「うう〜ん、バカシンジぃ…」
 何やら悩ましい寝言。
 引き寄せる体、アスカの小さなピンク色の唇が伸びる。
 むちゅ〜ん☆っと、長いキス。
「はう〜ん、シンジ様ぁ☆って、ふえ?」
「げ!?」
「「げええええぇぇぇ…」」
 巨大なベッドの上で口を押さえる二人。
 その頃シンジは…
「しくしくしく…」
 布団です巻きにされ、ベランダの向こうに吊るされていた。

きゅうだっしゅ、その参拾四話
「釣りどれん」

「ははははは、それは災難だったなぁ、シンジ君」
 二人、ホテル内にあるお店で朝食中。
「もう、笑い事じゃないですよ、加持さん…」
 バイキング形式だったが、シンジはフレンチトーストを二枚と、それにカプチーノだけで済ませようとしていた。
「酷いですよぉ、いくら他に部屋が無いからって、窓の外だなんて…」
「まあ良いじゃないか、俺は逃げ出したけどな?」
 加持の部屋はミサトに占領されていた。
「逃げ出したって、何処にですか?」
「ま、大人には色々とあるのさ…」
「はあ…、僕もそう言う場所が欲しいですよ」
「なに言ってんのよ?」
 シンジの隣に、ガチャッとトレイを置くアスカ。
「あんたそんなに死にたいわけ?」
 し、死って…
 油汗が流れ出る。
「僕はただ、夜でも遊びに行ける場所があるっていいなぁって…」
 映画館とか、パブとか…
 ちなみに深夜は、年齢規制があるので入れないのである。
「ははは、よかったなぁアスカちゃん、シンジ君がお子様で」
「笑い事じゃないですよぉ、子供過ぎて困っちゃうんだからぁ」
 ちなみにアスカのトレイには、野菜サンドを中心としてサラダなどが乗せられている。
「なんだよ、僕のどこが子供だって言うんだよ?」
「あんたなんです巻きにされたか、分かってんの?」
 口ごもる。
 シンジは夕べのアスカを思い出して青くなった。
「バカ!、何考えてんのよ!!、寝起きの顔を見られたくなかったからに決まってるじゃない」
「そ、そうなの?」
「そうですぅ」
 ミズホもようやく何を食べるか決めたようだ。
「むくんでるような顔、見られたくありません〜」
 はむっと、スライスされたフランスパンに、たっぷりバターを付けて口に運ぶ。
「そう言うとこに気を回してくれないから、お子様だって言ってんの!」
 …たったそれだけのために、僕はす巻きにされたのか。
 酷く納得いかないシンジ。
「はぁ…、あれ?、レイは?」
「あそこ」
 一番角奥の席に、食べ物が山と積まれている。
「元取るってさ」
 自分のお金じゃないのに…
 シンジは呆れて、時折素早く食べ物を引っつかむ手だけを追った。






「見て見て加持さぁん!」
「はいはい…」
 旅行と言えば買い物になるのは女の子の習性だな…
 苦笑する加持。
「楽しそうですねぇ、アスカさん…」
 シンジと腕を組んでいるミズホ。
「なに?」
 ちらちらと向けられる視線に気がつく。
「あの…、いいんですかぁ?」
 ミズホの言葉はアスカを指していた。
 ああ…っとシンジ。
「しょうがないよ…、アスカは加持さんのことが好きなんだし」
 じいっとシンジを見るミズホ。
「心配、なされないんですかぁ?」
「え?、どうしてさ…」
 アスカは加持さんみたいなのがタイプらしいけど…、だからって加持さんがアスカを相手にするわけないもんな…
 安心してアスカの分の負担を押し付けているシンジ、だがそれをミズホは気に入らなかった。
「それがどうかしたの?」
「…シンジ様は、わたしが他の方と歩いていても、心配してくださらないのでしょうかぁ?」
 覗きこんで来るような瞳に戸惑う。
 でも…、とシンジは思った。
「…多分心配するよ」
「え?」
「だって、レイの時だって、自分で勝手に思い込んで、勘違いしちゃったぐらいだからさ…」
 そう言って頭を掻く。
 レイさんの時も、ですかぁ…
 やはりちょっと気に食わない返事だった。
 それはそれとしてレイは…
「むう…」
 ギキュギキュとポップコーンを噛み締めている。
 ビッグサイズを既に三つめ。
「これじゃあシンちゃんとのアバンチュールが…」
 邪魔されっぱなしである。
 やっぱり夕べ、照れてないで押し倒しとけば…
 いやダメだと否定する。
 やっぱりシンちゃんから…でないと、既成事実になんないじゃない?
 ギキュギキュギキュギキュギキュと、歯の間から嫌な音がする。
 実はずっと、やけ食いを続けていた。
「何やってるんだろうね、レイ…」
「はあ…、今日のレイさんからは、怨念のようなものを感じますぅ…」
 その背後に「シンちゃんとラブラブ」と言うオーラが立ち上っている。
 シンちゃんと遊べて、それでいてアスカ達の興味のなさそうなものかぁ…
 場所でもいいかな?と、頭に叩き込んできたマップを展開する。
 昨日の騒ぎで海岸方向はダメだしなぁ…、肌が出せるって言うのはポイントよね?
 その時、偶然にもちらりと視界に飛び込んで来たものがあった。
「はっ、こっ、これ、これ!」
 グシャッと、ついポップコーンの入れ物を握り潰してしまう。
「ああー!、もったいないぃ〜〜〜」
 それは、バスフィッシングスクールの看板であった。






