NEON GENESIS EVANGELION
Genesis Q':2E
シンジ君…碇シンジ君……。
シンジは頭に直接呼び掛けられているような感覚を受けた。
「誰?」
綾波さんの友達…
「友達?ここどこ、真っ暗だよ」
明りをつけてないからね、しばらく我慢しててよ。
「いいけど…」
不安がぬぐえないシンジ。
「名前教えてよ」
クルス浩一って言うんだ。
「クルス…くん?」
浩一でいいよ。
上下の感覚が無いような気がする。
シンジは気のせいだと思い込むことにした、恐いことを考えたくなかったから。
「レイに、僕の知らない男の子の友達、いたんだ」
そりゃそうさ、彼女だって生きてるんだよ?君の知らない姿や、君に見せてない自分だって持っているさ。
「そうなの…かな」
シンジは綾波のことを教えてくれたレイを思いだしていた。
あの頃はレイもうちとけようとして必死だった、だが余裕の生まれた今では、あまり色々なことを話してくれなくなっているような気もする、まあ毎日一緒にいるのだから、そう話すこともないだろうが。
「隠し事してるわけじゃないよ、きっと話す必要が無いって程度のことだから…」
……信じてるんだね、うらやましいよ、君が。
「どうして?」
だって君は僕の持っていないものをたくさん持っているじゃないか。
「え?たとえば??」
一緒に楽しんでくれる人、悲しんでくれる人、喜んでくれる人、泣いてくれる人、笑ってくれる人、そして自分のことを理解してくれる人…、僕にはだれもいなかった。
「どうして?友達を作らなかったの?」
作ろうとしたんだ…、それでできた。
「レイ?」
レイのイメージがシンジの頭に直接届いた。
「レイじゃない…綾波……」
彼女が欲しい、僕に似た人、似た境遇の人…、彼女なら僕とわかりあえるんだ、君は彼女が居なくなったら寂しいかい?
「それは…」
「ぜいたくだよ」
シンジは驚いてふりむく、真後ろに浩一が立っていた。
「誰も僕のことを人間として見てくれなかった、僕は「モノ」として扱われてた、彼女はそんな僕を理解してくれたんだ」
シンジに直接叩きつけられるイメージ、病室のような真っ白の部屋、いくつもの測定用の機械と、クスリ。
実験をくり返す人々、浩一を人間として扱わない医師たち。
「だれもぼくを見てくれなかった、彼女は見てくれたんだ、だからおくれよ」
「綾波は物じゃないよ!」
シンジの言葉は、あまりにも鋭すぎる刃を持っていた。
「僕は…ぼくが、彼女をものとして見ている?」
「そ、そういうつもりで言ったんじゃないけど…」
いつのまにか、二人とも口を動かさずに意志のやり取りをしていた、シンジはそれに気づいていない。
酷く傷ついている浩一、シンジは自分が言ったことの意味を考えて青くなった。
「ごめん…」
「…いいさ、彼女に決めてもらえば良いことだから、彼女はきっとシンジ君よりも僕を選ぶよ」
「どうしてそんなことが言えるのさ」
「だって、彼女はシンジ君を知って、好きになったわけじゃない、そうだろ?」
「なにを…」
「君の中にある、彼女と同じ不思議な力、その源、彼女はそれに魅かれたから、君と一緒にいることを選んだんだ」
「そんなことないよ!」
「じゃあ彼女は君のどこを好きになったんだい?」
シンジは言葉につまった。
「その内側にある不思議なもの同士が引かれあっている、それを自分達の気持ちだと勘違いしているだけさ」
「ちがうよ…」
シンジは泣きそうになりながら、声を絞り出した。
「ちがうよ…」
シンジは唇を噛み締め涙を堪えた。
●
「シンちゃん!」
レイはシンジの声が聞こえたような気がした。
「何か聞こえたのかい?」
レイの肩に手を置くカヲル。
「かすかにだけど…」
レイは心の中で呟いた。
お願い、シンちゃんを返して…、浩一君を嫌いになりたくないの…
繁みの向こうでは、黒い球体を取り囲む、迷彩服の男達がヘリがくるのを待っていた。
がさり。
レイ、カヲル、ミサトが同時に振り返った、ミサトは銃を抜くと、音のした方向へ向ける。
