Episode:6B





「それで、第二次警戒ラインはどうなっている?」
「現在復旧作業中、…こりゃあ酷い、メインコンピューターを取り巻くようにウィルスが展開しています、ワクチンの完成は2時間後を予定」
「赤木博士に協力を要請しろ」
 NERV指揮所で冬月は次々と送られてくる報告に頭を悩ませていた。
「碇…」
「ああ、人的、機械的な防御どころかコンピューターまで同時攻撃されるとはな」
「彼らか!?」
「いや…」
 いつもと変らぬファイティングポーズ。
 何か確信めいたものを持っているゲンドウ。
「あの子達ではないよ、それに目的も子供達ではないな」
「では何かね?」
「…コマにも過去がある、だからこそ現在もある」
「気をそらせるために他のコマを狙うのも、一つの手ではないかね?」
 将棋に例えてみる。
「そうやって迷いを生じさせる方法もあるだろう?」
「…正面から入れば問題はない、わざわざ山を越えたのは」
「武器の持ち込みか!」
 危険を犯してまで持ち込む理由。
「武器も戦利品も持たないのなら街を出ることは可能だろう、なら目的はこの街を戦場と見たてての何かだな」
「これ程のことを成し遂げられるものが狙うなにか?、破壊でなければ後は人、個人か」
 ゲンドウは赤い電話を取りだした。
「連絡するのか?」
「ああ…、鈴は付けてこそ意味がある」
 鈴が鳴っても、ゼーレのセキュリティーでは相手にならんだろう。
 冬月はかろうじてその言葉を飲みこんだ。






「とにかくさ、渚に会うだけでも頼むよ、ね?」
 押し切られる形になったシンジ、だがシンジにも甘い希望があった。
 カヲル君なら助けてくれるかも!
 そう思えばこそ、ジュースを両手で持ち、コクコクと飲んで暇を潰していたのだ。
「渚ぁ!、こっちだよ」
「やあ、遅くなってごめん」
 いつにも増してキメてるカヲル。
 黒を基調に、スーツとコート。
 胸元には金のチェーンが見えていた。
「まあ女の子に会うのなら当然の身だしなみだろ?」
 ケンスケは改めて自分の服装をチェックしてみた。
 たしかに、これで女の子を引っかけるのは無理に思われる。
「綾波がぶらついてくれてて助かったな」
 それはひとまず置いといて。
「渚、こっちがキィさんだよ」
「やあ…?」
 カヲルはおやっと微笑みを崩しかけた。
「こ、こんにちわ」
 シンジも口元が引きつっていると自覚する。
 合わせて、カヲル。
 レイの言葉が直接頭に聞こえた。
「どうだい、この子ならばっちりだろ?」
 得意満面にケンスケ。
「そうだね」
 肩透かしを食らった、いつもの皮肉が来なかったからだ。
「僕には無理だっていってるんだけど…」
「女の子が僕なんて言ってちゃダメだよ」
 くすくすとカヲル。
「ぜひともお相手願うよ、キィちゃん」
 両手を取るカヲル。
「か、カヲル君!」
 小声でシンジ。
「だめだよ、相田君に気づかれるよ?」
 耳元で囁く。
「なんだよ、シンジ以外を気にかけるなんて珍しいじゃないか…」
「僕だってこれ程可愛い子を目の前にすればね?」
 シンジの首筋にキスマークをつける。
「か、かかかかか、カヲル君!?」
「渚っ、なにすんだよ!」
 焦るシンジを庇うように、ケンスケはカヲルを突き飛ばした。
「コミュニケーションだよ、やだなぁ」
「いきすぎだろ?、みろ、キィさん困ってるじゃないか」
 耳まで真っ赤だ。
「悪かったね、キィちゃん」
「あ、いや、別に、そんな…」
 うつむく。
 ケンスケはその照れてる態度に、何故かガマンができなかった。
「行こうっ、あっちで詳しい話をするから!」
 いそいそとケンスケ。
 カヲルは遠くで隠れ見ているレイに向かって、やれやれと肩をすくめてみせた。
「おホモだち志望が、なにやってるのよ…、シンちゃんもシンちゃんだわ!」
 レイの怒りは、カヲルに向かわずシンジに矛先を定めた。
 トウジはもう、成り行きを見守ることに決めていた。






「いっちばん綾波レイ、komm,susser Todいきま〜す!」
 いち早くマイクを奪って歌いはじめるレイ。
