「んっふっふっふっふ…」
 陰湿な笑いが聞こえて来る。
「ん…」
 シンジは身じろぎした拍子に、バチャンと倒れてしまった。
 え?、バチャン!?
 口を開いた途端、ごぼごぼごぼっと空気が出て行き、代わりにお湯が流れ込んで来た。
「ん!、げほ、なんだこれ!?」
 バサァっとお湯の中から立ち上がる、一面の湯煙。
 足の感触からタイルだと分かる。
「お風呂!?」
「そ、大浴場」
 知った声に驚き、振り向く。
「霧島さん!」
「いやん、マナって呼んで☆」
 真後ろでぶりっ子しているマナ。
「ど、どうしてここに」
 シンジはマナがジーッと視点を固定しているのに気がついた。
「え?、うわぁ!」
 バシャン!
 慌ててしゃがみこむ。
「シンちゃん、リトルビッグジョン…」
 意味不明なギャグを飛ばすマナ。
「なんだよここ!、どうして僕、裸で…」
 まさか!?
 シンジはマナから逃げるように、お湯の中を後ずさった。
「霧島さんが脱がしたの?」
 どん!
 後ろで誰かにぶつかる。
「残念だけど、脱がしたのは僕だよ」
「浩一君!、君まで…」
「僕も男の裸なんて見たくなかったんだけどね…」
 頭痛を堪えている様子。
「ま、一晩ゆっくりしていきなよ」
「やだよ!、なんだよ一体、どういうつもりさ!」
 やれやれ…
 肩をすくめる浩一。
 知った顔には容赦無いな。
 苦笑する。
「つもりもなにも、僕は綾波さんのことが好きなんだ」
「言い切っちゃった…」
 わくわくとマナ。
「そ、それとこれと…」
「関係あるんだよ」
 ウィンク。
「何も酷いことはしないさ、でもね?、君は一晩姿を消して帰る、みんなは心配してただろうね…、で、説明できるかな?」
「なにがだよ?」
「何処で何をしていたのか、さ」
 シンジは「そんなの当たり前じゃないか」と頷いた。
「果たしてそうかな?、マナと二人っきりでお風呂に入ってたって言っちゃうのかい?」
 はっとする。
 その背後でクスクスと笑っているマナ。
「霧島さん!」
「大丈夫☆、ちゃんと部屋も用意してあるから」
 ううっと、シンジはたじろいだ。
 霧島さん、今日はマジだね…
 頭がくらくらとして来る。
「…あれ?」
「あ、のぼせちゃった?、ずいぶん長い間だっこしてたから」
 だっこって…
 一番初めを思い返す。
 シンジは倒れたのだ。
 じゃあ、支えてたのって…
 急にカーッと赤くなる。
「まあせいぜい鼻血を出さないようにすることだね」
 ザバァっとお湯から立ち上がる浩一。
「ど、どこへ…」
 浩一はずるいことに黒いビキニパンツを履いていた。
「決まってるよ、綾波さん達の邪魔をしに行くのさ」
 ニタリと浩一。
「邪魔?」
「そうだよ、彼女達のことだから、ここを嗅ぎつけるぐらい分けないと思うしね」
 もしかして…
 マナも何か身につけているのではないかと勘繰る。
 それなら見たって平気だ、こっちはもう見られちゃってんだし、気にしないで逃げ出せば…
 期待を込めてちらりと見やる。
 ぶうぅ☆
 鼻血を吹き出すシンジ。  きちんと裸だった。
「シンちゃんって、上に昇るタイプなのねぇ」
 真っ赤に染まるお湯の中から、そそくさと逃げ出すマナであった。






「むっ!」
 ピコンと、ミズホのポニーテールの中から、数束短い髪が真上に立った。
「シンジ様の心拍数が上がっておられますぅ、ああ、呼吸、それに体温の上昇、こ、これは!」
「って、なんでそんなことがわかんのよ…」
 気味悪げにミズホから遠ざかる。
「赤木博士に作ってもらった特殊レーダーを、シンジ様にこっそり付けておいたんですぅ」
 髪は付け毛で、アンテナになっているらしい。
「油断も隙も無い奴…」
 レイはレイで黙り込んじゃってるし…
 シンジの部屋、探そうにも手がかりも無く、二人はただ右往左往していた。
 レイは一人ベランダで、一身に月に向かって祈っている。
 きっとシンちゃんは答えてくれる…
 まるで何かを信じているかの様に、「声」を発し続けている。
「クェ?」
 何かの声が、そんなレイの耳に聞こえた。
「あー!、あんたこんな所に居たのねぇ!」
「クエー!」
 アスカに逆さずりにされているペンペン。
「クエー、クエー、クエー!」
 ジタバタともがくのだが、両足を捉まれていては逃げようが無い。
「ちょ、ちょっとアスカ!」
「なによっ、動物愛護の精神なんて捨ててるからね!」
 危険な色が瞳に宿る。
「別にそれはいいけど!」
 それはいいって…
 クェ〜っとか細くそんな感じで鳴く。
「そこに居たんなら、シンちゃんがどうしたのか知ってるんじゃないの?」
 アスカは胡散臭げにペンペンを見た。
「はぁ?、こいつが知ってたからってどうだってのよ?、あんたペンギンの言葉でも分かるっての?」
「わかんないけど…、その子普通じゃないみたいだから」
 かがみ込むようにして、逆さになっている瞳を覗き込む。
「ねえ?、シンちゃんのこと知らない?、教えてくれたら助けてあげる」
「クエエエエ!」
 ブンブンと首を縦に振って懇願するペンペン。
「ほら!、アスカ離してあげて」
「もう、しょうがないわねぇ…」
 ぶちぶちとペンペンを下ろしてやる。
「ほら、さっさと話しなさいよ」
 土足で怒りマークの浮かぶ後頭部をつつくアスカ。
 ぷい!
