NEON GENESIS EVANGELION

Genesis Q':5D





 カーテンを一気に開ける、今日もいい天気だ、もう昼だけど。
「よっし!、じゃあ気合い入れていくわよ!」
 それはそれとして、アスカの機嫌は悪かった。
「どーして加持さんいないのよー!」
 ミサトが頭をおさえながら答えた。
「買い出し、隣の街なら酒屋があるって聞いたから、頼んだのよ」
「酒って、あれだけ飲んどいて!」
「やっぱエビスでないと調子でないのよね〜」
 可哀想なのは加持だろう。


「ま、いいわ、今日のところはあんたに案内してもらうわよ」
 へいへいっと、出雲。
 すっかり下僕化している。
 社の周りは観光客も合わせて、かなりの人出になっていた。
「ほら、巫女さんの応募はあっち」
「はーい」
 連れ立って歩く出雲とアスカ。
「これは問題ですねぇ」
「まったく」
 うなずきあうミズホとレイ。
 キクはよくわからないようだ。
「アスカさんって、「お兄さん」に弱いみたいですねぇ」
「特に優しそうってのがポイントだと思う」
 ちょっとだけ遅れて歩く三人。
「みんな何やってんの、おいてくわよ!」
 アスカの呼び掛けに急ぐ。
「なにやってるのよ」
「だってぇ、ねえ?」
「お邪魔みたいですしぃ」
 真っ赤になるアスカ。
「ばばばばば、バカいってんじゃないわよ!」
「まあまあ、冗談なんだからさ」
 動じない出雲。
「ほら、早く行ってきなよ」
 仮設テントへ押しやる、アスカは不満気にレイとミズホを睨んでから向かった。
「すみませぇん…って、あれ?、竹崎さん」
 おや?っと、竹崎。
「アスカちゃんも出るのかい?」
「はい」
「アスカちゃんぐらい可愛かったら、きっと選ばれるよ」
「それはないわね」
 アスカは隣で参加と記帳していた女を睨んだ。
 どこかで見た事がある。
 それを思い出す前に、レイが女の腕をとって叫んだ。
「なんであんたがここにいるのよ!」
 栗毛のセミロングをそのままに、丸い眼鏡と厚手のコート。
 彼女は不敵に微笑んだ。
「今日はあなたの相手をしに来たんじゃないの」
「うそ!」
 アスカは思い出した、あのクリスマス、一年前の夜の惨劇、父親の知り合いとおぼしき男の隣に立っていた女を。
 レイと同じ力を持つ女、カスミだ。
「信じなくてもいいわ」
 カスミはレイの腕をふり払うと、すれ違いざまに囁いた。
「甲斐さんも来てるから」
 傍目にもわかるほど、レイの顔は青ざめていた。






「葛城も三十路はいってるんだから、太りそうなもんなんだけどな」
 ぶつぶつと車に箱を積み込んでいく、エビスビールだ。
 わりと普通の街だった、ただ商店街は駅前にしかなく、電車はこの雪で止まっている。
 店が開いていたのは幸運だった。
「葛城魔人のお力だな」
 クスリと微笑んでから、加持は目的の店を探す。
 駅改札口のすぐ脇にあった。
「立ち食いうどん、そば…、か」
 のれんをくぐると、「へいらっしゃい!」と景気のいい出迎えを受けた。
 この雪で客が来ないのだろう、加持以外には店員しかいなかった。
 カウンターに陣取る。
「コロッケうどん貰おうか…」
 うどんの玉をゆで始める、きっかり15秒後、加持は追加で注文を出した。
「たまご…、あとおいなりさんも欲しいな」
「へい」
 うどんがゆであがれば、あとはできているものを乗せるだけだ。
 うどんと一緒にレシートを受け取る。
「前金制だよ」
 加持はカードを渡した、キャッシュカードではない、シークレットデータカード。
 専用端末で約4GBのデータを書き込めるカードだ。
 店員はレジスターに通して返す。
 加持はそしらぬ顔をしたまま、カードを戻した。
「らっしゃい」
「寒いね今日は」
 壮年の男が加持の隣に立った、黒いサングラスをしている。
「かけ、あついところをもらおうか」
 セルフサービスのお茶を飲む。
「あっとすまないね、ネギ抜きで頼むよ」
 なんだ?
 加持は鳥肌が立つのを感じた。
 体が引き寄せられるような感覚。
 危機に直面した時の緊張感。
「ふぅ、ごっそさん、寒い時はコレに限るね」
 男は熱いとばかりに袖口で額をぬぐった。
 サングラスをとって、加持に同意を求める。
「ええ、そうですね…」
 不自然にならないよう作り笑いを浮かべる、だがそれも男の目を見るまでだった。
 赤い義眼。
「甲斐…、ヨシハル」
 加持はその笑っているような作りの顔に恐怖を覚えた。






