Episode:29 Take2



「まったく、あの子達ったら…」
 カスミは恥じ入るように口に出したが、仲間の行動に対してではなく、甲斐がそんなカスミを楽しげに見ていたから恥ずかしい思いをしているだけだった。
「まあ良いじゃないか、どうせ出番は夕刻からだし」
 甲斐はくすくすと笑っている。
「でも…、伯爵の動きも気になります」
 取り繕うように、カスミは言った。
「そうかい?、それなら仕方が無いな、せっかくだから一緒に来てもらおうと思っていたんだけど…」
 え?っと、カスミは尋ね返した。
「新オペラハウスだよ、記念祭にはまだ早いが、リハーサルが行われているからね?、それを見学しに行こうかと…」
「行きます!」
 カスミは一も二もなく叫んでいた。
「絶対行きます、お供させてください!」
 いつものスタイルを崩してまで、カスミは甲斐に詰め寄っていた。
「そうかい?、なら着替えて来なさい、秘書ではなく、レディーとしてね?」
 その言葉に頬を赤らめるカスミ。
「はい!」
 そして蒸気させたままで、慌てて部屋を駆け出していった。
「ふふ…、まだ子供だな」
 そんなカスミの背中を、甲斐は眩しそうに見つめた後で、窓の外に思いを馳せた。






