Episode:9A





「すまん、鈴原君、こっちの地区担当の奴が風邪ひいてさ、頼むよ」
「ええですよぉ、すぐ行ってきますわぁ」
 トウジの朝は早い、たぶんクラスの中でも1・2を争うぐらい早いだろう、なぜなら新聞配達のアルバイトをしているからだ。
「あれ、これ委員長の団地やん」
 軽快に自転車をこぐ。
 ジャイアントシェイクの後、両親を無くした子供などが増えたために低年齢層、中学生付近のアルバイトは条件付きで認められていた。
 条件とは保護者の了解。
 汗だくになって自転車をこぐ、やっと見えてくる団地。
「ああもう、ワシもバイク使いたいわ」
 いつもの不満と共に、ここに来る度に何気なく見ていた部屋を、いつもの癖で見上げてしまった。
 ヒカリの部屋だ。
「なんや、電気ついとる…って、まだ5時半やで!?」
 ベランダに人影が見えた。
「委員長やんか、もう起きとんのかいな」
 トウジは先日のお弁当大戦でシンジが口にしていたことを思い出した。
「そっかなぁ、三人姉妹で、それとトウジの分だろ?、四人分って、結構な量になるよ?」
 だからってこんな早よから?
「たまたま…やろ?」
 トウジはヒカリが部屋に戻るまで、その場でじっと彼女を見ていた。




第九話

大都会にほえろ





「やーばいやばいやばいってば、毎度のことだけどぉ!」
「ほらミズホ早く!」
「あう〜ん、待ってくださいシンジ様ぁ!」
「早くしないと見捨てるわよ!」
 ふみーんっと泣きそうなミズホ。
「あ、前方に鈴原発見、一番綾波レイ、撃墜にかかりまーっす!」
 っと一気に加速する。
 50メートル6秒台の俊足でトウジを捕まえるレイ。
「なんやお前らもかいな」
「トウジが遅刻って珍しいね」
 お互い走りながらの会話。
 この状態に慣れたのか、話す余裕があるシンジ。
 ミズホはあえぐ以上できないでいる。
「今日はバイトが長引いてしもてな」
「ああ、新聞配達?」
 たまには奢ってよ〜っと、涎を垂らすレイ。
「そっちは、どないしたんや」
 さくっと無視する。
「うん、ミズホのお弁当の準備が終わるの待ってたんだ」
「今日は力作ですぅ!」
 っと、やっと息を整えたミズホ。
「力作はいいけど、遅刻したら元も子もないの!」
「でも味気ないよりは良いよねぇ」
「う、そりゃそうだけど」
 すっかりミズホのお弁当に依存している。
「まあええけど、ようもそない重たいもん持って走るわ」
 四人分の弁当、それも三人が数人分ある。
 パンパンに膨らんでいるリュックを、アスカとレイが交代で背負っていた。
「充実した生活を送るためよ」
「そうそう、ミズホには感謝してるしぃ」
「だったら少しはシンジ様の優先権与えてくださいぃ」
 ヤッパリ無視される。
「あう〜ん」
「ほらほら、もうチャイム鳴っちゃうよ、急がなきゃ」
 シンジに押されて走るミズホだった。






「なんだ、トウジも一緒か?」
 ヒカリと何やら話していたケンスケ。
「なんや、委員長と仲ええやないか」
「なんだよ焼いてるのか?」
 真っ赤になるトウジ。
「あ、阿呆ぬかせ、なんでワシが!」
「安心しろよ、あること無い事吹き込んでただけだから」
 まさしく悪友である。
「鈴原、これ今日のお弁当なんだけど」
 いそいそと持ってくる、鞄から恥ずかしげに出して渡した。
「もうみんな知ってるんだから、隠す事無いんじゃない?」
「ケンスケぇ、そりゃデリカシーいうもんにかけてるで」
 おお!っと感心するケンスケ。
「トウジからデリカシーって言葉が出るとは思わなかったなぁ」
「え?、なに、どうしたの」
 寄ってくるシンジ。
「いやトウジがさ、ようやく人目を気にする関係に気がついたって話だよ」
「それって…」
 なんとなくヒカリを見る。
「そっかー、トウジもやっと…、よかったね洞木さん」
「何の話をしとんのや!」
「だからトウジが赤面ものの状態を認知したって…」
「別にはずかしーことしとらんわ!」
「え、はずかしぃって何が?」
「シンジ、聞くだけ野暮だよ」
「何を想像してるのよ!」
「何って何?」
「シンジっ、舐めとんのか!」
「え?え?え?」
「たとえば洞木さんが指に付いたお米を舐めとりながら、おにぎり握ったのかと想像してみたりだな」
「するかボケ!」
「トウジが食べたお弁当の残りを洞木さんがつまんでみたり」
「しません!」
「思春期の少年少女にはいろんな妄想が生まれるんだよ」
「不健全なのはあんたでしょうが!」
 アスカにドつかれるケンスケ。
「まったく、シンジに妙な知識を植えこまないでよね」
 ぴくりとも動かなくなったケンスケ。
「おはよう、アスカ」
「おはよう」
 にまにまとアスカ。
「な、なに?」
「ううん、べっつにぃ」
 親友への挨拶よりも、お弁当渡す方が先か、愛って盲目よねぇ。
 何となく熱っぽい視線をシンジへ送る。
 寒気を感じるシンジ。
「ねぇ、今日のテスト、できそう?」
「全然ダメっぽいな、アスカは?」
「余裕っち!」
 ぐっと親指を立ててつきだす。
「でもどうしたのヒカリ、もっと勉強しなきゃダメじゃない」
「うん…、してるんだけどね、眠くって、頭に入んないの」
 ぴくっとくるトウジ。
「なんや、寝とらへんのか?」
「受験生だしね、いま頑張らないと」
「委員長は生真面目だから、ちゃんとやらないと気がすまないんだろ?」
 復活するケンスケ。
「そういうわけでもないんだけど、夜遅くて…」
「ああ、それにさぞかし朝もお早いんでしょうねぇ」
 聞き耳をたてていたミズホ。
「前日におかずの用意をしていても、やっぱりどうしても朝は準備にてんてこ舞い、なのにその努力は認められず」
 およよよよっとミズホ。
「そ、そんなことないよ、おいしくない弁当をもらったって嬉しくもなんともないんだから、毎日食べたりなんてしないよ、そうでしょ?」
「シンジ様ぁ、やっぱりシンジ様はお優しいですぅ!」
 っと、首根っこに噛り付こうとする。
 すばやく取り押さえるアスカ。
「そうはいかないのよ」
 ちっとミズホ。
「あんたもいい加減パターンを覚えなさいよね」
 はいっとシンジ。
「まあ、あっちはおいといてや、大変やったらええで?、別に作ってくれんでも…」
「だ、大丈夫よ、だって三人分作ってるんだもん、一人ぐらい増えたって変らないわよ」
「やけど、受験終わるまで負担かけるのもあれやろ?」
 ぶんぶんっと、首を振って否定する。
「やったらええけど、無理せんでくれや?」
「してないわよ、もちろん!」
「そない力いっぱい言わんでもええて…」
「ご、ごめんなさい…」
 …だって、好きをいっぱいつくらせて欲しいんだもん。
 学校、離れ離れになっても後悔しないように。
 けれどもやっぱり、テストの結果はさんざんだった。






