Episode:33 Sequence4



「どうして、あなたはここに居るの?」
 どうしてあたしはここに居るの?
「どうして、あなたは平気なの?」
 どうして、あたしは恐いのに…
「いや、嫌よ、もういや!」
 マユミはカヲルを突き飛ばそうとした。
「あなたみたいな人が居るから…、あなたみたいな人が」
「そうだね…」
 カヲルは寂しげにそれを認めた。
「あ…、あたし」
 取り乱していたことを、ふいに自覚する。
「ごめん、守るって言ったのに…」
 カヲルはハンカチでマユミの血を拭ってやった。
「なに偽善者ぶってやがる!」
 ズガガガガ!、とらの雷が頭上に降り注ぐ。
「きゃあ!」
「見ろ!、それが人の力か!?」
 黄金色の力が、マユミを守ってくれていた。
「そうだね、これは人の力ではないのかもしれない…」
 カヲルは立ち上がると、冷笑とともに言葉をとらに浴びせかけた。
「僕が生きている限り、狙われ続けることも承知している」
 だから逃げ込むしか無かったのだ、あの街に。
「それでも生き続ける喜びを見つけたんだ」
 あの箱庭のような街で。
「碇…くん?」
 カヲルはにこっと、マユミに微笑んだ。
「知っているかい?、この力は、人の心が生み出しているんだそうだよ」
 カヲルの力が極大に膨れあがった。
「さあ、殺し合いを始めようか?」
 バキィン!
 カヲルの強大過ぎるエヴァの力が、とらの結界をも打ち砕いてしまっていた。






「きゃああああ!」
 移動用のバスに集合している生徒たち。
 その中の女生徒が、突如落ちて来た獣に悲鳴を上げた。
 ザン!
 だがそんな少女には目もくれずに、とらは脅えるように飛び跳ねた。
「逃げられないよ」
 バァン!
 派手な音を立ててぶち当たる、黄金色の壁に。
「あれは…」
 その八角形の光を、リツコは見逃していなかった。
 そして獣を、薫は覚えてしまっていた。


 さて、あちらは彼に任せておけばいいとして…
 削夜は未だ震えを堪えているマユミにコートを掛けてやった。
「わからない…、こんなの、わからない」
 まだ脅えているマユミ。
「あたしも…なの?」
 マユミは己に問いかけた。
 だけど忘れないで欲しい…、これからもこのようなことが起こるかもしれない不安を、そしてそれを乗り越える勇気を…
 その台詞から考えられることは、ただの一つしか思い浮かばなかった。
「いや!」
 その考えを否定する。
「いや!、いやなの、あたしがあたしでない感じ、あたしじゃなくなっていってしまう感じ、なにこれ、なんなの!?」
 マユミはわき上がって来る違和感に恐怖するしかない。
「あら、あなたは…」
 リツコはマユミを見つけて眉をひそめた。
「これはあなたが?」
「申し訳ありません…」
 削夜は謝罪するように頭を下げた。
 マユミの前にしゃがみこみ、リツコは傷を確認しようと髪を軽くかき分けた。
「これは…」
 驚きに目が見開かれる。
 傷口が塞がっていくのだ、みるみると。
 ナノマシン?
 一目で見破るリツコ。
「この子は一体?」
 リツコの一言は、マユミを動揺させるには十分だった。
「いや!」
 リツコをも突き飛ばすマユミ。
「嫌!、あたしをそんな目で見ないで!!」
 マユミは一人でのめり込んだ。
「こんな恐いこともう嫌!、力ってなに?、そんなの知らない!、そんな物騒な街になんて帰りたくない!、あたしみたいな子、生まれて来るべきじゃなかった!」
 パン!
 派手に平手の音が鳴り響いた。
「どう、落ち着いた?」
 呆然としてしまったマユミの瞳から、ポロポロと涙がこぼれ出す。
「うっく、ぐす…、ひっく」
「そんな乱暴な、怪我人なんですから…」
 なだめる削夜。
「いいのよ、気にすること無いわ」
 リツコはそんなマユミを抱きしめた。
「いい加減にしておきなさい?、一時の感情はね、正常な判断を誤らせるわよ?」
 そして残るのは後悔だけになってしまうの…
 そんな呟きが、マユミの耳元で囁かれた。
「あなたは知らないのね…、あなたみたいな子が、この世にはたくさん居るってことを…」
 その大半が、不遇な死を遂げてしまったと言うことを…
 リツコはその死に方の凄惨さに、歯噛みするように口にしていた。


