Episode:28 Take2



 ひゅるるるる…
 やけに軽い音と共に、弾は館の手前、崖の中腹に着弾していた。
 ドカン!
「なんだ!?」
 自室へ戻ろうとしていた伯爵が、慌てて壁に手を突いた。
「殿下」
「ジョドーか!?」
 館内放送に話し返す。
「はい、崖側に砲撃を受けました」
「砲撃だと!、ええい何をしていた!?」
「姫の護衛に…」
「侵入者はどうなっているか!?」
「…取り逃がしまして」
「役たたずめが!」
 伯爵は吐き捨てると、振動がおさまるのを待ってから立ち上がった。
「寝所を隔離移動しろ、半数は外敵の処理に回れ」
「はは…」
 スピーカーの向こうで、頭を下げているのがわかりそうな返事だった。
「そんな暇があるのなら、働けばいいのだ」
 反吐を吐きたい気分を押さえて、伯爵は「時計の針」を進める算段を開始していた。






 ズズゥン…
 振動がミヤの足元を揺さぶった。
「な、なにかな?」
 気にはなったが、ミヤにとっては正面の扉の方が重要だった。
「どうして開かないのよ、これ!」
 慌てる、このまままごまごしていると、気絶している連中が目を覚ましてしまうかもしれなかったからだった。
 大きな扉だ、ミヤの身長の倍はある。
「もう!」
 ミヤはゲシッと扉を蹴った。
 ゴカン!
 何かの外れた音が聞こえた。
「え、え?、なに!?」
 続いてゴウンゴウンゴウンと重苦しい音と共に、振動が鳴り響く。
 パラパラと、崩れた壁や天井から残った破片が落ちてきた。
「あ、あたしのせいじゃないわよ?」
 焦って扉にもたれるミヤ。
「え?、きゃ!」
 ぎーーーっと、扉が開いた。
 どてっとこけるミヤ。
「いったぁ、もう、さっきまで開かなかったくせにって…、へ?」
 天井を見上げる。
「嘘…」
 上方に何かが昇っていく、それを隠すかのように、シャコンシャコンと隔壁が閉じられた。
「ちょ、ちょっと…」
 冷や汗が流れ落ちる。
「やだ、どうしよう…」
 逃げていく部屋を、ミヤは呆然と見送ってしまうしかなかった。


 ばたばたと人の動きが慌ただしい。
「ライに許しを出したのは早計だったか?」
 自問するヨウコ、まさか80mm(砲そのものは15kg)を持ち出して来るとは、さすがに予想していなかったのだ。
「だが騒動は人の動きを見失わせる」
 ヨウコは屋敷裏の崖に回っていた。
 その上方に黒煙が上がっている。
 沖にクルーザーが停泊していた、なにやらやたらと左右に揺れている。
「行くのか?」
 呼び止めるテンマ。
 そこには隠し通路があった、ジョドーの影達が出入りするのに使っている通路だ。
 外側は地肌がむき出しだったが、奥はコンクリートで整備されていた。
 車が通れるほどの大きさ、普段はフォログラフィによって隠されていた、だが今はライの砲撃によってその機能に支障をきたしている。
「ああ、ミヤは?」
「サヨコがフォローする」
 テンマは洋上を見やった。
 小型のモーターボートが三艇、クルーザーを取り巻くように回っている。
「何も行くこともあるまい?」
 独り言のように言う。
「やりようはいくらでもある」
「錆付かせるには惜しいからな」
 ヨウコは迷いもせずに歩き出した。
「たまには使ってやりたい」
 ヨウコはボストンバッグを、もう一度しっかりと肩にかけ直した。


