Episode:27 Take5



「れ、レイ!?」
 驚きに慌てふためくシンジ。
 だが腕はしっかりとレイの背に回してしまっていた。
「シンちゃんが好き…」
 ドキッとするシンジ。
 レイの中に、他の言葉は何も無かった。
「シンちゃんが好きなの…」
 シンジの鼓動が早鐘を打ち始める。
「でも、浩一君は…」
 誤解だから…
 シンジの耳から、大きく響いた。
「誤解?」
「…うん、二人っきりで会ってた事なんてないもん…」
 動揺。
 それがレイにも伝わっていった。
「カヲルに一緒に居てもらったの、だって…恐かったから」
 心を許したりしてなかったから…
 そのことを少し寂しいと感じるレイ。
「レイ…」
 今度はシンジがレイの心を感じ取る番だった。
「レイ」
「シンちゃん…、わかってる?、今二人っきりなの」
 シンジの体が急に強ばった。
「それで、これってラブシーンよね?」
 少しだけ距離を開けるレイ。
 でもシンジの首から腕は外さなかった。
 真正面で見つめてくる赤い瞳。
「レイ…」
 唇が濡れていた。
 吸い込まれそうになって、逃げ出すと言う言葉を失うシンジ。
 目の前のレイ以外のことが、全て頭の中から吹き飛んでいた。
「ようやく二人っきりになれたね、シンちゃん…」
 その唇が近づいて来る、それがシンジの金縛りを解いた。
「あ、だ、ダメだよ、レイ…」
「どうして?」
 ぎりぎりの所で止まる。
 レイが口走るたびに、その息が吹きかかった。
「だ、だって、…何をするつもりなんだよ?」
 それを感じて、余計に弱腰になるシンジ。
 レイはきょとんとしてシンジと目を合わせた。
「なにって…もう逃げられないようにするの」
 誓いをするの。
 レイにシンジを離すつもりは無かった。
「レイ?」
 どこかイっちゃってる瞳に気がつくシンジ。
「れ、レイ、恐いよ…」
「大丈夫…、優しくするから」
「そ、そうじゃなくて…」
 冷や汗が流れ落ちるシンジ。
「シンちゃん…、緊張してるの?」
「だ、だから、あのね?」
 じたばたともがく。
「恐いのは、最初だけよ…」
 シンジは驚くほど強いレイの力に戦慄していた。
「だぁめ、逃がさないんだから」
 だーれーかー!
 犯されるぅ〜!
 先程までの暗さはどこへやら、だんだんと元に戻りつつあるシンジであった。


