NEON GENESIS EVANGELION
Genesis Q':2D
その頃碇ユイは怒っていた。
「まったくもぉ、久しぶりに二人きりだって言うのに、まだ帰ってこないなんて」
電話の一つも入らない、せっかく作った精力増強メニューも無駄になった。
「せっかくシンちゃんたちに弟か妹つくってあげようと思ったのにぃ」
きゃーきゃーきゃーと、一人で赤くなって騒いでいる。
「でも…、ほんとに遅いわね、何かあったのかしら?」
それなら冬月先生から電話があるはずだ。
「まさか浮気」
ぴきーんと張りつめる空気、前髪で隠れたユイの瞳が妖しく光る。
「もし浮気だったりしたら殺してあげるわ」
うふふふふっと、不気味な声が漏れる碇邱であった。
●
ぞくっ!
ゲンドウの背筋を悪寒が駆け抜けた。
「どうした、碇?」
「なんでもない」
何か忘れている気がしないでもないゲンドウ。
「いまは結婚して江戸川さん…だったかな?遠回しに何の用かね?」
いつもの部屋ではない、通常の会議に使われる第三会議室で、ゲンドウと冬月は江戸川という女性に相対した。
「下の騒ぎは忘れてもらえますか?1つ2つ使い込みが発覚することはあるでしょうけど」
長年にわたって脅す、脅されるということに慣れてきた女だ、ゲンドウのファイティングポーズも威圧感を与えることは出来ない。
「直接本題にはいりましょう、第三新東京市、芦の湖近隣での行動に目をつむっていただきたい」
冬月はやはり狙いは同じか…とため息をついた。
「先程…それに関連すると思われるハッキングを受けた」
「碇!」
ゲンドウは冬月の静止の声を、片腕を上げておさえる。
「少なからず被害も受けた、黙って言うことを聞け…というのでは納得できかねるがな」
組んだ両手を目の下に持ってくる、上眼使いに睨みをきかせるゲンドウ。
「…こちらも戦自の後始末を押し付けられた形でね、詳しいことはほとんど分かっていないわ」
ゲンドウはその言葉が真実かどうか見ぬこうとした。
「まあ良い、市民に危害はくわえんのだな?」
「最小限に抑えるわ」
江戸川はゲンドウの返事も待たずに会議室を後にした。
「碇…」
「我々は我々で動かねばならんか…、冬月、後を頼む」
ゲンドウは席を立つと、地下指令室へと降りた。
諜報部とセキュリティーを使って最大限に安全を確保するためだ。
「やれやれ…、碇め、面倒なことはいつもワシに押し付けおって」
残された膨大な量の書類に、冬月は目眩いを覚える思いだった。
●
「うーみーは、ひろいーな、おおきーなー♪」
シンジは錯乱状態にあった。
オールもなく、岸は遠く、足元には水が溜まっていた。
「こ、ここで、し、しぬのかな、ぼくは」
なんとなく裸の大将も入ってるシンジであった。
「あたしと…出会うため?」
「そう」
浩一の髪の香り。
髪の香り…、人の香り…、私の知ってる香り…
それが綾波の遠くなってしまっていた記憶を呼び起こした。
兎と呼ばれていた頃閉じ込められていた部屋、ライトの光と、それを反射する水の入ったコップ。
そして独特の匂い…消毒液の…
「君は優しいんだね」
「どうして?」
「少し話しただけの僕にも優しくしてくれる……好意に値するよ」
「こうい?」
「好きってことさ」
綾波は赤くなった。
「あれ?」
死を覚悟しつつあったシンジは、居直って水に片手を浸して遊んでいた。
月明かりが湖面に反射している、なのに黒いものが動いたように見えた。
じっとよく見る、ボートの下に、確かに大きな影があった。
「ま、まさか…」
ニュースを思い出す。
「ひ、人を食べるのかな」
引きつる。
「たすけてー!」
シンジは最後の悪あがきを始めた。
「な、なにをいうのよ…」
綾波は赤くなってそっぽを向いた。
偶然、月明りの中にボートを見つける。
「碇君?」
何をしているのかはわからないが、相当慌てていることだけはわかった。
「あっ!」
ボートの上から人影が消えた。
落ちたのだ、と理解するのに時間がかかった。
立ち上がるが、綾波は力を使おうとして躊躇した。
浩一に知られたら!
迷っている綾波を追い越して、飛び出した影があった。
「カヲル!?」
カヲルは水切り石のように水面を切って飛んだ、シンジの乗っていたボートまで来ると、壁で自分を包みこみ、そのまま潜る。
「今のは君の友達だったね」
浩一は綾波の後ろに立っていた。
しばらくして、綾波たちのいる浜辺にずぶ濡れになったシンジを抱いて、カヲルが上がってきた。
「シンちゃん!」
レイに戻る。
浜辺に横たえる、カヲルはシンジの名を呼び続けるレイの胸倉をつかむと、その頬を張った。
「どうして迷ったりしたんだ!」
珍しく感情をむき出しにするカヲル。
もう一度、手を振り上げる。
「彼女を責めるのは間違いだろ?」
カヲルの手首をつかむ浩一。
「あの時、彼がボートから落ちるのを見ていたのは、もう一人の娘だろ?」
驚きに目を見張るレイ。
「そうか…そうだね…」
声のトーンがいつものカヲルに戻る。
「それで、君は誰なんだい?」
パシッ、パシッと、カヲルと浩一の間に黄金色の火花が散った。
「壁が…」
レイの見ている前で、カヲルの壁が徐々に力を強めていった、それは浩一を傷つけるものではなく、何かから身を護ろうとしている力だった。
「そろそろ正体を教えてくれないかい?」
カヲルは力を攻撃的なものに変化させた、浩一を突き飛ばそうとする。
フブン!
