Episode:9C





「アスカさんがいないんですぅ!」
「シンちゃんも居ないのよ」
 ごろごろしているゲンドウを押しのけて、カーペットの裏まで覗いている二人。
「あら、シンジならアスカちゃんとこそこそ出かけていったけど?」
 さりげなくユイ。
「はう〜〜〜ん、どうして教えてくれなかったんですかぁ!」
「なんでも隠密にこなさなければいけない極秘任務があるとか言ってたから…」
「くぅっ、アスカ!」
 ぐっと拳を振り上げる。
「バレンタインデートの権利は当然剥奪!」
「これでバレンタインは頂きですぅ!」
 ばちっと視線が絡みあう。
「今、何か言った?」
「今、何か言いましたかぁ?」
 新聞で顔を隠しながらニヤリとゲンドウ。
 ユイだけがその笑いに気づいていた。






「や〜〜〜ん、シンジぃ、こわぁいーーーん」
 白々しいセリフを吐いて抱きつくアスカ。
 おばけ屋敷だ、アスカはシンジがぶつぶつと呟いていることに気がついた。
逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ…
 もうっ、情けないんだから!
 それでもいつものように逃げようとしないので、アスカは結構幸せだった。
 だがシンジが恐がっていたのはおばけじゃなくて…
(ここは檻だ、アスカはトラだ、ぼくはウサギかニワトリなんだぁ!)
 いつ食べられてしまうのか気が気でないシンジ。
「あ、アスカぁ、トウジたちホントにここにいるのかなぁ?」
「間違いないわよ、ちゃんと入ってくとこ見たんだから」
 ペロっと舌を出しているが暗くてみえない。
「それにしても、まだ春にもなってないのにおばけ屋敷って変じゃない?」
「オープンから1ヶ月の間は全部のアトラクションやるんだって、もう、そんなことどうでもいいじゃない」
 腕に腕をからませて、ぐっと力を込めた。
「せっかく二人っきりなんだしぃ」
 胸が押し付けられる。
 来たっ!っとシンジ。
「ここなら暗くて誰も見てないわよ」
 シンジの肩に頭を預けようとするが、あいにくとシンジの方が身長は低かった。
 こつんと頭と頭が当たる。
 それはそれで…唇が近いのでかなり「グゥ!」だ。
「あああああああ、アスカ?」
「ん……」
 だまって唇を突き出す、これだけ近いと、さすがに色まではっきり見えた。
 ドキドキのシンジ。
 そして時が制止した。






「ごめん…ね、鈴原」
「かまへんて…」
 しつこいぐらい何度もくり返していた。
 トウジの腕にがっちり噛りついている、不安げに辺りを見回すヒカリ。
「大きいおばけ屋敷ね…」
「出口どこやねん」
 作り物に動じるはずのないトウジは、だんだん飽きてきていた。
「す、鈴原…」
「しつこいで…」
「ち、ちがうの!」
 つい大きな声を出してしまった。
「このあと、お昼ご飯どうするのかなって思っただけよ!」
「まあ、その辺の店でなんか買おうおもとったんやけど…、結構混んどったしなぁ」
 ぱっと瞳を輝かせるヒカリ。
「それなら、あたしお弁当作ってきてるの、一緒に食べない?」
 トウジは答えない、ヒカリとは身長差があるので、顔も見えなかった。
 不安げに顔をこわばらせるヒカリ。
「あのね、ノゾミが友達連れてくるみたいだったから余分に作ってきたの、ハルカちゃんだとは思わなかったんだけど…、だからね、たくさんあるから…、コインロッカーに入れてあるんだ、お弁当が食べられる芝生の公園も園内にあるみたいだったし、そこで食べない?、ね?」
 声がうわずっていってる。
「でもハルカちゃんもノゾミだって秘密にしてたのね、何だかおかしい、もしかすると…」
 もしかしたら?
 あたし何言おうとしてるんだろう。
 恥ずかしさでいっぱいになる。
「あのな、委員長…」
「は、はい!」
 冷めたトウジの声、対照的にヒカリの語尾は裏返っていた。
「わし、もう委員長の弁当、貰うわれへんわ…」
「え!?」
 なんて言ったの?、いま…
 力が抜ける、ほどけるヒカリとトウジの腕。
 立ち止まってしまうヒカリ、トウジは気がついていない。
 あたし…、あたし、迷惑だった?
 膝が震えだす、悲しいことに、もう作り物のおばけは恐くなかった。


