NEON GENESIS EVANGELION
Genesis Q':5E
「で、今作戦の成果は?」
「はーい、このおじさんを拉致ってきましたぁ!」
元気のいい男の子の声に、加持は目を覚ました。
「酒でもほしいところだな、こりゃ」
気がつくと、そこは温泉だった。
どこかの洞窟の中らしいが、不思議と明るい。
自分の体を調べてみる、後ろ手に、小指と小指、親指と親指が、それぞれなにかで結ばれていた。
素っ裸、腰にはタオルが巻かれている。
「おいおい、いたずらされなかったろうな」
「安心したまえ、私にそのような趣味は無い」
湯気の向こうから。
「誰だ?」
長い髪をした男だった、髪は湯に濡れたのだろうか?、張り付いていてうっとうしそうだ。
小さな丸い眼鏡をかけて、変な飾りを頭に付けている。
風呂だというのにマント姿、湯には浸からずに、岩に腰かけていた。
「ハーイル、イルパラッツォ!」
その背後からプラチナブロンドの髪を持つ少年が飛び出した。
ばっしゃーんっと、勢いよく湯に飛び込む。
「やったのは僕だよ、おじさん」
にいっと無邪気に笑った。
「はっはっは、ツバサ君、お風呂に飛び込んではいけないな」
髪がぺったりと顔面に張り付いている、マントも共に、ずぶ濡れだった。
「大変だね、出雲君」
「ダメだよおじさん、あのカッコの時はイルパラッツォって呼ばないと怒るから」
「こほん」
ハーイル、イルパラッツォ、っとごまかすツバサ。
「さて加持リョウジ君、君が何を調べまわっていたのかは知らないが、目障りなのでね、拘束させてもらったよ」
「これはどうも」
真面目に挨拶して返す。
「殺人などという下劣な手段は好まんのでね、しばらくそこでそうしていて貰えるかな?」
「悪いがコレじゃのぼせそうだ、せめてこの拘束具だけでも外してもらえないかな?」
はっはっはっといず…イルパラッツォ。
「で、何をしに行くんだい?」
あえてツバサに聞く。
「神様を起こすんだってさ、お祭りで、そう言えば神様に捧げる女の子って、もう祭壇に連れ込まれてるのかなぁ?」
ぺらぺらと。
「おや?、殺しはしなかったんじゃないのかい?」
「はっはっは、世界を正しく導ける力を手に入れる儀式にかかせないだけだよ、別に命を奪うわけではない」
「でも神さまに捧げるって言ってませんでしたかぁ?」
「神、すなわち私だよ、ツバサ君」
前髪を払って、加持とツバサにパフォーマンスしてみせる。
「私とまじわうことで、少女は神と繋がることになる、どうだ、素晴らしいことではないかね?」
かなり身勝手な解釈だった。
「…まいったなぁ、予定が狂っちゃってるのに、そんなこと考えてたのか」
「何か言ったかね?」
「あ、いえいえいえ」
「不明瞭な発言は控えるように」
イルパラッツォはマントの下を見せないように立ち上がった。
「古文書にある、火の神に捧げる赤毛の女は手に入れた、災いをもたらす青い髪の娘は辿りつくことすらできんだろう」
高笑い。
「あ、レイだったらもう入りこんでるよ、イルパラッツォ様」
冷ややかにツバサを見る。
「どうやって?」
「だって、キクちゃんが地図もってたじゃん」
息を吸い込み、深呼吸する。
「では、妨害して来たまえ」
何処からか下がって来たヒモを引く。
ゴオオオオオオオオオオオオオ…
「おいおいおい…」
「なんだこれーーーーーーーーっ!」
まるで風呂の栓が抜けたかのように、巨大な渦を巻いて加持とツバサも流れていった。
●
うんばば、んばんば、うんばっば!
奇妙なリズムとおかしな叫び。
「なによこれー!」
一方アスカも叫んでいた。
体を大の字にして、手首足首を固定されている。
岩の天井、高さは10メートル程はあるだろう、妙に蒸し暑く、アスカは首筋の汗が気持ち悪かった。
おろしたてみたいな巫女服の襟が硬いからだ。
「気がついたようだね」
濡れた黒いマントを引きずって、イルパラッツォが現れた。
「あんたっ、一体何のつもりよ!」
「つもり?、言わなかったかな、真なる祭りを執り行うと、君はその巫女に選ばれたのだから、自慢してもいいんだよ」
アスカはイルパラッツォの向こうを見た。
自分は周りよりも高い場所にいるらしい、何十人もの男女が汗と油にてかてかと体を光らせて、変な踊りを踊っていた。
寝たまま見渡すアスカ、何故か全員黒いビキニ姿だった。
「き、気持ちわるぅ」
素直な感想。
「な、何を言うか、古文書にも記された正統なる儀式だぞ!」
古文書が書かれた時代にビキニパンツがあったのだろうか?
