Episode:27 Take4



 シンちゃん…、もしかしてあたしを好きじゃなくなったのかなぁ?
 レイの心中に、複雑な疑念が沸き起こっていた。
 一番気になっているのは、さっきシンジの方から目をそらしたことだった。
 まさかアルバイトで時間取られ過ぎてるからって、そんなぁ…
 しかし実際、シンジはどこか冷たかった。
 自分によく似た女の子を思い出す。
 霧島マナ。
 そんな、まさか似てるからって…
 だがマナもシンジに好意をもっているようだった。
 そう言えば、シンちゃん最近背も伸びたし、またちょっとカッコ良くなって…
 自分の世界に入り込むレイ。
 レイ…
 シンちゃん…
 夕日の中に溶けこむ二人。
 その身長差、レイの目線はシンジの顎先。
 背伸びするレイ、かがむシンジ、理想の身長差、そしてキス。
「てへ、でへへ…、てへ…」
 涎が垂れる。
 だがしかし、その相手がいきなりマナにすり変わった。
「きゃあああああああ!」
 いきなりブンブンと腕を振って、その光景を打ち払う。
「あああああ、どうしよう、どうしよう?」
 考えがまとまらない。
 まずシンちゃんに、そのことだけでもちゃんと問いただして…
 またマナとシンジのラブシーンがフラッシュする。
「いいやあああああああ!」
 もだえ苦しむレイ。
「だめ、そんなのダメ!、どうしよう、心配で何から考えればいいのかわからないよぉ!」
「危ない奴…」
 そんなレイを、アスカは気持ち悪そうに見守っていた。


