Episode:29 Take3
ぶっすぅっとぶすっくれているアラシ。
普段なら絶対しないような、「う○こ座り」で皆からちょっとだけ離れていた。
「アラシ、何すねてんの?」
「みんながミヤの方がおもしろいって、こっちに来ちゃったからでしょ?」
ひそひそと話しあうマイとツバサ。
「静かに!、聞こえないだろ」
必要以上に真剣になっているリキ。
「あっちも何だか、かりかりしてるの」
「ああ、組み合わせのせいでしょ?」
船にはサヨコの力で潜り込んだのだが、カップルばかりの場所での単独行動には無理がありすぎた。
「そこで、カモフラージュに僕とマイ、アラシとメイ、リキとサヨコが即席で組んだんだよね?」
「百歩譲ってアラシなら…、いやいや、女の敵に渡すよりは」
しかしかと言ってツバサと言うのもどうだろうか?
そんなリキの肩に、サヨコはぽんと手を乗せた。
「ごめんなさいね?、あたしとツバサじゃ無理があるから…」
そんな自分とサヨコに苦笑してしまう。
「わかってる、ただ最近毒されてないか?、マイ…」
二人は盗み見るようにツバサとマイを見た。
きゃははははっとそっくりに笑い、アラシを割り箸でツンツンしている二人。
「…まだ子供なのよ、マイは」
いつかツバサと戦う日が来るかもしれない。
勝手にそんな予感を持つリキだった。
●
「ねえ、何考えてるの?」
ムサシはせっかくの状態にも関らず、浮かない顔で新オペラハウスとは反対方向にある、干拓用の水門を眺めていた。
「…うん、あのセスナなんだけど」
「セスナ…、あたしが巻き込まれた?」
「そう…、いや、ごめん、今話すようなことじゃないよね?」
ムサシが振り向くと、驚くほど近くにミヤの瞳があった。
「ごまかさないで話して」
じっと見据えるミヤ。
「狙われてるのはあたしの仲間なの、もしあの事故が何か関係があるのなら…」
ムサシは苦笑すると、自分から距離を取った。
「…仲間か、うらやましいな」
「え?」
「俺もね、いたんだ、仲間って呼べる子が」
…女の子かなぁ?
ミヤは何となくそう感付いた。
「でも男の子を追いかけて日本へ行っちゃったよ、今は何をやってるのかも知らない」
自虐的に肩をすくめるムサシ。
ミヤはおずおずと尋ねてみた。
「連絡とか…、ないの?」
苦笑いを浮かべる。
「ない、選別に貰っておいた物があるだけで、他のものはみんな捨てちゃったよ」
怪訝そうに首を傾げるミヤ。
「捨てた?」
ムサシは「規則だからね」と、寂しげに答えた。
「ムサシ君…」
思わず同情しかけるミヤ。
「いや、話を戻そうよ」
ムサシはもう振り切っているのか、明るくミヤに笑いかけた。
「あのセスナなんだけど、おかしいんだ」
「事故でしょ?、エンジントラブル、そう聞いたけど…」
「いきなり爆発して落ちて来た、機体を調べたんだけど、妙なんだ」
「妙?」
ムサシは手の平で、飛行機の形を作った。
「ここ、胴体部分の中央、それも外側に爆発の痕跡が見つかったんだ」
そしてその下っ側を指差した。
「それって!」
二つの可能性に驚くミヤ。
「そう…、爆発物か、あるいは撃ち落とされたのか」
ミヤは真剣なムサシの目に息を呑んだ。
「ムサシ君…」
「守るから」
ムサシは真剣な目でそう告げた。
「今度は、ちゃんと守るから」
「うん…」
手を繋ごうと、恐る恐る近づいて来るムサシの手に、ミヤは自分から握っていった。
くっさーとツバサが悶絶死寸前にまで追い込まれてしまっていることなど、まったく気がつくことなく、二人は二人の世界へと突入していくのであった。
「これで二人っきりならねぇ…」
ミヤ達が乗っている物よりは遥かに小さい小型のクルーザー。
それを借りて来たのは加持だった。
「本番のレポーターは本職の方がやってくれる、後はここからの夜景を中継して終わりだ」
「はーい」
本番前の下調べだ、それでもレイは十分に幸せそうだった。
「シンちゃん、大丈夫?」
「うん、ごめん…」
シンジはレイの足元でうずくまっていた。
「船酔い、こんなに酷くなるとは思わなかったよ…」
「だらしないんだからぁ、シンちゃんは、そんなことじゃ良いとこなんて見せられないよ?」
ずーんっと落ち込むシンジ。
