきつい。
 ここはシドニー空港だった。

GenesisQ’第27話
COUNT DOWN

「ムサシ君、ムサシくんっ!」
 よっこいしょっと、抱き起こすミヤ。
「…へへ、これで時間を稼げるだろ?」
 どこかに光源でもあるのだろうか?
 薄明かりの中に浮かんだムサシの顔は、額に汗を滲ませ苦悶の表情を浮かべていた。
 その様子に、なぜ笑っていられるのかと腹が立つ。
「何バカなこと言ってるの!、無茶をして…」
 うつむくミヤ。
「ちょ、ちょっと、泣いてんの?」
「違う…、けど、よかった」
 ミヤは顔を上げると、小さな微笑みを一つ作った。
 その目元に涙が光っている。
 ドキ!
 あ、あれ?
 ムサシは胸元に手を当ててミヤに背を向けた。
 あれ?、あれ?、なんだ?
「どうしたの?」
 怪訝そうに声を掛けるミヤ。
「あ、な、なんでもないよ!」
 ムサシは焦ってきつめに答えた。
「ふ〜ん…」
 そのついでに、ムサシの向こうを覗き見るミヤ。
 狭い隠し通路だ、二人も並べばもうきつくなってしまうような。
 その天井が崩れてしまっていた、壁の一部もだ。
 これだけの城を成す石材である、崩れたと簡単に言っても、通路を塞ぐには十分過ぎるほどの質量を持っていた。
「ここはもうダメね…」
「他から回ろう、そっちにもあいつらが居るかもしれないけど…」
 ミヤは立ち上がると、ムサシにきりっとした顔を向けた。
「じゃあ、ムサシ君…」
「え?」
「どうしてここまで来たのか知らないけど、用事があるんでしょ?」
「へ?」
「…ムサシ君はムサシ君の用事をすませてね?、あたしは」
「ちょ、ちょっと待てよ!」
 さっさと行こうとするミヤを引きとめる。
 ミヤはつかまれた手を見た。
「ムサシ君…」
「そんなに俺のことが信用できない?」
「そう言うわけじゃ…、ないけど…」
 口を尖らせ、ミヤは上目使いにムサシを見た。
「でも、…ごめん」
 これ以上は関って欲しくないの。
 ミヤはその言葉を飲み込んでいた。
 だが飲み込むと同時に、あることに気がついてしまっていた。
 …そうよね、ムサシ君とお友達にはなっちゃいけないんだ。
 自分とは住んでいる世界の違う人だから。
 いいなぁ、カスミは…
 好きな人が甲斐さんで。
 自分をつかんで離さないムサシの手に、ミヤは自分の手を優しく重ねた。
「行かなくちゃ…、仲間がつかまってるの」
 そしてムサシに手を離させる。
 メイが居る所までは後少しだ。
 ミヤはじっとムサシを見た。
「ごめんねムサシ君、でも…」
 大切な仲間なの。
「取り戻したいの…」
 ムサシ君にもう会えなくなっても…
 嫌われても。
 ふうっと、ムサシはため息をついて頭を掻いた。
「…信用ないんだね?」
 ぴくっと、ミヤの体が震えた。
「ち、ちが、そうじゃ…」
 ムサシはミヤの唇に人差し指を当てて黙らせた。
「おしいなぁ、ミヤちゃんが信じてくれるなら、俺は空だって飛べちゃうのに…」
 顔を上げるミヤ。
「…嘘ばっかり」
「ほんとだって」
 ムサシは明るくおどけてみせた。
「言ったろ?、俺は泥棒だって」
 通信機を取り出すムサシ。
「知ってる?、怪盗は鮮やかに獲物を盗み出す、想像的な芸術家なんだよ?」
 そしてコホンと咳払いを一つし、続いてムサシは大きな声でしゃべり始めた。
「あー、こちらジョドー、ネズミは殿下の部屋へ向かっている」
 え?、っとミヤは驚いた。
 ムサシの声が、まったく別人のものになっていたからだ。
「衛視はすぐにそちらへ回れ」
「だまされるな、偽物だ!」
 本物が通信に割り込んで来た。


