NEON GENESIS EVANGELION
Genesis Q':2B
「まあおたくは品のないニュース番組だから、いつもは「ああまたつまんない事件あつかって」ぐらいに思ってたんだけどね、昨日のUMAは何?でたらめにも程があるよ、確信もって流したの?」
田んぼのど真ん中にあるあぜ道。
利用者がいるのかいないのか分からない、寂れた電話ボックス。
夕日が全てを赤く染め上げていく、落ちる寸前の陽が辛いほどに暑い。
無精髭をはやした男、加持リョウジが変声器を受話器に取り付けてTV局相手にケンカしていた。
「ああそう、わかったわかった、おたくのニュース、もう見ないからね」
加持は受話器をわざと叩きつけた。
電話が切れていることを確認すると、今度は変声器を外して赤いテレカをカードスロットに差し込んだ。
通常の電話番号以外にも、何桁かの、幾つかの番号をプッシュする。
コール音もなしに相手側の受話器があがった
「どうも、わたしです」
「君か」
感情も抑揚もない返事、ゲンドウだ。
「鳥取の事件、御存じですね?」
「ああ」
「舞台は第三新東京市に移りそうです」
「そうか」
「おそらくは芦の湖付近」
まずいぞ碇、今芦の湖にはあの子たちが…
冬月がゲンドウに囁いたのだろう、ボソボソと小さくだが聞こえた。
「君はそのまま調査を続けてくれ」
「そのつもりです」
加持は電話を切ると、少し離れた場所に隠してあるランドクルーザーへ向かった。
「ミサトが行ってるはずだな、またぐちられるのか」
楽しみだと軽く笑って、タバコを咥えた、火はつけない。
加持は携帯電話をとりだすと、登録してあるミサトの携帯を呼び出した。
●
「かーーじー?」
「よぉ」
何の用なのよ、とミサトはいきなり噛みついた。
キャンプの夕食はカレーと相場が決まっている。
おいしいおいしいと皆がミサトのカレーにはまり込む中、何故かシンジたち一党は自分たちで作ったカレーにのみ手をつけていた。
「どうしたのかな、ミサト先生」
シンジが離れたところで電話しているミサトをみつけた。
スプーンを咥えたまま三度目のおかわりをしている。
「しらないわよ」
なんとなく加持だと分かるらしい。
「それより、レイはどこに行ったの?」
アスカが最後にみたのは、食事が始まる5分前だった。
「腹すいてへんから、いらん言うとったわ」
「散歩してくるってさ」
レイの分まで食いつくそうとするトウジ&ケンスケだった。
夕日が山の向こうに沈んでいく。
だいだい色に染まった湖面に、いっそう強いオレンジ色の柱が輝いた、長く伸びた太陽。
消えていく…ほどなくして、紺色の世界がやってきた。
空には無数のきらめきと、月。
レイは、キャンプ場からすこし薮を抜けたところに、道のない浜辺を見つけていた。
一人波打ち際に座り、足を三角にしてあごを乗せる。
ザザー…波の音。
レイは湖に映る月を眺めた、波にゆらゆらと揺れている。
「あたしみたい…」
最近、不安定な自分を感じていた。
ゲンドウから進路について聞かれた時、レイはいつものように「シンジと同じ学校に行く」と言えなかった。
「あの時からかな…」
ユイは「シンジと一緒にいるだけじゃダメ、主体性を持ちなさい、進学は自分のためなんだから、迷ってあたりまえよ」と、レイの悩みに答えてくれた。
バスの中で「家族」と言われた。
レイは、自分とシンジの関係が、恋人よりも兄妹に近いのだと、急に自覚してしまっていた。
「わかんないや…」
レイは何を考えればいいのかもわからないほど、多くの悩みに苛まれていた。
月を見上げる。
レイの目が赤くなり、綾波が語りかけた。
「何を望むの?」
レイは答えた。
「願いを、叶えたいの」
「何の願い?」
その声はレイの背後から聞こえた。
驚き振り向く、背後の薮の前に、青白い肌をした少年が立っていた。
赤い髪をした学生服の少年。
「あなた…だれ?」
「ごめんね、突然、僕は浩一、クルス浩一って言うんだ」
優しい笑顔を作る、高校生だろうか?