「俺だよ…」
「加持…」
いつものネクタイ姿で現れる加持。
「葛城、お前がついていながらなんてざまだ」
「あたし一人で戦自を相手にしろって言うの?」
ムッとするミサト。
「中学生ぐらい守ってやれよ」
加持はレイに下がらせると、前に出てノクトビジョンをのぞきこんだ。
「あんた、あれの正体知ってるんじゃないの?」
なんとなくミサト。
間を置く加持。
「可哀想な子供達は、この子らだけじゃないってことさ」
加持はレイの頭を優しくなでた。
同じとき、ミズホはそんなシンジと浩一を、もう一つ高い場所から覗いていた。
「シンジ様…」
驚いたように、浩一がミズホを見上げた。
「ミズホ…」
シンジは言葉を絞り出そうとして、できなかった。
もし浩一の言ったことが本当であれば、レイだけでなく、カヲル、ミズホまでシンジ自身を好きになってくれたわけではないということになる。
怖かった。
「怖いんだね」
シンジは頭を抱えてうずくまった。
「うそだうそだうそだうそだうそだ、嘘だ!」
否定しようとするシンジ。
「そうかもしれません…」
ミズホは浩一、シンジと正三角形を作る位置に立った。
「カヲル君と綾波さんを見てみなよ、二人とも離れようとしない理由、カヲル君はね、ちゃんと綾波さんのことも好きなんだ」
シンジは驚いて浩一を見た。
「彼は一時的接触を極端に嫌うだろ?そして彼の「壁」はどうしてあんなに強固なんだとおもう?他人が信じられないから、他人と触れ合うことがなければ傷つけられることは無いから、あんなに強い「心の壁」を育てたんだ」
そうだろうか?
シンジに疑問が生まれた。
「心が本当に痛がりだから、彼は壁で守るんだ」
疑問がシンジに立ち直るきっかけを与えてくれた。
「でもカヲル君は人とわかりあおうとするよ、友達になれる人を、好きになれる人をちゃんと探してる!」
シンジはカヲルが転校してきた時からの数日を思い出した。
「それさえも君の中にある不思議なものが引かれあった…」
「違うよ!」
シンジは強く否定した。
「何を恐れているんだい?もし僕の言ったことが本当だったら、君は立ち直れないほど傷つくことになってしまうから?」
浩一は皮肉めいた笑い声を上げた。
「知っているかい?裏切られた、傷つけられたと感じるのは、いつも心を開きあった相手からなんだよ、心の壁を作らずにいられるほどわかりあえていたのに、その無防備な心に痛みを与えられたから、悲しくなるんだ」
「そうかもしれない」
ミズホは肯定した。
「気づいてる?僕が直接心に話しかけていること、心を読んでいること、君たちが裏表ない気持ちを話そうとしてくれているのは嬉しいよ、でも綾波さんの心はもっと深くまで見えたんだ、彼女は壁を持たないでいてくれたから、カヲル君のはまったく、話しかけることもできなかったな、仲の良くない相手に心を許すほど甘い人間じゃなかったから、それとも傷つけられないように守っていたのかな、彼もガラスのように繊細な心を持つ人だから」
シンジはうつむいてしまうしかなかった、前髪で顔がよくみえない。
「でも、それが全てではありません…」
ミズホは二人に、そして外にいるレイとカヲルにも言葉を発した。
「確かに私たちが逢えたのは、私たちの持っている秘密のせいかもしれません…」
ミズホは両手をさしだしてみせた、手のひらを上に向けると、ふわりと赤い球が現れる。
「この不思議な力があったから出会えたのかもしれません…、けどそれはきっかけですぅ、私たちが出会うためのきっかけ、ご縁があったってだけですぅ」
赤い球の中に、ミズホの想い出が次々と浮き上がっては消えていく、その中で一番輝いているのは、あのクリスマスの後の…
「おかえり、ミズホ。帰ってきてくれてありがとう」
そう言ってくれたシンジの笑顔だった。
「…シンジ様だけじゃありません、アスカさんやレイさん、カヲルさん、ヒカリさん、他の皆様、みなさんのことを好きになったのは私、好きになってもらおうって思ったのも私、そのご縁を大切にしたいと決めたのも私ですぅ」
