Episode:8B





 ほぼ同時刻、シンジと同じようにそれを読んでいる女の子がいた。
「なにこれ、鈴原が王様であたしがお妃様って、え?」
 ヒカリの脳裏を「鈴原ヒカリ」とピンク色のネオン文字が、でかでかとかすめていった。
「やだ、あたし!」
 なかなか想像力豊かな子だった。
「困っちゃう…」






「なに、この世界?」
 レイとミズホは途方に暮れていた。
 丘だけの世界で、地平線が見えている、空にはぽっかりと大きなお月様が浮かんでいた。
 その二人の前を、おにぎりが一個転がっていく。
「ぐわっ、ぐわっ」
 とてとてとペンギンも通り過ぎた。
「……」
「………」
「…………」
「「あ!」」
 二人同時に我に帰る。
「追わなきゃ!」
「はいですぅ!」
 するとそう遠くないところでペンギンは立ち止まっていた。
 なにか途方に暮れている様子。
「あ、あのペンギンさん、ここどこなのかわかる?」
 ペンギンには聞こえていないようだ。
「ペンギンさん!」
 グワッっと驚く。
「なんだぐわ!」
「ここどこか聞きたいの…、どしたの?」
「おにぎりが…、大切なお弁当のおにぎりがこの穴に落ちたんだぐわ」
 ひと一人が降りられそうな穴だった、ただ底が深くて見えない。
「なんだおにぎりくらい…」
「レイさん!」
 いつもがポケーっとしてるだけに、怒った時はなかなか恐い。
「きっと大切な方に貰ったお弁当だったんですねぇ、わかります、わかりますとも、ひとくちひとくち、愛情を噛み締めていたというのにその一つを失うなんて、なんて悲しむべきことなんでしょうか!」
「わかってくれるぐわ!」
 異種間で心をシンクロさせる二人。
「で、どなたから貰ったんですか?」
「バンリっていうネコだぐわ」
 ふぅっと気絶するミズホ。
「ああっ、もうだらしないんだから!、あなたも、こんな深い穴に落ちちゃったら拾いようが無いじゃない、あきらめるしかないっしょ?」
「ぐわ…」
「じゃあわかった!、あたしが取ってきたら、ここが何処なのか教えてくれるかなぁ?」
「本当ぐわ!?、うれしいだぐわ、もし戻れたらこの「異次元ロードマップ、2017年度版」を上げるぐわ!」
「いよっし!、じゃあ行ってくる、あ、ミズホ見ててね?」
「ぐわ、どうか気をつけるだぐわ」
「うん」
 レイはペンギンのひきつったような表情に不安になった。
「そういえば、名前聞いてなかった、ねぇ!、名前なんて言うの?」
「ペンペンだぐわ!、レイさまっぐわ!」
 あれ?、あたし名前言ったっけ?
 ミズホが呼んでいたので覚えたんだろうと、深くは考えないレイだった。






「さて…、と」
 どこに行っちゃったんだろ?と、見回すレイ。
 竪穴はゆっくりと横を向き、坂道からついにはかがんで通れるぐらいの横道になっていた。
 不思議と明るくて、明りの必要はなかったが…
「腰が痛くなっちゃうなぁ…、でも行かなきゃ、こうしてる間にもシンちゃんが」
 シンちゃんの操はあたしが守んなきゃ!
 何か間違っているレイだった。


「あれぇ?、レイさんはどちらへ行かれたんでしょうかぁ?」
 ミズホは気がつくと、きょろきょろと首を振って、傾けた。
 大きなスカートの裾をくわえて、潜り込もうとしているペンペンと目が合う。
「ふえええええええん!、何なさるんですかぁ!」
 どがし!
 ミズホの右がめり込んだ。
 ずぅんっと、悲鳴を上げることすらできずに沈むペンペン。
「ああっ、寝ちゃだめですぅ、レイさんはどこに行ったんですかぁ!」
 がくがくとゆする、泡を吹きはじめるペンペン。
「や、やめるだぐわ」
 死の一歩手前で気がついた。
「あ、あやうくお花畑で酒好きな女に捕まるところだったぐわ」
 青ざめている。
「そんな事はいいから、レイさんはどちらに向かわれたんですか、パンツ覗きペンギンさん!」
「だれがパンツ覗きだぐわ!、ペンペンって立派な名前があるぐわ!」
「うるさいですぅ、あなたなんてパンツ覗きで十分ですぅ、さあ、レイさんはどちらへ行かれたんですかぁ!」
「パンツ覗きじゃないだぐわ!」
 にらみ合いが続く。
「ふぅ、まあいいぐわ、それより喉渇いただぐわ、この先に湖があるから、水をくんできて欲しいだぐわ、そしたら教えてやるだぐわ」
「あ、それでしたら」
 スカートの中からポットとカップを取りだす。
「ミズホ特製ティーでぇっす!、さあどうぞ」
 こぽこぽっとそそぐ。
「良い香りだぐわ」
 いつものものと違って、赤い色をしたどこから見ても普通の紅茶だった。
「いただくだぐ…わ…」
 かちんっとくちばしがカップの底を叩いた。
 気まずい空気。
「こ、こうすればいいぐわ」
 今度は持ち上げようとする。
「フリッパーでは持てないんじゃ…」
 畜生
 重くのしかかるその言葉に、ペンペンは膝を屈して涙した。


