Episode:9B





 土曜日、碇家。
「あうーーーん、シンジ様のバカぁ!」
「ふふふふふーーーんっ、お子様三人目ゲーット!、シンちゃんとの家族計画は順調そのものって感じ?、シンちゃん、子供の名前なんてつけようか?」
「ああもう苛つくのよ、そのシンジって名前つけるのやめてよね」
 プラスチックの小さな車に、うきうきと棒を差し込むレイ。
 シンジの部屋、三人は人生ゲーム「アダルト版」で対決していた。
「ダメですぅ、シンジ様は私のですぅ」
「って、まだ結婚もしてないじゃない」
「むっきー!」
 サルになる。
「ふふーんっだ、悔しい?、悔しい?、よっと、1・2・3・4・…5?」
 マス目に「離婚、破局」の文字。
「ま、悪は滅びて当然よね」
 しーくしくしくと泣きはじめるレイ。
「どうでもいいけど、ホントにそれで勝った人と、バレンタインにデートしなきゃいけないの?」
「なによあんた、まさか他に用事があるとか言い出すんじゃないでしょうね?」
 しかも女の子とだったら絶対殴ってやると目が語っていた。
「違うよ!、ほら去年酷い目にあったし」
「ああ、あれねぇ」
 いまだにケンスケのせいにしている。
「大丈夫、今年はちゃんと策を用意してあるわよ」
「そうそう、義理でも配っといた方が大人しくしてくれるかなって、ミズホ?」
「はいですぅ!」
 がらっと押し入れを開けると見慣れない段ボール箱が。
「ほら、ポリッキー!」
「それを配るの?」
「そうそう、思いきって段ボール箱で買っちゃった、一人一本って計算でこんだけ」
「運が良かったら2本貰える人がいるかもしれませんねぇ」
 酷いやみんな…
 せめて一箱あげたらいいのに。
 思うだけで口にはしないシンジだった。






「はあ、決まらないなぁ」
 居間、テーブルに突っ伏しているヒカリ。
 視線はカレンダーに向いていた、ぐるぐると赤丸されている14の数字。
「去年は渡せなかったしなぁ…、だって日曜なんだもん、すっごく意味ありげになっちゃいそうで…」
 ぶつぶつと呟き、先程から何度も眺めていた必勝メモを開いた。
 お弁当を作りはじめて以来、トウジの好物や嫌いなものなど、事細か、詳細に書きつづってきた必殺のデータブックだ。
 その中には去年準備だけはしていたチョコケーキのレシピもあった。
「今度は火曜日だもんね、週あけてからだから大丈夫よね…」
 しかしある意味クラス公認の関係だ。
 認めていないのは本人たちだけだろう。
「ううんそんなことじゃダメ、だってこれが最後のチャンスかもしれないんだもん、頑張らなきゃ!」
「おねえちゃん、何してるの?」
「ノゾミ!、いつからそこにいたの…」
「ずっといたよ?、ぶつぶつ言ってたとこから立ち上がって宣言するとこまで見てた」
 真っ赤になるヒカリ。
「趣味悪いんだから…、なにか用?、お腹減ったの?」
「ううん、あのね…」
 急にもじもじと言いにくそうにする。
「遊園地行きたいの」
 ノゾミが出したのは入場無料券だった。
「遊園地って…、ああ、この間できたネオセントラルパーク?」
「今日、塾の帰りに貰ったの、明日だけ特別に乗り物半額なんだって、ねえ連れてってぇ!」
 ヒカリのシャツをつかんでゆする。
「明日ぁ?」
 用事もないし、チョコ見に行こうと思ってたんだけどなぁ。
「まあいっか、うん、じゃあ連れてってあげる」
 気分かえてみたら、良いアイディア浮かぶかもしれないし。
「ほんと!?、やったぁ!」
 どたばたと廊下を走っていく、電話の受話器を持っていった。
「友達も一緒なのかなぁ?」
 そうだ、アスカも誘ってみようっと、ヒカリは再びメモに視線を落とした。


「あ、あったしぃ、ノっゾミだっよぉん、うんこっちはオッケー、そっちは?、ほんと?、やったぁっ、トウジおにぃちゃん良いって?、明日が楽しみだねっ!」
 いつになくはずんでいる声。
 ノゾミは、おねぇちゃんをびっくりさせてやるんだっと、電話の相手に宣言した。
 その電話を盗み聞きしている人影。
「若いっていいわねぇ、若いって」
 ぐっと親指を突き立てる姉、コダマだった。






 シンジの部屋、そっと戸を開け廊下を覗き見るアスカ。
 右、左と首をめぐらして、誰も来ないことを確認する。
 そんなアスカのお尻を見ているシンジ。
「アスカ…、何やってるの?」
 疑問符を浮かべる。
「シッ、ネクライムの工作員に聞かれたらどうするのよ」
「誰だよ、それ」
「いいからっ、それよりさっきヒカリから電話があったんだけど…」
 モジモジしはじめる、直感的に悪巧みだとわかるシンジ。
「明日、遊園地行かない?」
「遊園地って…、もしかしてネオセントラルパーク?」
「へぇ、シンジがチェックしてるなんて、めずらしいわね」
「うん、ちょっとね…」
 物が挟まっているような言い様。
「あんた、なんか隠してない?」
「べ、別に隠してないよ!」
 あからさまに妖しい。
「トウジが明日行ってくるって言ってたから…」
「明日!?、でもヒカリそんなこと一言も…」
「トウジ、ハルカちゃんと二人で行くみたいだったから…」
 何事か考え込んでいるアスカ。
「それよりレイたちは誘わないの?」
 おどおどと尋ねる。
「もちろん内緒に決まってるじゃないの」
「えーーーー!」
 あわててシンジの口を塞ぐアスカ。
「ばか!、そんな大声出したら…」
 ガラっと扉が開く。
「あーーーーー!、何やってるのぉ!」
 ベッドの上で抱き合っているようにも見える。
「ひっどぉい、シンちゃんあたしにだってそんなこと、ほんのちょっとしかしてくれた事無いくせにぃ!」
「何よそのちょっとって言うのは!、シンジぃ!」
「うそだ、でっちあげだぁ!」
 聞き届けられることのない弁解を試みるシンジだった。






