Episode:31 Take4



「あの子達、大丈夫かしら?」
 言葉とは裏腹に、安心した様子で湯呑みを持ち上げる。
「ああ、問題無い…」
 ユイが湯呑みの下に手を添えるのを確認しながら、ゲンドウは新聞のページをめくって次の文章を追った。
「保険はかけてある、大丈夫だよ、ユイ…」
 はい。
 微笑みが広がった、その腰の辺りが忙しない。
 そうか、今日は…
 二人きりかと、ゲンドウも年甲斐もなく照れていた。






「…これまでのようだな?」
 目覚め始めた人達をバックに、ヨウコはジョドーを睨み付けた。
「……」
 黒覆面の下で目が細く鋭さを増す。
「そうですな?」
 ジョドーも認めた。
 マイとメイを連れ去ると言う、当初の目的は果たしているのだ。
 これ以上長居する理由はない。
「逃がしはしない」
 ヨウコはだらりと両手を下げた。
 光の鞭が伸び、床に当たって生き物のようにピシッと跳ねる。
「一つだけ、答えてもらおう」
 右手をあげる、ジョドーに向かって鞭がサーベルのようにしなった。
「なぜ、あの二人の力を知った」
 それは捨て置けない問題だった。
 天使達の存在自体は、過去大がかりな「開発」があったことからも、知る者がいてもおかしくはない。
 だが、その力の内容については、甲斐が伏せている限り詳しく調べられるはずがないのだ。
「香港…」
 ぴくっと、そのサーベルの先が揺れる。
「マイ様とメイ様の初舞台、あの場にいたのですよ、殿下も…」
 当たりはついた、だがあれは大がかりな催眠装置の実験と言うことになっている。
 そうか…
「伯爵も使い手だったな?」
 もう用はないとばかりにサーベルが突き出された。
 ジョドーはそれを、残った左腕で受け止めた。
「!?」
 落とされた腕は機械仕掛けだった。
 バシュウ…
 スモーク、煙を吹き出す左腕。
「二度、同じ過ちを犯しましたな?」
「なに?」
 ヨウコはたたらを踏んだ。
「わたしに注意を向け過ぎました」
 煙の向こうにジョドーが消える、代わりに沈黙していたはずのJAの腹部が膨張した。
「自爆か」
 カッ!
 爆発する…
 破壊力の程度は想像がつく、よくてこのホールが吹き飛ぶ程度だろう。
 終わりか…
 自分達は助かるだろう、そのことが分かっているだけに焦りはない。
 だが生き残る罪悪感は拭いされない。
 背後の人達がどうなることか…
 そのことに胸が苦しくなった。
 何も知らずに、巻き込まれた人達のために…
 ヨウコの目の前でJAが発光する。
 ズゥ…
 その床、JAの黒い影が光に反して濃くなり広がった。
 これは…
 その中に一瞬でJAは姿を消す。
 ボシュ…
 わずかな煙だけが漏れた、影はまた小さく消えていった。
「間に合ったかしら?」
 崩れた壁、それを挟んだ反対側に彼女はいた。
「…いいタイミングだ」
 腕を前に組み、はにかむようにして立っている。
 サヨコだ、こんな時でも髪はまったく乱れていない。
「ミヤちゃん…、シンジ君、間に合ってくれたのね?」
 嬉しそうに微笑む。
 場違いな聖母。
 汚された地に降り立った慈母を思わせる笑みだった。
「…頼みがある」
 次へと思考を切り替えるヨウコ。
 いつまでも歌に聞き惚れている場合ではない。
「なに?」
「わたしを、伯爵の屋敷に連れていってくれ」
 サヨコは、微笑みを絶やさずに頷いていた。






