Episode:28 Take4



 新オペラハウス。
 シドニー湾の干拓範囲の外側に位置している、それは以前のオペラハウスと形こそ同じものの、その大きさは倍近くまで拡張されていた。
 記念祝賀行事は夕刻、最も夕日の美しい時刻からとなっている。
 だがそれでも朝から人出は多かった、このオペラハウスを見るだけでも、その価値が十分にあったからだ。
「いや、女の子はいいなぁ」
 浮かれまくって、その合間をぬうようにふらついている少年が居た。
 まさにこの世は男と女、二つの存在から出来上がっているって感じだよな、人間に生まれてよかったよ、ほんとに。
 そんな不届きなことを考えているとは、表面上おくびにも出してはいない、彼はもちろんアラシだった。
「さて、次のターゲットはっと…」
 鼻歌混じりに獲物を探す、彼は徹夜でナンパしていた。
 引っ掛けた後どうするかは考えていない、アドレス帳を埋める、ただそれだけのコレクター根性で動いているだけだった。
「お、あの細い首、手足、…ちょっと胸とお尻がマイナスつくかな?、でも近ごろ珍しい貧弱体形…」
 ふとミヤのことが脳裏を過った。
「おいおいおい」
 プルプルと頭を振って、ミヤの残像を取り払う。
「とにかく、あれは絶対ポイント高いと見た!」
 その子は花壇の前に立ち、誰かを待っているようだった。
 つまらなさそうにオペラハウスの方を眺めている。
「あっと、ごめん」
 アラシは古典的にぶつかってみた。
 無表情なままで道をゆずる、その反応にアラシはちょっとだけ戸惑った。
「ああ、ごめん!、気を悪くしちゃったかな?」
 畳み掛けるようにアラシ。
 空色の髪をした少女は、ふうっとため息をつくと、邪魔臭そうにアラシを見た。
 そして…
「別に…」
 と、至極つまらなさそうに呟いた。
 ごく…
 その神秘的とも言える雰囲気に、つい生唾を飲み込んでしまうアラシ。
「あ、あの…」
 だがもちろん、そんなことで引っこんだりはしなかった。
「レイー!」
 だが邪魔された、見るからにださくて、ぼんやりしてて、頼りなさそうな少年が手を振って近寄って来る。
 レイ!?
 アラシはその単語と赤い瞳を直結させた。
「シンちゃん!」
 急に笑顔を華開かせる。
 だが鑑賞しているような余裕はアラシから失せていた。
「じゃ、さよなら」
 無愛想に立ち去るレイ。
 シンジに「誰?」と聞かれて、ヤキモチ焼いてるんだ、ウレシー!などと抱きついて、観光客に写真を取られていたりするのだが、アラシはそれを背に足早に歩き出していた。
「どうして、ここに!?」
 驚きによる動揺を隠し切れていなかった。
 初めて顔を会わせたとはいえ、何度も写真は見ていたはずなのに、アラシは名前を聞くまで気がつかなかったのだ。
「しかも、碇シンジだと!?」
 アラシの歩みが、早足から駆け足になっていた。
 あれがあの子の!?
 赤い髪の少女を思い出し、腹を立たせる。
 アラシはとにかく仲間に伝えようと、興奮を押さえるために人ごみから遠ざかろうとしていた。






「メイだメイだメイだー!」
 ベッドの上で、両手を取って上下に振るマイ。
「よかったな、マイ」
「うん!」
 ヒマワリのような笑顔に、涙ぐむリキ。
「バカ?」
 冷たく言い放ったのはカスミだった。
「しょうがないよぉ、マイはリキのアイデンティティだもん」
 ぽかっと、そのミヤの頭をカスミは小突いた。
「お気楽なこと言ってるんじゃないの!、それよりあの子、どうするの?」
 二人は部屋の隅を見た。
 そこにムサシが転がされている。
 眠らせたのはリキだ。
「うん…、助けてくれたの、だから…」
 はぁ…っと、カスミはため息をついた。
「記憶は消します、いいわね?」
「え?、でも…」
 ミヤは口ごもった。
「なに?、なにか大事なことでもあるの?」
「えっと…」
 もじもじと、指で遊ぶミヤ。
「あ、僕知ってる!」
 急に上がった声に、みんなはびっくりしてツバサを見た。
「いたの?」
 みんなの目は、まさしくそう驚いていた。


