NEON GENESIS EVANGELION

Genesis Q':3D





 この僕の熱いパトスがぁ!
 シンジは苦悩していた。
「む、蒸すね」
「はい…」
 よかった、まだ気づかれてない。
 ミズホの胸が腕に当たるたびドキドキした、そうでなくても触れている部分から暖かい体温が伝わって来て、シンジはもうのぼせそうになっていたのだ。
 体勢が苦しくて、ミズホはシンジの腕に手をおいた。
 それだけでシンジの心拍数が跳ね上がる 髪の香りがシンジの鼻孔をくすぐる、アスカと同じシャンプーやリンスを使っているはずなのに、香りが違っていた。
 この時シンジは、初めてミズホの視線が自分を見上げていることに気がついた。
 身長…、ミズホを追い越したんだ。
 それはちょっとした感動だった。
「どうなさいました、シンジ様?」
「う、うん、僕身長伸びたのかなって思って」
 あらっと、ミズホは意外そうに答えた。
「今年の半ばには、こえてらっしゃいましたよ?」
「そうなの?よく気がついたね…」
「それは、毎日隣にいれば気がつきま…すぅ……」
 ミズホは自分の台詞に自爆した。
「あ、ああ、そう」
 シンジは照れかくしに顔をそらした。
 ミズホもうつむいて、そらす。
 そっと盗み見るシンジ。
 …ここまで間近くで見ることってあんまり無かったけど…、やっぱ可愛いや、ミズホって。
「なんですか?」
「ミズホ…、さっきの続きだけど…」
「はい…」
 トーンが暗くなる。
「どうして、僕と一緒だってことにこだわるの?」
「それは…」
 1分近い時間、雨の音に支配される、だがシンジはせかさずに、ミズホが話しだすのを待った。
「私、この街に来て、シンジ様と出会いました…」
 ぽつり、ぽつりと、考えながら、言葉をつむいでいく。
「ロスからこちらに移った時は、うまくやっていけるかどうか不安でした…、だって…」
 続きは聞かなくても想像できた。
「そっか、記憶のことだね…」
「はい…」
 ミズホも考えを整理していたわけでは無かったから、言葉を探すように続けた。
「でもシンジ様は優しくしてくださいました、一緒にいていいって言ってくださいました、シンジ様はシンジ様のお友達…、レイさんや、アスカさんや、カヲルさんや、ヒカリさん、鈴原君に、相田君、みなさんとも、お友達にしてくださいました」
「それは僕が何かしたからじゃないとおもうけど…」
「でもシンジ様と知り合ってなければ、皆さんに受け入れてもらえたかどうかわかりませんでした…」
 ミズホにとってシンジは、自分のアイデンティティそのものらしい。
「今もシンジ様の隣にいれば、みなさんと楽しく過ごしていられます、でもシンジ様がいなかったら?、わたしは独りぼっちになってしまいますぅ…」
 しょぼくれる。
「そ、そんなことはないよ、ミズホにだって僕の知らない友達いるだろう?」
 ミズホは首を振った、いないわけではないが、アスカやレイほど仲が良いわけでもない。
「私にはシンジ様と出会うホンの少し前からの記憶しかありません、私の思い出のほとんどはシンジ様と、皆さんとの想い出ですぅ、それが壊れるのは嫌なんですぅ…」
「そんなことはないよ、ミズホの周りの誰がいなくなったってミズホはミズホだし、ミズホの代わりなんてどこにもいないし、ミズホは絶対ミズホだし、ミズホはこれからもミズホのままだよ…」
 シンジは唐突に理解した。
「あ、そっか、ミズホが悩んでることって…」
 ミズホが転校して来た時のことを思い出す、何もない自分が仲間にいれてもらえるかどうか不安そうにしていたミズホ、黒板の前で、シンジを見つけるまでの表情、あの時の不安を思い出したくないのだと。
 だからみんなと同じ学校に行きたがったのか…
「ミズホ…、あのさ、そんなに心配すること無いんじゃないかな?」
 シンジはミズホに言い聞かせようと、顔を近づけた。
「この街だけでも誰かと出会えない確率は高いし、黙って見過ごしちゃう可能性も高いけどさ、勇気を持とうよ、だって出会えたんなら、それは幸運かもしれない確立だって生まれるんだから、それを高くしていけばいいんだから、勇気をだしてこの街に来たから、ぼく達は出会えたんだよ、そうでしょ?」
「…じゃあ、それは幸運だったんでしょうか?」
「違うの?」
 シンジは実にあどけなく笑ってみせた。
「シンジ様ぁ!」
 抱きつくミズホ。
「うわぁ!」
 慌てるシンジ。
「ぽ、ぽよよ〜んって!」
 首に噛り付かれたため、胸の感触がたまらない。
「み、ミズホってば!」
 ミズホは泣いていた、ぶわっと、おもいっきり、わんわん泣いていた。
 シンジの言葉はもう届かない、シンジはミズホを引きはがそうとしたが…
「うわぁ、骨どこ?、やわらかくて…」
 どこを触ればいいのかわからなくなった。
「うわあああああ!」
「何やってんの?、あんたたち」
「み、ミサトセンセ〜!」
 シンジは今度こそミサトが女神に見えたそうな。