 ぐす、ぐしゅっと、ミズホはずっと鼻をすすっていた。
「あんたいいかげんにしなさいよねぇ」
 その音が耳障りだとばかりに、アスカは不機嫌さを隠そうともしなかった。
「だってだってぇ、叩いてしまいましたぁ、シンジ様を…」
 自分の手の平を見るミズホ。
 そしてまた、ミズホの瞳に涙が溢れた。
「ただいまぁ!」
「…ただいま」
 元気なレイの声と、なぜか沈んだシンジの声が聞こえて来た。
「帰って来ましたぁ!」
 がばっと顔を上げるミズホ、その顔はもういつものミズホに戻っていた。
「バカシンジィ!」
 それよりも早く、アスカはそっこうで駆け出していた。
 唖然として見送るミズホ だがすぐに、はっとして我を取り戻した。
「で、出遅れましたぁ!」
 慌てて後を追う。
 階下では、すでにアスカが詰問を始めていた。
「何よいい雰囲気でさ!、あんた一体どこで何して来たのよ!」
 いきなりの言葉に、シンジはつい言い返してしまった。
「な、なんだよ、仲直りしろって、アスカがそう言ったんじゃないか!?」
「仲良くなれとは言ってないわよ!」
 パン!
 景気のいい音が響いた。
「あんたあたし達がどれだけ心配したか、わかってんの!?」
「わ、わかってるよ…」
 その平手に怖じ気づくシンジ。
「うん、ありがとうね、アスカ!」
 レイは思いっきり嬉しそうに、シンジの腕に抱きついた。
「アスカのおかげで、シンちゃんもようやく自分の気持ちに気がついてくれたみたい!」
 ピシ…
 あ、空気が…
 シンジの背中に悪寒が走った。
「しぃん〜じぃ?」
 ぎぎぎっとアスカの首が音を立てて動いた。
「ち、違う、そんなこと言ってないって!」
「どういうことか、説明してもらいましょうか?」
 アスカはまったく、シンジの弁明を聞いてはいなかった。
「アスカ、顔が恐いよ…」
「ん〜、今何か言ったかしらぁ?」
 シンジの頬をつねるアスカ。
「シンジ様ぁ」
 そのシンジの袖をつかむミズホ。
「な、なに、ミズホ?」
「あのぉ、先程のことは取り消しで…、いえ、一部取り消しでは無くて、あのぉ…」
 頬を染めて、もじもじとしている。
「だ〜め!、シンちゃんはもうあたしのものなんだから!」
 そんなミズホから奪い返すように、レイはシンジを振り回した。
「ほほぉ、バカシンジィ?、一体何をしたのよ?」
 その関係に眉根を寄せるアスカ。
「だからしてないって!」
 シンジはレイの口を塞いで釈明した。
「嘘おっしゃい!」
 シンジの手を払いのけるレイ。
「うん、嘘だよね?、だってシンちゃん、あたしと…」
 そこでレイは言葉をとめた。
「ちょ、ちょっと止めないでよ!、結局なんにもしなかったじゃないか!」
「結局って何よ!」
 シンジはあからさまに「しまった!」と口を押さえた。
 固まる空気。
「あらあら、シンちゃんもてもてねぇ?」
 とんとんとんっと、ユイがその後ろを通り過ぎた。
 シンジは笑顔で引きつっていた。
 同じようにアスカも引きつり笑いを浮かべている。
「バカシンジィ!」
「うわぁ、ごめん!」
 シンジは慌ててアスカの脇をすり抜けた。
「ちょっとシンちゃん!」
「待ちなさいよ!」
「シンジ様ぁ!」
 シンジは本能的に隣と繋がっている部屋を選んで逃げ込んだ。
「と、父さん!」
 新聞から顔を下ろすゲンドウ。
 ちょっとシンジ、開けなさいよぉ!
 その後ろで、ドアがどんどんと叩かれている。
「なんだ、またなにかしたのか?」
 立ち上がり、眼鏡をくいっと持ち上げるゲンドウ。
「お、お願い、かくまって!」
「ふむ…」
 ゲンドウは思案気に室内を見回した。
 その片隅に、なぜだかトランクケースが置かれている、それも特大のがだ。
「シンジ…」
「なに?、父さん…」
「その中に隠れられるか?」
 シンジはじぃっと、そのケースを見た。
「…僕を売ったりしない?」
 ああっと、ゲンドウは大まじめに頷いた。
「父さん…(いつもは僕のことをいじめてばかりで、肝心な時には役に立ってくれなくて、その上母さんには頭の上がらない父さんだけど)、父さんがそう言うなら、信じるよ」
「…なんだその妙な間は?」
 シンジは頑張って体をくぐめて潜り込んだ。
「では、閉めるぞ?」
「うん…」
 シンジは息苦しくないかと、ちょっとだけ心配になった。
 もうちょっと気をつけていればわかったかもしれない、外から冷たい空気が流れ込んで来ていることに。
 そのトランクには空気穴と、シドニー行きのタグが取り付けられていた。
「シンジ、グッドラックだ」
 ニヤリ。
 ゲンドウは、いつにも増して邪悪な笑みを浮かべて言った。






「…おかしいと思ったんだ」
 あの父さんが助けてくれるだなんて。
 そうは思ってはみても、ここまで来れば後の祭であった。
「シンちゃん、早くぅ!」
 はしゃぎ、先に行くレイの後を、シンジはとぼとぼと歩いて続いていった。
 その背と両手に、山のような荷物を持たされている。
「どうして、僕が…、こんな」
「レイちゃんのマネージャー兼荷物持ちってことで、シンジ君の同行が認められたんだよ」
 タタキがそんなシンジに話しかけた。
「荷物持ちって…、じゃあもしかしてこれ全部レイの!?」
 タタキはニヤリと笑った。
「それに収録後の時間は自由だ、好き勝手に遊んで結構!、そのための保護者代行も随伴してることだしな?」
 タタキは加持に目配せした。
 はあ…っと、ため息をつくシンジ。
「好きで来たわけじゃないのに…」
「ま、せいぜい頑張ってくれよ?、今回君はおまけだからな?」
 僕のぼやきなんて、誰も聞いてくれないんだ…
 シンジは透き通るような青空に、呪詛の言葉を吐きたい気持ちになっていた。






「さ、じゃあ行きましょうか?」
 ゴォオオオオオっと旅客機が飛び立っていく。
 ミサトは髪を大きく振って振り返った。
 こくんと頷く少女が二人。
 一人は赤い髪の女の子、いつもと違って軽く口紅まで引いている。
 18・9と偽っても通りそうなアスカ、15歳。
 残る一人は黒い髪を黄色いリボンで縛っているミズホだ。
 こっちも気合いを入れて、髪を下ろしていた。
 リボンは首の後ろから、頭の上で結んでいる。
「気合い入ってるわねぇ?」
 ミサトは苦笑するしかなかった。
「アスカちゃん、ミズホちゃん、がんばってね」
「うむ」
 遠くの柱の影で、ユイはハンカチを噛み、ゲンドウは腕を突き出してVサインを決めていた。
 なんだかなぁ…
 頭痛を堪えつつも、海外につられて文句の言えないミサトであった。







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