Episode:7D





「なによ、なんなのよこれ!」
 謎のメールが届いていた。
「調理実習に勝利して、碇シンジと舞台を見よう!」
 やってくれたわね相田ケンスケ!
 教室にケンスケの姿は無い。
 アスカは女子を見回した。
 半数以上が目をふせるなり、視線をそらすなりする。
「いいわ、敵ばっかりというわけね」
 最大のライバルである二人の姿が見えない。
「レイとミズホ、調理実習室にいるんだって」
 ヒカリが話を拾ってくる。
「ふ〜ん」
 シンジの様子から、シンジはメールの存在を知らないらしい。
「いいの?、アスカは何もしなくても」
「いいのよ、でも様子見てくるわ、あ、シンジはここで待っててね?」
 がら、ぴしゃん!
 出て行くアスカ。
「碇君!」
 立ち上がる女子達。
 がら!
 戸を開けるアスカ。
 固まる女子一同。
「……、シンジ、やっぱり来なさい」
 ちっ!
 女子は残念そうに、男子は怨念をこめて漏らした。






「中華は火力!、速さが命ぃ!!」
「愛情アイジョウあいじょう〜!」
 がこがこと中華鍋に空揚げを放り込んで炒めているレイ。
 ミズホは一生懸命米をといでいた。
「何やってんの?」
「こうやって余分な油を飛ばすのよ、知らない?」
 アスカが聞きたかったのは、巨大なセイロと部屋の隅で煙を吐いている段ボール箱のことだった。
「あれ?、あれはね?」
 人差し指を立てる。
「ひ・み・つ・☆」
「ひみつって…、いいけど、どうしてお弁当なのに中華なのよ」
「火と鍋と醤(ジャン)があるかぎり、どこでも中華は作れるもの」
 ウィンク。
「中華って、応用範囲が大きいのよ?」
 レイはセイロから肉まんを取りだした。
 シンジはミズホを見る。
「へへ、へへへ、へへ…」
 頬を上気させて、あらぬ方向を見ている。
「お米…カドが無くなってる」
 不安げなシンジ。
 それにしても…と思うことがある。
 三角巾にエプロン姿。
「まるで食堂のおばちゃんみたいだ」
「誰がですかぁ!って、…あれ?、シンジ様」
 こっち側に帰って来るミズホ。
「だめですシンジ様ぁ!、できあがってからのお楽しみなんですからぁ」
 シンジを押し出す。
「じゃ、お昼を楽しみにしててくださいね」
 シンジは教室を追い出された。






 光画部部室。
 机に肘をつき、顔の前で手と手を重ね、ファイティングポーズを取る。
 ケンスケは眼鏡を妖しく光らせた。
「まずいよケンスケ君、思ったよりガードが硬いようだ」
 窓から外を眺めているカヲル。
「なに、まだ第1手を打っただけだよ、まだまだこれからさ」
「それよりネズミが嗅ぎまわってるようだよ?」
「トウジにはせいぜいひっかき回してもらうさ、さあ行こうか渚、授業が始まる」
「そうだね」
 カヲルはいつもの皮肉るような笑みを浮かべていた。






「……そっか、シンジを抜きにしても、販売開始から1時間で売り切れた超プレミアムチケットだもんね、みんな欲しがるわけだ」
 不機嫌そうにアスカ、それはそれで面白くないらしい。
「ねぇ、思ったんだけど…」
 不安げに、レイは調理実習室を見回した。
「何人くらい、シンちゃんに食べてもらおうって考えてるのかなぁ?」
「知らないわよそんなこと」
 ぷいっとそっぽを向く。
「でもでもぉ、シンジ様のお腹が膨れちゃったら…」
 アスカもようやく事態に気がついた。


 ねぇ?、ちょっとこれ…
 うそ?、まじ?
 密やかに交わされる会話。
「碇シンジ、捕獲人員貸し出し中、詳しくは相田ケンスケまで」
 特定多数、主にアスカが「危険分子」として認定している女子相手に、電子メールを利用した広告が送り付けられていた。
「代金は手作りお弁当のおすそ分け」
 メールを打ち出した後、ケンスケは「みんなで幸せになろうよぉ、なあ?、シンジぃ」と、口元を歪めて笑っていた。