にこっとミズホ。
シンジと浩一は二人とも呆気に取られた。
「はは…は、まいったな」
浩一は顔を押えた。
「そんな簡単な理屈で…」
こぼれ落ちる涙。
その滴が闇に落ちてきえた時…
「う…あ…あああ……あああああああああ!」
浩一は金縛りにあい、絶叫を上げた。
●
「なにごとだ」
「全てのコントロール、受け付けません!」
「前回と同じです、BABELの文字が…」
「防壁を展開、失敗、さらに展開、だめです、回避されます」
NERV作戦指令室では、またしてもオペレーター達が悲鳴を上げていた。
「I/Oシステムをダウンしろ」
「了解!」
若いオペレーター二人が、タイミングをあわせてキーを回した。
「…ダメです!」
「…現時点をもってNERV作戦指令室は活動を停止する、全ての電源を落とせ」
「了解!」
予備電源を含めた全ての灯りが消えた、ゲンドウは非常用のロウソクに灯をつけると、次の指示を出した。
「外の様子を見てこい、連絡は無線機を使え」
ゲンドウはどでかい旧式の無線機を取りだした、肩から担ぐタイプだが、3キロはゆうにある。
充電は十分にすんでいた。
「おそらくは上も騒ぎになっているだろうな」
ゲンドウの予想は当たっていた。
とりあえずゲンドウの直上数十メートルのところで、書類の整理に没頭していた冬月が灰になっていた。
「す、数時間分の仕事が…」
パーだ。
被害はNERVだけではなく、第三新東京市全域に広がっていた。
TVすらBABELの文字を映し出すだけ。
第一中学の理科準備室では「にゃー」と、三匹の猫が同時に首の辺りを後ろ足で掻きはじめた。
リツコはそれを見ると、キーボードに取りついた、ウィルスの分析をしていた時の、3倍近い速度でキーを叩く。
「まずいわね」
不利だと踏んで、リツコは謎のCDを挿入する。
オートランで起動するプログラム、猫たちが画面の隅に縮小表示され、中央には666PROTECTの文字が表示された。
「これで暫くはもつわね」
リツコはノートパソコンにダミープログラムを走らせると、そのままネットワークに繋いだ。
「おもったとおり、ダミーではもたないわね」
ネットワークから切り離す、途端にウィルスはその動きを遅くしていった、ついには無害な意味のないデータに変化する。
「自らクラッキングを行うウィルス、前回とは違う物なのね、…面白いじゃない」
リツコはダミーでかせいだ十数秒の間に、ウィルスの発信源を突き止めていた。
「鳥取砂丘…」
どうゲンドウに連絡を取るか、リツコは車を走らせることに決めた。
●
「こ、これは!」
シンジたちを飲み込んだ黒い球体が転がっている浜辺、そこから500mほど離れた湖岸道路に戦自の指揮車は止まっていた。
「どうしたの」
協力体勢をとっていた内調の江戸川が、現場を映し出していたモニターに目を奪われた。
赤いBABELの文字が全てを塗り変えていく。
モニターだけではない、観測結果の数値を波形として表示していた画面まで、BABELの文字を描き出す。
「まさか…ロデム、いいえ違うわ」
彼女はNERVで何が起ったのか、答えを知っていた。
カードに化けたマイクロマシンの集合体、ロデムがカードスロットから直接データを検索していたのだ。
「ロデムはあそこにいる、じゃあ「塔」が起動したの!?」
江戸川は自分の目で確認するため、指揮車を離れた。
「あああああ…」
レイは余りの頭痛の酷さに頭を押えてのたうちまわった。
「レイ!レイっ、壁を張るんだ!」
今のレイには何も聞こえない、ただ浩一の意識の本流に怯えるだけだ。
「あれは…なに?」
ミサトは目の前で起っていることが信じられなかった。
黒い球体が縦に裂けはじめる。
裂け目を広げる腕、獣のような雄叫びを上げて現れる少年。
「うわあああああああああああああああああああ!」
球体を引き裂いて少年は砂浜を踏みしめた、汗で前髪が張り付いている、その奥からのぞく不気味な双眸。
「うわあっ!」
緊張に耐えきれなかった兵士の一人が発砲した!
キュゥン!
