Episode:7E





 ひっくひっくひっく…
 赤い髪の小さな女の子は、しゃくりあげながらお菓子を食べていた。
 楽しいはずの幼稚園の遠足、みな大きなシートの上にお弁当を広げている。
「ママのバカ…」
 幼いアスカは、一人離れた場所で隠れるようにお菓子を食べていた。
「アスカ、どうしたの?」
「こっちこないで…」
 短い髪の幼馴染が、心配そうに近寄ってきた。
「おばちゃん、お仕事でお弁当作ってくれなかったの?」
 そっぽを向いて、何も答えない。
「あのね、僕もなんだ、お母さん今日は大事な用があるって、だから…」
 リュックを漁る。
「ほら、おにぎり、自分で作ったんだ」
 不格好な丸いおにぎり、岩のようにでこぼこしていて、無理矢理ノリが巻かれていた。
「分けてあげる!、一緒に食べようよ」
「…いらない」
 悲しそうにうつむくシンジ、アスカはたまらなくなって、手だけ伸ばした。
 シンジは一転して嬉しそうな表情を満面にたたえると、おにぎりを半分に割ってアスカに手渡した。
「なに…、変な形…」
「泣いてるの?」
「しょっぱいの!」
 しゅんとなるシンジ。
「シンジ…」
「なに?」
「今度はあたしが作ってあげる、もっとおいしいのを」
「うん」
「だから次はもっとうまく作るのよ!」
「うん!」
 シンジはニコニコとおにぎりをパクついた。
 アスカももう泣いてはいなかった、どうしてなのか、シンジは何もわかっていなかったが…


「ばっかみたい、シンジが覚えてるはず無いのに」
 加持の育てている花の前で、アスカは一人ごちた。
「あ、アスカじゃないか…」
「シンジ!?」
 息を切らせて、へとへとになっているシンジ。
「えらくやつれたわね〜」
「お腹へって…、その上逃げ回ってるからもう…」
 ふらふらしている。
「誰のお弁当も食べてないの?」
 怖々と聞く。
「うん、みんな殺気立ってて、それどころじゃ…」
 シンジの鼻面に、アスカの弁当箱がつきつけられた。
「くれるの?」
「感想貰うほど、凄い物入ってないわよ」
 かぱっと開けて見ると、おにぎりが入っていた。
「な、なによ…」
 覚えているはずが無いとわかっていても、赤くなってしまう。
「三角形のおにぎり、作れるようになったんだ…」
 シンジは感動して、一つ頬ばった。
「あんたが…、自分の腕にあったものを作れって言ったから、それにしたんじゃない」
 よほどお腹がすいていたのか、シンジは夢中でパクついた。


「相田君!、碇君全然捕まらないじゃないの!」
「あ、こ、こんなはずじゃ…」
 ちっ、シンジめ…
 ケンスケは窮地に立たされていた。


「はー、ようやく落ち着いたよ」
「そ、よかったわね」
 そっけない返事。
「どうしたの?」
「なにが?」
 ばつの悪そうな顔をしてるよ?、とは言えなかった。
「…おにぎりって言えば、懐かしいよね」
 びくっとするアスカ。
「幼稚園の遠足でアスカにバカにされてさ、家に帰ったらさっそく保温器の中のご飯、全部おにぎりにしちゃって、怒られたんだ」
「ふ〜ん、そう」
 覚えててくれたんだ!
 上気した頬を見られたくなくて、アスカはさらに顔をそらした。
「その後も練習続けて、結局ご飯が無くなるから炊けるようにって、お米のとぎ方も覚えて…、面白かったんだ、料理って言うほどのことじゃなかったけど」
「どうして練習したの?」
「だってもっとうまく作れって言ったじゃないか、アスカが」
「シンジ!」
 くるっとターンして、シンジに抱きつく。
「アスカ!、どうしたんだよ!!」
「なんでもないわよバカ!」
 ぎゅっと力を込める。
「「ストーップ!そこまでぇ!!」」
 レイとミズホ。
 二人とも重そうに弁当箱を抱えていた。






「ぶざまやなぁ…」
「ちくしょう…」
 教室の黒板に貼り付けにされているケンスケ。
「まあ、昔から悪は滅びるっちゅーしな」
「ふふふ、まだだ、まだ終わってないよ、俺にはまだ最後の最後の切り札が残っているんだから」
「まだあるんか」
 げっそりとするトウジだった。






「せんせぇ!、急患でぇっす!!」
 アスカが戸を開き、レイとミズホがシンジをベッドに放り投げた。
「あら、食べ過ぎ?」
 保健の先生は、背を向けたまま胃腸薬を探して机を漁る。
「あなたたちは授業に戻りなさい」
 決して振り向かないまま、背中ごしに声をかける。
「「「はーい」」」
 三人が出て行くのを見計らって、白衣を脱ぎ捨てた。
「やっと二人きりになれたね、シンジ君」
 シンジからの返事は無い。
 シーツを被って横になっている。
「シンジ君……、これは!」
 人の重さ人形。
「くっ、見破られたか」
 当たり前だという突っ込みは、どこからも入らなかった。






「結局…、こういうことになるのよね」
 チケットは誰の手にも渡らず、結局ミサトはマヤと出かけていった。
「はいシンちゃん。正露丸」
「うーーー、胃が重い〜、腰が痛い〜」
 自分のベッドの上で唸っているシンジ。
「全くだらしないわねぇ、あれぐらいの量で何よ」
 アスカ、ミズホ、レイの他、3人に捕まり味見させられていた。
「シンちゃんはアスカみたいに胃が大きいわけじゃないのよ」
「なによ、それじゃまるであたしがバカみたく食べてるみたいじゃない」
 ふふふふふっと、立ち上がる。
「レイ、あんたとは一度はっきりさせておく必要があると思ってたのよね」
「あたしもよ、アスカ」
 視線をぶつけあう。
「今日こそは決着をつけてやるわ!」
 アスカは新聞を丸めると、ガムテープでぐるぐる巻きにした。
 即席のボールを突きつける、握りはストレートだ。
「望むところよ!」
 同じくレイも新聞紙を巻き、バットを作る。
 緊張の一瞬、アスカが振りかぶった、レイはアスカの投球フォームを目で追う。
 まるでスローモーションみたいに、止まってみえたの。
 後にレイがそう表した瞬間、むくっと起き上がったシンジの顔面にポコンっと当たった
「あ…」
 気まずい一瞬。
「お願い…、静かにして…」
「そうですよぉ、はい、シンジ様」
 いつもの青汁を無防備に口にする。
「うぐ!」
 バババババ!っとシンジの顔色が青から赤へ、赤から白へとすさまじい勢いで変色した。
「し、シンジ?」
 転がったまま、ぴくりとも動かない。
「あーあー、もうしょうがないわねぇ」
「こんな時のための、気付け専用ハーブティーでぇっす!」
「それがいけないって言うの!」
 頼むから、静かにしてて…
 シンジの祈りは届かなかった。



続く











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