Episode:27 Take3
「シンちゃん、さっきなんて言おうとしてたのかなぁ?」
レイは寝っ転がると、同じように転がっているアスカに声を掛けた。
ミズホはシンジを追いかけていってしまっている。
「さあ?、あんたがあんまりからかうから、いいかげん嫌気がさしてきてんじゃないの?」
レイはその言葉に跳ね起きた。
「ええ〜!、シンちゃん嫌がってるのかなぁ!?」
「当ったり前でしょうが、ほとんどさらしもんじゃない、誰だって嫌がるわよ、あんなの…」
レイはしゅんっとなって、膝を抱え込んだ。
「でもぉ…、あたし達もう高校生よ?」
レイは口を尖らせた。
「それがどうしたってのよ?」
危機感の足りないアスカ。
「…シンちゃんももう16、子供じゃないもん」
「お子様だけどね」
あのバカも、もう16かぁ、早いわねぇ…
アスカは感慨にふけり始めた。
「勉強はできないわ、スポーツはできないわ、女の子にはもてないわで、よくあたしに泣き付いて来てたあのシンジがねぇ…」
うそつきぃと、ジト目で見るレイ。
「もてないのは、アスカが邪魔ばっかりしてたんでしょう?」
うっと脂汗が流れる。
「ふ、ふん、あの頃のシンジは今と違ってたのよ」
「もっと可愛かったの?」
アスカは耳を赤くした。
「そ、それより!、それが一体どうしたってぇのよ!?」
「あ、うん…」
アスカの照れ隠しを大まじめに受け取る。
憂いを帯びるレイ。
「もし、もしもね?」
言いにくそうに…
「シンちゃんが誰かと結ばれちゃっても…」
え?っと赤くなるアスカ。
「あたし達、今のままでいられるのかなぁ?」
シンジと、ではなく、アスカやミズホと。
「そ、そんなこと…」
わかるわけないわよ…
珍しくアスカは自信なげに答えた。
「よね?、わかるわけないよね…」
シン…っと、重い空気が二人の間を漂った。
「…アスカ、言ったよね?」
「ん?」
「あたしなら許すって、言ったんでしょ?」
その言葉の意味を考えて驚く。
「…バカシンジが、話したのね?」
「うん…」
温泉旅行での、あの夜のこと。
恥ずかしいけど、別に隠すようなことでも無いと、アスカは別に怒らなかった。
「ま、いいわ、で?」
そっぽを向いてしまうアスカ、顔が赤くなったからだ。
「…今でもそう思ってる?」
口に出せない。
胸中に複雑な感情が渦巻いていた。
レイなら…、まだ許せるかもしれない。
でも、…きっと嫉妬しまくるんだろうな、あたし…
そんな自分を、アスカは絶対想像したくなかった。
きっと醜いだろうからと、アスカは沈みこんでしまった。
「…同じこと、ミズホにも言える?」
また沈黙。
あの時は…、知らなかったから。
それが本当だった。
「知らなかったのよね…、同じ人を好きになるのが、こんなに辛いことだったなんて…」
アスカもそう思ってたんだ…
それからしばらくの間、二人は自分の考えの中に沈み込んでしまっていた。
「シンジ様ぁ、お醤油って濃い口でしょうかぁ?」
近くのコンビニ、ミズホはしゃがみこんで棚を物色していた。
シンジはその後ろに立って、頭の上から覗きこんだ。
「うん、味付けに使うって言ってたから、良いと思うよ?」
それを持って二人でレジに向かう、シンジは幾つかの視線を感じていた。
なんだろう?
店内の客が、ちらちらとシンジを見ている。
いや、ミズホもだ、ミズホは「お似合いのカップルだからでしょうかぁ?、きゃっ☆」などと、うかれているのであまり気にしてはいなかった。
だがそのわけはすぐにわかった。
「…あれ?、この間テレビに」
その店員はそこで言うのをやめた。
そのままニヤニヤと、支払いがすんでもシンジたちを見送っていた。
…そうか、この間のテレビだ。
シンジはミズホを見た。
二人で並んで歩く、すぐにコンビニやスタンドのある道路から、住宅街の路地に入れた。
あまり人通りが無いのでほっとする。
ほんと、ミズホってけなげで可愛いよな…
告白…
そんな言葉が過る。
ミズホなら、きっと嫌がったりしないよね?
