Episode:29 Take1
「平和やのぉ〜〜〜」
トウジはリールをかりかりと巻きながら、「ほけら」っとボートの上で呟いた。
「そうだねぇ〜〜〜」
なんとなく「ぼけぼけ」っと相槌を打つケンスケ。
ボートはケンスケの私物で、軍用のゴムボートだった、圧搾空気によって一瞬で膨らむタイプの…
ちなみに場所は、芦の湖湖畔のキャンプ場から脇道に入って約5分。
地元人でも知らないような超穴場に二人は来ていた。
「ほんまは男同士でのんびりと…」
「行きたかったんだけどねぇ〜〜〜」
ふと岸際の茂みを見ると、がさがさっと何かが妖しく動き回っていた。
「ちっ、逃げられたか…」
黒ハットの女性が頭を出し、そう呟いてまた茂みの中へ姿を消していく。
「コダマはん、なにやっとるんやろか?」
「ウサギとでも戦ってんじゃないのかぁ?」
謎な行動をしているのは洞木コダマだけではない。
「やだお姉ちゃん!、焦げちゃってるよ!!」
「ええ!?、もうっ焚き火なんて火加減できないじゃない!、どうすればいいのよ!!」
強引に獣道を進んで来たキャンプカーの側で、ヒカリとノゾミの姉妹が昼食の準備にいそしんでいた。
「やっぱ、お前が行った方がええんとちゃうかぁ?」
「ん〜〜〜、アウトドアの醍醐味なんだけどなぁ?」
さすがの料理自慢も、原始的な手法の前には手も足も出ないらしい。
「食べられる物作ってねぇ〜〜〜?」
ハルカが水際でばちゃばちゃと飛沫を上げてはしゃいでいる。
「風邪引かないか?、ハルカちゃん…」
「やっぱ子供は元気なもんやで…」
その返事に、ケンスケはジト目をトウジに向けた。
「…お前、歳食ったんじゃないのか?」
「全部この空気が悪いんやぁ〜〜〜」
トウジはほんわかと青空に向かって呟いた。
「ま、わからんでもないけどさぁ?」
ケンスケも同じように空を仰いだ。
シンジたちが居ない。
それだけで、これ程空気が穏やかになってしまうとは!
「静かやのぉ〜〜〜」
「そうだねぇ?」
ガサガサガサガサガサ!
キシャー!
ゲシ!
「ふ、今日の所は引き分けよ!」
「きゃーーー!、はんごうが爆発したぁ!」
「お姉ちゃん燃えてる燃えてる!」
「なーがーさーれーるぅ!」
静寂は無残にも打ち破られているのだが、それでも二人は実に平和だと感じていた。
GenesisQ’第29話
RUSH!
スッタスッタスッタスッタスッタ!
凛々しい顔つきでホテルの廊下を歩むカスミ。
心なしか勢いのために、手も足もスウィングが大きくなってしまっている。
コンコンコン!
「失礼します」
カスミはノックもそこそこに、甲斐の部屋へと入り込んだ。
「ん、また動きがあったのかい?」
甲斐は先程出て行く前にカスミが煎れていったコーヒーを飲んでいる。
「はい、碇シンジです」
「…なるほどね、さすがゲンドウだな、そう出たか」
甲斐は「くっくっく」っと、実に楽しげに喉を鳴らした。
「…やはり甲斐さん、御存じでしたのね?」
その様子に生真面目に尋ねるカスミ。
「いや、僕は手紙を一通送っただけだよ」
甲斐はそれのコピーをカスミに手渡した。
三流イベンターへ
悔しかったらかかってこい
「さすが甲斐さんですわ!、敵の幼稚さを突いた見事な誘導、思わず感服してしまいました!!」
その紙を握り締め、カスミは天井を仰いで感嘆の声を漏らしていた。
「ふふ、そうかい?」
誇らしげに胸を張る甲斐。
「さあ、では次の手を打たないとね?、子供達は何をしているのかな?」
カスミはちょっと言いづらそうに、上目づかいで甲斐を見た。
「ライは現在も戦闘を続行しています…」
「まだやっているのかい?」
「はい、中々抜け出せないようですわ…」
その頃、ライは結構楽しんでいた。
「良い銃を使っているな?、おかげでまだまだ楽しめそうだ」
ライは武器庫に押し入ると、とりあえず見た目も派手そうなライフルに飛び付いていた。
「こっちだ!」
「いたぞ!」
怒声にそのごちゃついた銃を向ける。
「取り合えずこれが引き金か?」
バババババババババン!
「うわぁ!」
不用意に入り口から顔を覗かせた、軍服姿の男が慌てて引っ込んだ。
「それからこれがグレネード!」
ドン!
