NEON GENESIS EVANGELION

Genesis Q':5A





 時間を少し遡ろう。


 トンネルを抜けるとそこは雪国だった。
 シンジがいないことに不満を感じてはいるものの、それでもアスカはおおむねご機嫌だった。
 道は両側ともに雪の平野が広がっている。
 ところどころに林。
 道路標識だけが、たしかに道があるのだと教えてくれてる。
 雪は小降りになっていた。
 車は加持のワゴン車で、見えないところに大量の改造が施されている、この雪でもスリップ一つする事はない。
 運転席には加持、助手席にミサト、その後ろには左からアスカ、ミズホ、レイ、一番後尾にゲンドウとユイが座っていた。
 運転さえしていなければ、アスカは加持に抱きつきかじり付いていたところだろう。
「かーじさん♪、まさか加持さんがきてくれるなんておもわなかったわ♪」
「碇さんに誘っていただいたんだよ、空きが出たからどうかってね?」
 アスカは非好意的な目でミサトを見た。
「でも来れなくなったの、シンジだけなのに」
「渚君が断ってきたからな」
 いつも通り、新聞の向こうからゲンドウが答えた。
「か、カヲルも来るはずだったの!?」
「ええ、シンジが行かないならって…、ついでだからシンジのことをお願いして来たけど」
「なんてことしたんですかぁ〜!」
 ミズホが目を渦巻にして訴えた。
「最近見かけなかったから本気で忘れてた…」
 しまったわ、と、レイは歯ぎしりをした。
「やれやれ、相変わらずか、シンジ君は」
 加持の問いかけに、ミサトは自分の教育方針に自信を失いかける。
「あとで電話しましょう!」
「そうね、その通りだわ」
「この雪で断線していなければいいがな」
 不安をあおるオヤジ。
「携帯は雪で電波が届かんだろう、衛星も黒点の影響を食らっているはずだ」
 あうあうあう。
 なにかないものかとあえぐ三人。
 偶然レイの視野に何かが引っ掛かった。
「止めて!」
 突然叫ぶ。
 ゆっくりとブレーキをかける加持。
「どうしたんですかぁ、レイさぁん」
「あそこ、女の子がいたの」
 指差す、だが誰もいない。
「こんなところに人がいるわけないじゃん」
「確かにいたもん!」
 レイは思い切って外に出た。
 何も羽織っていなかったため、寒さに震えがきた、足が膝まで雪に埋まる。
 右に左に見回してみる、だが女の子はもちろん人影もない。
「ほらぁ、誰もいないじゃん」
 車から覗き見るアスカ。
「……おかしいなぁ」
 首をひねる。
「ほら早く戻りなさい、風邪を引くわよ?」
 ユイが手招きする。
「は…い」
 レイは、しぶしぶながら従った。




第五話

スチャラカQ





「見えました、あれが魅奈神山ですよ」
 第三新東京市から程近いその山は、冬は温泉もあるスキー場として有名だった。
 がたがたとスノータイヤの振動が伝わってくる。
 空はどんよりと重苦しく、灰色。
「すまんな」
「これも仕事と思えば楽ですよ」
 加持は気を抜かずに運転を続ける。
 ようやく目的の村まで来ていた、宿はもうすぐだ。
 ここまで6時間の道のり。
「あたしをここまで苛つかせた道ははじめてよ」
 ミサトは結局役に立たなかった地図を放り出した。
 ルームミラーに目を向ける。
 ゲンドウが新聞を広げ、ユイはポットからコーヒーをついでいた。
「あなた、酔いますよ?」
「ああ…」
 とか言いながら、新聞からは目を離さないゲンドウであった。