「ええーーー!、魚釣りぃ!?」
 よしよしっと、期待通りの反応にほくそ笑むレイ。
「うん!、河だからちょっと遠くなるし、芦とかも生えてて虫なんかも沢山いるけど、水が奇麗だからバスとか結構居るらしいの」
 アスカを牽制しつつ、シンジの気を引く言葉を選ぶ。
「あ〜、パスパス!、あたし魚臭くなるの嫌だもん、加持さんと買い物してる方が良いわ」
 予定通りの反応に心躍らせる。
「シンちゃんは?」
「う〜ん、バスかぁ…、そう言えばトウジ達も釣りに行くって言ってたっけ」
 ピクンと反応するレイ。
「ね?、だったら行こうよ!、おっきなの釣って自慢してやるの」
 シンジはしばし考え込んでから顔を上げた。
「うん、そうだね?、自慢話聞かされてばっかりになるのも嫌だし…」
「オッケー!、加持さんはアスカと買い物に行くんでしょ?」
 ねえ行くんでしょったら行くんでしょ?
 血走った目が何かを訴えている。
「ま、まあ保護者は必要になるだろうし…」
「あ、そうなると僕たちは…」
「葛城ももう起きてるだろ」
「そうですね、頼んでみます」
 チッとレイは舌打ちしたが、すぐに思い直した。
 まあいっか、ミサト先生ならビール与えときゃ何とかなるでしょ。
 出費にちょっと頭が痛くなる。
「で、ミズホは…」
「もちろん、シンジ様とどこまでも一緒ですぅ」
 当面の敵はこいつか…
 恨みがましい目を向けるレイであった。






「ふんふんふ〜ん♪」
 鼻歌混じりでハンドルを握っている。
 片手には缶ビールだ。
「まさかこんな所で「えびちゅ」に出会えるとはねぇ」
「先生、飲酒運転はやめてくださいよぉ…」
 泣き出しそうなシンジ。
「ぐるぐるですぅ〜」
 ミズホは目を回していた。
 ランディーサイズ(大物)が居ると言う河は、場所こそ街からそう遠くないものの、整備もされてない悪路を進んだ先にある。
 タイヤの大きなランドクルーザーは、シンジの予想を上回って大きく跳ね、加えてミサトの運転だ。
「だ、大丈夫、世の中には幸福量保存の法則って言うのがあって、ここで不幸な分はきっと後で…、きゃー!」
 車がばうんっと、大きな溝に跳ねた。
 ゴチン!っと屋根で頭を打つレイ。
「れ、レイ、大丈夫?」
「だいじょび、だいじょび」
 しかしピヨっているようだ。
 クケ〜…
 誰も座っていないはずの助手席、その足元から何かの泣き声がする。
 あの箱、何が入ってるんだろう?
 シンジは訝しんだ。
「先生、それ何が入ってるんですか?」
「内緒」
 やけに楽しそうである。
 …こりゃ教えてくれないかな。
 シンジはすぐさま諦めた…、と言うよりも、話していると吐きそうになってきたからだ。
 それはレイも同じこと、シンジに代わって乗り出した。
「も、もうちょっとおとなしく運転して…、警察に捕まったりしたらまずいんだから、ね?」
 何とか説得を試みる。
「もう心配性ねぇ」
 だがそんなものは無意味であった。
「大丈夫よ、そんなことありえないから」
「え?、どうしてですか?」
 絶対の自信、ルームミラーに呑気な顔。
「ケツまくって逃げるからよ」
 ほんとにこの人、公務員!?
 シンジ達は、思わず顔を見合わせてしまった。


「着いたぁ…」
 河原、生い茂る雑草がちょっとだけ開けているその場所に車を突っ込む。
 シンジは転がるように這いでると、感涙に視界を滲ませた。
「「「生きてるって、素晴らしい〜」」」
「なに大袈裟なこと言ってんのよ」
 けらけらと笑うミサト。
「空気の良い所ですね?」
「寝てるだけでも十分でしょ?」
 っと、自分がくつろぐ準備を始める。
「もったいないですぅ、こんなに気持ちいいのに…」
「…ふふふ、気持ちいいことはこれから」
 つい本音が出てしまうレイ。
「え?、何か言った、レイ…」
「ううん!、なんでも!!」
 やっばーっと、レイは舌を出した。
 危ない危ない、ミサト先生のせいで気が抜けちゃったじゃない…
 っと先生を見る。
「…何やってるんですか?」
 ミサトはワゴン車の屋根を上げていた。
「知らない?、こうするとここで寝られるのよ?」
「いえ、そうじゃなくて…」
 さらにはてきぱきとビーチパラソルを立て、完全にリゾる体勢に入っている。
「まああんた達はいつもの通りにやってなさいよ」
 ニヤリと意味ありげに笑むミサト。
「あたしはここで見ててあげるから」
 そしてプシュッと、ミサトはレイに買ってもらったビールを開けた。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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