 ネオセントラルパークは芦の湖の南側に建設された遊園地だった。
 主な交通手段は電車からバスへの乗り継ぎ、あるいは車。
 遊園地入り口でヒカリは首を傾げていた。
「どうして鈴原がここにいるの?」
「委員長こそ、どないしたんや」
「うん、ノゾミが遊びに行ってみたいって言うから…」
「なんや、ほならワシと一緒か」
 その脇で「ウッシッシ」っと笑いあっているハルカとノゾミ。
「二人とも知り合いだったの?」
「うん、塾が一緒なの」
「なんや、知らんかったわ」
「あたしたちもぉ」
 かなりしらじらしい。
「ねえ、それより早く入ろうよぉ!」
 はいはいっと引っ張られていくヒカリとトウジだった。


 トウジたちの入園から遅れる事五分後、赤い髪を野球帽の中に押し隠し、ジーンズにジャンパー姿と身軽なかっこうをした女の子がバスから降り立った。
 続いて降りてきた男の子は、かなり情けない表情を浮かべている。
「ねぇアスカぁ、やっぱりマズイよ、こういうのはぁ」
「なによあんた、親友が心配じゃないって言うの?」
「心配って…、たまたま同じ日に遊園地に行くって言ってただけの話しだろ?、別に一緒に行くなんて言ってなかったし」
 はあ…っとため息、つくづく鈍感っとアスカ。
「あんたホントにバカねぇ、別々に行ったのなら、それこそ問題じゃないの」
「なにが?」
「偶然出くわしたりしたらどうするのよ、あの朴念仁が、「おう、一緒にまわらへんか?」なんて言うと思ってるの?、きっと、「何や委員長も来てたんかいな」ですませちゃうわよ」
「駄目なの?」
「あったりまえでしょ、最近、ほんとにおかしかったのよ、ヒカリ、どんどんテストの点も下がってっちゃうし、鈴原が原因なのは、見てればわかることだったしね」
「でもトウジは何もしてないけど…」
「何もしてないから問題なんでしょうが」
 ぽかっと殴られる。
「そこんとこはあんたも一緒なんだけどねぇ」
 かたや堅物、かたやにぶちんと違いはあるものの、問題点は似ている二人。
「何か言った?」
「なんでもないわよ!」
 真っ赤になるアスカ。
「だから二人っきりにするために、ヒカリと来るのはやめたってわけよ」
「ふ〜ん」
「そんで温かく見守るってわけっ、そゆこと!、ほらとにかく行くわよ!」
「行くって何処にさ?」
 案内板を見上げるシンジ、かなり広かった。
「えっとぉ、まずはドラゴンコースターから…」
 ジト目のシンジ。
「あはははは、だめ?」
「アスカ、本当に洞木さんのことが心配で来たの?」
 懐疑的な視線を向ける。
「ひどい!、このあたしが嘘ついてるって言うの?」
「うん」
 こういう時だけ長年の付き合いを持ち出すシンジ。
 アスカはちっと残念がった。






「あーっ、あれだぁドラゴンコースタぁ!、ねえあれに乗ろうよぉ」
「だぁめ、12歳以上って書いてあるでしょ?」
「ちぇっ、つまんないのー!」
 っとハルカと他の乗り物を物色し続ける。
「ごめんね、騒がしくしちゃって」
「委員長が謝る事やあらへんやろ?」
「うん…、でもなんだか怒ってるみたいだから」
 トウジは答えない。
「ねぇお姉ちゃん、おばけ屋敷行こうよ!」
「う、うん」
 券を買うなり駆け込んでいくハルカとノゾミ。
「安うて助かったわ」
「ほんとね」
「わしのバイト代で足りるし」
 え?っと聞き返す。
「鈴原が出してあげてるの?」
「おかしいか?」
「ううん、優しいんだ…」
 どう取っていいのか迷うトウジ。
「優しいとかとは、ちょっと違うんやけどな、今日は…」
 ヒカリには聞こえないように呟く。
 ノゾミたちのきゃあきゃあはしゃいでいる声が聞こえる。
 真っ暗な中、古典的なろう人形とフォログラフィックを駆使した火の玉が飛んでいた。
「委員長…」
「あ、ごめんなさい!」
 怯えて縮こまるうちに、ついトウジの腕にしがみついていた。
「いや、ええんやけどな」
 お互い照れて顔をそらせる。
 ちょっと先でハルカとノゾミが待っていた、にたにたと笑っている。
「なんや?」
「仲良いな〜って思って」
「ね〜?」
 真っ赤になってうつむくヒカリだった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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