「潮風が染みるぜ」
「ひいいいいい!」
 くいっとテンガロンハットを押し上げるライ。
 片膝をへ先に立て、そこに腕を置いていたりしていた。
 腰の左右のホルスター、それに両脇、ベルトに至るまで、どこから調達して来たのやら?、やたらと銃器で武装している。
 そのバックの操舵室で、17歳の少年Aが、涙ながらに悲鳴を上げていた。
 ブオオオオオ!
 無粋でやたら改造の後が見受けられるモーター音が、ライ達のクルーザーを追いたてようとして回っていた。
 狭い湾内である、出足の遅いクルーザーでは逃げようが無かった。
「ならば、出迎えてやろうじゃないか」
 何やら嬉しそうに、足元をごそごそと漁る。
「よいしょっと」
 取り出したのは、やたらと銃身の長いライフルだった。
 それを腰だめに撃ち始めるライ。
 ドンドンドン!
「ひええええええ!」
 その光景にビビッたのか、Aが操舵輪から手を放してしゃがんでしまった。
 弾着の水しぶきが、どんどんあらぬ方向へと動いていく。
「夢だ、こんなのは悪い夢なんだ」
「わわわわわ!」
 方向性を失った船が、モーターボートに身を寄せた。
「こら!、ちゃんと動かしてよ!!」
 言いながらも撃ち切ってしまったのか、ライは両脇のホルスターから7.65ミリ・ブローニングを抜いた。
 モーターボートが激突した、転覆するボートから黒づくめが三人跳び移って来る。
「へへ、そうこなくちゃ…」
 腰を低く構える黒づくめにライは銃口を向けた。
 ダンダンダンダンダン!
 右と左を交互に打つ、その弾丸は全てかわされていた。
 左右と上に散っている、「甘い!」、ライは両の腰のM19を抜いた。
「今日は出血大サービスさ、感謝の言葉は地獄で言いな!」
 ライは散った三人のド真ん中を走りぬけながら、まず左の黒ずくめを狙った。
「ダメか!」
 やはり銃弾はそのスーツを通さない。
「一体どんな生地なんだか!?」
 膝で滑るようにして反転、着地したやつを狙って残弾を消費する。
「こりゃ無駄かな!?」
 M19を捨てると、ライは最後の銃を抜いた。
 ダンダンダン!
 帽子のツバで狙いを付ける、一人一発の三連射。
「スミス・アンド・ウェッソン、44マグナム・リボルバー」
 銃口から硝煙が立ち昇っていた。
 わずかに遅れて、黒づくめ達が倒れていく。
「こいつで撃ち抜けないものは無い」
 しかし当たってはいなかった。
「やっほー!」
 黒づくめ達の背後に、イサナが元気に立っていた。
「なんだよ良いところだったのにぃ!」
 がっくりくるライ。
「ヨウコの伝言!、早く来いって」
 にかっと笑って、イサナは船のへ先に座り込んだ。
「お船で、お船で、お船で、お船で、ゴー、ゴー、ゴー、ゴー!」
 腕をぶん回すイサナ。
「ったく」
 苦笑して、ライは操舵室に押し入った。
 その隅っこで少年がぶるっている。
「平和な日常なんて、かくももろく崩れ去るもんさ」
 自分で引き込んだ部分は棚に上げている。
「さてと…」
 ライは暴れ放題の舵をつかむと、「面舵いっぱーい!」っと逆の左へ船首を向けた。


「派手にやっているようだが…」
 ヨウコは時折聞こえて来る銃声を聞いていた。
 本来ならば捉えられるはずのない音を、テンマを介して聴いている。
 抜け道はトンネルとなり、駐車場に続いていた。
「普通乗用車が数台、それに装甲車に…あれはJAか?」
 ヨウコはバッグの中からスプレーを取り出すと、JAと装甲車の外部カメラに吹き付けた。
「さて…」
 監視カメラにはすでに細工がしてある。
 カメラの前にカードを一枚張り付けていた、デジタルカメラで撮った写真を、そのまま小型プリンターで印刷した物だった。
「…画質は悪いが、時間は稼げる」
 ヨウコはヘリポートへ出るための道を探した。
「メイの返事は無い…、薬でもかがされたか?」
 さらにバッグからクローム仕上げの357マグナムを抜く。
 頭の隅で、ライに見せたくないと考えながらだった。






「ん、よし!」
 鏡の前で、気合いを入れる。
 カスミは薄く化粧をすませると、スーツに身を固めて部屋を出た。
「失礼します」
 そして軽くノックし、隣の部屋に入る。
「やあ」
 朝日の中に、甲斐が居た。
 まだベッドの中だ、上半身を起こして、何かのレポートを読んでいる。
 そのベッドの隣で、ゴッチが直立不動の体制を取っていた。
 ちょっとだけ口元に不機嫌さを出してしまうカスミ。
「…では、そのように」
「頼むよ」
 ゴッチはすれ違いざまに、カスミにも軽く頭を下げていった。
 バタン…と戸が閉じられる。
「ん?、どうかしたのかい?」
 それを目で追うカスミに、甲斐は珍しく声を掛けた。
「…いえ、なんでも」
 甲斐はクスクスと面白そうに笑っている。
「彼はあれでも優秀な男だよ」
「そうですか…」
 カスミはわざと事務的な顔を作って甲斐に報告を始めた。
「…昨夜、メイが誘拐されました」
 甲斐は動揺もせずに、用意されているコーヒーに口をつけた。
 誰が煎れたのかしら?
 妙に気になってしまうカスミ。
「今現在、テンマ達が救出に動いています」
 ふうっとため息をつく甲斐。
「困った子達だね」
 にやけた笑みは、いつもの通りだ。
「まあ、命の危険はないにしても、身は危ないかもしれないな…」
 甲斐はカスミを見た。
「安全は僕が保証するよ…、あまり伯爵を追い詰めないでおくれ?」
 追い詰める?
 カスミは首を傾げた。
「…彼はここで最高の権力を持ってはいるが、一番弱い人間でもあるんだ」
 権力があるのに、力が無い?
 カスミはその意味を図りかねていた。







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