Episode:9D





「どうして碇君が…」
「どうしてって、トウジと洞木さんのことが心配だから、様子を見に行くんだってアスカに無理矢理連れてこられたんだよ」
「アスカが!?」
 やっぱり、そうなの?、アスカ…
「最近様子がおかしい、変だって、絶対トウジが原因だって」
 気になって当然よね…
「洞木さん、泣いてたの?」
 黙り込む。
「トウジが…、何か言ったんだね」
 答えない。
「そっか…、トウジも、最近あいつらしくなかったからなぁ…」
 びくりと震える。
 ヒカリの隣に腰を落ち着けるシンジ。
「この間さ、委員長のお弁当断ろうとしたでしょ?、だかららしくないってケンスケと問い詰めたんだけどね、新聞配達のバイトで、朝早くに洞木さんを見かけたんだって」
 ヒカリは顔を伏せて見せない。
「それで迷惑かけたくないっておもったんだってさ、遅いよねぇ今更、もう一年以上も続けてきてるって言うのに」
 はははははっと笑って見せるが、反応が無いので乾いてしまう。
「好意にすがって迷惑かけたくないとかなんとか、ただの友達とか言っちゃってさ」
「ただの…、友達……」
「誰がどう見たってそんなわけないのにね」
「違うっ、ほんとにただの友達としてしか見てもらってなかったんだもん!」
 はじけたように叫ぶ。
「トウジが…、言ったの?」
「お弁当いらないって、貰うわけにはいかないって、アスカと抱き合ってた、鈴原優しそうに笑ってた、あんな鈴原、あたしみたことない!」
 抱き合ってた?
「抱き合ってたって、いつ?」
「見たもん!、おばけ屋敷で!!」
「それって…」
 さっきの…
「アスカも嬉しそうだった、きっとそうなのよ、鈴原、あたしがアスカの友達だったから付き合ってくれてたのよ」
 ぐしぐしと泣きはじめる。
「あたし情けない、あたしなんて、アスカの引き立て役だったんだ」
「洞木さん!」
 びくっと怯える、珍しくシンジが怒っていた。
「いい加減にしなよ!、トウジがほんとにそんな風に考えてたなんて思ってるの?」
「だって!」
「洞木さんはさっきみたいに優しそうに笑うトウジを知らないって言うけどね、じゃあ僕は女の子を意識して話してるトウジなんて、洞木さんと話してる時以外見た事ないよ」
「意識?」
「そうさ、だってアスカやレイと話してる時だって、洞木さんと話すみたいに言葉選んでないじゃないか」
「選んでるの?」
「そうだよ、洞木さんは特別なんだよ」
「でも、でも…」
「それにさっきのだって、ただアスカがこけそうになったんで、トウジが抱き起こしただけじゃないか」
「え!?」
「角になってたから気がつかなかったんでしょ?、僕やハルカちゃん達もいたのに」
 くすくすと笑うシンジ。
 シンジの話に混乱するヒカリ。
「アスカの言う通りだ、やっぱりおかしいよ洞木さん、あんなにレトロでアリガチな構図で誤解してショックうけちゃうなんて」
 ようやく飲み込めたヒカリは、真っ赤になってうつむいた。
「あたしって、バカ…」
「ほんとだね」
「もう!」
 右手をグウにして振り上げる。
 シンジは冗談で恐がって見せた、けど、いつまでたっても叩いてこない。
「どうしたの?」
「でも…、でも、お弁当がいらないって言ったのは本当なんだもん、学校じゃ無理しないでくれって言ってただけだったのに」
「ああ、あれは…」
 口がすべりそうになるシンジ。
「何か知ってるの!?」
「あ、その、知ってるけど…」
「教えて碇君!」
 押し倒しそうな勢い。
「う…、だめだよ、言えない」
「どうして!」
「トウジの問題だから…、トウジだって悩んでるんだ、だから僕が言っちゃいけない事なんだと思う」
 思ったよりも強い口調に、ヒカリはそれ以上追求できなくなった。
「でもね?、本当だったら黙っててもよかった事なんだ、それでもトウジはいらないって言っておくべきなんだって決心したんだと思う、洞木さんのことをちゃんと考えてるから、うやむやにしないで、ちゃんと伝えたんだよ」
「どんな理由があったって、断られたのは本当だもん、碇君には相談してるのに、あたしには何も言ってくれないんだし…」
「僕が知ってるのは…、その、だめだ、やっぱりバラす事になっちゃう、でもね、トウジから聞いたわけじゃないよ、それは本当だから」
「本当?」
「うん、だからさ、トウジのところに帰ろうよ」
 怯えた目をするヒカリ。
「大丈夫だよ、トウジ、僕に頼むって言ったんだ、心配してるからだよ、だから安心させてあげようよ、ね?」
 立ち上がって手を差し伸べる、迷ってから、その手に手を重ねるヒカリ。
「大丈夫、トウジは意味もなく洞木さんを傷つけたりしないよ、もしそんなことをしたら、僕がぶん殴ってやる」
 っと、明らかにトウジよりも細い腕に力こぶを作って見せた。
 思わず吹き出すヒカリ。
「ありがと…、そっか、優しいね碇君も」
 そんなヒカリの微笑みにドキッとする惚れやすいシンジだった。