「それで、これからここで有名アーチストが歌ったりするらしいんですけど、ごめんねぇ?、まだ秘密らしいの、その出演グループについては、わかり次第お知らせしまぁす」
 はぁ…
 シンジはその元気な姿に、ついため息を漏らしてしまっていた。
「おいおい、落ち込むことは無いだろう?」
「加持さん…」
 レイのバックには新オペラハウスが、その鮮やかな白さを見せつけていた。
 他にもプレスだのなんだのとごった返している、そのせいか?、シンジは部外者であることを実感せずにはいられなかった。
「あの…、聞いてもいいですか?」
 シンジは自分と同じように花壇に腰掛けた加持を見上げた。
「おいおい、どうしたんだい?、急にあらたまって…」
 迷うように言葉を探すシンジ。
「…か、加持さんは…、その、複数の女の人と付き合ったことって、ありますよね?」
 加持は苦笑いを浮かべた。
「こりゃまた唐突だな…」
 シンジは加持からレイに視線を戻した。
「…わからないんです、どう付き合っていればいいのか」
「しかしそれは最低だぞ?」
「わかってます…」
 深く深くため息をつくシンジ。
「でも、他にやりようが思い付かないんです」
 胸を押さえているのは、良心が傷んでいるからかもしれない。
 加持は「男」としての同情からか?、シンジの背を軽く叩いた。
「気苦労が堪えないな?」
「…僕が優柔不断なだけですよ」
 またも「ふう」っと大袈裟にため息をつくシンジ。
「俺には周りが強引過ぎるだけのようにも見えるが…」
 シンジも同じように苦笑した。
「…そうですね、そうかもしれません」
 ようやくいつもの顔に戻る。
「加持さんは、そういう子達と付き合った経験って、ないんですか?」
 シンジの質問に、加持は指折り数えることで答えに返した。
 その数の多さ呆れ返るシンジ。
「よく疲れませんでしたね?」
「女は自分を大切にして欲しいと願うもんさ、誰よりも一番ね?」
 シンジは首を傾げた。
「でも、一番ってことは誰か一人にしぼるってことでしょ?」
「それが違うんだな」
 くっくっと、こういう話が楽しいのか、加持はレイを見ながら講釈した。
「一番ってのは、何もその子だけを大切にするってことじゃない、わかるか?」
「いえ…」
 ますます混乱するシンジ。
「例えば優しくしてあげる、守ってあげる、どれも同じようでいて、微妙に違う」
「その一番を誰に向けるか…、ってことですか?」
「そうだ」
 加持の笑みに、シンジはダメだなと落胆した。
「なら…、やっぱり僕には無理ですね…、そんなこと、とても」
 加持は笑ってシンジを見やった。
「君だって同じだろう?、かまって欲しいと思うし、誰かに取られるのも嫌がる」
 シンジには思い当たる節が多かった。
「…ですね」
「だから自分を一番大事にして欲しいと願う、他の誰かにかまけていると膨れてしまう」
 加持は肩をすくめた。
「だがだからって余所の子に冷たくするのも嫌がるんだよな、そういうもんさ、女ってのは…」
 曖昧なのが一番って事なのかなぁ?
 シンジは真剣に首を捻った。
「まあ今回のは確かにやり過ぎだと認めるが…」
 片棒をかついだためか、加持も良心が咎めているらしい。
「来ちゃったものはしょうがないです、まあ後が恐いけど…」
 シンジは帰ってからのことを、意識的に考えないようにしていた。
「…彼女も焦っているのかもしれないな?」
「え…、誰がですか?」
 加持の顎の指し示す先にレイが居た。
「レイが?」
「そうさ、アスカちゃんやミズホちゃんに負けたくないってね…」
「…その勝ち負けって、どこで決まってるんですか?」
 それがシンジにとって、一番の謎だった。
 なのに少女達にはあるらしい。
「難題だな?、例えばレイちゃん、彼女には君に何か求めているものがあるんだろうな?」
 シンジは一生懸命考えた。
「…優しさ、とか?」
「そうかもしれない、それは君を好きになった理由かもしれないし、だからもっとたくさんの優しさを求めてしまうのかもしれない…、まあそれ以外のものも独占しようって欲が出て来てないとは言わないけどな?」
 いつも別に差を付けているつもりは無いのに、どこかで作ってたんだろうか?
 シンジは真剣に違いを探した。
「…無意識のうちに、ってことですか?」
 そんなシンジの呟きに、加持は簡単に答えを出した。
「みんながみんな、同じものを求めているとは限らないさ」
「え?」
「いいかい?、君からしか与えて貰えないものがある、それは他の誰でも産み出せるものかもしれないが、彼女達にとっては「君から」何かしてもらえることに意味があるのさ」
「意味…」
「そう意味だ、君は気付かない内に彼女達に何かを与えているのかもしれない、それは優しさだったり、安らぎだったり、微笑みかもしれないな?、そんな些細なもので、彼女達に幸福感を与えているのかもしれない」
 シンジはちょっと大袈裟ではないかと感じた。
「そんな…、僕は大したこと…」
「言ったろ?、君じゃない、彼女達にとってさ…、だからレイちゃんはアスカちゃんやミズホちゃんを見て焦ったんじゃないのかな?」
「え?、どうして…」
「君といる時間が自分よりも長いからさ」
 たった?
「たったそれだけのことでですか?」
「そうさ、レイちゃんの知らない笑みをアスカちゃんが浮かべれば、君と何かあったのではないかと思わずかんぐってしまう、わかるだろ?」
 つい昨日辺りにまで遡れる想いが、まさにそれだった。
 そうだ、僕はレイが笑ってるのを見て、浩一君とのことを疑って…
「だから焦った、簡単で、複雑なんだよ、女の子ってのは…」
「なら…」
 シンジは答えを期待しないで聞いた。
「なら、僕は何をすればいいんでしょうか?」
「それは君自身が考えることさ、恥をかいてもいい、恋愛は…、まじめなほど、自分で答えを探すべきだ」
 加持は片目を一回つむった。
「真似やカンニングは、それこ不誠実ってもんだ、自分で考え、自分で決めろ、悔いや後悔をしたっていい、そうやって恋の仕方をみんな学んでいくんだ、わかるね?」
 シンジは深く、ゆっくりと頷いていた。
 まるで熱血先生みたいだ。
 などと不届きなことを考えていたとは、まるでおくびにも出さずにまじめな表情で。
「シンちゃ〜ん!、終わったよぉ!!」
 レイに小さく手を振り返す。
「さ、最近あまり遊んでなかったんだろ?、とりあえずは彼女のことから学んでみたらどうだい?」
 シンジは立ち上がると、「そうですね、そうしてみます」と笑顔で答えていた。






