Episode:6D
「大佐…、松沢夏樹、生きていたのか」
加持は車の中からシンジたちが登るはずの舞台を見ていた。
手元のラップトップパソコンには、ケンスケのばらまいたキィに関する情報の最終バージョンが映し出されている。
写真を拡大して、キィではなくその背後に小さく写っている少年を見る。
カヲルだ。
「穏やかだった波は、あらぶれる前兆だったというわけだな?」
Steersmanは、久しぶりの緊張感を味わっていた。
「あっつ!」
意識を取り戻した加持は、まず痛みに言葉を失った。
もう5年近く前の話、ミサトと別れて一人でいることに慣れた頃だ。
加持はベトナムの奥地にいた。
「起きた?」
浅黒い肌をした少年だった。
「助けてくれたのかい?」
「どうかな?、僕も病気持ちだからね、運が悪かったらうつるかも」
そう言って右腕を見せた。
紫色の斑点。
「このとおりさ」
加持は慌てなかった。
「そうか…、ハン研究室を知ってるね?」
がしゃん!っと何かを落とす音が聞こえた、首をめぐらすと、銃を構えている少年。
「良い人だと思ったのに」
「悪い人ではないさ」
少年は深呼吸すると銃を降ろした。
「君を迎えに来た」
「戻りたくない」
首を振る。
「違う、別の街で暮らすんだよ」
「街?」
「そうだ、日本に作られている第三新東京市、きっと安心して暮らせるさ」
タバコに火をつける。
「大佐、あの子の最後の言葉、伝えないとな」
ミサトが少年達の夢に悩まされているように、加持もまた多くの少年達の無念さを抱いていた。
●
「そうだね、あれこれと考えるのはやめにするよ」
カヲルはシンジを呼んだ。
「なに?…って、ああっ、あのその」
あうあうとアスカとミズホにバレないよう、髪で顔を隠そうとする。
「なにやってんの、もうバレてんのよ」
あうーっとレイを恨めしげに見る。
「シンちゃん、私たちが前座で出るから、シンちゃんはメインで頑張って、いいわね?」
意味不明な決意に満ち満ちている。
「足をくじいたのなら膝で這う!、膝をくじいたら肘で這ってでもいく!、それぐらいの気概がないの?、あんたには!」
「こんなカッコでそんなものあるわけないよぉ」
ミズホがいそいそと三つ編みにしていく。
「おーい、惣流、言われた通り前説ついでに出られることになったぞぉ」
ケンスケだ。
「行くわよ、レイ」
「うん、じゃあねシンちゃん、カヲル、あと頼むわ」
「ああ、わかってるよ」
といって、シンジを後ろから抱きすくめる。
「カヲっ……」
遠くからアスカの靴が飛んできた、それは狙い違わずカヲルの鼻面に。
「ナイスだよ、アスカちゃん」
鼻血が垂れている。
「ああっ、これから舞台なのに!」
「大丈夫だよ」
カヲルはうつむくと、髪をかき上げ顔を上げた。
「ほらね」
痣ごと消えていた。
「化け物が…」
アスカの呟きは届かなかない。
「あ、そうだ、レイ、ミズホ、後で人気投票してもらおうよ」
「えー?、どうしてぇ?」
「そんなの恥ずかしいですぅ」
特にミズホは嫌がった。
「いいじゃない、どうせシンジ以外のランク付けなんて意味無いんだしさ」
かなり気楽そうに。
「勝った人には欲しいものを上げるってことで、いいよね?」
「はい!」
レイの声はミズホの返事にかき消された。
その横で三人を案内していたケンスケの眼鏡が光る。
とてもとても妖しく。
気がついたのは遠くにいたシンジだけだった。
「なんだろう、異様なオーラが見えた気がする」
ニュータイプ的直感力を発揮するシンジであった。
●
時刻は11時5分前、シンジの着ている服は今夜1時までに返却しなければいけない。
「放送が11時半から5分間だから…、十分店までは戻れるかな?」
レイはアスカ、ミズホと舞台に上がった。
「えっとー、ごめんねぇ、放送までちょっと間があるのでぇ、テストがてら歌っていいってことになったんですぅ」
「歌ってもいいかなぁ?」
うおおおおおおおおおおおおっ!っと歓声が上がった。
「ありがとですぅ」
小さく手を振るミズホ。
カヲルが参加したバンドの仲間だと誰かが言い出した。
話はマイクテストが終わるまでに、全てのギャラリーに伝わっていく。
観客の中からはいだすケンスケ。
「ここはこれで良しっと」
呆れた目で見つけるシンジ。
「何やってんの」
「あ、いや、これは!」
冷や汗を流すケンスケ。
「それより早く準備しなよ」
ケンスケはごまかすように手を取って走りだした。
「顔はバレてるんだ、あんなとこにいたらマズイって」
シンジはケンスケの高揚ぶりにとまどう。
「どうしてそんなに熱くなってるの?」
ケンスケは意外そうに振り向いた。
「キィさんはどうなんだよ?」
「ぼく!?、僕は…」
ケンスケは腰に手を当てて胸を張った。
「見ろよあれ、あの熱狂ぶり、俺が全部やった事なんだぜ?、俺でもこれだけのことができるんだ、凄いと思うだろ?」
シンジの胸元に指を突きつける。