「お姉ちゃんどこ行っちゃったのかなぁ…」
 ベンチに座って、プラプラと足を遊ばせているノゾミ。
「みそこなったわよ、あんたがこんなに薄情だったなんてね」
 怒りの余り、アスカは座ろうとしなかった。
「認めてもらおうなんておもとらへんわ」
 かっちーんっとくる。
「何よその言い草、あんたヒカリがどれ程…」
「委員長は関係あらへん!、ワシが悪い言うんならそれでもかまへんわ、そやから黙っててくれや」
「なにその態度は?、人傷つけておいて理由はだんまり?、それで通ると思ってんの!?」
 めんどくさそうにするトウジ。
「あんたねぇ、何があったかしらないし、何考えてんのかもわかんないけどね、自分一人で考えて、自分一人で解決してたらかっこいいなんて、絶対間違ってんだから、それだけはわかりなさいよね!」
「いつわしがカッコつけたっつうねん!」
「今やってるじゃないの!」
 ぬぬぬぬぬっと面を突き合わせる二人。
「ああああ、どうしたらいいのかなぁ?」
 ノゾミは冷や汗を流した。
「ヒカリに甘えるだけ甘えといて、何かあったら簡単にポイっと捨てちゃうってわけ?」
「わしはそんなことせぇへんわ!」
「してるじゃないの!」
「してへんわ!、なんやねん、お前に何がわかっとるっちゅうねん!」
「なんんんんんんにもわかんないわよ!、あんたみたいなバカのことなんかね!」
 ますます険悪化していく。
「お願い、シンジお兄ちゃん、早く帰ってきて」
 ノゾミには、もう祈ることしかできなかった。
「あれ?、そういえばハルカちゃんどこに行ったんだろ?」


「甘い、甘いなシンジ」
 今度はヒカリとともにドキッとした。
「そんなことじゃ、トウジはいつまでたってもあのまんまだよ」
「ケンスケ!、なんでこんなところに居るんだよ!」
 よっこらしょっと、ビデオカメラ片手に繁みを乗り越えてくる。
「いやぁ、俺も心配だったからさぁ、それで…、ね、後つけてたんだ」
「ね、じゃないわよ!」
「大変だったんだぜぇ?、トウジだけじゃなくて、どう動くかわからないチビ達からも隠れてさ、その上一番良いカメラアングル探して、走りまくったんだから」
 擦り傷だらけだった。
「けどおかげで奇麗なお姉さんとお友達になれたから、結構ラッキーだったけどな」
「お姉さん?」
 急に手を振るケンスケ。
 その先にジュース片手に片手を上げる女の子がいた。
「お姉ちゃん!」
 コダマだった。
 ジーンズにダンガリーシャツ、黒いコートを身に纏って、これまた黒のハットを目深に被っていた。
 コートの左脇が不自然に膨らんでいる。
 なるでガンマンだ。
 シンジの素直な感想。
 シンジはヒカリを見た、どういうお姉さんなんだろう?
「ずっと一番よく見えるポジションを争ってたもんだからさ、すっかりお知り合いになっちゃって」
 てれてれとケンスケ。
「もしかして…、さっきのも?」
「ああ、シンジの名シーン、ちゃんと納めさせてもらったぜ?」
 ぱんぱんっとカメラを軽く叩く。
 シンジも赤くなった。
「いいかシンジ、トウジには俺達みたいにわかりあえる親友の他に、もっと大事な人が必要なんだよ」
「恋人?」
「そっ、何だわかってるじゃないか、一緒に寄り添って歩いてくれる人だな」
 ヒカリを見る、シンジとケンスケの視線に戸惑うヒカリ。
「あ、あたし?」
「そうだよ、他に誰がいるんだ?、秘密を分かちあって、ともに悩んでくれる人さ」
「そういう、もんかな?」
「そうだよ、そして俺達は、例えどんなにトウジに嫌な顔をされたとしても、あいつのためになることをしてやらなけりゃならないんだ!」
 妙な使命感に燃えている。
「だから、委員長には今からいいことを教えてやるよ」
「いいこと?」
 不安を感じるシンジ。
「我に秘策アリさ!、大丈夫、ちゃんとお姉さんにも許可を貰ってあるから」
 シンジ以上に不安を感じたヒカリだった。