素直に受けてくれるかもしれない。
そのことが気を軽くしていた。
ミズホの好意を素直に受けるべきなのかもしれない…
「キスを求められたら、今度は逃げないで…」
「は?」
「うわぁ!」
シンジは驚き後ずさった。
「今、キスとかなんとか?」
「い、いや、違うよ、うん!」
「そうですか…」
ミズホはちょっと残念そうに、手に下げた袋を持ち直した。
「あ、ごめん、僕が持つよ…」
照れ隠しも入っているのか、シンジは慌てて袋を取ろうとした。
「あ…」
だがミズホがしっかり持っていたためか、彼女の手にしっかりと触れてしまう。
「ごめん…」
何を意識し過ぎているのかと、ミズホは軽く小首を傾げた。
…シンジ様、やはり先程はわたしのことを考えていらしたんでしょうかぁ?
ぼうっと、出て来た熱に上気する。
お互いに反対側を見て歩く二人。
はっ!、今ならアスカさんもレイさんも居ません。
唐突に、ミズホは酷く重要なことに気がついた。
あなたとわたし、ふたりきり!
きゃっ☆と、ミズホは恥じらった。
あなた、なんてちょっと凄いですぅ!
そのおかしな様子に気がつくシンジ。
頬を一筋の汗がつたってしまう。
これはチャンスですぅ、きっと神様が「良い子」のミズホに下さった時間に違いありません〜。
ミズホはぎゅっと拳を握り込んだ。
見ていてください神様、きっと神様のご期待に添えてみせますぅ!
ミズホの目には、青空に浮かぶ白い雲が、シンジの顔をしたお地蔵様に見えていた。
「あの…」
遠慮がちに振り向く。
「う、うん、なに?」
シンジは呼び掛けられるよりも先にミズホを見ていた。
そのことに気がつき、ミズホはちょっとだけ驚いたように口を小さく開いた。
シンジ様、わたしを見てくださっていたのでしょうかぁ?
そう思うと嬉しくなって来る、ミズホははにかむように笑顔を広げた。
おかしいよ、さっきからおかしいよ、ミズホ…
引きつり笑いで返すシンジ。
「あの…、もうすぐ、シンジ様のお誕生日ですね…」
ああ…
そうかと、シンジは今日が何日かを思い出した。
「そう言えばそうだね…」
「はいですぅ、期待しててくださいね?」
ミズホはやたらと浮かれた表情を作っていた。
「シンジ様のために、たくさんお小遣いためたんですぅ」
ミズホは醤油を持ったままで、ガッツポーズを作ろうとして失敗した。
そのおかしさに、くすっと苦笑してしまうシンジ。
「いいよ、そのお金はミズホが使いなよ?」
「え?」
シンジのその言葉に、ミズホは落胆したような顔になった。
「だって悪いもん、そんなの…」
「どうして、そんなことおっしゃられるんですかぁ?」
ミズホはすねたように聞き返した。
「え?、あ、だってほら、あんまり高いものを貰っても、悪い気がしちゃうしさ?」
シンジは明らかにごまかしていた。
「…そうですかぁ?」
しかしそれを真に受けてしまうミズホ。
「そうですか、そうかもしれませんねぇ?、わかりました」
ミズホはそう言って、再びシンジと視線を合わせる。
「でも、お祝いはさせてくださいね?、シンジ様のお誕生日なんですからぁ」
「わかったよ」
シンジは苦笑して了解した。
「でも思い出してみると、今まで誕生日っていうと、ロクな事が無かったような気がするなぁ…」
そしてそのまま、ため息をつくようにして、シンジは過去を振り返った。
「え?、そうなんですかぁ?」
「…うん、毎年アスカだけにお祝いしてもらってたんだ…」
「バカシンジ!、どうせあんたのことだから、誕生日なんて誰からも祝ってもらえないんでしょ!?」
「え?、そ、そんなことは…」
ちびアスカが、怒ったように口を尖らせる。
「何か言った!?」
ギロ!