「けどもっと、俺の本気を見て欲しいんだ!、色んな人にね、キィさんだってそうだよ、きっと俺以上のことができるさ」
「でもこれじゃあ、僕が失敗したら共倒れになるんじゃ…」
「なんだかシンジに似てるなぁ」
ドキッとするシンジ。
「いっつもウジウジしてるんだけどさ、次から次へと美少女が言い寄ってくるんだぜ?、それなのに「僕は不幸だー!」って面してやがんの、不幸なのはこっちだっての」
ドキドキしてくるシンジ。
「俺なんて見向きもされないどころか嫌われものだしさ、ほんと羨ましいよなぁ」
「そんなことないよ!」
シンジは強く言い切る。
「ケンスケは尻込みばかりしてる僕のことを考えて、色々言ってくれたじゃないか!、人のことを考えられる人が、嫌われてたりするわけないよ!」
「キィさん…」
感動している。
「ケンスケはいつもトウジといてさ、女の子には近づかないから、機会が無かっただけだよ、きっと」
「いつもって…」
「ああっ、あのその、トウジとレイから聞いてたんだよ、それでどんな人なのかなぁって思ってたから」
「それって…」
勘違いしてる。
「と、とにかく僕はケンスケのこと好きだな、それじゃ!」
シンジは赤くなる顔をおさえて走った。
ケンスケの拳が震えている。
「やった…」
小さく呟いた。
「やったぞぉ!、僕にも春が来たんだぁ!」
勘違い男の爆走が始まった。
だがそのまま走っていったシンジは、10分前になっても消えたままだった。
●
「また、定番通りに…」
暗闇、ノクトビジョンごしに確認する、深夜の廊下。
TV局前の証券会社のビル、地上6階建て、その中で加持は銃を構え、屋上を目指していた。
「トラップは無しか」
一気に屋上に出る。
そこには中肉中背、禿頭で火傷まみれの男が下界を見下ろしていた。
「来たか」
「シンジ君!?」
ガムテープで口を塞がれ、足元に転がされている。
シンジはだからどうしてバレてしまうのだろうかと泣きたくなった。
「要求はなんだ?」
「要求?」
月を見上げる。
「誓ったのさ、あの月にな」
復讐を。
かなり芝居がかっていた。
加持は銃を放り捨てた。
「何のマネだ?」
「シンジ君を放せ」
馬鹿にした目で、加持を見る。
「お前の命なんざ欲しかねぇよ、拾え」
加持は言われた通りに銃を拾おうとした。
かちり…
足元、コンクリートの床がわずかに沈みこんだ。
「特製のマットだ、この暗闇じゃ区別がつかなかっただろ?」
苦々しく唇を噛む加持。
「ベトナムのお返しのつもりか?」
「子供一人のために部隊を見捨てやがって!」
吐き捨てた。
「見捨てるさ、あの子を売り飛ばそうなんて、狂った連中はな」
右足に集中する、離せば爆発するだろうから。
「離してもいいぞ?」
にやりと不気味な笑み。
「人真似じゃ芸がないからな」
「じゃあ、なんだ?」
1.5秒の間。
「特製ミサイルの発射スイッチだよ」
「まさか!」
加持はその男、松沢の向こうを見た、明るくライトアップされている舞台。
「そうだ、面白い趣向だろ?」
「小型ミサイルか…、よくこの街に持ち込めたものだな」
「ミサイルといっても5センチちょいの代物だ、まあ破壊力は十分だがな、信管は胃の中、ミサイル本体はケツに突っ込んで持ち込んだよ、念のためにな」
「そりゃまたえげつない手をつかうな…」
げっそりとする。
「他の武器は放棄せざるをえなかったがな、だがそのかいはあったぜ?」
高笑いを上げた。
「松沢…、スイカ、まだ好きか?」
唐突に加持。
「今はカレーの方が好みだな」
何を言い出すのかと興味を持つ。
「そりゃちょうど良いな、昔の俺に無くて、今はあるもの、知ってるか?」
何を考えているのか推し量ろうとする松沢。
「仲間だよ」
かち。
松沢の頭に銃口が押しつけられた、そして撃鉄が起される。
「おそいぞ葛城」
「ごっめーん、これでも急いできたんだから」
黒いラバースーツとベストに身を包んでいるミサト。
「ビルの壁面を登ってきたのか」
「そゆこと、じゃね♪」
ごんっとミサトはグリップで殴り、気絶させた。
すばやく拘束具で縛り上げる。
「シンジ君、早く行きなさい」
「はい!」
解放してもらったシンジは、何処から帰れば良いのか迷った。
「あ、あのミサト先生…」
「そこから行くのよ」
と屋上の端を指差した、自分のベストをつけさせる。
「ほうらいってこぉい!」
「うわああああああああああ!」
シンジはロープを必死で握りこんだ。
実はベストに降下用の調節器がついていて、それが安全に降ろしてくれるのだが、シンジには気がつく余裕がなかった。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
Q'はGenesis Qのnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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