「なんだ、以外とまともそうな奴じゃないか」
 ムサシに誘われるように歩いていくミヤ。
 その二人を目で追いながら、リキはつまらなさそうに呟いた。
「でもまだわからないわよ?」
「そうね、ミヤちゃん…、ああ!、あまり悲しいことにならなければいいんだけど…」
 メイとサヨコは、最初から破局と決めつけているようである。
「大人ってずるいよなぁ、そうやって人を笑いものにして楽しむんだから」
「うん、ミヤちゃんかわいそー」
 浜辺から数十メートルも戻れば防波堤があり、その上に道路があり街がある。
 3人はそこから覗き、残る二人はアイスクリームを舐めるのに専念していた。
「で、テンマ、次はどこに行くって?」
 クルーザーだな、場所は…
 テンマが声で知らせてくれる。
「わかった、引き続き監視を頼むぞ?」
 リキの確認に、テンマは沈黙をもって答えに代えた。
「…テンマ怒ってるのかしら?、こんなことを頼んじゃってるから…」
「心配性だなサヨコは…、そのためのテンマだ、気を楽にしていてもいいさ」
 リキの気づかいに、サヨコは「そうね?」っと微笑んだ。
 その微笑みに、ちょっとだけ赤くなるリキ。
「あ〜い〜の目覚め〜〜〜」
「って、歌うな!」
 ゴツン!と、はっ倒されるツバサであった。






「ようこそラブ・クルーズ号へ!」
 タラップを昇った所で、ムサシとミヤは黒人の青年にカメラを向けられた。
「ラブ・クルーズ号?」
「そっ、0号って意味だったらしいんだけどね?、その方がしゃれてるって船長が勝手に変えちまったのさ」
「だって?」
 ミヤはぴったりと後ろに着いて来るムサシを見た。
「らしいね」
「こちら可愛い彼女だね?」
「彼女だなんて、違いますよぉ」
「そうなの?、彼氏の方、しっかりしなきゃ」
 ムサシは苦笑して、後ろの人のためにも先に進んだ。
 押されるようにミヤも船に乗り込む。
「あ、写真は帰りには渡せるから、気に入ったらチップをよろしく!」
 その言葉を背に、二人は甲板へと向かっていった。


「いい風ぇ…、あ、ほら花火」
 ポン・ポポン…
 ミヤが身を乗り出して指差したのは、新オペラハウスの真上だった。
 船がゆっくりと移動を始める、ミヤはちらっとムサシを盗み見た。
「ねえ、彼女だって…」
「うん?」
「そう見えるのかなぁ?」
 照れているのか、柵に手をかけ、体を傾けたり起こしたりと忙しない。
「そりゃあ、二人でこんな所に来ればね?」
「そうよね?」


「かゆいーーーー!」
 そんな二人の会話に、ツバサは身体中を掻きむしっていた。
「しっ!、黙ってろ!」
 リキは慌てて頭を押さえつけた。
 そーっと船内への入り口から顔を出す。
「だってあの猫っ被り!、ミヤじゃないよ、あんなの絶対ミヤじゃないよぉ!」
 ゴロゴロゴロゴロと通路を転がって帰って来る。
「ミヤちゃんも女の子なのねぇ?」
 ほぉっと片手を頬に当ててるサヨコ。
 ちょっとだけ赤くなっていたりする。
「ねえねえ、女の子だとどうしてぶりっ子するの?」
「きっと可愛くないって想われたくないからよ?」
 メイはマイの頭を優しく撫でた。
「あたしも、ね…」
「え?、メイ誰か好きな人いるんだぁ?」
「ん?」
 メイは不思議そうな顔をマイに向けた。
「…あたし、今そんなこと言った?」
 メイは、本当に自分の言ったことが、まったくわかってはいない様子だった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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