Episode:31 Take4
「あの子達、大丈夫かしら?」
言葉とは裏腹に、安心した様子で湯呑みを持ち上げる。
「ああ、問題無い…」
ユイが湯呑みの下に手を添えるのを確認しながら、ゲンドウは新聞のページをめくって次の文章を追った。
「保険はかけてある、大丈夫だよ、ユイ…」
はい。
微笑みが広がった、その腰の辺りが忙しない。
そうか、今日は…
二人きりかと、ゲンドウも年甲斐もなく照れていた。
●
「…これまでのようだな?」
目覚め始めた人達をバックに、ヨウコはジョドーを睨み付けた。
「……」
黒覆面の下で目が細く鋭さを増す。
「そうですな?」
ジョドーも認めた。
マイとメイを連れ去ると言う、当初の目的は果たしているのだ。
これ以上長居する理由はない。
「逃がしはしない」
ヨウコはだらりと両手を下げた。
光の鞭が伸び、床に当たって生き物のようにピシッと跳ねる。
「一つだけ、答えてもらおう」
右手をあげる、ジョドーに向かって鞭がサーベルのようにしなった。
「なぜ、あの二人の力を知った」
それは捨て置けない問題だった。
天使達の存在自体は、過去大がかりな「開発」があったことからも、知る者がいてもおかしくはない。
だが、その力の内容については、甲斐が伏せている限り詳しく調べられるはずがないのだ。
「香港…」
ぴくっと、そのサーベルの先が揺れる。
「マイ様とメイ様の初舞台、あの場にいたのですよ、殿下も…」
当たりはついた、だがあれは大がかりな催眠装置の実験と言うことになっている。
そうか…
「伯爵も使い手だったな?」
もう用はないとばかりにサーベルが突き出された。
ジョドーはそれを、残った左腕で受け止めた。
「!?」
落とされた腕は機械仕掛けだった。
バシュウ…
スモーク、煙を吹き出す左腕。
「二度、同じ過ちを犯しましたな?」
「なに?」
ヨウコはたたらを踏んだ。
「わたしに注意を向け過ぎました」
煙の向こうにジョドーが消える、代わりに沈黙していたはずのJAの腹部が膨張した。
「自爆か」
カッ!
爆発する…
破壊力の程度は想像がつく、よくてこのホールが吹き飛ぶ程度だろう。
終わりか…
自分達は助かるだろう、そのことが分かっているだけに焦りはない。
だが生き残る罪悪感は拭いされない。
背後の人達がどうなることか…
そのことに胸が苦しくなった。
何も知らずに、巻き込まれた人達のために…
ヨウコの目の前でJAが発光する。
ズゥ…
その床、JAの黒い影が光に反して濃くなり広がった。
これは…
その中に一瞬でJAは姿を消す。
ボシュ…
わずかな煙だけが漏れた、影はまた小さく消えていった。
「間に合ったかしら?」
崩れた壁、それを挟んだ反対側に彼女はいた。
「…いいタイミングだ」
腕を前に組み、はにかむようにして立っている。
サヨコだ、こんな時でも髪はまったく乱れていない。
「ミヤちゃん…、シンジ君、間に合ってくれたのね?」
嬉しそうに微笑む。
場違いな聖母。
汚された地に降り立った慈母を思わせる笑みだった。
「…頼みがある」
次へと思考を切り替えるヨウコ。
いつまでも歌に聞き惚れている場合ではない。
「なに?」
「わたしを、伯爵の屋敷に連れていってくれ」
サヨコは、微笑みを絶やさずに頷いていた。
●
何故だ!、何故こうもわたしの思い通りにはならんのだ!?
伯爵は湾の南側の岬にある城跡に車を進めていた。
林の中、地面の一部が斜めに持ち上がり、その奥に地下へのスロープが現れる。
「まずいな…」
「あの先は北側の伯爵の館へと続いている…」
テンマの説明を聞くなり、加持はアクセルをめいいっぱい踏み込んだ。
バオン!
急に側面から照らされたライトに、伯爵の車が慌てる。
バゴン!