「目の赤い人って、初めて見た」
綾波は不思議と警戒心を呼び起こさなかった。
●
「厄介なことになったな、碇」
「ああ…」
いつもの場所といつもの二人、冬月とゲンドウ。
「あの子たちが巻き込まれるのは避けたい」
「無理だな、実験体に仮想目的として刷り込んであると、レポートにある」
冬月は加持が送ってきたデータを思い起こした。
「こんなことに時間をさいている暇は無いのだがな」
「親子のコミュニケーションか?そういえば三者面談、もうすぐだったな」
「シンジはいい、家から近いということで、第三高校を選んでくれそうだ、問題はレイだよ」
「レイがどうかしたのか?」
「できればシンジの手助けをして欲しい、だが自分の道を進むというのならそれもしかたあるまい」
「道…か?しょせんこの街で探せる程度の道だろう」
「だからなるべく多くの道をつくってやりたい、この街に」
「あれ、こんなところに…」
第三新東京市ゼーレ極東ビル・ネルフ作戦司令室。
「どうしたの?」
オペレーターの一人が、休憩用のジュースを配る途中、一枚のカードが落ちているのを見つけた。
「何のカード?」
「わかんない…けど、これってシークレット・データ用だよね?」
クレジットカードと変らぬサイズ、だが専用端末で約4GBのデータを入力できた。
「読んでみれば分かるだろ」
「そうよね」
通常、データは何重にもロックされている、表層のパスワード入力画面だけ見れば、それがだれのものか予想はつくはずだった、そして彼女のコンソールには読みだし端末がある。
「冬月さんのじゃないように!」
祈る、もしそうだったら後で大目玉だ。
ビーーーーーーーーー!
カードがスリットにさしこまれてから0.5秒後、突如モニターが「BABEL」の文字をオートリピートで表示しはじめた。
「なにこれ!」
悲鳴を上げる、どのキーを叩いてもコントロールが返ってこない。
「なんだよ!」
隣のモニターにまで伝染する。
「くそっ、ウィルスか?」
その時非常用呼び出しが鳴った。
「はい」
「すぐに警報を切れ、幹部連には誤報だと伝えろ」
ゲンドウ。
「何がおこっている」
かわり、冬月。
「ウィルスの類だと思われます、現在防壁と自己進化型ワクチンを投与しています」
さっきのオペレーターが、思い出したようにスリットからカードを抜いた。
同時にウィルスの進行が、極端に遅くなる。
「ワクチンがウィルスを駆逐していきます、同時にバックアップから修復と復旧を開始」
「原因はわかったのか?」
冬月の肉声、上から急ぎおりてきたらしい。
「恐らくこのカードです」
オペレーターの女の子は、処分を覚悟しながらも隠そうとはしなかった。
「カード?」
「はい、誰のものか確認しようとしてスリットに入れたんですけど、読みだしが始まった途端…」
「ばかめ、検査もせずに読み出したのか」
「もうしわけありません」
「それですむかっ、あやうくここのメインコンピューターを…まあいい、問題は無いのだな?」
「それが…変です」
「どうした?」
「カードが抜かれた途端、ウィルスの進行が停止しました、それでおかしいと思って調べてみたんですけど…、これを見てください」
冬月が彼のさす画面を一読した。
「これは…」
「まるでハッカーがハッキングをしかけて、何かを検索したみたいな…ウィルスにできるものじゃありませんよ」
「ここのメインコンピューター相手に、ウィルスがデータ検索など…、第一外部に送信できないのなら検索の意味があるまい、まさか内部の犯行か?」
「わかりかねます」
「大至急、カードを分析に回せ、報告は上で受ける」
「はい」
冬月は嫌な予感を覚えつつ、ゲンドウの待つ最上階へと戻っていった。
●
「浩一…くん?」
「そう」
にこにこと屈託のない笑みを浮かべて、浩一は綾波の隣に座った。
「君、向こうでキャンプしてる人たちの友達でしょ?」
「友達…」
「違うの?」
心底驚いた表情。
「ううん、友達…」
「……友達って、一緒に居て楽しい?」
「おかしなこと聞くのね」
「そう?」
「うん」
めずらしく綾波のまま、喋っている。
「友達…いないの?」
「いるよ、でもホントの友達かどうかわからないんだ」
「どうして?」
「だって、確認できないもん」
「そう…」
途切れ途切れの会話、それでも綾波は不思議と充足感を感じた。
