Episode:31 Take2



 フッ…
 レイの真上の照明器具の留め金が外れた。
「危ない!」
 ツバサが叫ぶ、だがレイは気がついていない。
 ガシャァン!
 だがそれは壁によって弾かれてしまっていた。
「壁を使った!?」
 ツバサはすぐさまそれがシンジの仕業だと気がついた。
 殺気の無いものには自動展開されないはずの壁。
 それにミヤとシンクロしてしまっているシンジには意識が無い。
「なのに力を使ってる…、いや」
 守ったのか?、レイを…
 同じようにヨウコも驚きに目を見張っていた。
「どちらを向いているのですか?」
 ドゴォン!
 またも爆発。
 だがヨウコに被害は無い。
「大人しくなされませ、でなければあなたのために…」
 ジョドーは暗に周囲の被害を示唆した。
 しかし…
「甘いな」
 ヨウコは爆発に壊れた椅子の一つをつかみ、ジョドーに向かって投げ付けた。
「むっ!?」
「傷つけたのは」
 その椅子を盾に間合いを詰める。
「わたしではない」
 軍隊教育での結果であろうか?、ヨウコは実に冷めていた。
 キキュン!
「お前だ」
「くお!」
 椅子を避け、転がったジョドーの右腕が落ちていた。
 血も出ない、肘の少し先が無くなっている。
「その罪は償ってもらおう」
 冷めている、なのにヨウコは、その身に怒りをたぎらせていた。


