Episode:9E





「とりあえずビッグサンダーマウンテンαから行こうか?、それからジャングルクルーズリミテッドもいいなぁ、あ、カリブの海賊HGっていうのもあるのね」
 パンフ片手にはしゃぐヒカリ。
「何や委員長、そない遊びたかったんか?」
 パンフを丸めて、口元に当てる。
「ん〜、ちょっとは期待してたの、でも今日はノゾミのつきあいで来てたから…」
「そっかぁ、委員長て、妹思いなんやなぁ」
「鈴原もじゃない」
 ばんっと背中を叩く。
「げほっ、どないしたんやホンマ」
「何でも無いってば!、じゃあ二人だけなんだし、ノゾミには悪いけどドラゴンコースターに乗っちゃおうっかな!」
「まぁ、あれやったらワシも乗ってみたかったけど」
「ほんと?、よかったぁ、じゃあ急ぎましょうよ!」
 トウジの背中を押していく。


「くうううう、だめだ委員長、コースター系はおもしろいけど、アプローチするチャンスが無いじゃないか!」
「けど雰囲気重ねていくにはちょうど良いんじゃない?」
 ぼそぼそとコダマとケンスケが会話を交わしている。
 それをじーっと見ているアスカ。
「あの二人、何だか妖しくない?」
「そっかな…」
 アスカ、ごめん!
 一筋の冷や汗を垂らして、心の中で謝るシンジだった。


「あー、やっぱスカっとするなぁ、わしにはこっちの方がおおとるわ」
 少し青ざめているヒカリ。
「なんや、酔うたんか?」
「大丈夫、大丈夫、思ったよりもきつかったから…」
 口元にハンカチを当てて、そっと目をふせる。
 伏せた目が、ちらりとカメラを構えているケンスケとあった。
 ナイス!っと親指を立てているケンスケ。
「さ、もう大丈夫よ?、次は何にしようか?」
「ホンマに無理しとらへんか?」
「もう!、最近そればっかりじゃない!」
 今度は怒って口を尖らせる。
「なんやもう、ホンマに惣流そっくりやなぁ、やっぱ似てくるんか?」
 後で殴ることが確定した、拳を固めるアスカ。
「じゃあアスカらしくいこうっかな、ジャイアントドロップ・メテオ・プルミエール、どう?」
 いざ乗ってみてからヒカリは後悔した。
 地上60メートル、一気に自由落下する絶叫マシーンだ、吹きすさぶ風にヒカリは引きつりまくっていた。
「委員長…」
 続きの声をかける前に、マシンは降下をはじめてしまった。


「ヒカリ…、死んじゃうんじゃない?」
「だいじょぶじょぶ!、お姉ちゃんあれでけっこう丈夫だから」
 ヒカリの家族は、温かく見守るだけらしい。


「絶対無理してるやろ…」
 しゃがみこんでいるヒカリの背をなでているトウジ。
「ちょっとは…」
「よっしゃ!」
 ばんっと叩く。
「ほなら今度は大人しいやつにしよか、あれはどうや?」
 高さが100メートル近い大観覧車を指差す。
「うん、あれなら…」
「じゃあいこか」
 トウジが手を伸ばした。
「うん…」
 ヒカリはその手を嬉しそうにとった。
 ……よかった、いつもの鈴原だ。
 今度はトウジが手を離そうとはしなかった。


「あーあー、トウジの奴、右手と右足、一緒に動いてるよ」
「行くわよ」
 コダマに首根っこをつかまれるケンスケ。
「観覧車なら…、大展望台から狙えますよ」
 先行して走り出すケンスケ。
「だめよ、それじゃ会話が録れないわ」
「抜かりはないですよ」
 懐から覗かせる受信機。
「盗聴器…、やるわね」
 あの二人って…
 さすがについていけないシンジだった。






 観覧車に乗ったはいいものの、つい手を離さなかったもんだから、ヒカリはトウジと並んで座ってしまった。
「お、思ったより狭いんだね」
「そやな…」
 けど向かいに座りなおそうとしない二人。
「あー、恐かったけど、後になってくると面白かったなって感じがしてきちゃった」
 なんやまぶしいで、委員長…
 トウジは緊張していることに気づかれたくなかったので、窓の外に顔を向けた。
「けどノゾミ放ってきちゃった、きっと怒ってるなぁ…」
 はたと思い出す。
「そういえばハルカちゃんいなかったけど、どうしたの?」
「ええんや、ハルカは、夕方まで…」
「え?、どうして…」
 一拍の間。
「今おかんにおうとるんや」
 あまりにもさらりと言うものだから、ヒカリは理解するのに数秒かかった。


