Episode:27 Take6



 飛び立つ飛行機を見送る。
「では、計画をフェイズ2に移行しよう…」
 ゲンドウは爆弾マークだらけになっている手帳を見ながらそう呟いた。
「人の心をも動かす業、策士ですね、あなたは…」
 少し離れた所にカヲルが立っていた。
 笑みを浮かべながら振り返る。
 カヲルの言葉に、ゲンドウはただニヤリと口の端を釣り上げた。
 ふふ…
 ふふふ…
 ふふふふふ…
 二人の口から自然と笑いが漏れて来る。
「あらあら、楽しそうだこと」
 ちょっぴり密談に混ざりたい気持ちを抑えるユイ。
「それで、君はいいのかね?」
 ゲンドウは急に生真面目な表情を作って尋ねた。
「ええ、少し小用がありまして…」
「シンジよりも大切な?」
 カヲルはふっと笑ってごまかした。
「…それに、向こうには会うとケンカになる相手が居るもので」
 カヲルの頭の中には、リキの姿が思い浮かんでいた。
「大丈夫ですよ、あの子達なら…」
 カヲルは、小さくなってしまった飛行機を目で追いかけた。
「シンジ君も居ることですしね」
「そうだな…」
「そうですわね、信じましょう、わたし達の子供達を…」
 ああっと、ゲンドウは頷いた。
「たくましく生きろ、シンジ」
 ある意味、見捨てているようなゲンドウであった。






「着いたよ、ここだ」
 壁に耳を当てるムサシ。
「何か聞こえるの?」
「うん、壁が薄い、入り口になってるんだよ、この壁が」
 通路は行き止まりになっていた。
 ムサシはその行き止まりで壁を調べている。
「人の気配がする…、待ち伏せかな?」
 さて、どうしようかとムサシは振り返った。
「ごめんね?」
 ミヤが右手で謝っている。
「え?」
 問い返す間もなく、ムサシは頭に衝撃を受けて崩れ落ちてしまった。
 ミヤが力を使って殴りつけたのだ。
「リキ達みたいにはいかないけど、あたしにだってこれぐらいは、ね?」
 ミヤは罪悪感から逃れるかのように一人ごちた。
 スクール水着の胸元から何かを取り出すミヤ。
 アンプルのような入れ物、ミヤはその口を折って、一気に飲もうとした。
「さて、誰の血なんだか…」
 あわよくばっと、ミヤは仲間の血であることを祈った。
 それもリキやサヨコのような扱いづらい力ではなく、また戦い向けであるように。






 シンジは疲れたのか、車の窓から顔を出して景色を眺めていた。
 スタッフは二台のボックスカーに分乗している。
 シンジ達だけが普通の乗用車をレンタルしていた。
 隣にはレイ、運転席には加持が居る。
 住宅街のわりには、日本のように息のつまるような感じが無い、シンジは「庭が広いや…」っと、家の前にある芝生を見て感じていた。
 ブロロロロ…
 ミゼット3が電気自動車にあるまじきエンジン音を立てて追い抜いていった。
 その荷台に女の子が座っている。
 草色のシャツにアーミーパンツ。
「…地元の人じゃないよね?」
 シンジはなんの確信も持たずにそう呟いた。


 ミゼットが停まる、彼女はその荷台から降りると、送ってくれた老人に軽く頭を下げて礼を言った。
 林に囲まれた道だった。
 彼女はその道を外れて、林の中へと消えていく。
「遅かったな」
 林を抜けると海に面していた。
 横を向けば、1キロ程先にメイのつかまっている屋敷が見える。
「テンマか…、姿を見せろ」
 彼女は…、ヨウコはその屋敷を睨んだままでテンマに命じた。
 すうっと、ヨウコの頭上に現れる。
「動きは?」
「まだ何も無い、いや」
 くんっと、テンマは顔を上げた。
「ミヤが、動いた」
 その言葉に、ヨウコは素早く動き出していた。






 なにこれ…、なんなの?、なに!?
 血からは外見ではなく、力を取り込もうとした。
 ズキン、ズキンと頭がうずく。
 恐い、恐い、これは…、誰?
 知っている人の気配に驚く。
 シンジ君の匂いがする…
 意識の奥の奥から、シンジが浮かび上がって来ていた。
 それはシンジとは似ても似つかない、邪悪な笑みを浮かべている。
 力が欲しいか?
 誰かの声が聞こえて来た。
 力が欲しいのなら、くれてやろう…
 それが誰の呟きだったのか?、ミヤはわからないままに、意識を何かに飲み込まれていった。



続く







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