「まったくしつこいんだから!」
 頭上から照明が落ちて来たのは、黒づくめが飛び降りた反動だった。
 マイとメイ、その間にツバサは片膝立ちで守っている。
 周囲に飛び降りて来た数は8人。
「多過ぎるんだから!」
 直接的な攻撃方法を持たないツバサには辛過ぎる。
「でも負けてらんないもんね!」
 ここは一番、目立たなきゃ!
 ツバサは立ち上がると、シュッシュッとボクシングの真似をした。
「さあこい!」
 しかし来ない。
「あれ?」
 シンジたちの方にも敵はいた。
「ねえちょっとぉ…」
 だが綾波は彼らを敵として認識していない。
「もしもーし!」
「「ラー…、ララー…」」
 歌は続いている。
 その背後ではJAのレーザーによる火災が起こっていた。
 巻き起こる悲鳴の渦にかき消されても、背後で炎が燃え上がっていても、ミヤは無心に歌い続けている。
「…コントロールが」
 焦るジョドー。
 舞台周辺ではまだミヤとシンジの歌声が周囲を満たしていた。
 それが黒づくめ達にかけられているマインドコントロールに影響し、行動を乱しているのだ。
「スピーカーか」
 バシュゥ!
 残された数少ない鉄の爪が飛んだ。
「レイ!」
 ヨウコが叫ぶ、飛んだのは二本。
 一本はスピーカーに、一本は…舞台の下部に。
 ドガァン!
 二発同時には防げなかった。
 綾波が守ったのはスピーカーだった、単にそっちの方がシンジに近かったからにすぎない。
「だからってさぁ!」
 ツバサが泣き叫んだ、もう一本はツバサの足元の辺りで爆発したのだ。
 舞台の土台が一瞬膨れあがるように盛り上がる。
「うわ!」
 バランスを崩してよろめく黒づくめ達。
 当然のようにツバサもよろめいた。
「陥没する!」
 今度は真ん中に向かって沈み始める。
 地下!?
 舞台装置や昇降装置などもある、下にはかなりの空間があるらしい。
 中央へ向かって折れ曲がったために、舞台の両端が持ち上がった。
「そうはいくかいって!」
 マイとメイの体を押さえる、偶然ちょっとエッチな所に触れられたのでラッキーだった。
「あ、なに?」
 キョトンとしているシンジ。
 今の衝撃で正気に戻ったらしい、隣にはミヤが転がっていた。
「秋月さん!」
 正気に戻れば、先程までとはうって変わって酷い惨状になってしまっている。
 舞台中央には黒い穴がどんどんその口を大きく広げていた。
 落ちていってる!?
 終息間際、既に安定し始めているのだが、そんなことに気のつく余裕は無い。
「うわ!」
 ギシッと軋んだ、舞台の中央中程は完全に陥没してしまっている。
「うわぁ!」
 マイ、メイ共々、ツバサがその中に滑り落ちた。
 シュル!
 鉤爪付きのロープが天井から投げられる。
「な、なんなの!?」
 ロープは二人の女の子の体にくるりと巻き付くと、一瞬の内に引き上げた。
「役立たずが…」
「どーせねーーー!」
 ヨウコの呟きに律義に答えて消えてくツバサ。
「あ、う…」
 ミヤのうめき声が聞こえた。
「秋月さん!?」
 シンジはミヤの左脇腹に腕を絡め、反対側の手で先程落ちて来た照明につかまっていた。
「シンジ…、くん」
 その向こうにレイの姿が見える。
 まるで何事もないかのように、平然として立っている。
 まだ表情は険しい、油断するつもりが無いのか?、周囲に気を配っていた。
「秋月さん、怪我は?」
「シンジ君」
 ミヤはぐっと力を込めて、顔をシンジに近づけた。
「歌って」
「え?」
 突然のお願いに驚いてしまう。
「歌って、お願い…、もう、あたしじゃダメなの…」
 声が枯れていた。
 体の内側から発せられた、未だかつて経験したことの無い強烈な力のほとばしりに、自らの喉を痛めてしまったのだ。
「…でも、無理だよ」
 シンジは観客席の方を見た。
 火事だぁ!
 うわぁ!
 なんだよあれ!
 血、血よぉ!
 逃げ惑う人達、彼らは歌を聞くどころではないだろう…
「歌ったって、誰も聞きゃしないよ…」
「それでも!」
 ミヤは瞳を更に近づけた。
「歌って」
 ごくっと息を呑むシンジ。
「…どうして」
「不安なの…」
 シンジとミヤとの間に、不思議な共感が生まれている。
「不安なの、どうしようもないの…、みんなの「声」が聞こえるでしょう?」
 はっきり言って、シンジには良く分からなかった。
「みんな…、ううん、あたし、恐いの」
 眠りに落ちようとしている。
「秋月さん!?」
 まるでそのまま永遠の眠りにつきかねない感じだ。
 ミヤの顔色は土気色になってしまっていた。
「秋月さん!」
 お願い…、ね?
 ミヤはそのまま気を失った。
「そんな…」
 シンジはミヤと観客席とに、何度も視線を漂わせた。
 そんなシンジの肩に、ぽんと手が置かれる。
「歌いましょう…」
「綾波?」
 シンジとミヤとを一度に抱き、一気に舞台下へと飛び降りる。
「うわっと、でも…」
 シンジはミヤをその場に寝かせながら、綾波にどうすればいいのかを尋ねてしまった。
「僕はそんな力の使い方なんて知らないし、できるわけないよ…」
 だが綾波は聞き入れない、シンジの言葉を無視すると、投げ出されていたギターを拾い上げた。
 誰のものだろう?、シンジは差し出されたギターに首を傾げてしまう。
「なに?」
「これを持って」
 押し付けられる。
「綾波…」
「歌うの?、歌わないのなら、早く逃げて」
「綾波はどうするのさ…」
 ブシュゥ!
 スプリンクラーが作動した。
 天から降り注ぐ雨に、皆の動きが一瞬止まる。
 綾波は答えない。
 無言で、その赤い双眸をシンジに向けている。
「…本気なの?」
 綾波は小さく頷いた。
 ギュッと唇を噛むシンジ。
「できるかな?」
「逃げなければ」
 綾波は断言する。
「逃げる?」
「恐れているものは、なに?」
 なんだろう…
 綾波の目はシンジの心の奥底を見透かしていた。
 秋月さんの…
 寂しさ?
 その目に解答を見付け出すシンジ。
 それが分かったから、シンジは片手をギターから離した。
「逃げちゃ、ダメだ…」
 掌を見、何度も何度も握り直す。
 一瞬だけだが通じた心、共感した想い。
 ミヤは歌ってくれと願った、逃げずに。
「だから、僕がそれを踏みにじっちゃいけないんだ…」
 逃げれば、裏切ることになってしまうから。
 歌わなきゃ、歌わなきゃ、歌わなきゃ!
 シンジはもう一度思い出す。
 ミヤから流れ込んで来たあの感じを。
 ミヤが紡ぎ出した、あの切なさを。
 だからシンジは選び出す。
 それらを吹き飛ばす歌を。
 とても力のある曲を。
 ギギャーーーーン!
 シンジがギターをかき鳴らした。
 だがこの段階では、まだ誰もその音に興味を引かれない。
 それでも良い!
 シンジはもう迷わなかった。
「僕の歌を聞いてぇっ!」
 そしてシンジは歌い始めた。
 誰にも負けない、強い歌を…







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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