Episode:6E
「松沢、お前が殺したあの子な、お前に殺してくれてありがとうって言ってたよ」
ミサトが引きずっていく前に、加持はミサトに聞かれないよう伝えた。
加持は屋上から舞台を見下ろした。
「がんばれよ、シンジ君」
本当の嵐はシンジと共にあると感じる加持だった。
●
「もう時間ないよ、こうなったらカヲルだけでも」
「だめだよ綾波、それじゃみんな納得しないよ」
ケンスケの危惧はもっともだった、ギャラリーはキィを見に来たのだ。
カヲルはじっと対面のビルを見ていた。
「やろう」
「でも!」
ケンスケは食い下がった。
「大丈夫、間に合ってくれるよ」
カヲルが舞台に上がろうとした時、タタキが息を切らせて走ってきた。
「マズイことになった」
「タタキさん!」
ケンスケはタタキの持つTVウォークマンを覗きこんだ。
「衛星での全世界同時放送だ」
月の歌を歌うマイとメイ。
「カヲル!」
レイは悲鳴に近い声で呼びかけた。
「あなた」
「ああ、わかっているよ、ユイ」
同じく舞台袖で放送を見ていたゲンドウは、冬月に連絡を取った。
「赤木博士に協力を頼め」
「しかし碇、それは」
「かまわん、冬月、頼むぞ」
ああ…っと、冬月は諦め気味の返事を返した。
「準備お願いしまーす!、1分前!」
カヲルは静かに舞台に上がった。
「カヲル!」
「レイ、任せて」
カヲルが舞台に上がった瞬間、舞台の、車の、テレビの、あらゆるメディアのスピーカーからマイとメイの月の歌が流れはじめた。
「ジュンイチか」
皆がその歌に引き込まれる。
何故か震えを覚えた。
「なあ、急に冷えこんでないか?」
誰かの呟きは、その場にいる全員が感じていたことだった。
カヲルはマイクを取る。
「いつまでも人のうた歌ってんじゃないわよ!」
アスカちゃん!?
さすがにカヲルも驚いた。
月の歌が流れていた全てのスピーカーからアスカの声が聞こえていた。
リツコがMAGIで割り込みをかけたのだ。
マイとメイも歌をやめたようだ。
「人の歌って、じゃあ誰の歌だって言うの?」
マイが挑発する。
「聞かせてあげるわ、これが本物よ!」
シ……ンっと、静寂に包まれた。
カヲルはゆっくりと歌いはじめた、だがマイとメイほど引き込めない。
ダメか!
ケンスケは諦めかけた。
だがカヲルの声に合わせるように、もう一つの声が重なった。
「キィさん!?」
人波を割ってシンジが歩いてきた、誰も邪魔しようとはせず、呆然とした様子で道を譲る。
心なしか光り輝いているように見えた、風と無関係に黒髪がふわりと揺れる。
カヲルはシンジの手を引いて舞台へ上げた。
「シンジ…」
シンジはゲンドウを見つけた、その隣にいるユイも。
ゲンドウが眼鏡を外した。
シンジはその目にあの夜のことを思い出した。
ゲンドウが歌ったように、懐かしく、温かく、そして素朴な、誰もが心に持っているメロディーを、声だけで織り成していく。
「勝ったな」
「はい」
ゲンドウの代わりにカメラを構えるユイだった。
●
「ケンスケ…」
「シンジか?、見てくれたか、すごかったろあの子、俺が見つけてきたんだぜ?」
駐車場はすっかり舞台を片付けられ、ギャラリーの残したゴミだけが転がっていた。
それも明日になれば清掃され、このお祭り騒ぎの痕跡は何も無くなってしまうだろう。
「キィさん、どこ行っちゃったんだろう?」
「夜行で帰るって、レイが連れてったみたい」
その嘘にシンジは少しだけ胸が痛んだ。
二人並んで座る。
「そっか、また会えるかな?」
シンジは答えられない。
「シンジに似た子だったよ、ずっと美人だったけどな」
「そっか…」
複雑な心境のシンジ、その手に温かいものが触れた。
「けけけけけ、ケンスケ!?」
ケンスケが手を握ってくる。
「ちょっと、こうしててもいいだろ?」
どひぃーーーーーーーーーっと、冷や汗がだらだら流れだした。
「…」
「……」
無言の数十秒。
「なんか、渚の気持ちがわかるような気がするな」
シンジは慌てて逃げ出そうとした。
「シンジっ、その胸で泣かせてくれー!」
「寝ぼけんなー!」
どこからか現れたアスカはケンスケを蹴り飛ばした。
「ケンスケ〜!」
月に浮かぶケンスケの影。
「ああ、それは僕の役なのに」
ちょっぴり寂しそうなカヲルだった。
続く
[BACK][TOP][notice]
新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
Q'はGenesis Qのnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
内容の一部及び全部の引用・転載・加筆その他の行為には
作者である私と原作者naryさんの許可または承認が必要です、ご了承ください。
本元Genesis Qへ>Genesis Q