 シンジは醤油を渡すと、一人部屋に戻って寝っ転がっていた。
「アスカ、ミズホ、レイ…」
 三人の顔がそれぞれに浮かんでは消えていく。
 シンジは、今誰のことが一番好きなのか、真剣に思い悩んでいた。
「でも…、レイは僕のことなんてもう好きじゃないんだから…」
「それ、どう言うこと!」
 シンジはその叫ぶような声に、驚き起き上がってしまった。
「レイ!?」
 レイが階段を上がって来ていた。
「シンちゃん、それ、どういう意味!?」
 怒っている、悲しんでいる、泣いている。
 レイの顔は、色んな感情がないまぜになっていた。
 シンジはそれを見て、逆に落ち着いてしまった。
 ため息をつき、うつむくシンジ。
「あんたレイがそんな風に思ってると思ってたわけ!?」
 アスカとミズホも続いて上がって来た。
 シンジにはもう、止められなかった。
「だってレイじゃないか、先に付き合い出したのはレイじゃないか、隠れるようにして付き合ってたのは、レイじゃないか…」
 静かに、だがシンジは抑えることなく、その感情を吐露し始めた。
「だってレイには、他に好きな人がいるじゃないか…」
 何のことだかわからないと、黙り込むレイ。
「…僕は、確かにレイを好きだって言ったけど」
 唇を噛む。
「でも僕は…、僕はレイとは釣り合わないから…」
 アスカとも、ミズホとも…
 変わっていない自分を一番痛感しているのはシンジ自身だった。
「僕だってレイのことは好きだよ…」
「シンちゃん…」
 再びの告白に胸を高鳴らせるレイ。
「でも…、でもだめなんだ、できないんだよ、レイと自然に付き合うなんてできないんだ」
 だって…
「見たんだ!、浩一君といるところを、夜中に、公園で!」
 え!?
 レイの瞳が驚きに丸くなっていた。
「見たんだ…」
 顔を伏せるシンジ。
「レイ…、みんなに隠れて浩一君と会ってたでしょ?」
「あ、あれは…」
 レイはついどもってしまった。
 どうしよう?
 レイの視線が泳いだ。
 話すべきかどうか迷った。
 それを見て、シンジはふっと寂しげに笑った、笑うしかなかった。
 シンジはもう、諦めの表情を浮かべるだけで、レイに何かを求めようとはしなかった。
「いいんだ、もう…」
 否定の言葉すら、期待するのをやめていた。
「…いいんだよ、わかってるから」
「わかってないわよ、あんたちゃんとレイの話しも聞きなさいよ!」
 レイの代わりに叫んでいたのはアスカだった。
「アスカ、自分で言うから…」
「ダメよ!」
 アスカはきつく突っぱねた。
「あんた自分じゃ言えないでしょ!?、今のあんたの顔、どんなに酷いかわかってんの!?」
 アスカは一息でレイを黙り込ませると、今度はシンジを激しく睨みつけた。
「それで、こいつにそんな顔をさせてんのがあんただってこと、ちゃんとわかってるんでしょうねぇ!?」
 シンジ様…
 ミズホは心配気にシンジを見た。
 え?
 そしてなにごとか、ぶつぶつと呟いているのに気がついた。
なんだよ…、なんだよ、アスカまで…
「シンジ様?」
そりゃ僕が悪いよ、今まではっきりしなかった僕が悪いんだ…、でももう遅いんだよ!、僕にどうしろって言うのさ!」
 ビク!
 あまりの強い口調に、三人は一度に身を縮こまらせた。
 はぁ、はぁと、肩で大きく息をしているシンジ。
 そして今度はアスカを睨んだ。
「そうだよ、どうせ僕はバカで、情けなくて…、どうせアスカだって、アスカだって僕を捨てて行くんだろ!?」
 シンジにはもう、言ってはいけないことの区別も何も、つかなくなってしまっていた。
 バ!
「バカシンジぃ!」
 アスカの瞳が怒りで燃えた。
「バカ?、そうさ、どうせ僕はバカだよ!」
 アスカの言葉は、火に油を注いだだけだった。
「嫌いなんだろ?、こんな僕なんて嫌いなんだろ!?、わかったよ、じゃあミズホと付き合うよ、そうするよ、それでいいんだろ!?」
 シンジはミズホに手を差し伸べた。
「行こう、ミズホ!」
 くっ!
 アスカはいつも以上に素早く手を振り上げていた。
 だがその手は捉まれてしまう。
「え?」
 パン!
 だが小気味の良い音は鳴った。
「ミズホ…」
 ミズホが代わりに叩いていた。
 涙を流しながら、アスカの代わりに頬を張っていた。
「そんな…、そんな」
 しぼり出すような声を出すミズホ。
「そんなお気持ち、いりません!」
 ミズホは本気で怒っていた。
「ミズホ…」
 アスカがその両肩に手を置く、後ろから…
「シンジ様とお付き合いできるなら、それほど嬉しいことは、他にはありません、でも!」
 ミズホはシンジを睨みつけた。
「わたしのことを想ってくださらないシンジ様なんて、人を大事に想ってくださらないシンジ様なんてぇ、大っ嫌いですぅ!」
 わっと、ミズホはアスカの胸に顔を埋めた。
 そしてそのまま泣きじゃくる。
「ミズホ…」
 シンジは叩かれた頬を押さえて、呆然としていた。
「…シンジ、ミズホの言いたいこと、わかるわよね?」
 頷く。
 だが本当はわかっていなかった。
 ミズホに叩かれた、あのミズホに…
 そのことが、あまりにも凄い衝撃となっていた。
「だったらしっかりしなさい!、男の子でしょ!」
 で、あたし達は女の子なんだから!
 アスカの怒鳴り声と、ミズホの泣き声が脳裏に酷く響いていた。
 くわんくわんと、頭の中を直接揺さぶられているような感じがしている。
 シンジの目は焦点を失ってしまっていた、その中で、レイだけがはっきりとして見えている。
 僕は…、僕は…
 うなだれたまま、シンジはゆっくりと歩き出した。
 僕は…
 レイの正面まで、ミズホはまだ泣いている、アスカは怒ったような目を向けていた。
 シンジはそのままレイの横を通り過ぎた。
「バカシンジィ!」
 くっ!
 アスカの声がきかっけとなった。
 階段を駆け下りる。
 二階へ、一階へ、靴をちゃんと履かずに踵を踏み潰してひっかけた。
 確かに僕は好きだって言ったけど!
 どこをどう走って来たのか、気がつけばシンジはどこかの公園に居た。
 途中で何度も車に跳ねられそうになった。
 人の流れに任せて、電車にも乗ったような気もする。
 だがシンジには、そんなことはもうどうでも良いようになっていた。
 知らない公園、真ん中に池がある。
「ここは…」
 シンジは目の前のブランコを見て、急に思い出していた。
 レイに抱かれた場所。
 アスカを悲しませて、逃げ込んだ公園。
 顔を上げる、向こうに見えるジオフロント…
 あの時よりは少し遅い時間。
 シンジはあのコンテストの時と同じように、ブランコに腰掛け、うつむいた。
「僕だって…」
 キィ…
 ブランコが悲しい悲鳴を上げる。
「僕だって、最低だってことぐらい、わかってるんだ…」
 うつ向き、目を閉じる。
「僕は…、僕は、浩一君みたいにスポーツはできなくて、勉強もできなくて、背も低くて、臆病で、逃げてばかりいるような…」
 かすれて、続けられない。
 だが、声に出して吐き出さないことには気がすまなかった。
 シンジは次に何を言葉にしようかと考えながら顔を上げた。
「…レイ!?」
「シンちゃん…」
 心配げにレイが立っていた。
「…どうして」
「ずっと後ろをついて来たの、でも…」
 声をかけられないくて…
 悲しげにレイは目を細めた。
 その奥で瞳が横を向いている。
「…あのね、シンちゃん」
「ごめん!」
 シンジはその続きを遮るように頭を下げた。
「僕が…、悪いのは僕だから、だから…」
 シンジは晴れやかな顔を上げた。
「それだけ!」
 シンジはできるだけ明るく努めた。
「それだけだよ、僕はレイを嫌いになったわけじゃないから、ごめんね、嫌な思いさせちゃって」
 安心させようとして、無理矢理にでもに微笑んだ。
 何を言われても、シンジは反発してしまいそうだったから。
「レイが誰のことを好きになるかなんて自由だよね?、だから、レイが…、レイが…」
 これ以上嫌な自分になりたくなかったから、シンジはたたみかけるように先に口にした。
 だがふいにぽろっと、涙がこぼれた。
「あれ?」
 シンジは気付かなかった。
 レイが見えないや。
 ぼやけて霞む視界をおかしく思う。
「そう…」
 そして聞こえて来たのは、レイの冷たい声だった。
「じゃあ、さよなら…」
 いつか聞いたことのあるようなセリフだった。
 何かが終わるんだ。
 そんな予感を孕んだ言葉に、シンジは少し足が震えた。
 だが言葉には続きがあった。
「なんて、いわないもん」
 タン!
 地を蹴るレイ。
 そしてそのまま、シンジの首に噛り付いた。
 ギィッと、ブランコがその反動に揺れてきしんだ。
 シンジは驚きながらも、レイをしっかりと受け止めていた。







[BACK][TOP][NEXT]


新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
内容の一部及び全部の引用・転載・加筆その他の行為には
作者である私と原作者naryさんの許可または承認が必要です、ご了承ください。

本元Genesis Qへ>Genesis Q