「「勝負!」」
同時にキャスティングする二人、勢いよくルアーが飛んでいく。
「ちょっとあんたなに同じとこ狙ってんのよ!」
「そこずっとあたしが狙ってたんだから!」
狭い入り江である、加えてバスは、大物ほど集団で群れることを嫌うのだ。
必然的に狙う場所は決まって来る。
はあ…っと、シンジは深くため息をついた。
「おお、盛り上がってるなぁ」
ボートを帰させて、加持も遅れて顔を出す。
「何だ葛城、寝ちまったのか?」
広げたシートの上で横になっているミサト。
「起きてるわよぉ…」
ふらふらと持ち上げた手を振って示した。
「うわ、酒臭いな…、帰りはどうするつもりだ?」
「だからこうやって抜いてんじゃない…、あ、あんたが来たんだから抜く必要なくなったのか…」
その手がぱたんと落ちて、隣のクーラーボックスをカサゴソと漁った。
「やれやれ…」
呆れ顔、背中で「プシュ!」っと言う音を聞く加持。
「で、どうだい?、二人の様子は…」
シンジはどう答えていいのか迷った。
「さっぱり…、だってヒットする前にケンカしちゃって…」
二人はアスカとレイの「ケンカ」を眺めた。
「さあ来なさい?、そこに隠れてんのは分かってるんですからね?」
シャリシャリとリールを巻くアスカ。
「よし来た!、FI〜SH!」
って、ああ!
アスカの顔が、喜びから一気に焦りに転じた。
「レイ、何やってんのよ!」
「ごっめーん!」
ペロッと舌を出すレイ。
アスカのラインの上を、へろへろとレイの糸が落ちた。
投げたルアーがアスカの糸の上を越えたのだ。
「今巻き戻すからぁ」
「巻くんじゃないってぇの!」
レイのルアーがアスカのラインに引っ掛かり、無理矢理横に引っ張った。
「きゃっ!」
急に竿から抵抗がなくなり、尻餅をつく。
「ああ〜、バラしちゃった…」
「ざ〜んねんでしたぁ、おっきかったのにねぇ?」
レイの笑みに、「ワザとね、こいつ…」と敵意をみなぎらせる。
戦いはまだ、始まったばかりであった。
●
…あったのだが、しかし。
「むう、釣れないわねぇ…」
余計なことばっかりしてたから…
アスカは残りのルアーの数を確かめた、残り少ない。
結構底に引っ掛けたりしちゃったもんねぇ…
ラインが切れたり、今や水底には相当な数のルアーが沈んでいることだろう。
そっと、レイの様子をうかがうアスカ。
あいつ、なにやってんのかしら?
なにやら背を丸めている。
その状態でキャスティングしてはリールを巻いているのだが、なにやら様子がおかしい。
「また何かたくらんでんじゃないでしょうねぇ?」
アスカの懸念はもっともだったが、レイの状況はそれを上回って、更に深刻な物であった。
「うう…、お腹すいたなぁ…」
お昼抜きだし、当然かぁ…
それもこれもミズホのせいよ!っと決め付ける。
朝食べた分については、考慮の中に入っていない。
「まったく、ミズホってば…」
レイはミズホの姿を探した。
「あ〜ん、また絡まっちゃいましたぁ!」
リールが見事にバックラッシュしてしまっている。
「大丈夫だってば、すぐに直るから…、ほら!」
「わあ、凄いですぅ!」
口を開けてパクパクとしてしまうレイ。
レイとシンジたちとの間に居るアスカも、同じように口をあんぐりと開けていた。
(アスカ!、なに二人っきりにしちゃってるのよ!)
(あんたバカァ!?、あんたが余計な邪魔するからじゃない!)
(バカまで言う!?、大体アスカが大人しく街で遊んでなかったから…)
二人は目だけで言い争う。
「ほら、投げる時はこうやってね?」
((とか言ってる場合じゃないわ!))
シンジはミズホの体に密着していた。
「振るのは肘から先だけで十分、竿のしなりを利用するんだよ」
「はいですぅ!」
赤ら顔だが、ミズホは楽しげに返事した。
「くっ、まさかそんな手があったなんて…」
「こうなったら!」
レイは急ぎ作業に取り組んだ。
「これでよしっと、シンちゃーん!、こっちも糸からまっちゃったぁ、おねがぁい」
「やぁ〜んシンジィ、地球釣っちゃったぁ、なんとかなんなぁい?」
ブリブリとした声で引きつる二人。
((何よ、真似しないで!))