「さ、ついたわよ」
 ききーっと車を乱暴にとめる。
 シンジのマンション前だ。
「ミズホ、起きてよ、ミズホぉ!」
「あちゃー、やっぱり猫と一緒にってのはきつかったかしらね〜」
 あれからミサトの家で夕食を取ったシンジたちは、そのまま家まで送ってもらえることになった。
 問題は仔猫同伴ということ。
「でもその猫、どうするんですか?」
 助手席のシート下で丸くなって寝ていた。
「リツコが預かってくれるって、リツコの家系って猫好きなのよね」
 へー、っとシンジ。
 シンジはミズホを引きずりおろすと、道路脇の縁石に座らせた。
 気がついたものの、まだ半分目が回っているらしい。
「頭がぐるぐるするですぅ〜」
 ふらんふらんと左回りに回転させてる。
 それは多分ミサトの運転のせいだとシンジは思った。
「じゃ、いくけど、しっかり介抱すんのよ?」
「はい」
「じゃねー」
 ミサトは意味ありげなウィンクを残して、車を出した。
「若いって、いいわねー」
 やけにおばさん臭かった。
「今…、9時か、おそくなっちゃったな」
 雨はやんだが、まだ地面は濡れていた。
「ミズホ、お尻濡れちゃうよ、行こう?」
 シンジはミズホを無理やり立たせると、肩を貸してエレベーターへ向かった。
「シンジ様ぁ…」
「なに?」
 うわごとかと思ったが、ちゃんとミズホはシンジを見ていた。
「もし一人っきりになるかもしれないなら、一人でいられるようになっておいたほうがいいんでしょうかぁ」
 シンジは否定した。
「そんな悲しいこというなよ、第一、一緒にいられるかどうかなんて、本人の意気込みしだいじゃないか」
 チンっと、エレベーターが到着する。
「その気になれば、いつまでも一緒にいられるよ、絶対」
 シンジは自分にも言い聞かせた。
「シンジ様…」
 ミズホの瞳がうるんだ、目元に涙が溜まる。
「シンジ様ぁ!」
 またしても抱きつくミズホ。
「ありがとうございますぅ、ミズホは一生、シンジ様のお側から離れません!」
「ええっ!?、ちょっとミズホ…」
 シンジの言葉が意味深過ぎた。
 迂闊なセリフは身を滅ぼすのだと、改めて痛感するシンジであった、合掌チーン





「全くシンジもミズホも何やってんのよ、世の中ホント、バカばっかなんだからぁ!」
 怒りの矛先を自分の髪へと向けて、アスカはガシガシとシャンプーを泡立てた。
 いつまでたっても帰ってこないので、気分直しにシャワーを浴びに帰って来たのだ。
 わしゃわしゃわしゃっと、その後一気にシャワーで流す。
 その時、誰かが騒がしく廊下を歩いていった。
「帰って来た!?」
 髪も拭かずにバスタオルを引っつかんで飛びだすアスカ。
「ミズホ!」
 部屋の戸を開けようとしてデジャヴを感じる。
「まさか…」
 アスカは今朝のことを思い返して、ゆっくりと戸を開けて見た。
 誰もいない。
「あれ?ミズホ…」
 はいー?っと真後ろから。
「え?、きゃ!」
 振り返ろうとしてタオルが落ちる。
 しゃがみこんで拾う、目先に二組のスリッパと足。
「あ…、頭かくして尻隠さず…ってもうやったね」
VielenDank!
 今度はみごとな踵落としだった。



続く








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