アスカは反対側を見てみた。
「な、なにあれ…」
直径10メートルはありそうな巨大な岩があった。
球状で、壁にはめ込まれているような感じ、それを封印するかのように、しめ縄が張られている。
「あれぞ、神の封ぜられし岩戸だよ」
やっぱ危ない宗教だったんだ。
暴れる。
「こらこら、跡が残るよ?、儀式はこれからなんだ、あまり身を汚すものじゃない」
アスカは悪寒を感じて、ぴたりと動きをとめた。
「儀式?」
「そう儀式、火の使い、赤き髪の女と神を宿せし男が交わる時、世界を浄化すべく炎の神、崩岸攤(あすた)さまが蘇る」
「あんたバカ?、そんなの迷信に決まってるじゃないの!」
にたっと笑うだけで取り合わない。
「ちょ、ちょっと待ってよねぇ?、やだこっち来るな、エッチバカ痴漢変態!」
「さあ、世界を革命する力を手に入れよう!」
ばさりっとマントを広げるイルパラッツォ、その下はやはり黒のビキニパンツで股間がもっこり。
「いやーっ、しんじらんなーい!」
アスカは悔しくなった。
「こんな奴に愚痴ってたなんて、こんな奴に気を許してただなんて!」
唾が飛び散るほど大きな声を上げた。
「嫌い嫌い嫌い、大っ嫌い!」
シュッ!、ゴン!、メコ…
アスカの拳がイルパラッツォの顔面にめり込んだ。
突如自由を取り戻した右手に唖然とするアスカ。
「拘束具が…」
顔をおさえてイルパラッツォ。
縛り付けていた紐が、白い薔薇によって断ち切られていた。
アスカは巨石の上に人影を見つける。
「世界の破壊を防ぐため」
「世界の平和を守るため」
「「愛と真実の悪を貫く、ラブリーチャーミーな敵役」」
「マイ!」
「アーンド、リキっ」
白い薔薇を見せつけて、リキは白い歯を光らせた。
極楽トンボが見えるアスカ。
「おねぇちゃん、久しぶりぃ!」
「マイちゃん!?」
すたっと飛び降りるリキ。
「はっはっは、君達は何者かな?」
「しいて言えば破滅の使者ってとこかな」
マイに縄をほどいてもらうアスカ。
「あ、ありがと…」
へへーっと、鼻の下をかいて照れるマイ。
「予定が狂っちゃったな〜、カスミだから大丈夫と思って遅れたんだけど、怖かった?」
「な、何でもないわよ!、あれぐらい」
強がってみせる、突き出した拳が震えていた。
リキは微笑んで、その拳をぽんぽんっと軽く手の甲で触れてほぐしてやる。
「もう大丈夫だから」
そう言ってアメ玉を取りだす。
「これでも舐めてなよ」
強引に押し付ける。
「アスカ!、リキから離れてっ」
「レイ!?」
レイとキク、ミズホが、アスカたちのいる祭壇に向かって走ってくる。
信者達は何が起っているのか混乱していて、右往左往していた。
押しのけて走るレイたち。
「レイも来てたんだぁ」
無邪気なマイ。
「あ、こら逃げるな!」
イルパラッツォが逃げ出そうとしていた。
だが、ふいに現れた男に拳一発で気絶させられる。
「加持さん!」
「乙女の純情を踏みにじった罰さ」
いまだにタオルを巻いただけの姿だ。
アスカは駆け寄り、抱きついて泣いた。
「加持さん、加持さん、加持さぁん!」
「こらこら…」
あまりきつくすがるものだから、その拍子にタオルが落ちた。
リキは腕を組んだ。
「やるなぁ」
「なにがよ!」
真っ赤だ。
「ヤですぅ……」
ミズホもだ、両手で顔を被う。
「だいたい、どうしてここにいるのよっ、カスミも、テンマも!」
「ぼくもいるよー!」
っと加持の後ろからツバサ。
「ツバサまで…」
レイは壁を展開した。
「こら、やめろって!、俺達レイがいるなんて知らなかったんだから」
「うそ!」
「嘘じゃないって…、って、危ないってば!」
レイは光の壁でリキをはたこうとした。
それを壁で防ぐ。
「マジマジ、大マジだって、甲斐さんが湯治に出かけるって言うから、ついて来ただけだよ!」
「信じられるもんですか!」
だが結局、レイは壁を消すしか無かった。
リキを挟んで向こう側に、キクが立っていたからだ。
「見つけた」
ゆっくりと右手をあげて指差す。
「たからもの」
巨大な岩が鳴動した。
「いったい何が起っているの!?」
ミサトは温泉に浸かっていた。
混浴、他にはゲンドウとユイがいる。
ゲンドウは何やら携帯で話していたが、ミサトは興味を持とうとしなかった。
「お酒がこぼれちゃうじゃない」
突然の地震、ミサトは風呂桶に入れて浮かべていたお酒を、精一杯守った。
