NEON GENESIS EVANGELION

Genesis Q':3A





「そぉだっ、つよきーに、ちょぉっと、なまいっきにぃ♪」
 シャワーの音に負けない、景気の良い歌声。
 おっわりー!っと、勢いよくアスカは風呂場から飛びだした。
 洗面所でバスタオルをつかむと、わしゃわしゃと髪を拭きはじめる。
 朝から気合いが入ってる、これから戦争が始まる、といってもいつものとおり、シンジを叩き起こしに行くだけだ。
 水気を切ったところで、ドライヤーのスイッチオン。
 そこでアスカは、洗濯かごの中に自分の下着を見つけた、お気に入りのショーツ。
 ぐぐぐっと血管が浮き出るまで拳を固める。
「ミズホ〜〜〜、またあたしのお気に入り使ったわねぇ!」
 バスタオルを体に巻きつけると、ミズホの部屋へと廊下へ飛び出た。
「こぉら、ミズホぉおおおおおおお、おお!?」
「あ、ごめん…」
 何故かそこにシンジの姿。
「なんでここにあんたがいるのよ!」
 真っ赤になるアスカ。
 はらりとバスタオルが落ちる。
「あ…」
「きゃあああああああああ!」
 おもわずしゃがみこむ。
「あ、頭かくして尻隠さず……なんてね♪」
VielenDank!
 それは見事な回し蹴りだった。




第参話

はっぴー直前





「エッチバカ痴漢変態もうしんじらんなーい!」
 教室中に響き渡る、アスカのいじめは昼休みに入っても止まらない。
「シンちゃんさいて〜」
「なんだよ事故じゃないかよぉ」
 頬に張り付いた足型を隠そうと、頭を抱えるシンジ。
「んで見たんか?」
「ちらっと」
 トウジの問いに、こっそり答える。
「でも朝から惣流の家に何しに行ってたんだよ?」
 ケンスケの眼鏡が妖しく光る。
「まさか夜這いに…、いや朝だから…、ま、まさか夜這いの帰り!?」
「な、何考えてるんだよ、僕はただミズホに起されて…」
「ちちくりに行ったんか?」
「違うってば」
「それで?シンちゃんは朝っぱらからのこのこと、何をしに行ってきたのかなぁ〜?」
 微笑みが恐いレイ、目元が笑ってない。
 どたどたどたっと、廊下を走る音、教室のドアが壊れそうな勢いで開かれた。
「シンジくんっ!、ミズホのところに夜這いに行ったけどいなかったんで、腹いせにアスカちゃんの下着を盗もうとして逆に犯されそうになったってのは本当かい!」
 両膝をついてうなだれる、どっと疲れるアスカ。
「だ、誰よそんな噂広めてるのは」
「違うんだね?、昼からでも授業に出ようと思って来てみたら、そんな噂が飛び交ってるし、どうなってるのか心配したよ、よかった、そうだよね、アスカちゃんなんかに惑わされるシンジ君じゃないよね、そうだ!、よかったらこの僕のナイスバディーを!」
「「「うるさいわぁ!」」」
 ミズホのリバーブロー、レイのガゼルパンチ、アスカのデンプシーロールが最強のコンビネーションを再現した。
「そ、そんなアスカちゃんとレイだけじゃなくミズホまで…」
 カヲル沈黙。
「それでミズホ、シンジ呼んで何しようとしてたわけ?」
 何事もなかったかのようにアスカ。
「はいぃ、じつは味見をしてもらおうと思いましてぇ」
「味見ぃ!?」
 取りいだしましたるは、ピンクと白のチェックの布に包まれたお弁当箱。
「はい、シンジ様♪」
「はいって…、ミズホ、あんなに早くからこれ作ってたの?」
「はいですぅ」
 にこぱっと明るいミズホに、じんっと感動するシンジ。
「まずい…」
 アスカは長年の経験から、物に弱いシンジの特性を知っていた。
「えっと…、中、見てみて良いかな?」
「どうぞぉ」
 シンジは開けた瞬間、顔を真っ赤にして、そのまますばやく蓋を閉じた。
「なにやってんのよ」
「ほらシンちゃん、は〜やくぅ」
 アスカもレイも、笑顔が恐い。
「えっと…」
 おずおずと蓋をとってみせる。
「三色そぼろのベント〜やん」
 シンジの似顔絵にハートマークとLOVEの文字。
 なのにそれ以上は誰も突っ込まなかった。
「はい、シンジ様、あ〜ん」
「ええっ!?」
 全員が固まっているあいだに、シンジから弁当箱を取り上げるマイペース娘。
 箸をシンジの口へと向ける、一口分のご飯をつまんで…
「ほら、はやく食べてあげて、おいしいかどうか言ってあげなさいよ」
 アスカのオーラが食べたら殺すと文字を作り上げる。
「み、ミズホ、自分で食べるから、ね?」
 焦ったシンジは箸と弁当箱を取り上げると、なるべくそぼろが混ざって元の絵がわからなくなるよう、頑張ってかきこんだ。
「そうですかぁ?」
 ちょっとだけ不満顔をするミズホ。
「あ、それじゃあ」
 グッドアイディーア♪と、今度はお茶の入った魔法瓶を取りだした。
 コップ代わりの蓋にお茶を注ぐと、ふー、ふー、とちょうど良い熱さまで頑張る。
「はい、シンジ様♪」
「あは…は……」
 今度はレイのジト目が恐かった。