「ええい、いまいましい」
 実はジョドーは、崩れた瓦礫を隔てて、ミヤ達とは反対側の廊下に居た。
「まだ回り道は見つからんのか!?」
 壁の一部がスライドして、そこにガイド用のプラズマディスプレイが現れている。
 黒ずくめの一人が、ミヤ達の逃走経路も含めた予想を必死になって立てていた。
「良いか!、やつらは東の王の間を目指している!」
「騙されるな!、そいつが進入者だ!」
「貴様こそ偽物だろうが!」
「ネズミは西の殿下の部屋だ!」
 らちがあかん!
 通信機に向かって、ジョドーはいっそう大きな声を出して叫んだ。
「衛視隊は殿下の部屋へ向かえ!、我々は姫の警護に回る!」
 ジョドーはそのまま道を探していた部下を殴りつけた。
「もう良い!、迎え撃つ、急げ!」
 わさわさわさと、まるで影そのものがざわつくように、彼らは闇の中に退いていった。






「さあ姫、時が来るのがあまりにも遅過ぎたのです…、しかし今ならまだ間に合いましょう」
「嫌です!」
 ぱんっと、メイは伯爵の手を払いのけた。
 左腕は相変わらずシーツを手繰り寄せている。
「この乱れた世に、真に必要なもの、それはアイドルなのです!」
 大手を振るって壁を向く伯爵。
 その手には、いつの間にやらリモコンが握られていた。
 ピッ!っと小さな電子音が響く。
 壁面が動いた、スライドし、そこに現れたのは巨大なスクリーンで、映っているのはやっぱりマイとメイのコンサートの映像だった。
「いずれ妹君も参りましょう、だが今、あなたに全てを説明するにはあまりにも時間がなさすぎるのです」
 あ!
 油断していたメイの頭上、巨大なベッドの天蓋から、何かのガスが吹き出して来た。
「今ひとたびの眠りを…」
 霞んでいく視界。
 マイ…
 メイが発することができたのは、その一言だけだった。






 ピクン!
 マイの髪の中からイヌ耳が起き上がった。
「どうしたんだ、マイ?」
 徹夜のリキが声を掛ける。
 マイはいつの間にやら眠ってしまったようだった、彼女を抱くようにしてサヨコもいる。
 もちろんメイの代わりだ。
 この部屋にベッドは後一つ、それは本来サヨコのものだったのだが、すっかりツバサが占領してしまっていた。
 マイはむくりと起き上がると、眠そうに目をごしごしとこすって呟いた。
「…メイが呼んでる」
 そのままベッドから足を下ろし、立ち上がる。
 マイはまだリキのだぼシャツを着たままだった、左肩だけが引っ掛かり、右側はずり落ちそうになっている。
 下だけは履きかえてショートパンツを履いていた、だがあまりにもシャツが大きくて、何も履いてないような感じになっていた。
「テンマ達が見張りに行ってる、もう少し寝てろ」
「ん…」
 マイは素直に頷くと、そのままぼふっと倒れ込んだ。
 頭がサヨコの胸に受け止められる。
「7時か…」
 時計を見、リキは呟いた。
「アラシ、帰って来たらただじゃおかないぞ」
 アラシはどうやら、今日も朝帰りの様子であった。






「行こう」
 ミヤの手を取って歩き出す。
「でも、良いの?」
 怖々とミヤは聞き返した。
「まだ…、もっと危ない目に会うかも」
 ムサシは振り向かずに、ふっと笑んだ。
「もう会ってる、それに…」
 ぎゅっと繋いだ手を強く握る。
 ムサシ君?
 続きの言葉をミヤは待った。
 奇妙な緊張感が手を汗ばませる。
 だがムサシはそれ以上口を開かなかった。
 二人の足音だけが小さく響く。
 ムサシ君。
 聞かない方がいいのかなぁ?
 暗くてムサシの表情がよく見えない。
 そのことだけが、なんだかミヤには酷く残念に思えていた。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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