「う、ううん!、べつになんでも…」
小さなシンジは口答えもできない。
「そっ!、じゃ、はいこれ」
それはリボンのかかった、なんだか小さい箱だった。
「…なにこれ?」
「あんたばかぁ?、誕生日プレゼントに決まってるじゃない」
アスカの顔は真っ赤になっていた。
「アスカ…」
神妙な声を出すシンジ。
「な、なによ」
アスカはドキッとして身構えた。
「ありがと…」
「い、いいわよ!、別に…」
そしてくるっと回って照れ隠し。
「その代わり!、あたしの時にはそれの倍額以上のものを返しなさいよね!」
「え!?」
シンジはこの時プレゼントの持つ意味を、大きく勘違いして持ったのだった。
「おかげでそれから毎年、12月になるとお小使いが厳しくって…」
るるーっとシンジは涙を流してしまっていた。
「…でもぉ、うらやましいですぅ」
そんなシンジをじっと見るミズホ。
「そう?」
「だって…、わたし…、誕生日が…」
シンジははっとしてミズホを見た。
「ご、ごめん…」
シンジは謝ってから目をそらした。
ミズホのことを考えもしないで、自分だけ盛り上がって…
これじゃあ、せっかくさっきごまかしたのに、全然意味が無くなっちゃうじゃないか…
「ごめん」
だからシンジは、僕はバカだと、もう一度ちゃんと謝った。
僕はバカで、無神経で、すぐ調子に乗って…
「謝らないでください〜」
ミズホはそんなシンジを辛そうに見た。
「でしたらぁ、わたしにも誕生日をください〜」
ミズホの言葉に、シンジは「え?」っと顔を上げた。
「わたしも、シンジ様にお祝いしていただける日が欲しいんですぅ」
もじもじと、ミズホは指で遊びだした。
「でも…、そんな日って…、僕はどうすればいいの?」
シンジの問いかけに、ミズホはためらいがちな声を出した。
「あのぉ…、できましたら、シンジ様と初めてお会いしたあの日、あの日を誕生日にしていただきたいんですぅ」
上目使いに、ねだるミズホ。
あの日か…
思い返す。
珍しく一人で学校へ行ったあの日のことを。
僕は…、あの日ミズホとぶつかって…
偶然的な出会いであった。
あの猫って、どんな猫だったっけ?
シンジはよく思い出せなかった。
「うん」
それを悪いと感じながらも、シンジは軽い気持ちでうなずいた。
「いいよ、そうしよう…」
でも一つだけ、シンジにはとても言いにくいことがあった。
「シンジ様…」
「ん?」
「あのぉ、あの日…、何日でしたか、覚えておいでですか?」
うっ…
シンジの心配事とは、まさにそれだった。
「…ごめん、覚えてないんだ」
「そうですか…」
ミズホはしゅんとなった。
「あ、ご、ごめん!、でもほら、家に帰れば調べられるし…」
「いいんですぅ」
うつむく、そのせいでポニーテールが前へ流れた。
「で、でも、よくないよ、その…、ミズホにとっては、とっても大切な事なんだろ?」
なのに僕は…
人の気持ちに答えるつもりがあるのなら、忘れてはいけないことがある。
なのに、僕は…
自分がちっとも真剣になっていなかったことに気がついた。
「いいんです」
「でも…、え?」
ミズホは笑っていた。
笑みを浮かべて、シンジの瞳を覗きこんできている。
「…実はわたしも、忘れちゃってたんですぅ」
わ、わすれ…
シンジはミズホらしくない言葉に、ちょっとだけ唖然とした。
普段なら、そう言う事は絶対に忘れるはずなんて無いミズホなのにと驚いていた。
「シンジ様と一緒にいるのが当たり前だったからでしょうかぁ?、前は覚えていたんですけど…、ずっと昔から一緒にいるような…、それでいつの間にか…」
ミズホはそこで、ちろっと小さな舌を出した。
「…ひ、酷いや、からかったの!?」
「そ、そんなこと…、でももし覚えておいででしたら…」
赤くなってうつむく。
「覚えておいででしたら、わたし…」
「ミズホ…」
シンジは少しだけジン…ときた。
「ごめんね」
今度のごめんねは、笑いを含んだものだった。
「はい」
だからミズホは、その言葉を遮らず、笑顔と共に受け止めたのだった。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
Q'はGenesis Qのnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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