Episode:6A





 それは過去として忘れ去られたはずの物語だった。
 男の足元にナイフがつき刺さる。
 それを引き抜こうとして足を踏み出した、カチリ、何かの音、地雷のスイッチ。
「ま、待ってくれ!」
 髭面、30に手が届くかどうかというところだろうか?、男は懇願した。
 暗い森の中、時折樹々の葉の合間をすり抜けて、月明かりが落ちていた。
 その光に一瞬だけ姿が浮かぶ、加持リョウジは振り返った。
 今より若い、20代前半といったところだろうか?
「世の中には二つ、判断すべきことがある、やって良い事と、悪いことだ、お前はそのラインを踏み越えた」
 生と死すら等しく見るような、裁くものの目。
「決闘じゃなかったのか!、はめやがって…」
「あいにくと、うぬぼれるほど強くも無いんでね」
 加持は再び歩みだした、森の中へと消えて行く。
「嵐へと導くのがお前のやり方か!」
 叫びは加持に届いているのだろうか?
「いいだろうSteersman!、貴様が目指す先に安息などないということを覚えておけ、この俺が必ず地獄を作り出してやる、必ずだ、覚えておけよ!」
 その直後、轟音が轟き、赤い火柱が上がった。
 むくりと起き上がる。
「夢…か……」
 男はふけていた、あれから5年は過ぎている。
 山の中にキャンプを張っていた、もう一つ越せば第三新東京市が一望できるだろう。
「なるほど、長いものに巻かれれば、それなりの安息は手に入れられるか?」
 くくくっと不気味な笑い声を漏らす。
 顔の半分は火傷に被われていた、禿頭が赤黒く変色している。
「地獄を作り出してやるぞ、この俺がな」
 男は誓った、月は赤く、まるで男の誓いに答えているようだった。




第六話

数多の星より大切な…





 穏やかな春の陽射しに、シンジは心地好さを覚えていた。
 180近い身長、桜の枝にやすやすと手が届く、軽く花びらに触れて楽しんでいた。
 桜吹雪の向こうから、誰かが近づいてくる、誰だろう?
 鼓動の高まりを感じる。
 シンジはたまらなくなって駆け出していた、ガマンができない。
「−−−−−−−!」
 何を叫んだのか、自分でもわからなかった。
 両手で抱き留められる瞬間、名前を呼ぶ声にはっとする。
「シンジ!」
 ケンスケだ。
なんでやねーん!
 シンジは勢いよく飛び起きた。


「うー…、やな夢見たなぁ…」
 シャコシャコと歯ブラシを動かしながらリビングを覗いてみる。
「おはよ〜シンちゃん」
 レイは寝っころがり、仰向けになったまま首だけ動かしてシンジに挨拶した。
 その口にはせんべいが挟まっている。
「おはよう、あれ?、レイだけ?」
「うん、お父さまとお母さまは新年の挨拶に行ってくるって」
 TVは正月三ヶ日に放映された番組の再放送を流している。
「アスカとミズホは?」
「髪切ってくるって、晴れ着着た時に髪もセットしたでしょ?、あれで枝毛が増えたとか言ってた」
「ふ〜ん…」
 シンジは口をゆすぐため、洗面所に戻ろうとする。
 そして何気なく…
「じゃあ今日は二人っきりかぁ」
 と漏らしてしまった。
 言ってから「しまった!」と気がついた。
 走ろうとするシンジ。
 それをカニ挟みで阻止するレイ。
「シンちゃんデートしよう!」
 しっかり挟んで離さない。
「だだだだだ、ダメだよ、そんなことしたらアスカとミズホに何されるかわかんないよ!」
 モロに本音。
「シンちゃん…、あたしと二人っきり…、嫌?」
 すねてみせる、うつむき加減に、上目使い。
「嫌じゃないよ、嫌じゃないけど、初詣の時だって「誰のために髪セットしたり、晴れ着着たりしてると思ってるのよ!」って怒られたんだもん、今度は何を言われるかわからないじゃないか!」
「いいなぁ、髪が長いだけで、得しちゃうんだ…」
 いつもと雰囲気が違う。
「れ、レイ?」
 そっぽを向く。
「どうせお母さまに切ってもらってる程度の髪ですよ〜だ、晴れ着だってあわないから我慢したんだもん、ホントは着たかったけど、アスカとミズホが誉められて、嬉しそうにしてるの見ても、無理に笑ってて…我慢したのに…、あ〜あ、あたしも髪伸ばそうかなぁ……」
 最後の言葉はつまっていた。
「いいんだ、どうせアスカたちみたいに…」
「そんなの関係ないよ!」
 朝っぱらから叫ぶ。
「レイはレイじゃないか、どんな髪型してたって関係ないよ、けど僕は今のレイの髪、似合ってると思うし…」
「ほんと?髪…、長い方が好きじゃない?」
「…わかんないよ、でもレイはそのままで十分可愛いとおもう…」
「えっ!?」
 あっと、シンジは口元をおさえた。
「あ、いや、えっと、その、だ、だから僕は今のままのレイの方が好きだなって、ええっと、その、なんて言ったら良いのか…」
 自爆しまくる。
 くるかな?っと身がまえたが、珍しくレイは動かなかった。
「うれしい…」
 感極まって、顔を伏せている。
「レイ?」
 シンジは泣いてるのかと思って、近寄った。
「シンちゃん!」
「わあっ!」
 腰に抱きつかれる。
「やっぱりデートしよう!、ばれないようにすればいいんだから!」
「だめだよそんなの!、あの二人に隠しとおせるわけないじゃないか!」
 ことシンジのこととなると、作為的ともいえる偶然の導きを受ける二人である。
「好きって言った…」
 口を尖らせる。
「好きって言った…」
「そ、それは…髪型の話で…」
「好きって言った…、嘘つくの?」
「嘘じゃないけど…」
「じゃあ証明してよね♪」
 やはり逃げられないらしい、シンジは大きく肩を落とした。
「どうか、アスカたちにはバレませんように…」
「大丈夫、バレなきゃ良いのよ♪」
 悪寒を感じるシンジだった。





