Episode:29 Take4



「救命ボート用意!」
「ライフジャケットを早く!」
 船員が雄叫びを上げる。
「やだもう、初めてのデートなのになんでぇ!?」
 その誰が上げたのだかかわからない泣き言に、ミヤは「まったくよ!」っと、同意をもって怒っていた。
「これも伯爵かな?」
「だとしたら許せない!」
 ミヤとムサシも、その流れの中に混ざっていた。
 あ、でも…
 振り返るミヤ。
「どうしたの?」
 ムサシがその手首を強くつかんで、「急ごう!」っと、目で合図していた。
 だがミヤは小さく首を振り、その手を振りほどいて戻り出した。
「ミヤ!」
 叫ぶムサシ。
「ちょ、ちょっと!」
「危ない!、早く船を降りてください!」
 だが事情を知らない船員達に、ムサシは意に反して押しとどめられてしまう。
「そう言うわけにはいかないんだよ!」
「それはこちらも同じです!」
「うわ!」
 ムサシは人の流れに飲みこまれてしまった。
「そんな!」
 守るって言ったろ!?
 だが悲しくなっても、ミヤがムサシの元へ舞い戻ることは決して無かった。


 皆に振り返るリキ。
「どうする?、ここで討つのは簡単だが…」
 少なくともリキが個々の敵を受け持ち、マイとメイが船体を破壊、アラシとツバサが防御を担当、サヨコの力で逃亡を計る限り、まず絶対に負けることはないと踏んでいた。
「禍根は残したくないなぁ」
 ツバサの発言に、「おお!」っと驚く一同。
「難しい言葉を知ってるのね?」
「僕をいくつだと思ってるんだよぉ!」
 ばたばたと暴れるツバサの頭を、マイがよしよしと撫でてあげた。
「まあ俺一人でも十分なんだが」
「待って」
 サヨコが待ったをかけ、急に真剣な表情で耳をすました。
「…カスミか?」
 皆も気がつく。
「マイとメイを連れてこい…か」
「やだぁ!、マイも遊んでくぅ!」
 ごねるマイ、だがメイがそのマイの腕をつかんで首を振った。
「だめよ?、行かなくちゃ」
「えーーー!?」
 ぶうっとブーたれる。
「顔に傷でもついたらどうするの?、こういうことは任せて、あたし達はあたし達のすべきことをするのよ?」
「うーー、うん、わかった」
 しぶしぶながら言うことを聞くマイ。
 メイにはさすがに逆らえないようだ。
「だそうだ、サヨコ、頼んだぞ?」
「ええ…」
 リキは「顔に傷」の部分が引っ掛かっていて気がつかなかったのだが、サヨコはその物言いに不自然さを感じていた。
 たとえ傷ついた所で、すぐに治ってしまうのだ。
 それにすべきこと?
 サヨコはその部分が、妙に気になってしまっていた。






「ねえ、煙吹いてるよ?」
 シンジがやけに間の抜けた調子で巨大なクルーザーを指差した。
「ほんとだ、火事かな?」
「違うな、煙の色…、爆破されたか?」
「「ええ!?」」
 二人は同時に驚いた。
「そんな!」
「珍しいことじゃないさ、日本ほど治安は良くないんだ、それに記念祭のこともある」
「そんな所に来ちゃってるの?、あたし達…」
 つつつっと、レイはさり気なくシンジの腕にしがみついた。
 それに気がつき、その手に手を添えるシンジ。
「大丈夫だよ」
「うん!」
 久々の言葉に満足するレイ。
「まあすぐにパトロールが来るだろうが…」
「行くんですか?」
 加持は無言で操船しに戻った。
「行くみたい」
「うん…」
「心配?」
「…ちょっとね?、レイは」
「あたしは平気、ただね…」
「ただ?」
「知っている人が居るような気がするの、あの船に」
 レイは何かを確信しているかの様に、瞳の赤みを増して船を見据えていた。