 トウジは何を注文するか、メニューを開いていた。
 ここはカラオケボックスだ。
「でさ、何を歌うかなんだけど…」
 ケンスケが備え付けのモニターに自分のカメラを繋いで、何かを流しはじめる。
 いきなりレイとシンジが抱き合っているシーン。
「悪い、間違えた!」
 カヲルの表情に慌てるケンスケ。
「こっちこっち…」
 今度は”あの”ライブ終了間際だ。
 カメラはシンジを捕らえていた。
「これだよ、これ」
 沸き上がる聴衆を無視するように、シンジは一人何かの曲を弾きがたっていた。
「ぴんときたね、シンジに楽譜書かせて、適当に歌詞をつけてさ…」
「いや、歌詞はあるよ」
 神妙な顔のカヲル。
「それにこの曲はヤバいな」
 ただ一人、大人が混ざっていた。
「どうしてです、タタキさん!」
 細面、ヤクザ風の男だった、敏腕…とは言えないまでも、それなりに実績のあるプロデューサーだ。
 彼こそ、ケンスケに入れ知恵した本人であった。
「何だ知らないのか?」
 そう言ってディスクを放る。
「映して見ろよ」
 納得いかないまま、ケンスケはディスクを入れ替えた。
「では香港からおこしの正統派アイドル、二人の天使、マイとメイに拍手をどうぞー!」
 なにぃっと振り返るレイ。
 カヲルも険しい顔つきに変った。
 番組の司会者は広東語で話していた。
「あの子…」
 シンジは三年生になるほんの少し前の出来事を思いかえした。
 電車の中であった子だ。
「あれ?、これ…」
 マイばかりが話しまくり、メイは対照的に黙り込んで寄り添っているだけだった。
 困った司会者が強引に曲へと進ませる。
「月の歌の…」
 フレーズ。
「いや俺も驚いたよ、驚いたけどな、先に発表しちまったもんの勝ちだからな」
 肩をすくめるタタキ。
「ちぇっ、じゃあ他の歌で考えるしかないか」
 ピザにがっついているトウジを残して、キィのカッコをしたシンジとレイ、カヲルが黙り込んでいるのに気がついた。
「なんだよ、みんな…」
 三者三様の顔、困惑、動揺、嫌悪、ケンスケはどれ一つ取っても穏便なものがないと気になった。
「なんでもないわ…、これ、どこの放送なんですか?」
「香港だよ、鳴り物入りでね、年末辺りからネット中心にばらまかれてた歌で、誰の歌なのか話題になってたんだが…、まさかこんな子供だったとはなぁ」
 ぽりぽりと頭をかく。
「その上、このライブで観客一千人中、八百人が倒れたってんだから、信じ難いよ」
「八百人!?、…カヲル」
「マイだってことが問題だね」
 カヲルは画面から目を離さない。
「タタキさん、お願いがある」
 カヲルはマイを睨んだまま立ち上がった。
「僕とシ…キィちゃんでこの歌を歌いたい、商業とは関係なく」
「おいおい、何を考えてるんだよ」
 カヲルはケンスケを見据えた、いつも以上に血の色を強くしている瞳で。
「この子は必ず来るよ、この街に、その時のためにも、同じ曲で超えたい」
「渚…」
「無理だな」
 タタキはタバコに火をつけて、くゆらせた。
「あのバンド、あの面子でのあの歌は凄かった、それは認めるが、その娘に同じことができるのか?」
 タタキはシンジを指した。
「ぼ、ぼくに…」
「できます、きっと!」
 代わりにケンスケが叫んだ。
「おいおい…」
「キィさんを見た時、何かを感じたんだ、探してたのはきっとこの子だって、誰彼かまわず声をかけてたわけじゃないんだ、この子ならきっとって、期待感を持てそうな子を探してたんだ、その期待に答えてくれそうな感じを持ってたのは、キィさんだけだったんだ!」
 半ば一人の世界に入りかけてる。
「やけに入れこんでるな」
「もちろん!、KAWORUが第一作目なら、いわばこれはケンスケプロデュースのニ作目なんだ、こんなに早くけちつけられて、挫折するつもりは無いよ」
 ふんっと力を入れる。
「まあ、正月明けの話題としては面白いか…」
 正月三ヶ日を過ぎれば再放送ばかりで、テレビはお茶にごし的なものになる。
「そこに放り込めば視聴率は稼げるな」
 タタキはぼうっとしたまま、頭だけをフル回転させた。
「キィ、歌おうよ」
「え?、あ、うん…」
