NEON GENESIS EVANGELION

Genesis Q':2A





「なつかしいな」
「何がでありますか」
「激しい雨が、心を振るわせるんだよ」
 夜の森、その向こうにある丘を見上げて、夜間戦闘服を来た男はつぶやいた。
 星は厚く重苦しい雲に覆い隠されていて、見えない。
「昔はあのような丘を取るために何百人と注ぎ込んだもんだ…、必死になって走ってな、息が切れて、足がもつれて、そこに爆弾が飛んできて「どんっ!」だ」
「自分は上官どののように実戦の経験がありませんから…」
「この国でそんな経験を持つものは少ないよ」
 日本、鳥取から内陸部へと少し入った場所だ、人気のない森、ジャイアント・シェイク後、大自然に返された世界、その典型的な土地だった。
「それにしても…人一人捕まえるために、このものものしさか」
 普通ではない相手だと聞いている、それでも作戦内容に不釣り合いな兵器が目についた。
「作戦時間だ」
「JAシステムを起動します」
 作戦司令部に置かれた戦術コンピューター「リョウ」が低いうなり声をあげて、ディスプレイに明りを灯した。
 それにあわせて4体の蜘蛛型メカが起動処理を開始する。
 JAシステム、およびそれらは小型軽量化され、戦略自衛隊でも実戦配備されていた。
「重爆撃機に、こんなメカまでも使わねばならんとはな」
 暖かみをひとかけらも感じさせぬ殺戮兵器が、丘の頂上を目指して登りはじめた。
「命がけで登ったものが、いまや機械が一息で駆けあがってくれる、便利な世の中になったものだな」
 侮蔑をこめた呟き。
 続いて彼は、歩兵部隊にも包囲網を縮めにかかるよう、指示を出した。


 スコープをのぞき、丘へ向かう多数の兵士を確認する。
「まるで蟻だぜ」
 ぐおおおおおおおん…
 闇をぬって、雲海を進む機体。
 多国籍軍事企業デルダイン社製、「DD−B−51・タルワール」、全長700mにも及ぶ、超大型ステルス爆撃機だ。
「あいかわらず視界は真っ暗、そっちは?」
「上々だ、雲の厚さから雷の様子までばっちりだぜ。
 メインパイロット側の窓はデジタル処理されたCGが映っている。
「OK、投下体勢に入る」
 潜望鏡を倒したような筒をのぞきこむ。
「よーし、毛根まで見えるぜ」
 天空に浮かぶ18個の衛星とリンクして、目標をロックする。
 地形と、その上を這いずる者たちが、鮮明に確認できた。
「投下」
 投下自体は簡単なスイッチを押すだけだ、だが彼は押さなかった。
「どうした?」
「なんだ…これ……」
 自機の下、雲にうつる巨大な影に気を取られる。
 あわててデジタル処理をオフにする、真昼のような世界を映し出していたメインスクリーンが、一瞬で暗黒の世を映し出した。
「うわああああああああああああ!」
 巨大な黄金の瞳。
 恐怖、次に震動、衝撃。
 そして彼らは炎に包まれた。
「なんだ!?」
 夜の闇を引き裂いて巨大な炎が尾を引きながら、山の稜線を越えて消えていった。
 轟音に驚く暇もなく、下士官からの悲鳴。
「自動自走兵器の反応が次々と消失していきます!」
「消失?破壊されたのではないのか」
「いえ、敵性反応を感知していません」
 機械というのはこれだから!
「…全部隊に通達、突撃をかける」
「はい!」
 敬礼も忘れて飛びだしていく。
「突撃!」
 ぬかるんだ地面に足をとられながら、必死の形相で丘を登る。
 久しぶりの感覚だな。
 感傷、だがそれも束の間だった。
「うわぁ!」
 驚き、振り返る、闇に飲まれていく部下。
「なんだ…」
 一人、また一人と人を飲み込みながら迫ってくる波。
 パニックに陥る兵士たち。
「おちつけ、走れ、走るんだ!」
 敵がいるのは丘の上だったはずだ、それが得体の知れないものに背後から襲われている。
 丘の頂上に人影が見えた、雷鳴、稲光にその姿が浮き上がる。
「子供?」
 赤い髪をした子供だった、空の一点を見つめている、雨に濡れるがまま…
「子供を捕まえるために!」
 駆り出されたという屈辱。
 わけのわからないものに蹂躪されているという恐怖。
「きさまーーーー!」
 彼は銃を抜き、捕らえるという当初の目的を忘れた。
 ゴゴゴゴゴゴ…
 地鳴り。
「うわあっ!」
 続き突風、兵のほとんどが、その地震で風で丘から転がり落ちた。
「なんだ!?」
 すばやく起き上がった者たちがみたのは、飛び去る巨大な影と、丘の頂上から天へのびる異様な塔だった。
「塔…ちがう、腕?」
 それは腕だった、その先には手のひらがあり、少年は少しも変らぬ姿勢のまま、やはり暗雲広がる空を見つめている。
 彼らには塔に見えたかもしれないが、実際には2メートルもない、丘の上にあり、それを見上げていたために、高く感じたのだ。
 だがそれにしても、腕だとすれば地の下にある胴部は、どれほどの大きさを有しているのだろうか?
「第三新東京市か…」
 少年はぽつりと呟いた、続く雷鳴。
「き…消えた…」
 強烈な雷光、その閃光と共に少年は消えた。
 続き腕が、大地を揺るがして地の底へ消えていく。
 はっとして見回せば、闇の化け物はおらず、空とぶ悪魔も姿を消していた…
「いったい…どうなってるんだ……」
 答えはどこからも返ってこなかった。