オーラのみで牽制し合う。
…さっきまで完璧にこなしてたくせに。
いくらシンジでも気がつく状況だ。
「あ、あ、あ、シンジ様、何だか引いてますぅ!」
「え?、あ、かかってるよ!、リール巻いて!」
「はいですぅ!」
ミズホは一生懸命巻き始めた。
「うんしょ、うんしょ!」
だが悲しいかな、額に汗するわりには余り動きが変わらない。
「力まないで、軽く動かせばちゃんと巻けるよ!」
「は、はいい!」
だが糸を巻くリールを見ている間に、だんだん目が回って来る。
「ふわあ、なんだかぐるぐる回ってますぅ」
「頑張って、もうちょっとだ!」
「もう、だめですぅ」
ばたんっと、ミズホは目を回して倒れた。
「きゅうですぅ」
「ミズホ!、うわ!?」
「きゃう!、な、なんですかぁ!?」
バチャンっと、上から振って来た物がミズホの顔に直撃した。
それを手に持ち上げるシンジ。
「ブラックバスだよ!、ミズホが釣り上げたんだ」
「え?」
ミズホはシンジが両手で持つそれを見た。
「これを…、わたしが?」
「うん、ほら!」
手渡される、以外と重い。
「ふわあ…、凄いです、凄いですぅ!、シンジ様ぁ!!」
「うん、初めてなのに、凄いよミズホ!」
40センチはある、偶然にしても凄い大きさだった。
きゃっきゃとはしゃぎ合う二人を横目で見やる。
く、くやしい…
同時にほぞを噛むアスカとレイ。
しかも、あんなに大きいなんて…
ミズホのくせに…
負けられない!
握るロッドに、気合いを入れ直す二人。
クン!
「え?」
そのアスカのロッドが、ふいに強く引っ張られた。
ミズホのバスを入れておくためのイケスを作っていたシンジも気付いた。
「アスカ、それかかってるよ!」
「うそ、やだ!」
慌ててラインを巻き取る、が…
「凄い引き!」
「ちょっと待ってて!」
岸際に急ぎ手頃な石でイケスを作る。
アスカは竿を立てることもできない、ビリビリと竿先が振れていることからも、かなりの大物だと判断できた。
バシャ!
バスが跳ねた。
「やだ!、おっきい!」
肉眼で確認し、驚き焦るレイ。
「アスカ、竿先を水の中に潜らせて!、逃げられちゃうよ」
「分かってる!」
素早くロッドを水面下へ、そのままバラさないように慎重に。
このままじゃいけない!
レイは我に返ると、慌て邪魔に走ろうとした。
が!
「しまった!」
先程わざとリールに糸を絡ませてしまったせいで、妨害しようにも手段が無い。
「あんたはそこで見てなさいよ!」
ふふんと鼻で笑い飛ばされる。
「くやしー!」
まさしく自業自得である。
「アスカ、ロッド持つから…」
「頼むわね!」
アスカは竿をシンジに渡すと、自らの手で引き上げた。
「やったぁ!、50センチは固いわね?」
持ち上げ、陽光に輝かせる。
う〜っと、うらやむように見ているレイ。
「こうして見ると、大きいのが良く分かるね?」
イケスの中に入れ、ミズホの釣った物と比べて見る。
「ほんとですねぇ」
「ふん!、このあたしにかかれば、ざっとこんなもんよ!」
レイは肩を震わせてそれを聞いていた。
「こうなったら、あそこっきゃない!」
一代決心をして顔を上げる。
レイは芦の切れ目にあるわずかなすき間に狙いを定めた。
「あそこ…、あたしの腕じゃ難しいと思うけど、でも…」
負けられない!
レイは流れるようにロッドを振った。
「とう!」
シュ!、ポチャンと、ルアーが見事に着水する。
1・2・3…
目標の深さまで潜るのを待って、レイはリールを巻き始めた。
こいこいこいこいこい…
だが、来ない。
「むう、おっかしいなぁ…」
レイはもう一度、同じ所へ投げた。
神様お願いです、これに勝てたら一生シンちゃんに大事にしてもらえるよう、きっとちゃんと既成事実って感じで行き着くとこまで行っちゃいますから、今だけどうか味方してください!
「って、いや〜ん、レイはずかしぃ☆」
突如くねくねと体ごとロッドを振る。
「…何だと思う?」
「見えない情念が渦巻いてるのを感じるわ…」
諦めの悪い、っとアスカ。
「レイー!、もうやめとけば?、人間あきらめも肝心よ」
ほほほほほーっと、わざわざ車の屋根の上で高笑いをする。
「くううううう!」
そのアスカの影の中で悔しい想いをするレイ。
「レイ…」
さすがにシンジも心配そうに見ている。
「どうしてぇ?、シンちゃんとたっぷり遊べると思って…」
オーストラリアまでわざわざ来たのに。
「なのになんで?、オペラハウスじゃ、わけわかんないことに巻き込まれちゃうし、せっかく二人っきりになれたと思ったのに、今度はアスカたちに邪魔されて…」
どうしてこんな気持ちにならなきゃならないの?
もう嫌!っと、レイは竿を投げ出そうとした。
その時!
「レイ!、かかってる!」
シンジが慌てて駆け寄った。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
Q'はGenesis Qのnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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