「あたしはねぇ、あんたのどこが優しいのかわかんないし、そこが良いっていうヒカリのいうことも理解できないわ、正直」
 もう歯止めをかけないアスカ。
「だけどね、ヒカリが幸せそうにしてるんならいいかって思ってたのよ!、それがどう?、このありさまじゃない、あ〜あ、むくわれないわね、あの子も」
 だんっと、地面を蹴るように立ち上がるトウジ。
「な、なによ…」
 鋭い目つきに、言い過ぎたかな?と振り返るアスカ。
「わしは、誰かにわかってもらおうなんて、おもとらへんだけや」
 ぼそりとトウジ。
「ヒカリはそれを寂しがってるのよ」
 独り言のように返すアスカ。
 何か言い返してくると思っていたのか、トウジが黙り込んでしまったことに奇妙な感じをうけた。
「なによ?」
「愚痴や弱音聞かされて喜ぶ奴がおるか?、はけ口にされて楽しい奴がおるか?、ワシに委員長をそないな相手に使えいうんか!」
 吐き捨てる。
「愚痴なんか聞かされても何も楽しいことなんかあらへん、言うた方はすっきりするかもしれんけど、はけ口にされる方はたまらん時間過ごすだけや」
 それは経験から来る言葉に聞こえた。
「だから誰にも何も言わないわけ?、自分の事はなんにも」
「そや、言うたからいうて、どないなんねん、誰か助けてくれるんか?、どうせ自分で解決せなあかんのや」
「鈴原…」
「頼むわ、放っといてくれ、委員長には謝るさかいに」
 その疲れたような言い様に、さすがのアスカもそれ以上の追求はできなかった。






「あー!、やっと帰ってきたぁ!」
 ほっとしたようにノゾミが声を上げた、そのままあれ?、っと首を傾げる。
「コダマお姉ちゃんだ」
「ケンスケも」
 なんで増えてるのよっと、目でシンジに問いかける。
 二人が近寄ってきたので、トウジは一人取り残されてしまった。
「あ、ヒカリ…」
 アスカの呼びかけに、微笑みだけで答えて、ヒカリはトウジの元へと歩いていった。
「僕達はお邪魔みたいだからさ」
「そうそう、二人っきりにしてやろうぜ?」
 心配げなアスカの腕をそれぞれ取って、引きずっていく。
「ノゾミ、あたしとあそぼっか」
「うん!、でもハルカちゃんが帰って来てからね」
「じゃあ、それまでジュースでも飲んでようか」
 シンジたちもそれにならって、離れてトウジとヒカリを見守ることにした。


「委員長、すまんかったな…」
 前に立つヒカリの顔を見れないトウジ。
「ううん、良いの、きっと迷惑がられてたんだなって、優しいからそう言えなかったんだなって、そう思ったら悔しくって、泣けちゃったの、それだけ」
 軽く握った手の人差し指を唇に当てながら、悲しげに答えかえした。
「そ、そないなわけあらへんやろ!、わしはホンマに感謝しとんのや、委員長のおかげで、わしは人の手料理いうもんの味を知ることができたさかいに」
「よかったぁ」
 お腹の前で手を組んで微笑む。
「いいの、鈴原がどう思って食べてくれてたかなんて、あたしは、その…、す…、お弁当好きな人に食べてもらいたかっただけだから」


 うあっちゃーっと、ケンスケは顔をおさえた。
「そこでごまかしてどうするんだよ」
 ビデオカメラにガンマイクを取りつけて向けている。
「悪趣味な…」
 言いながらも、繋いである外部モニターから目を離さないアスカ。


 ヒカリはトウジのすぐ隣に腰を下ろした、しっかりと体がくっつくように。
「ど、どないしたんや委員長!」
「……」
 自分でしておきながら、恥ずかしさのあまり答えられない。
「なんか、らしゅうないで」
「変…、かな?」
 やっとの想いで答えた。
「まるで惣流みたいや」
 ぬわにぃー!っと聞こえた叫びは、気のせいではない。
「ねえ、鈴原?」
「なんや?」
「何か乗りに行かない?」
「なんや急に」
「いいから、行こう?」
 さり気なくトウジの手を取る、耳まで真っ赤にしながら、それでも手を放さないで、ヒカリは走った。
「そないにいそがんでも!」
 ヒカリは走った、繋いだ手を離したくは無かったから。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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