「まずいわね」
「ええ…」
 午後の授業が終わり、HRも終了、珍しくアスカとレイはシンジをのけ者にして顔を突き合わせていた。
「まさかミズホが『おべんとう』なんてものに目をつけるなんて」
 ミズホの朝は早い、が、それはシンジやレイと比べてのものだ。
 アスカが真っ先に叩き起こすからかもしれない、だが逆を言えば、アスカより遅く起きるミズホには、お弁当を作る時間的余裕はないはずだった。
「うーん、朝はユイお母さまが台所仕切ってるから、お弁当なんて作ってられないし…」
「それ以前に起きられないじゃない」
 えへへーと、レイはごまかす。
「お弁当一つでそんなに心配することないじゃない」
 冷静に茶々を入れたのは、唯一の部外者ヒカリだった。
「甘いわ!あれはそう、小学5年生の時の話よ、バレンタインデー、通りすがりの女の子が余ったチョコをシンジにあげたんだけど、シンジったらそれをマジに取っちゃって…」
 机の上に立って力説するアスカ。
「惣流って…、周り気にしないよなー」
「時々そやなー、んで、あれほんまなんか、シンジ?」
「なにもそんなに古い話持ち出してまで、いじめなくてもいいじゃないかよぉ〜」
 泣きそうなシンジ。
「それではシンジ様、私先に帰りますぅ」
「あれ?、一緒に帰らないの?」
「はい、ヒカリさんと買い物に行くんですぅ」
 んじゃ、しょうがないっかとシンジ。
「ほなワシらも帰ろか」
「そうだな、シンジ、いこうぜ」
「うん」
 アスカとレイが怖かったシンジは、逃げだすように教室を出た。
「あれ?雨だ」
 廊下の窓から外を覗き見る。
「さっきまで晴れてたのにな」
「きっと信濃がベントー作って来たからやで」
 けけけっとトウジ。
「置き傘あったかなぁ?」
 シンジは教室の外にある傘たてを覗いて見た。
「あれ、ないや」
「なんやパクられたんか?」
「どうする?俺トウジいれて帰るし…」
「良いよ、アスカかレイに頼んでみる」
 わかった、それじゃまたなーと、ケンスケとトウジは行ってしまった。
「さて…どうしようか?」
 下駄箱まで二人を見送りに来たものの、アスカたちの元へ戻るのが恐いシンジは、迷ってしまった。
 もう雪がふってもおかしくない季節だ、冷たさもハンパじゃない、濡れて帰るにはきつかった。
「加持さんにでも頼んでみようかな、傘ぐらいもってるかもしれないし…」
「あれ?碇クン」
 用務員室に行きかけたシンジを呼び止めたのは、2年の時同じクラスだった女の子だ。
 天野こずえ、肩までかかる髪にシャギーが入ってる、少し大きめの眉が印象的な茶ぱつ少女。
「天野さん、なに?」
「ううん、どうしたのかなって思って、…ああ、もしかして傘ないの?」
「うん、誰かに持っていかれたみたい」
 暗黙のルールとして、傘を持っていかれたものは、似たような傘を持って帰っても良いという了解事項があった。
 もちろんそんなことができるようなシンジではない。
「まっじめー!、適当に持ってっちゃえばいいのに」
「だめだよ、それじゃ他の人が困るじゃないか」
 真面目なシンジがおかしくて、くすくすと笑いだす。
「ふ〜ん、碇クンって、やさしぃんだぁ」
「か、からかわないでよ」
 真っ赤になるシンジ。
「ま、いいや、はい!」
 傘を広げてさしだすこずえ。
「天野さん?」
「こずえで良いよ、一緒に帰ろう?、家近くだったでしょ」
 そうだっけ?、とシンジ。
「ただしちょっち寄りたいところあるんだ、荷物もち、してもらえないかなぁ?」
 ああ、そういうことかと納得するシンジ。
 雨の様子を見てからこずえに視線を戻す。
「うん、わかった、いいよ濡れて帰るよりはずっといいし」
「商談成立ぅ♪」
 じゃ、いこう碇クンっと、こずえはシンジの腕をとって雨の中を歩きだした。
「これって、あいあい傘だね♪」
 真っ赤になるシンジがおもしろいこずえだった。