「ねえ、あの男の子の家庭ってどうなってるの?」
 さすがに言いよどむケンスケ。
「ふ…ん、わけありかぁ」
 地上90メートルもある展望台で、ロングレンジスコープを取りつけたカメラを覗いているケンスケ。
 その隣で、窓を背に座り込んでいるコダマ。
 レシーバーからのびるイヤホンに聞き入っている。
 はた目にも無茶苦茶妖しいコンビ。
 歩いて追いついたシンジたちは、そのまま遠くで他人のふりをはじめた。


「おかあさんって…、街に来てるの?」
「すまん…かったなぁ」
「え?」
「惣流に、怒られたんや、わし、まさか心配されとるとは思とらへんかったし…」
「鈴原?」
 下から覗きこむ。
「ワシなぁ、この街出てくかもしれん」
 ぐらっと世界が揺れたような気がした。
「おかんに来い言われたんや」
「い、行っちゃうの?」
「わからん、おかんが来て欲しいおもとんのは、ハルカの方やさかいなぁ」
 自嘲ぎみの笑み。
「おかあさんが、そういったの?」
「ちゃう、けど、わしは親父似やさかい…」
 気まずい空気が流れる。
「わしが行く言うたら、ハルカは絶対ついてきおる」
「そんなことないわよ、きっと鈴原にも来てもらいたいって…」
「わしはぁ…、わしはおかんの吐け口やったさかい」
「なに、それ…」
「小さかったしな、何があったかなんて知らんかった、ただむしゃくしゃしとると、必ずわしに当たってきおった、勉強せえ部屋片付けえ、しまいにはいつもは気にもとめとらんようなことまでほじくり出しおってな、たまらんかったわぁ…」
「行きたく…、ないんだ」
「……かもしれん、けどハルカが行く言うんやったら、わしは守ってやらなあかん、あかんのや」
 ずるい…
 それじゃ、あたし引き止められないじゃない。
「やから、もう委員長の弁当、貰われへんおもたんや」
「バカ…、全然言葉足りてないじゃない」
「そやなぁ…」
 乾いた笑い。
「惣流に委員長のことポイ捨てか言われて、頭きてしもてな、つい怒鳴ってしもたわ」
「アスカが!?」
「そや、わし、おとんとおかんのこと思い出してしもて…」
 トウジは肩に重いものを感じた、視線だけ向けると、ヒカリの頭があった。
 髪の香りが鼻孔をくすぐる。
「もういいから…」
「わし…、それでもおかんが作ってくれたもんに憧れとったんかもしれんなぁ…」
「そ?」
「そやから、委員長には十分してもろたさかい、ほんまに感謝しとる…、しとるんや」
 ヒカリはそっとトウジの手に手を重ねた。
 それはとてもとても仲の良いカップルに見えたわけで…


「ねぇ、シンジぃ、あたしたちも負けずに熱々しようかぁ?」
 擦り寄るアスカ。
 シンジの手の平にのの字を書く。
「何だよアスカ、今日はいつもと違うじゃないか」
「とうとう色ボケしたんじゃないか?」
 あ、そりゃ前からか、とオチをつける前に張り倒されるケンスケ。
「勉強になるでしょ?」
「うん!」
 ノゾミは参考にしようっと学習心に火をつけた。


 無情にも一周してしまった観覧車。
 ヒカリはトウジの腕に腕をからめて観覧車から降りた。
 組んだ腕に胸を押し当てるようにする。
「い、委員長…」
「な、なに?」
 うつむいたままだが、耳が赤いので恥ずかしいのはバレバレだ。
 しばし無言に戻って並木道を歩く。
 葉がついてないので寒々しかったが、ほかにもカップルは多かった、その内の一組になっている二人。


「いけ、いけ、いけ…」
 草葉の影で、ケンスケは拳に力を入れていた。
「もうちょっとなんだけどねぇ?」
「お姉ちゃん奥手だから」
 奥手って意味知ってるのかな〜っとシンジ。
「そっかなぁ、よくあのヒカリが腕なんか組んでるなぁって思うんだけど…」
 ぎくりとケンスケ。
「ケンスケ、あんた…」
「まった、ほら!」
 動きがあった。
「委員長、離れへんか?」
「あ、ごめん鈴原、こういうの嫌いだった?」
「いや、わし馴れてへんさかい、恥ずかしゅうて…」
 だあ!っとテーブルをひっくり返しそうなアスカとケンスケ。
「それに、なんややっぱり委員長らしゅう無いわ」
「だって…、だってあんな話するから…」
 なに言ったのよバカトウジ!っと飛び出しかけたアスカをコダマが取り押さえた。
「そんなつもりで話したんやない」
 無理矢理ほどいて、ヒカリの前にたつ。
「やっぱ、わしは、わしはいつもの委員長の方が…」
 ぐびびびびっと誰かが生唾を飲み込んだ。
「え、ええと思うわ」
「それだけかー!」
 アスカがスニーカーを投げつけた。







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