「ほらシンジぃ、は〜やくぅん」
 つむった目を開けないまま、おねだりする。
「あ、アスカ?」
 ごくり。
 喉を鳴らす音が聞こえた。
 ふふふ、シンジったらもう。
「アスカってば…」
 ラブラブモードに入っているアスカ。
「ダメだよ、みんな見てるよ」
「見てるって、だぁれが?」
 シンジの手がからめているアスカの腕に触れた。
「あん、ダメよシンジぃ、これ以上は恐いからぁん…」
「アスカ!?」
 甘ったるい声に、つい「ス」にアクセントを置いてしまった。
「でもでも、シンジが望むなら…、あたしだってもうすぐ高校生なんだし、興味あるしぃ…」
「ちょっとちょっとちょっと!」
「お友達で経験してる人だっているんだからぁ」
「何言ってんだよアスカ!」
「ちょっと恐いけど、あたし良いの、だからシンジっ、早くきて!、はやくーーー!」
 っと一気に押し倒そうとしてからぶる。
「きゃっ!」
 どたっとこけかけたところで、なんとかしがみついた。
「何しとんのや…」
 アスカがしがみついたのは、思いっきり呆れた顔をしているトウジだった。
 その横で「うわー…」っと赤くなっているハルカとノゾミ、喉を鳴らしていたのはこの二人だ。
 シンジはあちゃーっと手の平を顔にあてていた。
「恥ずかしいやっちゃな〜」
 アスカは真っ赤になって黙り込んだ。


「あ、鈴原…」
 気がついた時には見えなくなっていた。
「先行っちゃったのかな…」
 追いかければいいだけの話だが…。
「あたし、どういう顔すればいいんだろう?」
 恐くて、ヒカリはゆっくり歩いた、周りのおばけなんてもう気にもならない。
「あ、鈴原…」
 非常口、の緑色の光が見えた、曲がり角になっている。
 今までより明るくて、はっきりとトウジの姿が見えた。
 とくん、とくん、とくん…
 鼓動が早まるのがわかる、胸が苦しくなる。
 もうちょっとで顔がはっきり見える、そこでもう一度聞いてみよう。
 決意をかためる、顔を上げる、トウジを見る。
 ドクン!
 心臓がひときわ大きく音をたてた。
「アス…カ」
 アスカが抱きついていた、トウジに。
「どうして…」
 しかも真っ赤になって、うつむいている、恥ずかしげに。
 トウジもそんなアスカを抱きとめていた。
「どうして?」
 頬を涙がつたっていた、ヒカリにも理由はわからない。
「どう…して」
「ヒカリ!?」
「委員長?」
 二人が同時に気がついた。
 泣いてる!?
 理由がわからない二人。
「来ないで!」
 近寄ろうとしたアスカを拒絶するヒカリ。
「バカぁ!」
 ヒカリは二人を突き飛ばして走っていった。
 角の向こうにいたシンジ達が呼び止める。
「洞木さん!」
「お姉ちゃん!?」
 しかし耳に届かなかった。
 キッとトウジを睨むアスカ。
「追いかけなさいよ、今すぐ!」
「な、なんでわしが…」
「女の子泣かせたのよ!、放っておくってぇの、あんたはっ!?」
 アスカは原因がトウジにあると、即座に決めつけていた。
 胸倉をつかみそうな勢いで噛みつく。
「僕が行くよ!」
 シンジがアスカをおさえた。
「シンジ…、たのめるか?」
「トウジは大事な用があるんだろ?」
 わけ知り顔のシンジ。
 シンジはヒカリを見失うと思って返事を待たなかった。
「シンジ!」
「アスカ!、入り口の案内板のとこで待ってて」
 まったくもう!
 アスカは頬をふくらませた。
「もう、さいってー!」
 何が、誰が最低なのか、アスカ自身にもわからなかった。






「そんな、そんなそんなそんな、鈴原とアスカが、そんな!」
 人ごみをしばらく走って、ヒカリは誰もいない木陰を見つけた。
 両膝をくずれるようについて座り込む。
「アスカの友達だからあたしを見てくれてたの?、アスカの友達だから気をつかってくれてたの?、アスカの友達だから話しかけてくれてたの?、すずはらぁ…」
 涙はとまっていた、目は赤く腫れていたが。
 持っていた鞄の、外ポケットのメモ帳が目に入った。
 一生懸命書きためていたアイディアノート。
 それを手に取る、眺めているうちにまた涙が込み上げてきた。
「こんなの!」
 力一杯投げ棄てた。
 ベシ!
 なぜかちょうど良い位置にシンジの顔面。
「酷いや、洞木さん…」
 赤くメモ帳の後を貼り付けて、シンジは涙目で訴えた。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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