「なに、あれ…」
岩の表面に血管のような筋が浮かび上がった。
岩石の玉が、転がり出ようとしている。
周囲の壁からもはがれるように、血管がぶちぶちと音を立てて引きちぎれはじめた。
「おばけですおばけです、球根のおばけですぅ〜〜〜!」
それは半ば化石化した巨大な球根だった。
千切れた根っこから緑色の液体が飛び散っている。
「レイ!」
リキが突き飛ばした。
レイが突っ立っていた場所を、根の一つが鋭くえぐる。
鞭のように、触手のようにしなる。
「ねえ、何だか熱いよ」
マイは原因を探して驚いた。
「あれって、溶岩じゃないの!?」
球根と壁との間から流れだしている。
「うそ、マジ?、どうするんだよツバサ、あんなの聞いてないぞ」
「僕も知らないよぉ」
「あーっ、あいつら逃げてくわ!」
アスカは烏合の衆と化している信者を指差した。
「まあ、懸命だな」
わりと冷静に加持。
どこからかツバサが取り出したリュックを漁り、ズボンを見つけはいている。
「逃げ出すのは簡単だが、ここは一体何処なんだい?」
「地下数十メートルにある球状の地底空間ってとこだよ」
加持は周囲をぐるっと見渡した。
「元は何があったのかな?」
「何のんきに話してるのよ、逃げなきゃ!」
レイはキクがいないことに気がついた。
「キクちゃん!」
球根のすぐそばにいた、はがれ落ちた岩の破片の上、下は溶岩が流れてる。
「ママ…」
キクは手を伸ばして球根に触れようとした。
そこに青い勾玉がはまっている。
「だめ!」
真上からひときわ大きな根っこがはがれ落ちた。
レイの瞳が赤くなる、とっさにキクの上に壁を展開した。
ジャッ!
見えない刃が、根を二重、三重に切り裂き、細切れにしていく。
「リキ…」
「早く連れもどせ」
綾波は小さくうなずき、祭壇から飛びおりた。
溶岩の10センチ上といったところで、ふわりと浮く。
「地上に吹き出すとマズいな」
加持は熱さに汗をかいていた。
球根は自分で動いているわけでは無い、内側、溶岩の圧力に負けて押し出されてきているのだ。
「十中八、九、吹き出すね、間違いなく」
あの穴を通ってと、人が出入りに使っていた幾つかの穴を見た。
「被害は小さいだろうけど…」
「お水…」
キクを抱いてレイが戻って来た。
キクは何かを大事そうに握っている。
「お水」
もう一度。
「熱いの?、キクちゃん、今それどころじゃ…」
「そうか、水脈だね、キクちゃん」
アスカのセリフを加持が遮った。
コクンとキク。
「なんなんですかぁ?」
「出雲君がこだわってた赤い髪ってのは赤い神、すなわち溶岩だよ、で、災いをもたらす青い髪は…」
「温泉だな、青い神、つまり水だろ?」
「はいはいはーい!、僕場所わかるよぉ!」
「ほんとかよ、ツバサ」
あまり信じてないようだ。
「ぶぅっ、だってお湯の元の元まで流されてからここに来たんだよ?」
ツバサが助けなければ、加持は源泉で大火傷をおっていただろう。
「確かこっちの方向なんだが」
加持が指差す方向に、リキはマイをおしやった。
「いけ、好きなだけ」
「いいの?、やったぁ!」
マイが嬉しそうに息を吸い込んだ、その背後にマイそっくりの女の子が現れる。
同じように息を吸い込み、二人は同時に口を開いた。
ピイイイイイイイイイイイイ!
耳鳴りにアスカは顔をしかめた、みな耳を塞ぐ。
一面を埋めつくしかけている溶岩、その表面が波立った。
同時に、壁一面に亀裂が走る。
ゴウン!
大きな音をたてて、亀裂からお湯が流れだした。
その勢いは徐々に増し、亀裂を広め、壁を突き崩す。
ますます吹き出したお湯は、蒸気で洞窟を満たしはじめた。
「あついですぅ!」
「蒸し焼きになっちゃうよぉ!」
ミズホとツバサの悲鳴にリキがうなずいた。
加持は気絶している出雲を担ぐ。
「あの抜け道はまだ使えるな、行こう」
レイとリキが壁で溶岩を押しのけた。
それから地上に出るまでの十数分、一行は息をつく間もなく、走りつづけた。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
Q'はGenesis Qのnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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