「あ、なんだろ?」
 大きな空間にぶつかった。
 十メートルはありそうな天井を見上げるレイ。
「あ、家がある」
 レイは駆け出した。
 近づくにつれ、我が目を疑いはじめる。
「でもやっぱり、誰がどう見てもおかしの家…、だよね?」
 レイは柱の一つを削ってみた。
 それを怖々と舐めてみる。
「やっぱ、キャンディーだ」
 どすん!っと地響きをたてて大きなものが現れた。
「か、カエル?」
 それは巨大なカエルの置物だった。
 出口を塞ぐように、石の置物が居座っている。
「いったいどこから」
「ひょーっひょっひょっひょ、アスカ様にたてつくバカもんが、このわしが灸をすえてやるわい」
「え?、アスカですって!?」
 置物の上に、小さなカエルが杖を持って立っていた。
 手のひら大のカエルだ。
「このカエル仙人が相手じゃ!」
がんばれ父ちゃん!
 巨大な石のカエルがしゃべった、びりびりと反響する。
「こ、こらお前はしゃべるでないわ」
うん、父ちゃん!
 びりびりびり。
 あまり頭は良くないらしい。
「洞窟、崩れないでしょうね」
「……」
 かなり不安があるらしい。
「まあいいけど、とにかくどいてくれないかなぁ?、おにぎり見つけたら、急いで戻らなきゃならないし」
「おにぎりとはコレのことかな?」
 置物ガエルの口が開いた、その舌の上にちょこんと乗っている三角形の物体。
「ああっ、ばっちい!」
「うるさいわい!、とにかく取り戻したくば勝負せい!、勝負の方法はあの家をより多く食い切った方の勝ち!」
「勝ちって…、カエルがどうやって食べ比べするのよ…」
 するとカエルはぷくぅ、ぷくぅっとお腹をふくらませた。
「どうじゃ!」
「どうって…」
「これで倍は入るぞ!」
うん、ウシよりでっかいよ、父ちゃん!
「はいはい…」
 どっと疲れるレイ。
 しかしカエルはほくそ笑んだ。
 しめしめ、まさかワシの口がディラックの海に通じているとは夢にもおもうておるまい。
「でわはじめるぞ!、全てはアスカ様のために!」
 カエルは自身ありげに杖を振りまわした。


「うぐもぐんがはぐうぐんがっくっく!、は〜、ぐらっちぇぐらっちぇ!!」
 みるみる家が小さくなっていく。
「なんでじゃ、なんで自分の体の何倍もの量を食えるんじゃ!」
「なに!、人のこと言えないでしょっ」
まさに化け物だね、父ちゃん!
「ほっといてよ!」
 食べる速度で圧倒するレイ。
「妖怪くっちゃ寝という二つ名もだてじゃなかったというわけか」
 胃袋の神様の名に恥じぬ食いっぷりだった。
 食い切ったものの、さすがに動けなくなっている。
「ふぬぅ、このままでは水棲生物としてアスカ様に申しわけがたたん」
「水棲って…、カエルって両生類じゃ…」
 ずどんっと、子ガエルが巨体を動かした。
「ここからは我が子が相手じゃ」
がんばるよ、父ちゃん!
「ふん、じゃあ軽く食後の運動って感じで、相手をしてあげよっかな」
 右手を目の前に持ちあげて、ぐきぐきぐきっと音を鳴らした。
げえええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇこぉ!
 どすんっどすんっどすん!っと遠近感が狂うような巨体で迫る。
「食らえ必殺、シャーーーーーーイニング、フィンガー!」
 レイは怯まずにストマッククローを放った、指の食い込んだ部分が、じゅわぁっと音をたてて溶解する。
「な、なにが起こっておるんじゃ!」
いーーーたーーーいーーーー!
 体を作っている石が溶けて流れ出した。
「そうか、あの食い物で得たエネルギーを熱として放出しておるんじゃな!」
 にやり。
 レイの口の端が釣り上がった。
「代謝速度を上げてカロリーを高熱に変換して放出するとは、なんちゅう奴じゃ!」
 それこそが、いくら食っても太らない秘密だった。
「置物ガエルぅ、溶ぉけてなくなれぇ!」
 閃光と共に、置物ガエルは消滅した。
 残ったものは、レイの手に握られたおにぎりのみ。
「ふぅ」
 額の汗をぬぐう。
「あれ?、カエル仙人、あーーーー!、逃げたわねぇ!」
 じたんだを踏む。
「まったく、バカにして!」
 思わず握り締める拳の中で、おにぎりがつぶれた。
 絶対許さない!
 レイは猛スピードで来た道を引きかえした。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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