NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':100 


「すみません、こんな所におよ、およ…」
「お呼びだてして、だろ?」
 とある喫茶店、そのテーブルに着いているシンジとケンスケの前に、一人の大学生が座っていた。
「けど驚いたよ、突然だったからね?」
「すみません、クニカズさん…」
 申し訳ないと頭を下げる。
 小和田奈々のいとこにして医大生であるクニカズだ。
 ミズホが居れば喜んだかもしれない相手である。
 シンジは幾分緊張気味にしゃちほこばっていた。
「でも知らなかったな…、ケンスケとクニカズさんが知り合いだったなんて」
 隣のケンスケに横目を向ける。
「俺のコネクションを舐めるなよ?」
 ふっふっふっと、陰鬱に笑う。
「本当は、街で突然写真を撮らせてくれってナンパされたんだよ、随分前にね?」
「はぁ、そうですか…」
 クニカズの耳打ちに固い笑いを浮かべる。
(ケンスケ、ほんとに見境無いよな)
 ちょっとでも恰好がよければ、個人発行のカタログにでも載せるつもりで写真に収めているのだろう。
 その中にアスカや、レイや、ミズホもいるのだから心境は複雑である、もっとも。
 シンジは自分もその中に入っている事を知らないのだが。
「話しは聞いたよ、でもいいのかい?」
「なにがですか?」
 シンジは正直、相手がクニカズだと知ってほっとしていた。
 ミズホが懐いていたのだから、さほど問題のある男性ではないだろうと思ったのだ。
「高校生の女の子相手に、お付き合いをって言われもなぁ」
 やや守備範囲から外れているのだろう、クニカズは躊躇して見せる。
 だがその良識があるからこそ、安心して任せられるのだが。
「ミズホちゃんの時にも思ったけど、シンジ君、男ってのは余り信用しないほうがいいぞ?」
「そうですか?」
「いざとなったら力づくで、何をするか分からないからな?」
(その心配は無いだろうなぁ…)
 その時になって叩きのめされるのはどちらなのか?
 それは愚問と言う物だろう。
「でも僕には…、どんな人を紹介すればいいのか、良く分からなくて」
「同い年の方がいいだろう?、普通は」
「いや、それもどうかって気はしますよ」
 あっちの世界から帰還して、ケンスケは割り込みをかけた。
「どういう事さ?」
「やっぱさ、彼氏が欲しいってのは、デートとかそういうのに憧れてんじゃないかって事」
「…よくわかんないや」
 そんなシンジにケンスケは肩をすくめ、クニカズは苦笑する。
「やっぱお子様だな、シンジは」
「なんだよもぉ」
 すねて、頼んでいたレモンティーに手を出す。
「演出って事だよ」
「演出?」
「ああ」
 大真面目に頷くクニカズ。
「朝の待ち合わせ、移動、出かけた先では何をするのか?、どんなことを話して、どんな風に歩いて、お昼は?、帰る時間は?、そういったことを全部演出するのが男の役割なんだよ」
「さっすが、良く分かってらっしゃる」
 揉み手で持ち上げるケンスケ。
「演出かぁ…」
 それがどんな効果を生み出すのか?
 連れ回される側のシンジには、想像の果てにあるお話しだ。
「朝出かける時に、『今日はキスする!』なんてそれまでの盛り上げ方を考えたりな」
 え?、っとシンジは小さく驚いた。
「クニカズさんも、そんなことしてたんですか?」
「…昔はね?」
 苦笑いを浮かべる。
「今は振られたからなぁ」
「そうですか…」
 余り触れない方がいいのだろうと判断する。
「ま、ちょっとワザとらしかったり、焦ったりする所が見えるけど、それが逆に良いんだよ」
「そんなものですか?」
「相手も気付いてくれるからな?、あ、今日は何かあるんだなって、期待して、緊張してくれたり」
「でも…」
「でも?」
「嫌がったりはされませんでした?」
 はははっとクニカズは大きめの笑いを上げた。
「そりゃ山ほどあるよ」
「そうなんですか?」
 男のシンジが見てもモテるタイプに見える。
 シンジにはクニカズが嫌われたり、振られたりする所は想像しづらかった。
「何度も同じことをくり返して、ようやく『ま、いいかな』って感じで…、って何話してるんだろうな?、俺」
 苦笑して、コーヒーカップに手を伸ばす。
「話を戻すけど、これから何処に連れていかれるのか、これからどんな事をお話しするのか?、これから何を食べるのか?、女の子はいちいち楽しみにするものさ」
「それを、演出する?」
「俺達には無理だよなぁ」
 シンジは「え?」とケンスケを見た。
「なんだよ?」
「だって…、ケンスケなら、色んな場所知ってるじゃないか」
「知ってるのとエスコートできるのは別だろ?」
 こめかみがひくついている。
「どうせ俺は誘える相手もいないよ」
「あ、ごめん…」
「くっ…、謝るなよなぁ」
 惨めな気分に浸り、落ち込む。
「それで、俺はどうすればいいのかな?」
 クニカズはまとめに入った。
「取り敢えずデートしてみたいんだけど、いいかい?」
「え?」
「相手がどんな子だか分からないのに、いきなりつき合うってのもね?」
「そ、そうですね、それじゃあ…」
(どうしよう?)