「ぐう!」
突撃、加持は伯爵のベンツの横っ腹にぶち当てた。
四肢を車の天井と床に当てて耐える伯爵。
加持はハンドルに倒れ込むようになっていたが、ゆっくりと顔を上げて、ベンツの中の人間が生きていることを確認した。
「同乗者のことも考えて欲しいが…」
テンマの体制は全く変わっていない。
シートベルトもしていないのに…
それも力だろうかと勘繰ってしまうが、加持は切り替えの早い男である。
目標を押さえる、当面の敵が最優先だ。
懐から銃を抜いた。
デザートイーグル、銀色の…
バタン!
一足早くに、反対側のドアから伯爵が転がり出た。
チャキ…
両手を地面につき、荒い息をしている伯爵のこめかみに銃口が突き付けられた。
「チェックメイトだ」
ゆっくりと加持の顔を見上げる伯爵。
「貴様も甲斐の…」
「違うな」
にやりと、無精髭の上の口が歪む。
「ただのボランティアさ」
「なら邪魔をするなぁ!」
伯爵の紳士としての仮面がはがれ落ちていく。
バラララララララ!
突然の暴風とローターの音が上空を舞った。
「ヘリ!?」
真上に伯爵のヘリが滞空している。
チュン!
つい先程まで加持の立っていた場所に弾着が上がった。
「狙撃か!?」
何が来るかも確認しないままに、適当な木の陰に逃げ込む加持。
「伯爵が逃げるぞ」
テンマは他人事のように呟く。
チュン!
二発目はポケットに手を突っ込んだままのテンマの壁に触れた。
こめかみの辺りで一瞬金色の小さな八角形が浮き上がる。
「撃ち返すだけ無駄かな?」
「その銃では風圧に弾道が歪む…」
苦笑する加持、テンマの言うことはもっともだ。
「なら伯爵だな!」
伯爵はスロープに駆け込んでいた、加持もその後を追って走る。
木を盾にするように、正確に加持の通った後を射線が追うが、加持の方が早い。
間に合うか!?
焦燥が汗を吹き出させていた、加持がスロープに飛び込もうとした瞬間、逆に中から勢いよくオートジャイロが飛び出して来た。
バラララララ…
慌てて転がり衝突を避ける加持。
「ヘリ!?」
黄色い、一人乗りのヘリに似た機体だった。
「順番が逆になってしまったが…」
その搭乗者はもちろん伯爵である。
「まずは恐怖を味わうが良い!」
はははははー!
伯爵の高笑いが加持の上に降り注いだ。
「…恐怖、だと?」
伯爵は天使達を捉えたヘリと共に高く高く飛び去った。
「動くか」
苦々しげに林の先の、朽ちかけた城跡に顔を向けるテンマ。
「動く?、…!?」
微震動から激震へ、木を支えにしても立っていられないほどの、突き上げるような地震に加持はしゃがみこむしかなかった。
「これは!?」
宙に浮きあがり、加持の隣に進み出るテンマ。
「本来は、マインドコントールされた群集を人質に取るつもりだったのだろうが…」
「ん?」
「全世界中継されている、どの国も見殺しにはできないだろう」
「あれは」
ゆっくりと、城跡の向こう、岬の先端を崩すように、水中から筒先のようなものが姿を現した。
ザザァ…
その表面を塩水が流れ落ちていく。
崖の内部には、それの角度を調節するための巨大な装置が埋まっていた。
「砲身は20メートル近いか?」
「砲…、あれが!?」
「ポジトロン砲」
テンマの言葉は加持の予想を越えている。
「陽電子砲、水門本来の目的は干拓などではない…」
砲の先端が青く輝き出した。
「あれ自体が、巨大な水力発電機だ」
光はどんどん強くなる。
「まずい!」
どこに向かって放たれるのか?、それももちろんあるのだが、加持は目前の惨事に声を荒げた。
どこの飛行機だろうか?、射線近くを飛んで来る。
方向からシドニー空港へ向かっているようだが…
「直撃は免れても、電磁界に巻き込まれるな」
危険を知らせる方法はないのか!?
加持は絶望的な想いに囚われた。
「…どうしてそう冷静なんだ、君は?」
「…あいつが助ける」
誰のことだ?
その行く末に意識を集中させるしかない。
カッ!
閃光が夜のとばりを焼きつくした。
青い光が延びていく。
テンマは心の中でため息をついた。
手伝うか…
そしてテンマは、機内の二人の声を拾って伝えた。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
Q'はGenesis Qのnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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