おかしな音をたてて、引き裂かれたはずの黒い物体が女の形を取った。
黒髪の女は右腕をコウモリのような翼に変えて、浩一を包みこむ。
「銃が効かない!」
間隙をついて翼を振るう、超硬質の刃は一度に5人の首を落とした。
「シンジ君!?」
彼女の足元に気を失っているシンジが見えた。
ミサトは飛び出そうとして肩をつかまれる。
「僕が行きます」
ミサトをひきとめて、カヲルが駆け出した。
壁を展開して攻撃に備えるカヲル、だが女はカヲルに目もくれなかった。
がくがくと震える浩一に膝を貸す、浩一は彼女の腰に抱きつくと、何事かぶつぶつと呟きだした。
「助けてよ、たすけてよ、タスケテヨ」
「シンジ君!」
シンジを抱き上げるカヲル。
「レイ!」
必死に呼び掛ける加持、だがレイは何かに怯えるように震えていた。
「あ、あた、…まが」
われるように痛い。
流れ込む記憶、自分に似た経験をしてきた少年の記憶。
浩一はもじって作った名前、本当の名前は「甲1」あるいは「101」
「ファースト」と同じ意味で用いられる呼称。
あの球体の中でシンジとかわした会話、その前のレイとの会話、さらに遡って培養液の中で聞かされた話まで流れこむ。
「いやああああああああああああ!」
合成蛋白質から、発見された遺伝子設計図を元に産み出される少年。
生まれ変わりはあり得るのかもしれない、少年は無垢なままではなく、不安定で欠落した記憶をもっていた。
遺伝子設計図と共に発見された赤い玉、そこから引き出されるオーバーテクノロジーと、少年の記憶によって産み出されるもの。
「いやいやいや、こんなのいやああああああああ!」
「レイ、しっかりするんだ!」
シンジをミサトに預けると、カヲルはレイに抱きついて壁を展開した。
「頭の中に直接流れこんでいるのか、僕にテレパシーなんて防げるのか?」
それでもカヲルは自分の直感を信じた。
同じ命から産み出される力だといった。
「なら、防げるはずだ」
少年は相変わらずレイと同じように苦しんでいる。
レイは流れ込んでくる膨大な記憶によって飽和する直前、少年の中にあるただ一つの想いを見つけた。
「だれか僕を助けてよ、誰か僕に優しくしてよ!」
いまここにいる自分と前世の中の自分との両方の記憶が激しくせめぎあっている。
フイィィィィン…ドズウン……!
ヘリがコントロールを失って湖に沈んだ。
「なにこれ、どうなってんの!」
ミサトの携帯の表示窓にもBABELの文字。
「く、くるわ」
「レイ!」
レイ…、いや綾波は壁を展開して浩一の意識を受け流しはじめた。
それでもかわしきれない意識が入りこむ、強い壁が作れないのだ、苦しみは続く。
「くるって、なに?」
ミサトは湖を見た、何かが浮上してくる。
湖面に映る影がどんどん大きくなってくる、それが水面をかき分け大波を起す直前、直上から光の柱が落ちてきた。
閃光がミサトたちの目を焼く、同時に爆音と衝撃。
「水蒸気爆発!?」
発生した膨大な水しぶきが、霧となって全ての視界を被いつくした。
「シンジ様…」
「なにあれ、いったい何がおこってるのよ!」
アスカは度重なる銃声と爆発音に気が気でなかった、多くの嫌な想い出が呼び覚まされる。
「もう、こんな時にいったいバカシンジたちはどこに行っちゃったのよ!」
シンジの姿が見えない、レイとカヲルもだ、探しに行きたかったが、怯えるミズホにすがりつかれて動けずにいた。
「無事でいなさいよね」
アスカには祈ることしかできなかった。
「そんな…」
「あれがUMAの正体だ」
現実逃避しようとするミサトを、加持が無理矢理引き戻した。
全長5メートル程度の白い巨人だった、その姿は猿に近い。
前後に長い頭が印象的だった、目はなく、歯がむき出しになっている、まるで四つ足の獣が立ち上がっているような感じだ。
今は胸をそらして、天から落ちてくる光を胸にある紅玉で受け止めていた。
「浩一君!」
浩一を巨人に捧げる女、巨人は腹部、赤い玉の下を開いた。
女は水面を歩いて渡り、そこに浩一を押し込んでしまう。
閉じてゆく、うもれていく浩一、じっと見つめる女。
「あんたちょっと、何をする気よ!」
飛び出すミサト。
「バカ!」
慌てて加持がひき倒した、砂の上でもつれる二人。
女はその二人を冷ややかに見ただけで、それ以上の反応は返さなかった。
光の柱が消える、巨人は力を取り戻したかの様に歩みはじめた。
ロデムという名のナノマシンの集合体は、女性体から剣へと姿を変える。
幅広の剣、両刃で、柄は刃の中央にあった。
巨人はそれをつかむと、ぞっとする笑い声を上げた。
「ーーーーーーーーーーーーーーー!」
それは悪魔の叫びにも似た響きをもっていた、運のいいことに、まだ水蒸気爆発によって生まれた霧は晴れていなかった。
声の正体がばれるには時間がある。
「なんて…いんちき」
ミサトはなんとかそれだけ声を絞り出した。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
Q'はGenesis Qのnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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