「しかしなぁ、そうそうおらんもんやで、あきらめようや」
「何言ってんだよ、これはチャンスじゃないか」
 ケンスケとトウジはG・Front前の道端で座りこんでいた。
「そやけどなぁ」
「お、あれ綾波じゃないか、おーい綾波ぃ!」
 駆け出すケンスケに、トウジはやれやれと腰を上げた。
 一瞬逃げだすそぶりを見せるレイ、だが思い直したのか、振り向いた。
 首を傾げながらも、ケンスケはその点を追求しなかった。
 できなかったと言ったが正しいかもしれない、レイと腕を組んでいる少女に目を奪われてしまったからだ。
 レイと同じくらいの背丈で、ラフなトレーナーに迷彩のジャケット、アーミーパンツと底の厚いトレッキングブーツといったいでたち。
 髪は長いロングストレートで艶のある黒、これまた迷彩の帽子を、前後逆に被っていた。
 シャギーをかけているせいだろう、頬が隠れていて、線が細く見える。
 腕を組まれて引っ張られているような感じ、困ったような表情に、ケンスケは何かを感じた。
「相田君に鈴原君、どうしたの?」
 話しだすレイの後ろに隠れ、女の子は恥ずかしげに帽子の前後を正し、目深に被って顔を隠した
「このバカがまた、いらんこと考えつきよってな」
 なんだよーと肘でつつくケンスケ。
「そ、その子、誰?」
 真っ赤に紅潮してるケンスケ。
「この子?って…、えっと、キィって言うの」
「キィ…」
 どことなく覚えのある雰囲気。
「前に会ったことある?」
「ななななな、無いよ!」
 やたら強く言いきる。
「どないしたんやシ…」
 バレてる!?
 キィと命名された少女は、冷や汗を流してトウジの口を塞いだ。
「みんな出かけちゃってて、家に居てもしょうがないから出てきたの」
 レイが答えた。
「なんだよトウジ、知り合いか?」
 ジト目のケンスケ。
 はーんっと、したり顔でトウジはキィとレイを見た。
「綾波の親戚や、この間シンジの家でおうて、名前だけしっとる」
 な〜綾波ぃっと、トウジはレイにウィンクしてみせた。
 うんうんっとうなずくレイ。
「トウ!…ジ君」
「なんやぁ、キィさん」
 もう言うまでもないだろう、キィ=シンジは、思いっきりトウジを睨みつけた。
「ふうん…、いいのかトウジ、委員長に言いつけるぞ?」
「なにをや、なにをいいつけるいうねん!」
 ケンスケに食ってかかる。
「この後に及んでまだとぼけるのかよ」
 処置なしっと、ため息をつく。
「それよりキィさん!」
「な、なんですか?」
 シンジは思った。
 これはバレてないと。
 引きつるシンジ。
「あのさっ、歌、歌ってみない!?」
 思わず手を握ってしまうケンスケ。
「わっ!」
「あ、ごめん!」
 ケンスケは赤くなって手を引っ込めた。
 柔らかくて細い指をしてるんだな…
 顔を伏せるキィを、照れているんだと解釈する。
「実は…、って、話だけでも聞いて欲しいんだ、奢るからさ、ちょっとその辺の店にでも…」
「でも…」
「奢ってくれるの!?」
 逃げ腰のシンジを押しのける。
「ああ、もちろん!、だから綾波からも頼んでくれよ」
「ラッキー!、行こうっ、シ…じゃなかった、キィ!」
「これも運命や、あきらめい」
 結託する食欲魔神だち。
「楽しんでるだろ?」
 シンジはぼそっと呟いた。
 その呟きにニヤリと返したのはトウジだけだったが。