「どうも男連中の様子が変なんや」
 技術の授業中、トウジは電ノコを持ちながらシンジに語りかけた。
「みんな僕のことチラチラと見てるけど、関係あるのかな?」
 木材を削る音が、二人の会話を消してくれる。
「ケンスケがからんどるっちゅうのは、わかっとるんやけどな」
「よーし、そろそろ時間だ、片付けをはじめてくれ」
 へーいっと、飛ばした木屑をほうきで集めていると、シンジはまたも何人かに囲まれていた。
「な、なに?」
「あ?、別に何でもないけど」
 うそだ!、ニュータイプ的直感力と学習能力によって培った危機感が、脳裏でちかちかと危険信号を発していた。
「それじゃあ今日の授業はここまでだ」
 どっとシンジに群がってくる男子一同。
「トウジ、ごめん!」
 けりっ☆と蹴って、盾にした。
「なにすんねやー!」
 シンジは心の中で謝りながら、技術室から逃げ出した。


「それじゃみなさん、火の始末だけはちゃんとしてね?」
 はーいっと調理実習室。
 からからから、からからから。
「あー!、ぬけがけだぁ!!」
 クラスでも大人しくて目立たない子だっただけに油断した、そっと出て行く少女に、大声を上げたのは誰だったろう?
 それを皮切りに、ほぼ全員が駆け出していた。


 ケース1
「いかーりくん♪」
「あ、月城さん」
 わりと活発そうなネコ目の女の子で、よくアスカと張り合っているので覚えていた。
「どうしたの?、こんなところで」
 校舎裏の庭にある樹。
「知ってる?、ここで卒業式に愛を誓いあったもの同士って、絶対うまくいくんだって 」
「そうなの?」
「そう!、告白しちゃおっかなぁ、碇君に!」
「か、からかわないでよ!」
「あ、赤くなった、かわいー!」
 くすくすと笑う。
「お弁当食べに来たんだけど、碇君、お昼は?」
「ちょっと…、教室に戻りづらくて」
 ぐうっと鳴る。
「じゃあ、あたしのお弁当食べて見ない?、さっき作ったばかりだから、まだあったかいよ?」
「良いの?」
「作りすぎちゃったから…、家だったら冷蔵庫に放り込んでおけるんだけど」
「そうだね、弁当箱に詰め込める分だけ作るのって、無理だもんね」
 シンジは安心しておかずを何か貰おうとした。
「きゃっ!」
 空揚げにどこからか飛んできた爪楊枝がつき刺さる。
「シンジ様!、離れてください!!」
「ちっ!」
 窓から直接出てくるミズホ。
「碇君食べるのよ!」
「うわぁあ!」
 突き出された卵焼きを、シンジはとっさに避けてしまった。
「なんで避けるのよ!」
「食べさせません!」
 ミズホが飛びかかる、シンジはわけがわからないまま逃げだした。


 ケース2
 シンジは屋上に隠れていた。
「碇、どうしたんだよ、飯食わないのか?」
「秋山君」
 中華料理屋の息子だというぐらいしか知らない。
「みんなの様子がおかしくて、お弁当取りに行けないんだよ」
「ははぁ…、ケンスケが何かやってたからなぁ」
「らしいんだけどね…」
 たまにはうらみを晴らさなきゃっと、あとで報復しようと考える。
「しょうがねぇなぁ、飯、半分やろうか?」
 一人分にしてはやけに多い、いくつもの箱を広げる。
「う〜〜〜、いい加減我慢できないし、もらおうかなぁ」
 不可思議な匂いが食欲をそそり、胃を刺激する。
 なぜか逆らえずに、箸を伸ばしてしまうシンジ。
「だめよ!」
「レイ!?」
 階段をかけ上ってきたらしく、息を切らせている。
「碇!、早く食べろ!!」
「あ、秋山君!?」
 その形相にびびるシンジ。
「さては誰かに雇われたわね!」
「バレたか!」
 秋山が放った鉄串を手刀で落とす。
 二人ががっぷりよっつに組んだところを見計らって、シンジは脱兎のごとく逃げだした。


 ケース3
「おかしい…、絶対おかしい、ケンスケだけじゃなくて、なにか妖しいことが進行しているような気がする」
 シンジはぶつぶつと呟いた。
「せんせー!、碇が来ませんでしたかぁ?」
「さあ、見てないけど?」
 まさかマヤが嘘をつくはずが無いと、一同は大人しく職員室を後にした。
「いっちゃいました?」
「あ、隠れてたほうがいいわよ?」
 シンジは逆らわずに、マヤの足元、机の下で丸くなった。
 今日のマヤはスラックスだ、ちょっと残念なシンジ。
「このままじゃ、お昼食べられないんじゃない?」
「はあ…、たぶん」
「これ、食べる?」
 何気なくハンバーグ。
 一瞬視線が合う、マヤの口元の引きつりをシンジは見逃さなかった。
「もう、誰も信じられるもんかぁ!」
 窓から校庭に逃げだしていくシンジ。
「青春ねぇ…」
 ずずずっとお茶を飲み干しながら、ミサトは微笑ましくその背中を見送った。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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