「うーーー、これじゃ言い訳もできないなぁ…」
「私もですぅ」
 拳を握りこむミズホ。
 才色兼備、文武両道を体現しているアスカとレイを相手にこのままでは!
 本日最後のHRで、答案用紙は返ってきた。
 ○より/のチェックの方が多い。
「まあ終わっちゃったもんはしょうがないっし、あんみつでも食べたら忘れちゃえるって気がしない?」
 二人の肩を叩くレイ、涎が滴れていた。
「もう、しょうがないなぁ」
 クスリと笑うヒカリ。
「アスカ、シンちゃんは?」
「今日はトリオで帰るって」
 ちょうど良いっかと、レイの頭はあんみつ色に染まっていた。


「どうしたんだよトウジ、今日のお前おかしいぞ?」
「うん、委員長のお弁当をいらないだなんて、普段なら絶対言わないよね?」
「あほか、わしかて分別ぐらいあるわい」
 商店街へ向かっている三人、目的はゲームセンターだ。
「今が大事な時やて、それぐらいわかっとるわ」
「んじゃ、ゲーセンに引っ張られてる俺達はどうなるんだよ?」
「旅は道連れや、不幸になる時は皆一緒言うてな」
「矛盾しまくってるってば」
「ええやんか、金曜の寄り道で落ちるぐらいやったら、なんぼやったって変りゃせんわ、そやろ?」
「命の洗濯ってわけか?」
「そや」
 土日に行われている、レイ、アスカの集中講座の惨状を思い返してみるシンジ。
「そうだね、息抜きって大切だよね、息抜きって…」
 遠い目。
「シンジのはちょっと違うんじゃないか?」
「ワシもそう思う…」
「シンジが思ってるよりもずっと羨ましい状況だよな」
「赤面もんやで、きっと」
「そっかなぁ…」
 首をひねる。
 間違える度に尖ったスリッパで電気あんまを食らうことの、何処がうらやましんだろう?
「お前はホンマ、女の子のありがたみっちゅうのが、わかっとらへんなぁ」
「それならトウジはどうなんだよ、急にお弁当いらないだなんてさ」
「そうそう、なんか変なもんでも食ったのか?」
「なんやねんそれ」
「あるいはよっぽど美味いものを食べたか、だよな」
 うりゃっとヘッドロックをかける。
「ほら吐け、吐くんだトウジ、なにを食ったんだよ!」
「酷いやトウジ、僕達に黙って一人でおいしいもの食べるなんて!」
「そんなんやあらへんっつーに!」
 わりとマジな表情をしていることに気がつくケンスケ。
「ホントに変だよな?、言いたくなければいいけどさ、何かあったのか?」
 立ち止まるトウジ。
 ケンスケも黙り込むが、トウジからは視線を外さない。
 トウジは深くため息をついた。
「今朝な、五時半や、委員長の団地に新聞配りに行って、委員長見かけたんや」
「そっか…、そうだね、それからお弁当作るのに1時間ぐらいかかって、そうでないと委員長のお姉さんの分、お弁当間に合わないもんね」
 それはシンジも知っている事情だ。
 姉、コダマの学校へは電車を使わなければならない、遠い分、朝も早かった。
「そや、そやけどわし、そんなこと何も考えとらんかった」
「なにを今更…」
「いまさらやけどな、たしかに、けどこれ以上ワシのわがままで、好意にすがって負担かけるわけにもいかへんやろ、ただの友達やのに」
「「はぁ?」」
 シンジとケンスケは我が耳を疑った。
 スクラムを組む。
「どう思う?」
「どうって…本気かな?」
「本気だろうな」
「委員長、かわいそう…」
「やっぱ、ここは親友の俺達が何とかしてやるべきじゃないか?」
「なんとかって、どうするのさ…、あれ?、トウジどうしたの?」
 固まっているトウジ。
「なんだよ、どうしたんだ?」
 人の垣根の向こうに、トウジを見ている三十路半ばの女性がいた。
 近づいてくる、トウジはびくりと脅えたように反応した。
「おかん…」
 トウジの呟きに二人は我が耳を疑った。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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