「さてと、テンマ、情況は?」
 リキは船尾に向かって走っていた。
 時折船員が姿を見とめ、「早く退船してください!」っと声を掛けて来る。
 救命ボートを確認している、マイとメイを探しているな?
 リキは「そうか」とニヤリと笑った。
「気付かれていないわけだ」
 確認を終了したようだ、そちらに乗り込む。
 一気にタラップの方が騒がしくなった。
「黒服か?」
 そうだ、船員を気絶させている。
 その言葉に、リキは急ブレーキをかけて止まった。
「気絶?、仲間じゃないのか!?」
 運営は会社経由で行っている、雇い主ではあっても、そう都合よく部下を配置できるわけではなさそうだ。
 まずったかな?と、リキは頭を掻いた。
「じゃあ船を沈めるわけにはいかないのか…」
 それから…と、テンマは続けた。
 良いか悪いかわからない知らせがある。
「これ以上何があるって?」
 うっとうしげにリキ。
 レイがそちらに向かっている。
「なに!?」
 リキはあまりにも派手に驚き過ぎていた。
 その声に引かれたのか、船首、船尾からと、リキは一瞬で囲まれてしまっていた。
「レイが?、一人でか?」
 だがリキは意に介さず、無視して会話を続けていく。
 いや、碇シンジと加持リョウジが居る。
「俺達が居るってこと、ばれたのか?」
 ふっと言う呼吸音、上の階から手すりにロープを掛けて降りて来た黒ずくめが、そのままリキに飛び掛かったのだ。
 だがリキは無造作に両腕を振るっただけだった。
「!?」
 両手の手甲の爪が奇麗に斬れ落ちていった。
 それだけではなく、マグナムにさえ堪えた覆面も奇麗に切れてしまっている。
 中の男性は、驚いて動けなくなっていた。
「…邪魔が多い、さっさと逃げさせてもらう」
 だが言葉とは裏腹に、リキは体を抱き込むように腕を体に巻いた。
「俺のエヴァは、狂暴だぞ?」
 次の瞬間、広げられた腕から伸びた光の鞭が、その黒ずくめ達全ての両腕を切り落としていた。






 自分達の乗っていた物より遥かに小型の船が、かなりのスピードを出して下ろされたままのタラップに接近していった。
 船にたどり着くと、加持は無言のままでタラップを掛け昇って行く。
「ちょ、ちょっと待ってよ、加持さん!」
 シンジは焦ってレイに振り返った。
「どうしよう?」
「どうしようって…、行くしかないんじゃない?」
 はぁ…っと、シンジはため息をついた。
「こういう荒事は苦手なんだけどね…」
「大丈夫よ、あなたはあたしが守るもの…」
「え?、あ、綾波!?」
 シンジはレイの雰囲気が変わっているのに気がついた。


 ドン!
「うわ!」
 加持は船上に上がるなり、その床に伏せていた。
 爆発、なんだ?
 リキに切り落とされた腕が爆発したのだ。
 本来なら起爆装置を入れなければならないのだが、どうやら誤作動してしまったようである。
「タダ働きは、極力避けたいんだけどな?」
「加持さ〜ん」
 その間の抜けた呼び声に、加持は苦笑して振り返った。
「シンジ君…、来たら危ないってことぐらいわかるだろ?」
「わかってます、でも船に残っている方が不安だったから…」
 シンジは震えながらも、レイの手を握っていた。
 レイを見て、はっとする加持。
 加持はいつもとは違うその雰囲気に、思わず息を呑んでしまった。
「レイちゃん…、いや、そうか」
 前を向く。
「シンジ君を頼む」
 それだけを伝えて。
 レイは小さく頷いた。
「行くぞ」
 加持は二人を従えて歩き出した。
「…また爆発するなんてことは?」
「ないな、火災も起きてない、一度目のは爆薬だったが、その次のは手榴弾だ…、それも破片を飛び散らせるタイプ、わかるかい?」
 シンジはふるふると首を振った。
「そうか、そうだな」
 その内、加持は爆発地点を見つけ出した。
「ここだが…」
 足元のぬめりに気がつく。
「血、血ですよ、加持さん!」
「ああ、だが死体が無い、逃げたか?」
 周りをきょろきょろと見回す。
 ゴホ…、ゴホゴホ…
 その咳き込みは、シンジの耳でも捉えることができていた。
「誰?、そこに居るのは…」
 シンジを庇うように前に立つ。
 綾波の瞳が、驚きに見開かれた。
「まさか…、ミヤ?」
「レイ…」
 二人の動きが止まってしまう。
 ミヤちゃん?
 シンジは彼女が青森でお世話になった家の、あの少女だと目を疑うと同時に、綾波が彼女を知っていることにも動揺していた。
 それは同じエヴァを持つ、あの秋月ミヤなのだと言う肯定にも繋がってしまうことだったから…



続く








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