「待った!、待ったって!、わかったよお前達は食わねえ!」
 とらは手短な公園に降り立つと、再び結界を張っていた。
「それで、どうするんだい?」
 カヲルは相変わらず冷たくとらの言葉を受けている。
「そうだな…、あの女はどうだ?、ありゃただのガキなんだろ?、あいつで我慢してやるよ」
 バシュ!
 とらの右腕がいきなりもげた。
 まるで空間をねじるかの様に。
「くわっ!」
 距離を取ろうと慌てて下がる。
 だがまたしてもガンっと、何かの壁にぶつかった。
「お前か!」
「僕にも結界ぐらいは張れるさ…」
 さっきは加減を間違えたけどね?
 カヲルは今度こそ逃がさないと意思を込める。
「君には、お仕置きが必要だ」
 それはぞっとするような笑みだった。


「あなた、何も分かってないのね…」
 リツコは、教え諭すようにマユミに告げた。
「何が…、ですか?」
 落ち着きを取り戻しかけているマユミ。
「彼も人間よ?、でもね、人であるためにどれだけの苦労をして、どれだけのものを犠牲にしているのか、あなたは何も分かっていないわ」
 マユミは首を傾げてしまった。
 おそらくは、この子も…
 冬月先生と共に来ている、その事で気がつくべきだったのよ。
 リツコは深く後悔してしまっていた。
「いい?、あの子はいつも損な役回りを受け持っているわ」
 誰にも知られないように…
 人の心の闇を見て。
「平和にぼけていられるのは、彼のような子が大切な物を守ってくれているからなのよ?」
 ふいに何かの情景が浮かび上がって来た。
 真っ暗な部屋。
 赤い目をした女の子がいる。
 男の子が二人、その片方の瞳も赤い。
「みんな生きていくしか無いのさ…、辛い世界でも」
「君はどうするんだ?」
 少年が、赤い瞳に問いかけた。


「簡単なことではないんだよ…、人が幸せをつかむというのは」
「だから犠牲になるのか?、自分を押し殺してまで」
 まさか、と、彼は肩をすくめて見せた。
「せいぜい自分と同じ程度にだよ、自分以上に大切なのは、僕にはただの一人しか居ないからね?」
 彼は…、カヲルは浩一にそう告げた。
 そう、知ってる、あたしは彼の想いを知っている。
 そして大事な言葉を思い出した。
「でもそれを見守る代償は?、この子が、あるいは君の仲間が平和の中で生きていくために、君は命をかけ続けなければならない…」
 カヲルは浩一に微笑んだ。
「命の代価と同等のものなんて無いさ…、でも」
「でも?」
「あるとすれば、安らぎを得られる瞬間…、かな?」
 カヲルは、あの居心地の良い家、その空間を思い起こしていた。
「すまないね…、この子のことまで」
「良いさ、その代わり、君にもお願いしているんだから」
 ああ…
 浩一は頷いた。
「UNと戦自、僕は今UNで働いているからね、両方とも押さえてみせるよ」
「頼んだよ…」
 その後、二人は黄色いシリンダーの中に浮いている少女に目をくれた。
 綾波レイ、彼女もまた、マユミの体の治療のために、力を貸してくれていたのだから…


 一人じゃ…、ないんだ。
 マユミはぽろっと、涙をこぼしていた。
 一人で生きているわけではないし、一人で生まれて来たわけでも無い。
 まして、あたしは色んな人の想いを貰って生まれて来たんだ…
 感動が体を駆け抜けていた。
 渚くん、無事だといいな…
 マユミはもう、何も恐くは感じなかった。






「ちっ!、けどなぁ、お前にわしが殺せるのかよ?」
 とらは突然、真正面からカヲルに飛び掛かった。
「無駄だよ」
 バキィン!
 壁が張られ、とらを受け止める。
「ははははは!」
 さらにとらは、上下左右から髪を尖らせて襲いかかった。
 キュキィン!
 それすらも、小さな壁が全て防ぐ。
「わしは化け物よ」
 とらの右腕がぼこぼごと泡立ちながら伸び始めた。
「再製…」
「そうよ、化け物はな、死なないから化け物って言うのよ!」
 結界が急に解かれた。
「カヲル君!」
「まさか、そうか、そういうことか!?」
 とらのニタリと言う嫌らしい笑みの意味を悟る。
 公園の入り口に、薫が驚き立っていた。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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