「なるほど、デートの約束か」
 くくくっと、楽しげに笑っている甲斐。
「笑い事じゃなくて…」
 カスミもさすがに困り果てていた、隣のミヤも、怒られる寸前の子供のように萎縮してしまっている。
「いいじゃないか、記憶を消すことはいつでもできる」
「消すん…、ですか?」
 やっぱりと、ミヤは悲しそうに甲斐を見た。
「嫌かい?」
「嫌…、とかじゃなくて」
 ミヤは言葉を探していた。
「そうやって、誰にも覚えておいてもらえないのかなって…」
 顔を変え続けていただけに、本当のミヤを覚えている者は少ない。
 それがコンプレックスにもなっていた。
 くくっとまたも笑う甲斐。
「いいさ、好きにしなさい」
 ミヤは喜びに顔を輝かせ、逆にカスミは少しだけ眉を寄せた。
 片手をあげて、制する甲斐。
「…理由はある、あの子は大佐の部下なんだよ、この意味、わかるね?」
 ああ…と、カスミは心配するのをやめた。
「部下?」
「そうだ」
 甲斐はにやにやとしている。
「だから心配しないで、遊んで来なさい」
「部下…」
 ミヤはもう聞いてはいなかった。
「ちょっとミヤ?」
 肘でつついて、それを非難するカスミ。
「部下…、だったんだ」
 それでもミヤは聞いてはいなかった。






「デートか…」
「デートねぇ?」
「しくしくしくしくしく…」
 うーんと悩んでいるのはリキとサヨコで、出番の少なさに泣いているのがツバサだった。
 マイとメイは、ようやく落ち着いたのか仲良くテレビを見ている。
「罠かな?」
「そこまでは…」
「しくしくしく…」
「しかし、ミヤにボーイフレンド?」
「そうねぇ、傷つかなければいいけど…」
 サヨコの心配はリキとは違う。
「ミヤ、わけありの子ばかり好きになるから…」
 しくしくしく…
 誰一人として、ツバサを心配する者はいなかった。






「…何もできなかった、何も」
 その頃、少年はマグナムを手に一人ごちていた。
「遅過ぎたのさ、全てが」
 屋敷の中を駆け走る、その周辺で銃弾が弾けた。
 ガオン!
 撃ち返す、明後日の方向へ飛んだ弾は、照明器具を落として敵を倒していた。
「…よくそんな腕でここまでこれたね?」
「まったくだ」
 隣の突っ込みに、ライは歪んだ笑みでそう答えた。
 ついため息をついてしまうケイタ。
「まともなのは、僕一人だね…」
「みんな初めはそういうのさ」
 実は逃げ遅れてしまった二人だった。


「突っ込め〜!」
「ひええええええ〜!」
 ライはクルーザーを館へ向かって突撃させた、とは言っても、その下にある崖に向かって、だったのだが。
 悲鳴を上げているのは、このクルーザーの持ち主の息子であるAだった。
 ガガガガガン!
 問答無用で座礁する。
「ち、ここまでか!」
 多少罪悪感があるのだろう、ライは冷や汗を流しながら背中ごしにAに謝罪した。
「縁があったらまた会おう」
 絶対まじめになってやる!っと、心に決めるAだった。
 ライはヨウコと同じ侵入経路を辿り、階段を昇った。
 カンカンカンっと、降りて来る音がする。
「敵か味方か」
 くっとハットのツバを下げる。
「俺はいつも一人だった」
 適当なことを言って銃を構えたが。
「どひゃー!」
 っと言う気の抜ける悲鳴と、それを追う様にして鳴っている銃声に、ライはちっと舌打ちをした。
「素人が紛れ込むといつもこうだ、リアルな世界をコメディへとおとしめてくれる」
 駆け出す。
「!?」
 相手も驚いたようだったが、ライは庇うようにその少年の横を通り過ぎた。
「え?」
「行きな、後は俺が引き受ける」
 銃を抜き、引き金を引く。
 口元の「決まった!」っと言う会心の笑みが、引きつりに変わって「しまった!」というものになった。
 困惑するケイタ。
「どうしたの?」
「女と銃は同じだな…、いつも肝心の所で裏切ってくれる…」
「つまり弾切れなんだね?」
 その後、二人は延々と逃げ回っていたのだった。






「ええい!、いまいましい」
 伯爵は天窓に接続された昇降口から、ヘリの中に戻っていた。
 遠回りに、シドニー湾の外に出ている。
「いつまであんながらくたを抱えているつもりだ、捨てろ」
 ガコン!
 急に軽くなったからなのか?、一瞬ヘリが浮いた。
 バシャァン!っと海面にどでかい飛沫が上がっていた。
「こうなれば会場を直接占拠するしかないな?」
「しかしリスクが大き過ぎるのではありませんか?」
 ぎろっと睨まれて、ジョドーは脅えたようにかしこまった。
「これは…、すぎたことを、でしゃばりました」
「無能者には頼らん、重暗示は効いている、…マイ姫にかけられなかったことが不安と言えば不安だが、メイ様の言うことを疑うはずも無かろう」
 伯爵の表情は自信に満ちあふれ、その分だけ醜く歪んでいた。
「時が来る、もう誰にもとめられんよ」
 南側の城跡の上空を通過して、伯爵は新オペラハウスへ向かって行った。



続く








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Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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