Episode:30 Take2



「加持さん、どこへ行くんですか?」
 どこの通路も同じに見えるシンジ。
「ブリッジだ」
 だが加持にははっきりと道がわかっているらしい。
「こうなったら、なりふりかまっていられないからな?」
 通路がどんどん狭くなっていく、それに伴って飾り気も薄れていた。
「なんだ、君達は!」
「客だよ、逃げ遅れた」
 ブリッジ、姿を見せた三人に怒鳴る船員。
 加持は適当にごまかした。
「こっちの方が安全だと思ったんだが、違うのか?」
 くっと、船員は黙り込んだ。
「良い、チーフ入れてやりたまえ」
 キャプテンの言葉に、大人しく引き下がるチーフ。
「状況は?」
「大丈夫、すぐに止まりますよ」
 言いながらも、キャプテン自身嘘はバレていると感じていた。






「ミヤちゃん!」
 影の中から出て来たミヤを抱き留める。
 サヨコは安心したように気を抜いた。
「ここは?」
「オペラハウスよ?、メイとマイは甲斐さんに呼ばれていったわ」
 新オペラハウスは以前と同じように海の上に浮いていた。
 その外円部、波除けの影に隠れるようにして、サヨコはミヤを待っていたのだ。
「アラシとツバサは?」
「コンサートホールの舞台裏、何かあった時のためにってカスミが…」
 ミヤはサヨコから離れると、海に向かって目を細めた。
「…無理よ、遠過ぎるわ」
「テンマ!、聞こえているんでしょ!!」
 苛ついたように大声を張り上げる。
 なんだ?
「シンジ君達は!?」
 船を沈める気だな。
 そんな!?
 自分の耳を疑うミヤ。
「どうして…」
 他に方法が無いからな?
 テンマの事務的な報告が、余計にミヤを苛立たせていた。


「沈める?、本気ですか!」
「ああ…」
 加持は大真面目に頷いていた。
「このままじゃ水門に激突する、満潮が近い、だが水門の内側は…」
「ジーザス…、なんてことだ」
 キャプテンは天の上の神を振り仰いだ。
「キャプテン?」
「いいかね?、水門の内側との高低差は1メートル近い、そこへ波が押し寄せれば被害は想像もつかん」
 しかもその水門を破壊してしまうのがこの船なのだ。
 ブリッジが静寂に包まれた。
「しかし、どうやって船を沈める気ですか?」
 まごまごしてはいられない、キャプテンは加持の案に従うことに決めた。
「後部の貨物デッキ、あそこからなら逃げ出せるな?」
 しかし全員が逃げ出すのは不可能に思われた。
「飛び込めと?、しかし、だれが転覆させるのですか」
「それは俺がやろう…」
「リキ?」
 入り口に目を向ける綾波。
「まだ居たのか…」
 キャプテンは「全員無事退船」と言ったクルーを、後で怒鳴り付けてやろうとこめかみをひくつかせた。
 そんなキャプテンに肩をすくめる加持。
「船首右に穴を開ければこの速度だ…、勝手に水を飲み込んでブレーキを掛けることにならないか?」
「いかん!、乗客にそのような危険な真似をさせるわけには…」
 第一どうやってそんな大穴を!?
 疑問ばかりが膨らんだ。
「あいにくと密航者なんだ、乗客リストには乗ってない」
「そんな問題では」
「いいから、後は任せろ」
 詰め寄って来たキャプテンの肩をつかんで、追い出すように背を押してやる。
「ま、待て!」
「しつこいな…」
 リキは黙らせようと、その首筋に手刀を入れた。
 崩れ落ちるように倒れ込む、その体を抱き上げ、リキは適当な船員に押し付けた。
「キャプテン!」
 殺気立つクルー。
「早く行け」
「……」
 憎むような目つきでキャプテンを支え、出て行くクルー達。
「飛び込むのは減速が始まってからだぞ!」
 リキはスタッフ達に声を掛けてから、彼らとは反対の方向へ向かおうとした。
「すまないな」
 だが加持の言葉を背に受け、苦笑して立ち止まる。
「誰かがやらなければいけないことだろ?」
 リキは思い出したようにポケットを探った。
「あ…」
「……」
 放り投げられたのは飴玉だった。
 リキさん…
 それを受け取るシンジと綾波。
「あの…、青森…」
「うん?」
 シンジはどもりながら伝えた。
「青森では、ありがとうございました」
「ああ…」
 苦笑する。
「じゃあ、またな」
 そう言って、リキは実に爽やかに駆け出していった。
 リキさん…、悪い人じゃないんだ。
 シンジは、なんて爽やかな人なんだろうと、わだかまりを持たなくて良かったと感じていた。