 何故だ!、何故こうもわたしの思い通りにはならんのだ!?
 伯爵は湾の南側の岬にある城跡に車を進めていた。
 林の中、地面の一部が斜めに持ち上がり、その奥に地下へのスロープが現れる。
「まずいな…」
「あの先は北側の伯爵の館へと続いている…」
 テンマの説明を聞くなり、加持はアクセルをめいいっぱい踏み込んだ。
 バオン!
 急に側面から照らされたライトに、伯爵の車が慌てる。
 バゴン!
「ぐう!」
 突撃、加持は伯爵のベンツの横っ腹にぶち当てた。
 四肢を車の天井と床に当てて耐える伯爵。
 加持はハンドルに倒れ込むようになっていたが、ゆっくりと顔を上げて、ベンツの中の人間が生きていることを確認した。
「同乗者のことも考えて欲しいが…」
 テンマの体制は全く変わっていない。
 シートベルトもしていないのに…
 それも力だろうかと勘繰ってしまうが、加持は切り替えの早い男である。
 目標を押さえる、当面の敵が最優先だ。
 懐から銃を抜いた。
 デザートイーグル、銀色の…
 バタン!
 一足早くに、反対側のドアから伯爵が転がり出た。
 チャキ…
 両手を地面につき、荒い息をしている伯爵のこめかみに銃口が突き付けられた。
「チェックメイトだ」
 ゆっくりと加持の顔を見上げる伯爵。
「貴様も甲斐の…」
「違うな」
 にやりと、無精髭の上の口が歪む。
「ただのボランティアさ」
「なら邪魔をするなぁ!」
 伯爵の紳士としての仮面がはがれ落ちていく。
 バラララララララ!
 突然の暴風とローターの音が上空を舞った。
「ヘリ!?」
 真上に伯爵のヘリが滞空している。
 チュン!
 つい先程まで加持の立っていた場所に弾着が上がった。
「狙撃か!?」
 何が来るかも確認しないままに、適当な木の陰に逃げ込む加持。
「伯爵が逃げるぞ」
 テンマは他人事のように呟く。
 チュン!
 二発目はポケットに手を突っ込んだままのテンマの壁に触れた。
 こめかみの辺りで一瞬金色の小さな八角形が浮き上がる。
「撃ち返すだけ無駄かな?」
「その銃では風圧に弾道が歪む…」
 苦笑する加持、テンマの言うことはもっともだ。
「なら伯爵だな!」
 伯爵はスロープに駆け込んでいた、加持もその後を追って走る。
 木を盾にするように、正確に加持の通った後を射線が追うが、加持の方が早い。
 間に合うか!?
 焦燥が汗を吹き出させていた、加持がスロープに飛び込もうとした瞬間、逆に中から勢いよくオートジャイロが飛び出して来た。
 バラララララ…
 慌てて転がり衝突を避ける加持。
「ヘリ!?」
 黄色い、一人乗りのヘリに似た機体だった。
「順番が逆になってしまったが…」
 その搭乗者はもちろん伯爵である。
「まずは恐怖を味わうが良い!」
 はははははー!
 伯爵の高笑いが加持の上に降り注いだ。
「…恐怖、だと?」
 伯爵は天使達を捉えたヘリと共に高く高く飛び去った。
「動くか」
 苦々しげに林の先の、朽ちかけた城跡に顔を向けるテンマ。
「動く?、…!?」
 微震動から激震へ、木を支えにしても立っていられないほどの、突き上げるような地震に加持はしゃがみこむしかなかった。
「これは!?」
 宙に浮きあがり、加持の隣に進み出るテンマ。
「本来は、マインドコントールされた群集を人質に取るつもりだったのだろうが…」
「ん?」
「全世界中継されている、どの国も見殺しにはできないだろう」
「あれは」
 ゆっくりと、城跡の向こう、岬の先端を崩すように、水中から筒先のようなものが姿を現した。
 ザザァ…
 その表面を塩水が流れ落ちていく。
 崖の内部には、それの角度を調節するための巨大な装置が埋まっていた。
「砲身は20メートル近いか?」
「砲…、あれが!?」
「ポジトロン砲」
 テンマの言葉は加持の予想を越えている。
「陽電子砲、水門本来の目的は干拓などではない…」
 砲の先端が青く輝き出した。
「あれ自体が、巨大な水力発電機だ」
 光はどんどん強くなる。
「まずい!」
 どこに向かって放たれるのか?、それももちろんあるのだが、加持は目前の惨事に声を荒げた。
 どこの飛行機だろうか?、射線近くを飛んで来る。
 方向からシドニー空港へ向かっているようだが…
「直撃は免れても、電磁界に巻き込まれるな」
 危険を知らせる方法はないのか!?
 加持は絶望的な想いに囚われた。
「…どうしてそう冷静なんだ、君は?」
「…あいつが助ける」
 誰のことだ?
 その行く末に意識を集中させるしかない。
 カッ!
 閃光が夜のとばりを焼きつくした。
 青い光が延びていく。
 テンマは心の中でため息をついた。
 手伝うか…
 そしてテンマは、機内の二人の声を拾って伝えた。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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