Episode:31 Take1



 当機は間もなく、シドニー国際空港に…
 アナウンスが流れる。
「あと30分ってとこか…」
 時計を確認するミサト。
「ねえ、その鞄なに?」
 アスカはミサトが踏んづけている鞄を面白げに見た。
 クェ、クェ…
 時折もぞもぞと動いている。
「あ〜、これ?」
 ミサトはニタリと笑みを浮かべた。
「非常食」
 ぴた。
 鞄の動きが止まる。
「あ、あ〜、そお?」
 アスカはそれ以上追及すまいと心に誓った。
「それよりそろそろよ?、そっちの準備はいい?」
「ばっちりですぅ!」
 ミズホは嬉しそうにグルグル眼鏡を拭いている。
「あんたこんなとこまで持って来たのぉ?」
 アスカは呆れ顔でひょいっと取り上げた。
「ああん、返してくださいぃ!」
 手を伸ばすけど届かない。
「…妖しいわねぇ、なんか仕掛けでもしてあるんじゃないの?」
 ピッと、アスカの手が偶然フレームの一部に触れた。
「な、なによこれ!」
 レンズの左側がレーダーサイトに切り替わる。
「シンジ様追跡眼鏡になってるんですぅ、早く返してください!」
 ぷんぷんとミズホは怒って取り返した。
「…そう言えば、赤木先生に作ってもらったって言ってたわね?」
「はい、時々バージョンアップしてもらってるんですぅ」
 バージョンって一体…
 冷や汗が流れる。
「ちなみに今度のは、シンジ様の持ってらっしゃる携帯の電波を追えるようになってるんですぅ」
「電波?」
「はい、だからシンジ様が電話をお使いになれば、即座に居場所が分かると言う…」
「で、あの状況でシンジが携帯を持ち出した可能性は?」
 ピタ。
 眼鏡を拭いていたミズホの手が止まった。
「ついでに、外国で使用できたかしら?、あの携帯…」
「しまったですぅ!」
 ミズホは頭を抱えて椅子の下に隠れた。
「ふ、無様ね…」
「…あのリツコのことだから、スパイ衛星をハックするぐらいのことはやりそうだけどね」
 ミサトの心配は現実の一歩手前まで来ていた。

GenesisQ’第31話
PRETTY AFTERMOON

 もう一度、もうちょっとだけ耐えて、あたしの体!
「ラー…、ラ、ラー…」
 ミヤの喉から再び声が絞り出される。
「秋月さん…」
 シンジは再び胸を押さえた。
 苦しい?、違う、切ないんだ…
 甲斐を慕うカスミのように…
 誰かを支えにできたらいいのに…
 そんな願望が見えて来る。
 でも無理ね…
 カヲル君?
 シンジにもはっきりとその背中が見えていた。
 泣いているミヤ。
 背を向けて歩いていくカヲル。
 イメージ?
 現実?
 シンジにはその境界線が分からない。
 でも寂しいと思う。
 背中が寒く…
 胸に穴が空いてしまう…
 埋めて欲しいの?
 うらやましいんだ…
「A−…、RA−RA−…」
 シンジの口からも声が漏れ出す。
 ハミングが始まる。
 シンクロしている?
 ヨウコはその不可思議な現象に引き込まれた。
「そう…、同じなのね」
 綾波の呟き。
「同じ?」
「そう…」
 綾波のミヤを見る目は優しい。
「寂しいのよ、みんな…」
 人は一人では生きていけないから…
 綾波の「声」はシンジとミヤの紡ぎ出す「音」に乗って人々の心に入り込んでいた。
 ツー…っと一筋の涙が溢れ出す。
 皆の動きが止まる。
 鉄棒を振り上げていた男性も…
 杖で少女を突き刺そうとしていた老人も…
 ナイフで無差別に人を刺していた少年も、最後の一線で動きを止め、そして泣いていた。
「人は一人では無いことを知るから…」
 人は生きていけるのよ…
 ヨウコ達は、久しぶりにレイの「声」を聞いていた。






「なんだ?」
 憔悴したかの様に、伯爵の髪が乱れてばらける。
 なぜお二人のコントロールが解かれてしまったのだ?
 伯爵はその髪をうっとうしげに掻き上げた。
「いったい、どこでおかしくなってしまったのだ?」
 ふらつき、その後ろにあるソファーへと腰を落とした。
「甲斐の手駒のことは計算していた」
 子供達。
「ただの子供であるはずはないと分かっていた」
 だからいくつもの陽動をしかけたのだ。
「なのに何故だ?、このていたらくは…」
 あの子供達か?
 マイとメイを沈めたミヤ。
 その側にいる少年と少女。
 資料には無い二人に意識が向かう。
「いや…、見た事がある、あれは」
 第三新東京市、シティニュース、その1コーナー…
 謎の広告に惹かれて戯れ言として受け止めていた。
 そう、マイとメイの月の歌が流れたことを知るまでは…
「あの時の…、そうだ何度も解析した、あの髪の長い少女だ…」
 ジョドーが小さく頷いた。
「はい…、あの娘の喉には、かすかながらに喉仏がありました」
 伯爵の中で急速に考えがまとめあがる。
「そうか、あの少年の動向を押さえていなかったわたしの誤りと言うわけか…」
 伯爵は立ち上がると、ジョドーに向かって命を下した。
「マイ様とメイ様を取り戻せ」
「…殿下は?」
「館に戻る、あの二人がいれば事の再決行は可能だ」
 お二人にこだわり過ぎですな…
 ジョドーはついため息をついてしまった。
「他は?」
「かまわん…、いやあれを配備していたな?、使え」
 それ以上の質問は許さない。
 出て行く伯爵に、ジョドーは恭しく頭を下げて見送った。






