Episode:30 Take2
「加持さん、どこへ行くんですか?」
どこの通路も同じに見えるシンジ。
「ブリッジだ」
だが加持にははっきりと道がわかっているらしい。
「こうなったら、なりふりかまっていられないからな?」
通路がどんどん狭くなっていく、それに伴って飾り気も薄れていた。
「なんだ、君達は!」
「客だよ、逃げ遅れた」
ブリッジ、姿を見せた三人に怒鳴る船員。
加持は適当にごまかした。
「こっちの方が安全だと思ったんだが、違うのか?」
くっと、船員は黙り込んだ。
「良い、チーフ入れてやりたまえ」
キャプテンの言葉に、大人しく引き下がるチーフ。
「状況は?」
「大丈夫、すぐに止まりますよ」
言いながらも、キャプテン自身嘘はバレていると感じていた。
●
「ミヤちゃん!」
影の中から出て来たミヤを抱き留める。
サヨコは安心したように気を抜いた。
「ここは?」
「オペラハウスよ?、メイとマイは甲斐さんに呼ばれていったわ」
新オペラハウスは以前と同じように海の上に浮いていた。
その外円部、波除けの影に隠れるようにして、サヨコはミヤを待っていたのだ。
「アラシとツバサは?」
「コンサートホールの舞台裏、何かあった時のためにってカスミが…」
ミヤはサヨコから離れると、海に向かって目を細めた。
「…無理よ、遠過ぎるわ」
「テンマ!、聞こえているんでしょ!!」
苛ついたように大声を張り上げる。
なんだ?
「シンジ君達は!?」
船を沈める気だな。
そんな!?
自分の耳を疑うミヤ。
「どうして…」
他に方法が無いからな?
テンマの事務的な報告が、余計にミヤを苛立たせていた。
「沈める?、本気ですか!」
「ああ…」
加持は大真面目に頷いていた。
「このままじゃ水門に激突する、満潮が近い、だが水門の内側は…」
「ジーザス…、なんてことだ」
キャプテンは天の上の神を振り仰いだ。
「キャプテン?」
「いいかね?、水門の内側との高低差は1メートル近い、そこへ波が押し寄せれば被害は想像もつかん」
しかもその水門を破壊してしまうのがこの船なのだ。
ブリッジが静寂に包まれた。
「しかし、どうやって船を沈める気ですか?」
まごまごしてはいられない、キャプテンは加持の案に従うことに決めた。
「後部の貨物デッキ、あそこからなら逃げ出せるな?」
しかし全員が逃げ出すのは不可能に思われた。
「飛び込めと?、しかし、だれが転覆させるのですか」
「それは俺がやろう…」
「リキ?」
入り口に目を向ける綾波。
「まだ居たのか…」
キャプテンは「全員無事退船」と言ったクルーを、後で怒鳴り付けてやろうとこめかみをひくつかせた。
そんなキャプテンに肩をすくめる加持。
「船首右に穴を開ければこの速度だ…、勝手に水を飲み込んでブレーキを掛けることにならないか?」
「いかん!、乗客にそのような危険な真似をさせるわけには…」
第一どうやってそんな大穴を!?
疑問ばかりが膨らんだ。
「あいにくと密航者なんだ、乗客リストには乗ってない」
「そんな問題では」
「いいから、後は任せろ」
詰め寄って来たキャプテンの肩をつかんで、追い出すように背を押してやる。
「ま、待て!」
「しつこいな…」
リキは黙らせようと、その首筋に手刀を入れた。
崩れ落ちるように倒れ込む、その体を抱き上げ、リキは適当な船員に押し付けた。
「キャプテン!」
殺気立つクルー。
「早く行け」
「……」
憎むような目つきでキャプテンを支え、出て行くクルー達。
「飛び込むのは減速が始まってからだぞ!」
リキはスタッフ達に声を掛けてから、彼らとは反対の方向へ向かおうとした。
「すまないな」
だが加持の言葉を背に受け、苦笑して立ち止まる。
「誰かがやらなければいけないことだろ?」
リキは思い出したようにポケットを探った。
「あ…」
「……」
放り投げられたのは飴玉だった。
リキさん…
それを受け取るシンジと綾波。
「あの…、青森…」
「うん?」
シンジはどもりながら伝えた。
「青森では、ありがとうございました」
「ああ…」
苦笑する。
「じゃあ、またな」
そう言って、リキは実に爽やかに駆け出していった。
リキさん…、悪い人じゃないんだ。
シンジは、なんて爽やかな人なんだろうと、わだかまりを持たなくて良かったと感じていた。
●
「よく戻って来たね?」
珍しくマイとメイを同時に抱きしめる甲斐。
「あ、あの、甲斐さん!?」
「うきゅ〜」
マイもメイも恥じらうようにもじもじとしている。
と同時に、殺気立つカスミの視線が恐かった。
「さ、行っておいで?、今日は存分に歌って来ると良い…」