「ああ、それは難儀なことでしたなぁ」
 白髪、長い髭をした初老の男は、皆を部屋へ案内すると、ひと心地ついてくれとお茶を用意した。
 部屋は階段を上がったところで、和室。
 襖と障子で区切られている、アスカには古くて大きな家にしか見えなかった。
「残りのお部屋は両隣にお取りしました、お嬢さんがたはここがよろしいでしょう、後は御夫婦で…」
「「夫婦じゃありません!!」」
 妙に力のはいってるアスカとミサト。
「か、葛城先生はおばさまと一緒、それでいいわよね、おじさま!」
「嫌だ」
 あっさりと却下する。
「子供ではあるまい、同じ部屋で寝るだけだ、問題ない」
「あります!、道徳上の問題が!」
「ごめんなさいね、この人、あたしと一緒じゃないと眠れないから」
 子供かあんたわ!っ拳を震わせる。
 新聞の裏に隠れるゲンドウ。
 くすくすとユイ。
「大人って、色んなこと気にするのね〜」
「ですね〜」
 茶菓子をぱくつく二人。
 アスカは頭の中で死にたくなるようなドナドナをリフレインし始めた。
「あ、あの、おじいさん」
 レイがためらいがちにたずねる。
「ここに来る途中で女の子見たんですけど…、短い、青い髪の子、知りません?」
「まだ気になさってたんですかぁ?」
 懐疑的なミズホ。
 がちゃーん!
 宿の主人、トニー竹崎(62)は震えていた。
「み、見たんですか…」
「見たって、何を?」
「子供、ですよ」
 だからどうしたとミサト。
「実は…、先日の大雪で、女の子が一人遭難しましてね…」
 うえええええ!っとミズホ。
「今年5歳になる女の子で、名前をキクともうします、何を探しているのやら、昼といわず、夜といわず、「宝物を探してるの」と…」
「やーーー!、もういいですぅ」
「だめよこんな面白い話!」
 ミサトは身を乗り出した。
「それで、宝ってなに!?」
「さて子供のこだわるものですからなぁ、その胸にはなにやら地図を抱いておるとかなんとか…おそろしいことですじゃあっ!
 勢いつけすぎてミサトにちゅ♪
「なにすんのよ!」
 ミサトは手加減無しで吹っ飛ばした。


 いやーはっはっは、調子に乗ってしまいましたわ…と、まるでへこたれる様子もなく竹崎は復活した。
「いやいやいや、すみませんでした、さて、話は変りますがこの村の祭りは、その筋では有名でしてな、しかも今年は百年に一度の特別な祭事が行われるので、TVでも中継したいとかなんとか…、ですから特に観光の方が多いのですよ、もしかしたら、お見かけになったのは家族連れの方のお子様だったのでは?」
「そうかもしれませんね」
 にこやかにユイ、肯定する。
「祭りの方もぜひ楽しんでいってもらいたいのですが…」
 夜店が出る類のものではなさそうなので、レイの関心は薄い。
「ご覧になっていかれる価値はあると思いますよ?」
「えーーー、でもぉ」
 ミズホもスキーの方が良いらしい。
「リフトはありませんが、地元のものが遊ぶ穴場が近くにあります、スキー場へは車を使わなければいけませんが、そこなら歩いていけますし、帰りに温泉に浸かれるのも良い」
「おんせん…」
 ぴくっとゲンドウ。
「露天の岩風呂ですよ、地元の人間しか知りません、それにわたしらが自信をもってお薦めしておるものがありましてね?、地酒なんですが」
 お酒!
 涎をこぼしそうなミサト。
「露天風呂に備えつけてありまして、無料で御賞味頂いております」
 これが決定的だった。
「まあ、スキーできるならいっか」
「そですねぇ」
 アスカは沈んだままだった。






「うおええええええええええ……」
 朝が来た。
 布団から起き上がったは良いものの、そのまま動きをとめている。
 レイ、ミズホ、アスカの順に連なって座り込み、お互いの背中をさすっていた。
 アスカをさすってやってるのは加持だ。
「ほら、大丈夫かい?」
「「「はーくーーー」」」
 青い顔をして三人。
「うー、背後霊がぁ〜〜〜」
 青い顔で唸るミズホ。
「乗っかってるですぅ、重いですぅ〜」
「あーもーうるさいのよ!」
 頭がガンガンする、腰が痛くて伸ばせない。
 アスカは対照的に静かなレイを見た。
「あ、死んでる」
 真っ白に燃えつきていた。
「せっかくのスキー日和なんだ、頑張ってくれよ」
「あたしだってせっかく加持さんと遊べるんですもの、ニコニコ笑っていたいわよ、でもできない…、うっぷ」
 口を押さえるので精一杯のようだ。
「ふふふふふ…」
 地獄からの声にも似ている、ミズホの含み笑い。
「実は…、こんなこともあろうかと用意してきたものがあるんですぅ」
 どこからともなく水筒を取りだす。
「ミズホ特製、ハーブティーでえっす」
 こぽこぽっと、カップに注ぐ。
「み、緑色じゃない、いったい何入れたの!」
「喉とかぁ、お腹とかに良い薬草や香草をたっぷりと♪、さあどうぞ」
「ぐあっ、は、鼻が曲がるぅ〜〜〜」
 のけぞるレイ。
「こんなのっ、飲めるもんなら飲んでみなさいよ!」
「ではいっきまーす!」
 躊躇なく口をつける。
 こくんこくんこくんこくんこくん。
「ぷはぁ!」
「ほ、ほんとに飲んだ」
 おかしなものを見るような目でアスカ。
「さ、ではアスカさんもどうぞ」
「ど、どうぞって…」
「さーあ、はい♪」
 何やってんだか…
 巻き添えを食わないよう祈りながら、加持は昨夜のことを思いかえした。