不可思議な音をたてて、カヲルの力は受け流された。
「そんな!」
何かを否定しようとするレイ。
「無駄だよ、サイコキネシス…、同じ心、いや命から、魂から生まれる力さ、君達の力を受け流すぐらいはできるよ」
カヲルは浩一の手を振りほどいて、後ろへ飛んで距離を取った。
「ANGEL…天使の名を持つ、人を超えしもの、カヲル君は気づいているんだろう?光の壁は心の壁だということに」
浩一から重圧感を受けるカヲル、壁で防げる以上、それも何かしらの力なのだろう。
「浩一君、やめてっ!」
レイが間に割り込んだ。
「邪魔をしないでくれ、僕が手に入れたいのは君じゃないんだ」
浩一は手のひらを突き出した、同時にレイが倒れこむ。
「レイ!」
苦悶。
みぞおちの辺りを押えて、うずくまるレイ。
「どうして壁で防がなかったんだ!」
本来、防衛本能が生み出す防御障壁『壁』は生物の持つ殺気や悪意といった精神波に感応して自動展開されるはずなのだ。
「君には防げても、彼女には無理だよ」
浩一は見下すような視線をカヲルに向けた。
「言ったはずだよ、心の壁だって、彼女は僕に心を開いてくれた、だからぼく達の間に「壁」は存在しないのさ」
「芦の湖湖岸にて「E」反応確認!」
報告をした男のネームプレートには「松木」と書いてあった。
「戦自と内調は?」
「しきりに「E」を確認とくり返しています、こちらと違う意味で「E」という呼称を使用しているようですが」
松木は言葉を返してこないゲンドウに、やりにくさを感じていた。
「なるほど、君の言うとおりかもしれないね」
カヲルは、いつもの自分に戻りつつあった。
レイがどうして?と言う顔をして浩一を見る。
「裏切られた…そう思っているんだろ?そうだね、壁という守りを持たない、無防備な心を傷つけたからね」
「ちがう!」
レイは「何か」を否定したかった。
「でも壁は現れない、それが全てさ、わかりやすくていい…、君の中にいる子は僕の味方なんだ」
「見透かすのはやめてあげてくれないかな」
カヲルはレイを庇う位置に動いた。
「そうだね、僕が嫌ってるのはカヲル君だから」
「そんなに嫌いかい?」
「嫌いさ」
浩一は両腕を身体の前で組み合わせた。
「うあっ!」
展開される八角形の壁、それをすり抜けてカヲルは体に痺れを感じた。
電撃を食らったような、激しい痛み。
「やめてー!」
レイは叫ぶことしかできない、自分の中にいるもう一人の女の子は、黙ったままで現れてはくれない。
パン!
とてもとても軽い音が響いた。
糸の切れた人形のように倒れかける浩一、だが、なんとか踏みとどまった、こめかみの辺りから血が流れている。
キッと繁みの方を睨みつける。
草木をかき分けて、幾人もの男達が走りこんできた。
全員ダークグリーンの戦闘服にライフル、小銃の類で武装している。
「戦自か!」
浩一は兵士たち相手に力を振るった、三人が一度に電撃に似た衝撃を受けて昏倒する。
だが仲間がやられたことを気にもかけずに、彼らは引き金を引いた。
タンタンタンタンタン!
レイを抱いて地を蹴るカヲル。
「浩一君!」
レイは叫んで、浩一を見た。
浩一は両腕を組み合わせたまま集中している。
「テレキネシスか…」
カヲルは冷静に分析した。
高速で撃ち出された銃弾が、全て浩一の直前で空中停止していた。
十分な距離をとってレイを離す、カヲルはシンジを一瞬見失った。
「シンジ君!」
戦自の兵がバズーカ砲を向けた、いくらなんでも、その余波だけで、十分シンジを巻き込める。
「ロプロース!」
浩一が叫んだ。
直後、直上から光の柱が落ちた。
超光熱のレーザーが、次々と兵士を薙いでいく。
カヲルは上を見たが、月を背に何かがいることしかわからなかった。
視線を浩一へと戻す、突如仕掛けてきた戦自の兵隊たちは、全て消し炭と化していた。
ボッ!
今度は繁みの奥からの音。
「ロデーム!」
砂浜の砂が蠢いた。
アメーバーのように盛り上がると、そのままシンジと浩一を包みこんだ。
「シンジ君!」
カヲルの絶叫は轟音にかき消された、衝撃と熱風。
煙が晴れる、カヲルとレイは黒い球体を見つけた。
「あれ…なに?」
シンジを飲み込んでいるのは間違いない。
バラバラバラ!
ヘリだ、サーチライトに照らしだされる浜辺。
「何やってんの、逃げなさい!」
突然二人は手を引かれた。
「葛城先生!」
レイはミサトの手を振り払おうとした。
「シンちゃんが!」
ミサトはレイを落ち着かせようと、叱りつける。
「自分のことを心配しなさい!、いま戻ってもシンジ君は取り戻せないわ」
「ぼく達になら…」
「後はどうするの、敵が誰かもわからないのに、無茶をするなんて渚君らしくないわよ
」
「敵?僕等の敵、決まってるじゃないですか、あの浩一って奴が…」
「彼はシンジ君を守ったわ」
そう見えなくも無かった。
「いまは様子を見ましょう、チャンスはまだあるはずだから」
ミサトは二人に冷静さをと戻させると、そのまま潜伏して成り行きを見守ることにした。
「まっててね、シンジ君」
シンジと浩一、レイはどちらに声を残すか迷って、結局何も言えなかった。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
Q'はGenesis Qのnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
内容の一部及び全部の引用・転載・加筆その他の行為には
作者である私と原作者naryさんの許可または承認が必要です、ご了承ください。
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