「…そういうなのは加持さんにでも言ってよ、僕には無理だから」
「もう!」
その頭を、アスカよりは遥かに優しくパンッとはたいた。
「こんなシンちゃんのお世話もできて、あたしは嬉しいって言ってるの!、…そろそろ言葉の裏を読むようになってよね?」
僕にできるわけないだろぉ…
ゲップを優先して、その言葉をシンジは飲み込んでしまっていた。
「はぁ…」
レイはため息をついて沖合いに目を向けた。
「あ、船…」
「ラブ・クルーズ号だな」
「ラブ・クルーズ号?」
操船をオートにして、加持も甲板に出て来た。
「そうだ、何かの実験船、初号船だったらしい」
「そんなのが浮いてるんですか?」
シンジは涙目のままで加持を見上げた。
「ま、実験船と言っても怪しい物じゃないさ、超伝導推進器を積み込んで動かそうとしたとか…」
「え?、でも…」
レイはじいっと船を見つめた。
「スクリュー…、ですよね?」
「そう、結局外されて船体はお払い箱、元々必要以上の強度設計が施されていたからね」
「改修されて客船行きかぁ…」
乗って見たいなぁと、レイは羨望の眼差しを向けた。
「まあ今回は諦めてくれ、次に来た時にすればいいさ」
「次って…、あるのかなぁ?」
「あるんじゃないのかい?」
加持の笑みに、寒気が走るシンジ。
「例えばハネムーン旅行とか」
ゲホゲホゲホ!
シンジはむせ返って、レイから逃げ出すどころではなくなってしまっていた。
●
「あ、ほら魚」
「イルカじゃない?」
クルーザーに並んで走る影にはしゃぐ。
その幾つかが跳ね、姿を見せた。
「ほんとだ、ほら…!?」
ミヤは目を丸くした。
「きゃははははは!」
バシャーン!と跳ねて、バシャーンと水中に姿を消した彼女は、確かに髪が赤くて、肌が黒かった。
「…今の、女の子じゃ」
「め、目の錯覚じゃない?」
焦りうろたえ、視線をさ迷わせる。
偶然そのミヤの目が、ふっと通路に引っ込む影を捉えてしまっていた。
見覚えのある頭に、たらっと冷や汗が流れるミヤ。
「まさか…」
その次の瞬間だった。
ドン!
…と、船尾に爆発が起きたのは。
「うわっ!」
「きゃっ」
慌てて転がりかけたサヨコを片腕で抱き留め、反対の手でツバサの襟首をつかむ。
メイはマイを抱きしめ、そのリキの胸元で振動を堪えていた。
「爆発?」
後部で火災が発生している。
「テンマ?」
声の主に呼び掛ける。
「今どこだ?」
船の直上5メートルの所だ、スクリューが止まった、微震動発生、これは超伝導モーターだ。
「超伝導…、なにぃっ!?」
リキは皆を開放すると、ミヤに見つかるのもかまわずに飛び出していた。
「柵に手をかけ、景色の流れから速度を読む。
「5、6ノットって所か?」
速度は落ちている、機関部の暴走、船の所有者を考えるべきだったな?
「まさか!」
カリオストロ、伯爵だ。
ドン!
また一つ、大きな爆発が起こっていた。
●
その頃、カスミは至上の喜びを味わっていた。
「密室で、今は甲斐さんと”ふ・た・り・き・り”」
ジ〜ンと、その喜びを噛み締める。
二人は新オペラハウスのVIP用ルームに入っていた。
オペラグラスを覗いている甲斐。
「…君にはあの歌手がわかるかい?」
「え?、あ、はい!」
現実に引き戻されて、カスミは慌てた。
甲斐さんの言葉を聞いてなかったなんて!
「あ、あの、すみません…」
「いや、いいよ、正直興味もないしね」
甲斐はカスミの言葉を取り違えて聞いた。
甲斐さん、優しい…
わざと聞き違えてくれたのだと、いい方に解釈するカスミ。
「うむ、そろそろ時間かな?」
甲斐は時計を見やり、カスミに顔を向けた。
「そろそろイスラフェルを呼んでくれるかい?」
甲斐はいつもと同じ、開いているか開いていないのかわからない、にやけたような目をしてカスミに命じたのだった。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
Q'はGenesis Qのnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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