「うひゃあ!」
ケイタが頭を押さえてしゃがみこんだ。
「なにするんだよ、危ないじゃないか!」
「時には犠牲も付き物さ」
「背中を撃たれるのは勘弁したいよ!」
ライはセリフの一個を取られてムッとした。
「ここは忘れちゃいけない火炎放射器だな」
「うわっ!」
横っとびに避けるケイタ。
「ひっかかったね!」
「なに!?」
ライはハットの向こうで燃えている物を見た。
「弾薬か!」
「にやり」
ケイタも段々とライの趣味に侵食されているようであった。
「他の子達は?」
「ミヤのことで…」
カスミは頭痛を堪えて話し出した。
「じゃ、行って」
「来る」
最初に出ていったのがミヤで、その次に出ていったのはテンマだった。
「さてと…、どうする?」
身を乗り出すリキ。
「う〜ん、シンジお兄ちゃんとも遊びたいけどぉ…」
「カヲルが来ている様子はないしな」
それがリキの一番気乗りしてない理由だった。
「レイは戦いを好き好みはしないし、シンジも自由には使いこなせないんだろう?」
心配そうに頬に手を当てるサヨコ。
「それに、やっぱりミヤちゃんの事も心配だし…」
「まあ、ミヤだもの」
「男運ないもんねぇ?」
サヨコの言葉を接ぐマイとメイ。
「うむ、やはり何かあってからでは遅いからな…」
「やっぱり何かあると思う?」
「あるでしょうねぇ…」
「あるよ、きっと」
「よし!」
リキはパンッと膝を叩いた。
「テンマだけでは心許ない、やっぱり俺達も行ってみよう」
全員が頷き立ちあがった。
「…どうしてみんな、「面白そうだから覗きに行こう」って素直に言えないのかなぁ?」
客観的なツバサの意見に、思わず焦る皆であった。
●
ザザァ…
今日の浜辺に人の姿は見当たらない。
そのほとんどが、新オペラハウスに流れていってしまっているせいだろう。
ミヤはしゃがみこむと、足が濡れるのもかまわずに寄せて来る波と手でたわむれた。
「嘘ついてたんだ…」
突然、責めるような言葉をムサシに投げかけた。
「いや、そんなつもりは…」
焦るムサシ。
「偶然の振りしてからかって、面白かった?」
険のある言葉とは裏腹に、その背中はどこか寂しげな雰囲気を湛えていた。
「えっと…」
怒ってるのかな?
ムサシは言葉に迷った。
「…本当のこと、教えてくれるって約束したよね?」
立ち上がる、ミヤは振り返ると、ムサシに優しく微笑みかけた。
「…お願い、ムサシ君の口から聞きたいの」
まいったな…
ムサシはぽりぽりと頭を掻いた。
「実は…さ、俺、戦自からの出向なんだ」
「戦自?」
「そ、戦略自衛隊、日本の」
「日本…」
それで日本に帰るって…
ミヤは説明に耳を傾けた。
「今はUNに身を置いてる、特例でね?、それで君達VIPの護衛には同年代の子が居たほうがいいだろうって駆り出されたんだ」
駆り出されて来た。
その言葉、仕組まれた出会いに、ミヤはちくりと胸を傷めた。
「ねえ?」
「なに?」
「もし…、あたしが忍び込んだりしなかったら…」
真剣な目でムサシを見据える。
「…本当のこと、教えてくれた?」
ザザァ…
波の音がムサシの返事だった。
無言で目をそらしてしまうムサシ。
「ごめん」
それが精一杯の返事だった。
ミヤは口を尖らせてしまった
「なによそれ」
ぱしゃっと、足が波を蹴る。
「あたしがムサシ君のことを、どう思ってたと思う?」
「どうって…」
ムサシは戸惑った。
「優しい子かなって、お友達になってくれそうだって思ったの!」
まるで怒鳴るような口調で、ミヤはムサシに詰め寄った。
「レモネード飲んだり、困ってる人が居たら優しくしたりする、ごく普通の男の子かなって思ってたのよ!」
ムサシも負けてはいなかった。
「そりゃレモネード飲んだりするよ、大好きさ!、困ってる人がいれば助けるし、その通りだよ、当たってるじゃないか!」
お互いの唾が飛んだ。
「でも、あたしはあなたがどこの誰でどんな人なのかまるでわからなくなっちゃったんだもん!」
ハァハァと荒い息をつく。
「でもバカみたい、そうよね、そんな都合の良い話し…、ないもんね」
急に勢いをなくし、ミヤはその場にうなだれた。
「ミヤちゃん…」
「触らないで!、怒ってるんだから」
のびて来た手を振り払い、ミヤは目元をごしごしとこすった。
泣いてる…のかな?
ムサシはポケットをまさぐると、起死回生の一発を狙ってとあるチケットを取り出した。
「じゃあさ、知り合う時間を持とうよ?」
そのチケットを無造作に見せるムサシ。
「なに?」
「クルージングのチケット、オペラハウスのイベントって、巨大プロジェクターで外でも映されるでしょ?、それを船上から眺めようって企画」
ぴくっと、ミヤは反応してしまっていた。
「ホントは今日のデートの最中に驚かせようと思ってたんだけど…」
ニヤリとムサシは、ミヤの反応に手応えを感じた。
「本気?、これって…、その…」
カップル専用のイベントだ。
もちろんそれに誘うということは…
ミヤは頬を赤らめた。
「そ、そんなのずるい!、自分の形勢が不利になったからって…」
「違うよ!、ちゃんと準備してたんだ!!、こうやって話してるのだって、本当は命令違反してるわけだし…」
「え?」
ミヤは驚きの目を向けた。
「確かにさ!、立場利用したけど…、何とも思わない子に声かけるほど節操無いわけじゃないよ!」
胸元に両手を集め、ミヤは思わず後ずさった。
ムサシの真摯な瞳に、思わずときめいてしまう。
「…信じて、いいの?」
ムサシはゆっくりと頷いた。
「よかった…」
つつっと、右の目から涙が流れてしまう。
「あれ?、変なの…、おかしい」
ミヤは指で軽くこすった。
照れたのか、そっぽを向くムサシ。
「じゃ、行こうか?」
「うん!」
そのまま後ろ手に差し出される手。
ミヤはその手に、指先だけを軽く乗せ、ムサシと共に歩き出していた。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
Q'はGenesis Qのnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
内容の一部及び全部の引用・転載・加筆その他の行為には
作者である私と原作者naryさんの許可または承認が必要です、ご了承ください。
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