「え?、歌っていいの!?」
「ああ…、皆が守ってくれる、君達は何も心配しなくていい」
「はい」
平然と頷くメイ。
「何も心配することなんてありませんわ」
「うきゅ?」
いつもと違う感じに首を傾げるマイ。
「さ、行きましょ?」
「は〜い!」
しかし思いっきり歌えると言う誘惑に負けたのか?、マイは深く考えずにVIPルームから出ていった。
「それではご紹介いたしましょう、シドニー復興に多大なる御尽力を頂いた、カリオストロ伯爵です!」
舞台に向かって大きな拍手が鳴り響く。
それらに片手で答えながら、伯爵は余裕を持って進み出た。
「…気に食わないな」
「男なら誰でもでしょ?」
ボコッ!っとアラシに殴られるツバサ。
「いったぁい!」
「だったら黙ってろ!」
舞台裏、その隅で腕組みをしているヨウコに声を掛ける。
「おかしいと思わないか?、誘拐に失敗したあげく、黒幕だってバレているのに人前に出て来る…」
ヨウコは答えない、無言で瞳を閉じたままだ。
まるで何かが起こるのを待っているように。
ふぅ…
アラシはため息をついた。
「…それでは、今日この日を祝うにふさわしい歌姫に御登場いただきましょう」
伯爵が進行に無い言葉を言い放った。
それにどよめくスタッフ達。
「なんだ?」
ツバサを捨て置き、目を細めるアラシ。
「二人の天使、マイさまにメイさまです、どうぞ」
わーーー!っと、喝采が鳴り響いた、活動場所は香港であっても、曲はネットワークを通じて放送されている以上、知っている人間は全世界規模なのである。
マイがはしゃぐように、メイはニコッと微笑んで、小さく手を振りながらステージ中央へと歩きよった。
「さて、マイさま、今日のご機嫌はよろしいですかな?」
「ぷんっだ!」
そっぽを向くマイ。
「おやおや…」
伯爵は苦笑して、やけに大袈裟に肩をすくめた。
「どうやら嫌われてしまったようです」
その言葉に、どっとわく会場。
「ではメイさまはいかがで?」
「それはもう…」
司会からマイクを受け取る。
「このような場所に立てることを、誇りに思いますわ?」
メイは両手でマイクを持って、終始微笑んでいた。
うきゅう…
まるでその笑顔しか知らないように…
ぎゅっと、メイの服の裾をつかむマイ。
その間にも、当たり障りのない会話が続いてく。
「ところでメイさま?」
伯爵の顔に、邪悪なものが浮かんだ。
「このところの気もそぞろな御様子?、良い方ができたともっぱらの噂ですが?」
何を言い出すんだ!
アラシは壇上に駆け昇ろうとした、だが気のついたスタッフに取り押さえられてしまう。
「離せ!」
「警備員を呼べ!」
あ〜あ…
ため息をつくツバサ。
「え?、それは…」
メイの笑みが伯爵に向けられた。
頬を赤らめている、会場中が水を打ったように静まり返った。
「あたし…」
会場を包みこむ緊張の中、冷静に状況の推移を見据えているのはヨウコただ一人である。
そのヨウコの視線は、ツバサにまだ動くなと釘を刺していた。
心配そうに見上げるマイ、メイの唇が言葉を紡ごうとわずかに開いた。
ガシャン!
直後、ホール内のあらゆる照明の明かりが落とされた。
非常用も含めた全ての電力供給が断たれたのだ。
ざわめく場内、だが明かりはすぐに戻った。
カシャン!
再び明るくなる。
ほっとした空気が流れた。
「おやおやアクシデントとは…、メイさまの魅力に機械も酔いましたかな?」
おどけた言葉に、会場中からどっと笑いが巻き起こる。
伯爵はハンカチを取り出すと、軽く汗を拭った。
くすっと笑むメイ。
「では、まずはお二人の歌から始めるといたしましょうか?」
わああああああ!っと、歓声が上がった。
マイにもマイクが手渡される。
舞台を下りる伯爵に、すばやくジョドーが走り寄った。
「いかがなもので?」
「わたしを誰だと思っている?」
ははーっと、平伏するジョドー。
「表層の暗示は解いた、全てはこれからだ」
肩越しに舞台を見やる。
「まったく、骨の折れることだ」
ニヤリと、伯爵は無気味な笑みを浮かべていた。
[BACK][TOP][NEXT]
新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
Q'はGenesis Qのnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
内容の一部及び全部の引用・転載・加筆その他の行為には
作者である私と原作者naryさんの許可または承認が必要です、ご了承ください。
本元Genesis Qへ>Genesis Q