 レイは気分直しに手を引いて、無理矢理マイクを持たせた。
 カヲル、ちょっと手伝って。
 声に出さないで伝える。
 シンジはしょうがないと、IN THE NIGHTをリクエストした。
「透き通るくらい、愛おしい全てが…♪」
 かなりキーの高い歌にも関らず、すらすらと歌い上げるシンジ。
「ほお…」
 タタキはその声に戻ってきた。
「だがこの程度なら…」
 レイはカヲルにうなずいた、二人はお互いの意志を確認しあうと、気づかれない程度に壁を展開する。
 やけくそ気味に歌っているシンジに、壁で触れる。
 シンジは何か穏やかなものに触れた気がした、それだけで声の質が高まる。
「……あちっ!」
 呆気に取られていたタタキは、短くなったタバコの熱で我を取り戻した。
「やっぱりね…」
 カヲルもうなずいた。
 触発されやすくなってる。
「キィさん…、泥沼やで」
 黙々と食べていたトウジの一言に、はっとするシンジ。
「あ、あの、盛り上がってるとこ悪いんだけど…」
 さすがにこれ以上流されているわけにはいかない。
「僕、まだやるって言ったわけじゃないんだけど…」
「往生際が悪いわよ、キィちゃん!」
「レイ、忘れたの?」
 シンジはこそこそとズボンをつまんで強調した。
 あっ!っとレイ。
 …レンタルだった。
 ウィッグはもちろん、服も体のラインが出ないようレイがレンタルしたのだ。
「ごっめーん、この子期間限定なんだった」
 てへっと舌を出してごまかす。
「何だよ期間限定って」
 眉を曇らせるケンスケ。
「この子、この街に住んでるわけじゃないからさぁ」
「今…、四時か」
 唐突にタタキ。
「今日はまだいいんだろ?」
 シンジにではなく、レイに聞く。
「は、はい…」
 シンジはレイの後ろで「バレてないバレてない」と思い込みチョパムアーマーを着込んでいた。
 にやっとタタキ。
「相田…、七時までに第三新東京市のミーハーどもを巻き込めるか?」
「も、もちろんですよ!」
 身を乗り出すケンスケ。
「ネット仲間を使って噂をばらまきます、その後関係各方面に意味ありげな広告ばらまいて、二時間あれば十分ですよ!」
 大口を叩いてみせた。
「反対する理由はないな、やろうか、相田」
 タタキの目が鋭く眼光を放った。
 射すくめられるシンジ。
「正体不明のアイドル、それも一晩限りで消え去るのなら面白いじゃねぇか」
 ヤッパリバレてるじゃないか!
 なぜケンスケだけが気づいてくれないのか、シンジは頭を抱えたかった。






「なにこれ?」
 マイがその広告を見たのは、シンジたちがカラオケボックスから出てわずか30分後のことだった。
「第三新東京市立第一中学校が誇る美少年、渚カヲルと謎の美少女キィによるユニット結成の噂あり?」
 後はあのバンドフェスティバルで噂になったなんとかだとか、どうとか。
「きゃははははは、カヲルがデビューするんだって、もしかしてあたしがテレビに出たからかなぁ?」
「ばーか、それぐらいでカヲルが動くわけないじゃん、秘密はこのキィってのにあると見たね」
 ふふんと顎に手をやるツバサ。
「カヲルの彼女かなぁ?」
「んなわけないって、カヲルはあのシンジってのに夢中なんだろ?」
「でも秘密があるよね、きっと」
 うずうずしてる二人。
 暇つぶしにネットに潜っていて偶然発見した広告だった、そこら中のページに張られている。
 仲間たちは甲斐と共に何処かへ出かけていた。
「この間ので疲れただろうって、おしこまれてもなぁ」
「暇だよねー、あんなの簡単だったし」
「きっとみんな、何か楽しい事して遊んでるんだろうなぁー」
「やーもぉ、暇暇暇暇暇だよぉ!」
 まるっきり、だだっこのそれだった。
「みんな早く帰ってこないかなぁ、そうしたら邪魔しに行かせてってお願いするのに」
 そうだねっとツバサもうなずいた。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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