「あらし歌うら、思いっきり!」
 真っ赤になって、レイはマイクを握った、すでに相当酔っていて、ろれつが回ってない。
 皆が浴衣に着替えている中、何故か一人だけジーンズにティーシャツというラフなカッコをしていた。
「かーじー、飲んでるぅ?、」
 フィーバーしているミサト。
「ほら加持さん、注いであげるぅ」
 対抗するアスカ。
 ははは、まいったな…、と加持は汗を流していた。
 歌い終わったレイは、ミズホと手を取りあって「さびしー」と唱和した。
「な、なによ文句あるわけ?」
「ないけどー」
「アスカさんはいいですぅ、加持さんがいますしぃ」
「シンちゃん何してるのかなぁ〜〜〜」
 ほぅっと、惚けた後、レイは自分の体を自分で抱きしめた。
「あ〜〜〜ん、シンちゃーん!」
「ちょっとレイ、あんた変よ?」
「変じゃないも〜ん、これシンちゃんのお下がりだしぃ」
 なにぃっ!っと、ミズホとアスカが目を剥いた。
「何であんたがそんなの持ってるのよ!」
「だって小さくなったから捨てるって言ってたんだもぉん、きゃあっ!?」
 ミズホが抱きついた。
「ズルいですぅ!、にゃーん、シンジ様の香りがするですぅ、シンジさまー!」
「そんなわけないでしょー!、こらミズホ離してってば、にゃあん!」
 レイの胸に顔を埋めてスリスリしている。
「うわーーー……」
「助けてアスカー!」
 悟ったように首を振るアスカ。
「…レイ、お幸せにね」
「ふにゃー!」
 見捨てる。
 加持を見ると、ユイにおしゃくをしてもらってかしこまっていた。
 ミサトは手酌でやっている、こちらはもう歯止めが効かないようだ。
 そこでアスカは一人足りないことに気がついた。
「あれ、おじさま…」
 ふいに窓の外の景色が目に入る。
 夜の闇、そこから白く小さなものがちらちらと降りて来ていた。
 宿の裏はちょっとした庭園になっている。
 そこにゲンドウが立っていた、浴衣姿にダウンジャケットを羽織って。
 肩につもった雪から、かなり前からそうしていたことがわかる。
 なにしてるんだろ?
 ゲンドウの視線の先を見てみる。
 あっ!
 女の子がいた。
 4、5歳ぐらいで、青い髪の。
 ゲンドウは身動き一つせずに見つめている、女の子も同じに。
「れ、レイ、あれ見てあれ!」
「……くぅ」
 可愛い寝息。
「まったくもう!」
 アスカは慌てて部屋を出た、階段を駆けおりて、裏庭への出入り口を探す。
「おじさま!」
 さくさくさくっと、雪に下駄の跡を残して駆け寄る。
「アスカ君か」
 わずかに視線を動かした。
「あの子…、あれ、いない?」
 消えていた。
「いま、そこに女の子がいませんでした?」
「ああ、いたが…」
 目を離したすきに、どこかへいってしまったようだ。
 ゲンドウはダウンをアスカにかけてやる。
「ポケットに小銭が入っている、温かいものでも飲みなさい」
 アスカはゲンドウがいなくなっても、しばらく周囲を見まわしていた。
 その様子を窓からずっと覗いていたのが加持だった。


 昨日とはうってかわっての晴天。
 真っ白な雪が綺麗に朝日を反射している。
 ゲンドウは旅館の入り口に立って朝刊を広げていた。
 旅館は木造の2階建てで、一目で年代物だと分かる。
「よく雪の重みで潰れないものだな」
「あなた、いいかげんにしてください」
「ああ、わかってるよ、ユイ」
 ゲンドウはそれ以上小言を言われないように、ポカリかアクエリアスが売ってないかと自販機へ向かって歩きだした。
「都会じゃこんなに澄んだ空気は味わえないわね」
 ユイはちょっとだけ感動にふけるのだった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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作者である私と原作者naryさんの許可または承認が必要です、ご了承ください。



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