「な、なめんじゃないわよ!」
「お、落ちつくですぅ!」
「離してミズホ、離しなさいよぉ!」
 羽交い締めにされたままでもがきにもがく。
「ねえ?、お願い…」
 こっくり。
 ペンペンは素直に頷いた、心なしか色が赤くなっている。
「…こいつ、いつか殺す」
 その時はきっとミサトと協力することになるかもしれないと、アスカは漠然とした予感を抱くのであった。


「で、シンジはこのベッドの上で消えたってのね?」
 アスカの問いかけに「クエ」っと頷く。
「わあ、テレビで見た天才ペンギンよりおもしろいですぅ」
 フリッパーを使い、器用に落書きして答えていた。
「まったく、それだけじゃ何の手がかりにもなんないじゃない」
 やっぱりこいつ、殺っちゃおうかしら?
 アスカの視線に悪寒が駆け昇った。
「クエ、クエ、クエ!」
 慌てて最後の切り札を持ち出す。
「あん?、今度は何よ…」
 サインペンを器用に操る。
「もやもや?、違う?、わっかんないわよ、グルグル…じゃなくて、煙?」
「霧…、じゃないかなぁ?」
 レイの呟きに、涙してすがりつく。
「だぁ!、こんなので分かるわけないでしょ!!」
「問題は次だと思うけど…、富士山?」
「島でしょ、多分」
 コクコクと、レイの胸の中で頷くペンペン。
「霧と島…、霧島、霧島!?」
 三人の視線が合わさった。
「「「霧島マナ!」」」
 パチパチパチ…
 拍手がベランダの方から聞こえた。
「正解だよ」
「誰!?」
 月光の中、手すりに腰掛けている少年。
「浩一君!」
「やあ」
 浩一はひょいっと手すりから降り、三人に向かった。
 両の手はポケットの中に突っ込んでいる。
「あんたが、どうして!?」
「きっと嗅ぎつけるだろうと思ってね?、でもまあ、まさかペンギンから聞き出すとは思わなかったけど…」
 苦笑い。 「浩一君!」
 びくっとする浩一。
「あ、怒って…るね?」
 うーっと威嚇しているレイ。
 やれやれと浩一はため息をついた。
「だから片棒をかつぐのは嫌だっていったのに」
「わかってるなら早く吐いた方が身のためよ?」
 浩一の手が動いた、パチンと軽い調子で指を鳴らす。
 バタン!、ピシャ!、ガチャ!
 全ての扉と窓が閉まり、鍵がかかる。
「な、なんですかぁ!?」
 はうはうとミズホの目がぐるぐる回る。
 状況についていけないらしい。
「バカ!、閉じ込められちゃったのよ!」
 ふっふっふっと、根暗な笑いを漏らす浩一。
「ま、そういうことさ」
 そして最近長くなって来た前髪を掻き上げる。
 ふわさ…
「シンジ君なら、このホテルの3階にある巨大浴場に居るよ」
 もちろんマナと一緒にね?
 最後の一言が全員の思考を一致させた。
「なんですってぇ!?」
「わたくしと言うものがありながらぁ!」
「マジなの?」
 最後のレイの言葉だけが感情を押さえている。
「まあそういうこと、さっきは裸で抱き合ってたし、今はどうなっていることやら…」
 は、はだかで…
 プツン…
 何かが切れたような音がした。
「あっの、バカシンジィ…
 ゴゴゴゴゴっと、炎のようなオーラが沸き立つ。
「まあそういうわけで、すまないんだけど朝までここに居て…」
 ドガァン!
 凄まじい轟音が響いた、驚いた同じ階の人達が、何事かとドアから覗く。
 扉を突き破り、廊下に突き立っているダブルベッド。
「行くわよ!」
「はいですぅ!」
 疾風のように二つの風が駆け抜けた。
「…やれやれ、人の話しは最後まで聞くものなのに」
 ニコッとレイに微笑みかける。
「君は行かないのかい?」
 キィン!
 一瞬だが、金色の光が見えた。
 浩一の前髪が数本、はらはらと落ちていく。
 それを見やる浩一。
「…せっかく伸ばしたのに」
「何を…、考えているの?」
 声音が変わっていることに気がついた。
「君は…」
 言いかけて、納得したように軽く頷く。
「あの人、本気で碇君のこと、好きなわけじゃないのに…」
 その言葉に、浩一はふっと困ったように笑いを浮かべた。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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