「どうして僕はこんなカッコでこんなところにいるんだろう?」
 シンジは自問自答してみた。
 G・Front近くの公園には、野外音楽堂ともいえるステージがあった、もちろん、観客は入ってもせいぜい百人とちょっとが限界の、小さな音楽堂だったが。
 今も無名のアマチュアバンドがオリジナル曲を演奏している、それを見ている四人。
「実はこの間出した渚の写真集が売れてさぁ、…あ、渚って、俺達の同級生なんだけど」
「知ってる」
「え?、会ったことあるの?」
「ああ、わしが写真集見せたんや」
 トウジがフォローを入れた。
「ふうん…、でさ、某有名プロダクション…としか言えなんだけど、それを見た人がいて、カヲルに曲出さないかって話がきてさ」
「んで、どうせならデュオにしようや言い出してな、ほんま、えらい迷惑やで」
 うるさいな〜っとケンスケ。
「それでどうかな?」
「どうって…?」
「やってみない?」
「ぼぼぼぼぼぼ、ぼく!?」
「そう!」
 やたら自信満々に。
「そのルックスにちょっと聞く分には男の子とも女の子ともつかないハスキーボイス、ちょっと身長は高めだけど…、カヲルも中性的だからさ、絶対合うとおもうんだ!」
「だめだよっ、そんなの無理に決まってるじゃないか!」
「どうしてそんな風に思うのさ?」
 顔を伏せるケンスケ。
「だって、なんだよそのルックスがどうとかって…」
「鏡見たことないの!?」
 心底驚いた風を装う。
「いい?、そこにいる綾波だって、第一中学、いや第三新東京市全域でも五本の指に入る美少女なんだぜ?」
 あいやーっと、嬉しがるレイ。
 ちなみに後二本には確実にアスカとミズホが入ってくる。
「はっきり言って、負けてないよ、…この俺がチェックしてなかったなんて恥だってぐらいさ、この街の女子中高生については、裏完全読本作成したぐらいだからね」
 そんな事までやってたのか。
「だからやってみようよ、自信持っていけるって!」
 再び手を握る。
「ご、ごめん、俺興奮すると自制効かなくて…、あジュース買って来るよ、ジュース!」
 シンジにしゃべらせる隙を与えない。
「行っちゃった…」
「ホンマに気がついとらんようやで、あいつ…」
「どうしよう、言い辛くなっちゃったね、ホントのこと…」
 トウジとレイが視線を合わせた、お互いにうなずきあい、シンジの肩を同時に叩く。
「ま、そういうわけや、シンジ」
「なにがさ?」
「ごめんねシンちゃん」
「だから何が?」
 トウジはふうっとため息をついた。
「後はお前らの問題や」
「そうよ、ちゃんと断るのよシンちゃん」
「あ、ちょっとどこ行くのさ?」
 二人同時に立ち上がった。
「わしら、様子見させてもらうわ」
「ああっ、僕に全部押し付ける気だな!」
 酷いや!
「これも試練よシンちゃん、自分の口からはっきり言うの」
「元々レイがこんなカッコさせたんじゃないかあっ!」
 レイは耳を塞いだ。
「じゃあワシら隠れるよって」
「バレないようにね、シンちゃん」
「ばかー!」
 シンジの叫びは届かなかった。






「んで、なんでシンジはあんなカッコをしとったんや?」
「アスカたちにバレるのが嫌だって言うから…」
 そんなわけで(どんなわけで?)、シンジはG・Frontまで引っ張られたのだ。


「ねぇ、どこいくの?」
 不安そうにシンジ。
「いいとこ♪、最近できたお店なんだけどね、おもしろいの、ほらあそこ」
 レイが指差したところはG・Frontの周りにある商店の一つだった、表からはカジュアル製品の店にしか見えない。
「なんだ、普通の店じゃないか…」
 レイはこそっと隠れ笑む。
「ほら、入って入って!」
「わかったよぉ…、うわ!」
「あ、ごめんなさい…」
 野太い謝罪の声。
 ぶつかったことを謝ると、その骨太な女はシンジをよけて出ていった。
「い、今の人、顎にひ、髭が」
 あうあうあうあうあうっとシンジ。
 だがレイは落ち着いた様子でそんなシンジを楽しんでいる。
 サーっと血の気が引くシンジ。
「ぼ、僕帰るよ!」
「だーめ」
 事態が緊迫する。
 レイは引きずるようにシンジを連れ込んだ。


「…とまあ、そんな感じ」
 さすがにトウジも呆れてる。
「で、シンジはホンマに騙せるおもうとったんか?」
「全然」
 ちょっとシンジを哀れに思うトウジだった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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