 巫女選びといっても、そう大したことをするわけではない。
 参加者は多かったが、観客が投票する予選会ですでに5人にしぼられている。
「当然ね、このあたしが残らなくてどうするのよ」
 巫女姿も凛々しい。
 ただ腰の辺りが苦しいのか、ゆるくできないものかと思案していた。
 髪は軽くまとめている。
「このあとは何?」
「あそこ…、ほら、キクちゃんを追っかけた林に祠があるんだって、道が5本あって、一つが当たり、そこに御神酒が奉納してあるから持って帰ってこいって」
「おおざっぱに説明しましたねぇ〜」
「やることは同じじゃない、良いのよそんなことどうだって」
 アスカはレイの腕を引っ張って、誰にも聞かれないよう耳打ちした。
「レイ、もうちょっと元気にできないの?」
「アスカ…」
 アスカは目でキクを気にしろと教えた。
「うん、わかった」
 アスカはレイの頬にキスをする、同じようにキクにも。
「じゃ、行ってくるわね、負けてらんないから、あんな女には」
「まるで旦那さまの御出勤タイムみたいですぅ」
 勢いを削がれるアスカだった。






「あなた、応援には行かないんですか?」
 ゲンドウは答えない、ただ何かのファイルを読みつづけていた。
 まだ旅館にいる。
 ユイはため息をつくと、お茶をいれはじめた、諦めてつきあうことにしたらしい。
「すまんな」
 ようやく口を開いた。
「右も左も、あなた一人でできるものではないんですから、少しは冬月先生を信じてあげたらどうですか?」
 ゲンドウはファイルを閉じて、くいっと眼鏡を押し上げた。
「信じている、だが信じることと押し付けることとは違う、私は私にしかできないことをしているだけだよ」
 湯呑みを受け取り、一気に飲み干す。
「どちらへ行かれるんですか?」
 ゲンドウは答えない。
「いってらっしゃい」
「ああ」
 ゲンドウは父親ではなく男の顔をしていた。
 ユイは微笑みを交えて送り出し、帰りを待つ女を演じるのだった。






「アスカが行方不明!?」
 レイは目眩いを感じて座り込んだ。
 キクが心配げにしがみつく。
「出雲のバカたれに決まっとる、あやつ赤毛の女の子にこだわっとったからな」
「それって、何の話ですかぁ?」
 竹崎は吐き捨てる。
「この祭りは地鎮祭なんじゃが、古文書には火の神様をおさめるために赤毛の女を差し出したとあったらしい、それでじゃろう、あやつ赤毛の子にばかり声をかけとった」
 レイは少し離れたところにいるカスミを睨みつけた。
 カスミは関りを肯定も否定もしない目で、レイを見ている。
 だがすぐに神主に呼ばれて背を向けた、御神酒を持ち帰ったのはカスミだったのだ。
「出雲さんはどこにいらっしゃるんですかぁ!?」
「わからん、あやつ、おかしな子供まで巻き込んどるし、何かしでかすとは思っとったんじゃが…」
「子供って?」
 レイは気丈な態度を取ろうとする。
「宙に浮いたり、手も触れずに物を動かしたり、そうじゃ、若いもんが殴りかかろうとして、壁のようなものに弾きかえされたこともあったわい」
 レイとミズホは顔を見合わせた。
 間違いないとうなずきあう。
「カスミから聞き出すわよ!」
「はい!」
 レイとミズホは連れ立ってカスミを探しはじめた、だが二人の前に一人の少年が立ちふさがる。
「テンマ…」
 雪が作り出す白い世界からはじき出されたような、黒い髪と、黒い肌をした少年。
 瞳の描かれたバンダナをトレードマークにしている、テンマだった。
「そこをどいて」
 テンマは身じろぎ一つしない、ポケットに手を突っ込んだまま、人にあらざる目をレイに向けている。
 レイはその脇をすり抜けようとした。
「無駄だ、カスミは何も知らない」
 レイはテンマの頬をはたこうと身構えた。
「よしなさい」
 その手首をつかむ。
「お父さま」
 レイははっとした、いつものゲンドウではない、穏やかさとは無縁の、氷の衣をまとっている。
「秘密はキクと共にある、レイ、迷わずに進みなさい」
 キクちゃんに!?
 レイはキクを見た、はじめて会った時に抱えていた銅板を思い出す。
「キクちゃん、あの地図は?」
「お部屋…」
 旅館に置いてきているらしい。
「ミズホ、行こう!」
「はい!」
 キクを抱えて、走り去る二人。
「君はどうする」
 テンマは全身を硬直させた。
 甲斐とは異質なプレッシャーを感じる。
 ゲンドウは赤い眼鏡を押し上げ、位置を正した。
「碇…、ゲンドウ」
 ゲンドウはテンマの前に立つ。
 威圧感が、現実以上にゲンドウを大きく見せた。
 テンマはゲンドウという存在そのものに飲まれかける。
「私たちが過去に見つけ、それを使って成そうとしたこと、そんな私たちの意志を継がせてしまったのは、シンジたちだけではない」
「だから?」
 畏怖心にも近い恐怖に、手が汗ばむ。
「渚君に逢え」
「カヲルに?」
「君の見たいものが、必ず見れる、これをやろう」
「なんだ?」
 黒いファイル、その中身は一人の女の子のカルテだった。
「ゼーレのガードも君達には通じない、好きなようにしろ」
 きびすを返すゲンドウ、テンマが反抗するとは思っていないようだ。
 事実テンマは逆らえなかった。
「アダム…」
 テンマは緊張をとき、空気と共にその言葉を吐き出した。
「ナカザキ、薫か…」
 テンマは第三新東京市へと歩きだした。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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