 シンジは迷った。
 いつミヤがこちらに来られるのか?、いつならいいのか?
 スケジュールや予定を全く把握していなかったからだ。
「わかった」
 そんなシンジに助け船を出す。
「向こうの子に聞いて、予定が決まったら連絡して欲しいな、それでいいだろ?」
「あ、はい、じゃあ連絡してって、秋月さんに」
「シンジ君」
 クニカズは急に調子を改めた。
「その連絡は、君を通さないと駄目だ」
「え?」
(どうして…)
 疑問が顔に出たのだろう、クニカズは上げかけた腰を再び落とした。
「見た事も話した事も無い相手にいきなり電話が掛けられるかい?」
「あ…」
「君が間に入れば、その子だって少しは緊張しないで、楽しみに出来るんじゃないかな?」
 クニカズは暗に『君は信頼されている』と言っているのだが、それがシンジに伝わったかどうかは判断がつかない。
 それじゃあ、と席を立つクニカズの背中に、シンジは慌てて声を掛けた。
「あの、…こんなお願いして、すみませんでした」
「いいさ…」
 クニカズは置き残す様に付け足した。
「妹がもう一人増えると思えばね?」
 その声音にシンジは、大人なんだ、と決して小さくは無い感動を沸き起こらせていた。






「え〜?、それじゃあクニカズさんにお頼みに?」
「うん、そうなっちゃったんだ…」
 シンジは家に帰ると、言い辛そうに報告した。
「そのクニカズって人、どうなの?」
「えっとぉ…」
 ミズホはうんうん唸り出した。
「…良い人ですぅ」
「はぁ?」
「ですからぁ、とてもとても良い人ですぅ」
 なにやら必死に訴える。
 あまりにも必死過ぎて要領を得ないのがあれなのだが…
「…もっと具体的な感想は無いのかしらね?」
「無理よぉ、だってミズホだもん」
「…そうね、で、あんたは知ってるの?」
「ん〜、見た事ある…、と思う」
 首を傾げる。
「なによぉ?、頼りないわねぇ?」
 えへっとレイは後頭部を掻いた。
「カッコイイ車でミズホを迎えに来てたあの人でしょ?」
「そうですぅ」
「浮気ね」
 ぽそっとアスカ。
「ななな、なんですかそれはぁ!」
 妙に焦る。
 ドライブ=デートと言う認識があったのかもしれない。
「シンジに負けず劣らず、あんたも浮気者だったのね」
「僕に負けないってなんだよ、それ…」
「違いますぅ!」
 否定する様にシンジの腕にしがみ付くミズホ。
「わたしはシンジ様一筋ですぅ!」
「うんうん、その筋道の真ん中に他の人にも出会ってるのよね?」
「最終的にはシンジで、間はつまみ食いって事?、やっぱり浮気してるんじゃない」
「ふええええん、シンジ様ぁ!」
「まぁまぁ…」
 シンジは苦笑しながら、胸にしがみついて泣きじゃくるミズホの頭を優しく撫でた。
 …嘘泣きだと分かっていても、そうしないと落ちつかないからだ。
「僕もクニカズさんだったら、心配しなくていいと思ったし」
「あっまーい!、甘過ぎる」
「なんだよアスカ…」
 仁王立ちで、見下ろす様に指を差す。
「いい?、男なんてみんな野獣よ!」
「はぁ?」
「隙があったらホテルに連れ込んで…、嫌ぁあああああああ!、そんなの嫌ぁあああああ!」
「…どうしたの?」
「ははははは、今日ヒカリとケーキ屋に寄った時、ちょっとね?」
 シンジが居ないので女だけで帰ったのだが…
 まさかその時、のろけに混じってY談を聞かされたなどとは言いづらい。
「それでシンちゃん、ミヤには連絡したの?」
「ううん、これからだけど」
「ほぉおおおお?」
 剣呑な視線にびびるシンジ。
「な、なに?」
「シンちゃん…、ミヤの電話番号知ってるんだ?」
(僕、何かいけない事したのかなぁ?)
 年頃の男子の携帯電話に、これまた年頃の女子の電話番号が記録されている。
 それが他人から見てどう見えるのか?、シンジは全く気が付いていなかった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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