「よく戻って来たね?」
 珍しくマイとメイを同時に抱きしめる甲斐。
「あ、あの、甲斐さん!?」
「うきゅ〜」
 マイもメイも恥じらうようにもじもじとしている。
 と同時に、殺気立つカスミの視線が恐かった。
「さ、行っておいで?、今日は存分に歌って来ると良い…」
「え?、歌っていいの!?」
「ああ…、皆が守ってくれる、君達は何も心配しなくていい」
「はい」
 平然と頷くメイ。
「何も心配することなんてありませんわ」
「うきゅ?」
 いつもと違う感じに首を傾げるマイ。
「さ、行きましょ?」
「は〜い!」
 しかし思いっきり歌えると言う誘惑に負けたのか?、マイは深く考えずにVIPルームから出ていった。


「それではご紹介いたしましょう、シドニー復興に多大なる御尽力を頂いた、カリオストロ伯爵です!」
 舞台に向かって大きな拍手が鳴り響く。
 それらに片手で答えながら、伯爵は余裕を持って進み出た。
「…気に食わないな」
「男なら誰でもでしょ?」
 ボコッ!っとアラシに殴られるツバサ。
「いったぁい!」
「だったら黙ってろ!」
 舞台裏、その隅で腕組みをしているヨウコに声を掛ける。
「おかしいと思わないか?、誘拐に失敗したあげく、黒幕だってバレているのに人前に出て来る…」
 ヨウコは答えない、無言で瞳を閉じたままだ。
 まるで何かが起こるのを待っているように。
 ふぅ…
 アラシはため息をついた。
「…それでは、今日この日を祝うにふさわしい歌姫に御登場いただきましょう」
 伯爵が進行に無い言葉を言い放った。
 それにどよめくスタッフ達。
「なんだ?」
 ツバサを捨て置き、目を細めるアラシ。
「二人の天使、マイさまにメイさまです、どうぞ」
 わーーー!っと、喝采が鳴り響いた、活動場所は香港であっても、曲はネットワークを通じて放送されている以上、知っている人間は全世界規模なのである。
 マイがはしゃぐように、メイはニコッと微笑んで、小さく手を振りながらステージ中央へと歩きよった。
「さて、マイさま、今日のご機嫌はよろしいですかな?」
「ぷんっだ!」
 そっぽを向くマイ。
「おやおや…」
 伯爵は苦笑して、やけに大袈裟に肩をすくめた。
「どうやら嫌われてしまったようです」
 その言葉に、どっとわく会場。
「ではメイさまはいかがで?」
「それはもう…」
 司会からマイクを受け取る。
「このような場所に立てることを、誇りに思いますわ?」
 メイは両手でマイクを持って、終始微笑んでいた。
 うきゅう…
 まるでその笑顔しか知らないように…
 ぎゅっと、メイの服の裾をつかむマイ。
 その間にも、当たり障りのない会話が続いてく。
「ところでメイさま?」
 伯爵の顔に、邪悪なものが浮かんだ。
「このところの気もそぞろな御様子?、良い方ができたともっぱらの噂ですが?」
 何を言い出すんだ!
 アラシは壇上に駆け昇ろうとした、だが気のついたスタッフに取り押さえられてしまう。
「離せ!」
「警備員を呼べ!」
 あ〜あ…
 ため息をつくツバサ。
「え?、それは…」
 メイの笑みが伯爵に向けられた。
 頬を赤らめている、会場中が水を打ったように静まり返った。
「あたし…」
 会場を包みこむ緊張の中、冷静に状況の推移を見据えているのはヨウコただ一人である。
 そのヨウコの視線は、ツバサにまだ動くなと釘を刺していた。
 心配そうに見上げるマイ、メイの唇が言葉を紡ごうとわずかに開いた。
 ガシャン!
 直後、ホール内のあらゆる照明の明かりが落とされた。
 非常用も含めた全ての電力供給が断たれたのだ。
 ざわめく場内、だが明かりはすぐに戻った。
 カシャン!
 再び明るくなる。
 ほっとした空気が流れた。
「おやおやアクシデントとは…、メイさまの魅力に機械も酔いましたかな?」
 おどけた言葉に、会場中からどっと笑いが巻き起こる。
 伯爵はハンカチを取り出すと、軽く汗を拭った。
 くすっと笑むメイ。
「では、まずはお二人の歌から始めるといたしましょうか?」
 わああああああ!っと、歓声が上がった。
 マイにもマイクが手渡される。
 舞台を下りる伯爵に、すばやくジョドーが走り寄った。
「いかがなもので?」
「わたしを誰だと思っている?」
 ははーっと、平伏するジョドー。
「表層の暗示は解いた、全てはこれからだ」
 肩越しに舞台を見やる。
「まったく、骨の折れることだ」
 ニヤリと、伯爵は無気味な笑みを浮かべていた。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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