 同時刻、ミズホはまだ学校にいた。
 校舎裏で一人ぽつんと立っている、一つ角を曲がればヒカリがいるはずだった。
「気まずいですぅ」
 ぱしゃぱしゃと水を跳ねてヒカリが走って来た。
「ごめんね、行こう?」
 ミズホは先に歩きだしたヒカリを追いかける。
 ホンの少しだけ振り返る、雨に濡れて泣いてるらしい男の子が見えた。
 確か同じ学年、クラスは知らない。
「ごめんね、待たせちゃって」
 気まずくヒカリ。
「断ってらっしゃったんですねぇ」
「うん…、やっぱり鈴原のこと好きだし」
 傘がじゃまでよく見えないが、きっと赤くなっているのだろう。
「この間、バンドやってから急にああいうひと増えたの」
「アスカさんなら、問答無用で手紙を捨ててるところですぅ」
「アスカらしい」
 思わず想像して笑ってしまう。
「あたしも片思いだから…、なんとなくアスカみたいにはできないの…」
 あの朴念仁がヒカリの気持ちに気がつくのだろうかと考えるミズホ。
「っていうあたしも、お弁当作ってあげるのが精一杯で、偉そうに言える立場じゃないんだけどね〜」
 ミズホはぶんぶんと首を振った。
「そんなことはないですう、好きな人に何かしてみせるってだけでも凄い勇気ですぅ、だから私も見習ってみたんですぅ」
「えっ!?、じゃあお弁当作って来たのって…」
「はいぃ…」
 今度はミズホが赤くなる番だ。
「いつもレイさんやアスカさんがシンジ様のことはなさいますから…、私にできそうなことをって思って…」
 雨の音に負けそうな、小さな声。
「そっかー、ミズホも碇君のことが好きなんだもんねー」
 そんなミズホを微笑ましく見るヒカリ。
「レイさんやアスカさんは勉強もできるし…、きっとシンジ様が行く高校にもちゃんと合格なさいます…、けど私は行けるかどうかわからないから…」
「ミズホが入れないところに碇君が入れるとはおもえないんだけど…」
「はい?」
「あ、なんでもないの、ははは…」
 雨音が邪魔したのを幸いに、さっきの呟きを無かったことにする。
「ヒカリさんは不安になられませんかぁ?」
「え、どうして?」
「だって鈴原君と同じ高校に行かれるんでしょう?」
 ミズホの何気ないセリフに、ヒカリは江川達也風にボンっと頭を爆発させて真っ赤になった。
「ま、まだ鈴原の進路って知らないし、そんなこと考えたことないし!」
 その様子に、毎晩のように考えて見てるんだなぁと、自分と重ねてみるミズホであった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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