「失敗のようです」
 ここ、戦略自衛隊鳥取駐屯基地では、次々と送られてくる被害報告に頭を痛めていた。
「やはり通常兵器では役に立たんか」
「それよりも、見失ったのが痛い」
「第三新東京市と呟いたとの報告が…」
 実のない会話。
「まずいことになったな…」
 この忙しい時に持ち場を離れる妖しい男が居た。
 加持リョウジ、彼は静かに作戦指令室から抜け出すと、そのまま基地からも姿を消すのであった。




第弐話

その名はワンゼロワン





「はれーわたーりー、あおーぞらー、くちーぶえ、ふきつーつー♪」
 陽気な歌声がバスの外にまで響く、「第三新東京市立第一中学校三年生御一同様」と書かれたプレートが、バス正面に見られた。
 ミズホが代表指揮者として立ち、指揮棒代わりのストローを振った、それにあわせて元気よく♪
 ただその歌を歌うにはずいぶん時期が遅かった、まあ天気は上々なのだが…
「ちくしょう、加持のやつぅ」
 レンタルで借りたバス、運転はミサトだ。
 特別授業として、3年生を対象に参加者を募った。
 もうすぐ三者面談がある、進学先をそこで明確にするわけで…、悩める少年少女に気晴らしを、というのがミサトの建前だった。
 加持は運転を押し付けられる前に「またなー、かつらぎー♪」と姿を消した。
「もう、ちょーっと陽がさして天気が良いからってちょろちょろと…」
 いつもより他府県の車が多かった、道を知らない連中が、えっちらおっちらふらふらと車線を変更している。
「ぶち抜いてやろうかしら…」
 ストレスが危険な状態へ追い詰めていく。
そーれ、シフトアップ、シフトアップ!ヒール・アンド・トゥ、フルスロットル全速力よ…
 ぶつぶつと、かなりキている。
 目的地は芦の湖湖畔のキャンプ場だった。
 現地到着後加持に全責任押し付けて、自分は温泉で「はー、この一杯のために生きてるって感じ〜」と夢見ていたのに…。
 極楽妄想と現実の狭間で、ミサトはなんとか教師としての体面を保っていた。
「え、おばさまって、碇君とレイの下着、一緒に洗ってるの?」
 素っ頓狂な声を上げたのはヒカリだ。
「おかしい?」
 きょとんとレイ。
「おかしくは無いけど…」
「なんだよ洗濯がどうのこうのって」
「洗濯すんのに、なんで分けて洗うんや?」
 ケンスケとトウジがわりこんだ。
 ちなみに席順は…
 レイ・ヒカリ    アスカ・ミズホ
 トウジ・ケンスケ  シンジ・カヲル
 …の組み合わせで隣同士だ。
「だって、汚いじゃない、男の子のといっしょになんて」
「なんやて?んなもん同じパンツやないかい、きたないもくそもないわ」
「デリカシーってものがないの?あんたは」
 ポッキーをかじりながら突っかかるアスカ。
「デリカシーぐらいわしにもあるわい」
「トウジ、説得力ないって…」
「ケンスケ、お前女の味方するんか〜」
「でも確かに男の子のと一緒に洗われるってのは、ちょっとね〜」
「なんだよアスカ、僕のがそんなに汚いって言うの?」
「まあまあシンジ君、それが乙女心ってやつさ」
「カヲルさんはおわかりになるんですかぁ?」
「そりゃね、ああ、僕のがシンジ君のと一緒に洗われる、くんずほぐれつもみ合い、絡み合って…」
「カヲルさん、どっかいっちゃいそうですぅ」
 とりあえずコンビ漫才を始めたカヲルとミズホを無視するシンジたち。
「汚いとかそういう問題じゃないのよ、一緒に洗うのが問題なんだっての!」
「そりゃしゃーないで、シンジと綾波は家族みたいなもんやろが」
 …家族。
「うちかて妹とワシの、一緒にあろとるわい」
「それは兄妹だからでしょうが!」
「惣流、ほんとはうらやましーんだろ?」
「なにがよ!」
「シンジと綾波のが一緒に洗われるいうんは、ホンマの家族の証拠や、これはもう、夫婦同然…」
「な、なんだよそれ」
 赤くなるシンジ。
「はん、ばっからしい、そんなのおばさまが子供あつかいしてるだけ…」
「どうかなー?」
 ケンスケの眼鏡が光る。
「まあ綾波もシンジもそう下着はきたなない言うことやろ?…って、委員長、何赤くなっとんのや」
「下着下着って…」
「どのみち惣流が想像してるほど汚くないってことだよな」
「なによ、それじゃあたしの汚れものの基準が、無茶苦茶酷いみたいじゃない!」
 座席の上に立ち上がって二人を睨みつける。
「黄ばんでたりしてなー」
「いやいやわからへんでー、動き激しい女って…」
「いや〜んな感じ」
「あんたたち、いい加減にしなさいよ!」
「あ、イインチョがかぼた」
「これはホントに…」
「あたしの下着の何処が汚いって言うのよぉ!」
「アスカダメぇ!」
 思わずスカートをめくりあげようとしたアスカの腰に抱きつくヒカリ。
 キーーーーーーーー、ガコッン! 狙いすましたかのように、バスは急停車をかけた。
「さ、みんなついたわよ〜……って、なにやってんの、あんたたち?」
 振り返ったミサトが見たものは、犬神家の一族を髣髴とさせるような、座席の間から生えた二本の足とクマさんパンツだった。