「安心したいんだ…でも気持ちが分からない」
「誰でもそうだわ」
「そうだね、裏と表があって、はじめて人間だもんね」
「……」
「うけうりなんだ、先生の」
「先生?」
「そう、なんでも教えてくれたんだ、難しいことも一杯教わった、けど外のことだけは教えてくれなかった」
「外?」
「いまいるこの世界さ」
浩一は立ち上がるとズボンに付いた砂を払った。
綾波は、すこしだけ自分と似ているのかもしれないと思った。
「君は不思議な娘だね」
「そう?」
「赤い目なんて、初めて見た」
レイならドキッとして、動けなくなってしまうほど近くで見つめる。
動揺一つせず、綾波は見つめかえした。
「後でまた会えるかな?」
浩一は距離を置くと水辺へ下がった。
「逢いたいの?」
「うん、もっと話したい、聞きたいこともあるんだ」
「そう…いいわ」
「やった!ありがとう!!」
無邪気に抱きつく浩一。
綾波は頬が真っ赤になるのを感じた。
「あ、ごめん!」
浩一ははなれると「じゃあまた、月が一番上にさしかかる時間に」と、またも無邪気に微笑んだ。
ゴウ!
突風が吹いた、一瞬月光を遮る影。
おもわず目を閉じてしまう綾波。
「浩一…?」
目を開いた時、浩一の姿はもうどこにも無かった。
「……」
レイに戻る。
「ひゃあ〜〜〜」
レイは綾波と浩一、それに浩一が抱きついてきた時の温もりに、気恥ずかしさが全開になった。
「ふんふんふんふん、ふんふんふんふん♪(第9)、歌はいいねぇ、歌は心を潤してくれる、そうは思わないかい?レイ」
「かかかかか、カヲル、いつからそこにいたのよ!」
「「また会えるかな」のあたりかな?」
ニヤニヤと笑いながらレイのそばまで歩く。
「酷いっ、黙って見てたなんて!」
「黙って見てる以外、どうしようもないとおもうけど?」
妙にうろたえるレイを面白がる。
「あいつは気づいてたみたいだよ、レイにも気づかれなかったのにね…」
神妙な面持ち。
「カヲル?」
「いや、レイがシンジ君以外の男とあんなに仲良く…」
「そんなのじゃない!」
真剣に怒っている。
「お願い、シンちゃんには黙ってて、”あの子”もその方が良いとおもうから…」
しょうがない、そう肩をすくめる。
「黙ってるよ、”ふたりとも”自分で考えて、自分で決められる子だからね、ただし…シンジ君を傷つけるような事だけは許さないからね」
レイは唇を噛んだだけで、言い返しはしなかった。
●
「なんだと?それで……わかった」
守秘回線で繋がっていた携帯電話を切る冬月。
「カードが消えたそうだ」
「持ち出されたか?」
ゲンドウは動じない。
「それはない、分析器にかけ、キーを叩くあいだの僅か2〜3秒、目をそらしているうちに消えたそうだ」
「それだけか?」
ゲンドウは冬月が何かを隠していると踏んだ。
「……カメラが、カードが黒いアメーバー状の物体に変わるところを映していたそうだ」
「それで?」
「排気口から逃げたらしい、捜索は行っているらしいがみつかるまい」
「だろうな」
ゲンドウはいつものファイティングポーズのまま目蓋を閉じ、何事か考えをまとめはじめた。
「まずいぞ碇、帳簿をかなりのぞかれたようだ」
「ああ…だが帳簿だけの問題ではあるまい「E」及びNERV、公開できない記録の宝庫だからな」
「どうする」
「確保したウィルスの分析を急げ、すべてワクチンで消去したわけではあるまい?」
「わかった、赤木博士にも協力を願うが、かまわんな」
「ああ」
冬月は陣頭指揮をとることに決めた、これ以上の失態はNERVの存亡に関る。
「いつの世も、最大の敵は人間か」
ゲンドウは、やりきれないとばかりにため息を漏らした。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
Q'はGenesis Qのnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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作者である私と原作者naryさんの許可または承認が必要です、ご了承ください。
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