「…それがあなたの答えなの?、レイ」
 カスミも溢れ出て来る涙に動揺してしまっていた。
 その前にすっとハンカチが差し出される。
「使いなさい」
「はい…」
 甲斐から受け取る、だがもったいなくて、使うのをためらった。
 シンジの力を借り受けたミヤの声は、この部屋の防壁などまるで問題にしていない。
「わたしは、幸せなのでしょうか?」
 それに乗ったレイの言葉を、カスミは何度も反芻してしまう。
「それは君自身が決めることだよ…」
 甲斐の口調は何故だか堅かった。
「何が幸せで何が不幸せか?、それを決めるのは君自身の心だ…」
「心?」
 カスミは結局、涙を拭いた。
「そう心だ、君の受け取り様によって変わるものだ」
「心…」
 カスミの頭で、言葉が渦巻く。
「ひと一人が持てる世界観なんてちっぽけなものさ…」
 舞台を見やる甲斐。
「だけど人はその物差しでしか物事を計れません…」
「そうだ」
 甲斐の口元に笑みが浮かんだ。
「人の顔色をうかがう必要は無い、人は人らしく、己の価値観で生きていけばいい…」
 何が言いたいのか不安になって来る。
 甲斐を見ることで自分を確立して来たカスミに、それを捨てろと言うのだろうか?
 だが甲斐はもうカスミを意識の外に放り出していた。
「…カリオストロ伯爵」
「え?」
「そう言う意味では、実に狭量な男だったな」
 甲斐の言葉は、既に過去形になっていた。






 ドカァン!
 コンサートホール左側面の壁に大穴が空いた。
「……」
 そっとメイとマイを横たえるヨウコ。
「ツバサ…」
「わかってるよぉ」
 いつまでも、いじけてばかりはいられない、ツバサは二人を守るために近寄った。
 吹き飛んだ防音造りの重々しい扉や壁の破片が人々をなぎ倒す。
「…まだあったのか」
 チキチキと機械音が鳴る、首を振る時に鳴っているようだ。
 JA、今までのものよりもさらに一回り大きかった。
 蜘蛛型の殺戮兵器。
「だいぶ改造してあるな?」
 その幾つもあるレンズ状のカメラが、舞台上の子供達に向けられた。
 避けて…
「なに?」
 誰かの「声」にヨウコはためらう。
 避けて。
 もう一度。
 碇君の声…
 綾波は迷わずJAに対して壁を展開していた。
 その壁に空気を焼いて延びる青い光線が弾けて散ってく。
「レーザーか」
 天井、壁、床に拡散した光が火をつけた。
「きゃああああ!」
 悲鳴が上がる、正気に戻った人達が逃げ惑い始めた。
「まずいな…」
 ヨウコは舞台から壁際へ走った。
「むん!」
 そしてそのまま壁に対して垂直に走る。
 タタタタタン!
 JAのすぐ側で空中に躍り上がった。
 キキュン!
 光の鞭が降りしなに振るわれる。
 ズガシャン!
 JAがスクラップになるのは一瞬だった、節足のような足が一度に切り払われ、胴体が重々しく床に沈んだ。
「だがまだ甘い…」
 ヨウコの「壁」に何かがぶつかった。
 ドゴォン!
 自動展開された壁の表面で爆発が起こる。
「…貴様」
 ヨウコは半身に構えてJAを…、いや、正確にはその向こうで低く構えている黒づくめに注意を向けた。
「やはり何か特殊な力を持っておられるようですが…」
 バシュ!
 黒づくめの指先が一本飛ぶ。
「!?」
 ドゴォン!
 またも爆発、衝撃も何もかもを壁が弾いている、しかし…
「その巻き添えを食っているようですな?」
 その通りだった、ヨウコの周囲には逃げ遅れた人々が転がり、苦悶の声を上げている。
「それが狙いか?」
「いえ、わたしはただの足止めに過ぎません」
 しまった!
 気付くのが遅過ぎた。
 舞台には、すでにジョドー配下の「影」達が、マイとメイを拉致するためにその周囲を固めていた。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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