「さいってー、ばっかみたい、もうしんじらんなーい」
「なんで僕まで…」
 いつものごとく頬に紅葉を貼り付けられた3バカトリオ。
 参加者は総勢17名、全員がまだ進路に迷っている口だった。
 幾人かは英単語メモなどと格闘している。
「せっかく景色が良いんだから、楽しめばいいのに」
 わりと楽観的なヒカリは、途中からずっと黙り込んでいるレイを見た。
「綾波さん、どうしたの?」
 レイは驚いたように顔を上げたが、首を少し振って笑顔を作った。
「ちょっと気になったことがあったの、でも大したことじゃないから」
「そう?」
「あっほら、シンちゃんたち何かやってる」
 レイが指差した先に、いきなり釣道具を広げている3バカトリオ+1の姿があった。
「よっしゃ、カヲル、そっちたのむで」
「わかったよ」
 カヲルがバスの方へ戻る。
「あんたたち何やってるの?」
 アスカとミズホ、ミサトもよって来た。
「センセ、昨日のTV見んかったんですか?」
「芦の湖に巨大生物の影!?ってニュースでやってたでしょ」
「それとこれと何の関係があるのよ」
 組み立てられた釣り竿を爪先でつつくアスカ。
「これぞ、垂直式UMAキャッチャーです!」
「はぁ?」
「ナンセンスね、芦の湖にそんな生き物いたら、とっくの昔に大騒ぎになってたわよ」
 夢もロマンもないミサト。
「例えいたにしても、こんなもの、糸切られておわりじゃない」
 胡散臭げにアスカ。
「問題ないさ、この時のために用意してきたんだ、見てよ」
 ケンスケが自慢気に糸の入っていたケースを突きつけた。
「コレって…」
 ミサトはケースのラベルを見て冷や汗を流した。
「親父に頼み込んで分けてもらったんだ、NERVで新開発してる特殊鋼線、戦車で引っ張っても切れないんだぜ?」
「あっぶないもの持ち出すわねー」
 一度家庭訪問すべきだと考えるミサト。
「でも、人ごと引きずり込まれたら?」
 ヒカリもケンスケの勢いに乗せられる。
「その点は、ほれ、これや」
 竿の柄から繋がり伸びるワイヤー。
「カメラを構える時間が稼げるよう、この先はあのバスに…」
 ごんっ!
「いってぇーーーー」
「すぐ外してらっしゃい!」
 シンジはミサトの頭に角を見た、奇麗な角だった。
「まったく3バカトリオが、ろくなことしないんだから…」
「シンジ様、おちゃめなんですぅ」
 かくっとアスカは膝の力が抜けた。
「レイ?」
 ワイヤーをくくりつけに行っていたカヲルは、戻りしな、一人離れているレイに気がついた。
 レイは一人だけ騒ぎの輪から外れて、みんなの様子を眺めていた…







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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