NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':101 


「ほらシンちゃん、早く早くぅ!」
 電車を降りるなり、シンジはぼけらっと惚けてしまった。
 今この表情を言葉に直すのなら、「ここはどこ?」であろう。
「なんで…」
 背中を押されるようにして改札口をくぐると、『ネオセントラルパーク』とバス停の案内板が目に入った。
 人はまばらだ、当たり前である、平日の朝なのだから。
「どしたの?、シンちゃん」
「どうって…」
 シンジは首を痛めているように、ぎこちなくレイに振り返った。


Neon Genesis
EvangelionGenesisQ'101
「ぴーちくぱーちく」


「ばっかシンジの奴ぅ!」
 憤るアスカ。
 その怒りはがに股の歩みにも現われている。
「レイさん…、シンジ様も酷いですぅ!」
 のっしのっしと歩くアスカに遅れまいと、胸に鞄を抱いて小走りに追う。
 朝起きて、「また寝坊してる」と叩き起こしに行ったアスカが見た物は…
「シンジくぅん…」
 くんかくんかとシンジの掛け布団に腕と足を絡めて、にほいを嗅ぐため鼻の穴を大きくしている一匹の変態であった。
「ばかシンジぃ!」
 余所のクラスだと言うことを全く考慮せずに、大声を上げて怒鳴り込む。
「ふあ?」
 惚けた顔を持ち上げたのはマナだった、寝ていたのだろう、頬に袖の皺の痕が付いている。
「ちょっとマナ、シンジは!?」
 特に誰でも良かったのだが、反応したのがマナだったので問い詰める。
「え?、シンちゃん?」
 回っていない頭に血を掻き集めていくのがありありと窺えた。
 それだけに反応の悪さにアスカのこめかみに血管が浮く。
 マナはえっとと辺りを見回してからアスカを見上げた。
「…サボりみたいね」
「…ちなみに綾波さんも休みだよ」
「なんですってぇ!」
 楽しげに補足したのは浩一だった。
 意地の悪い笑みを浮かべている。
「日誌を取りに行った子が言われたらしいよ、加持先生宛に直接休みと電話が入ったってね?」
 アスカは怒りの余り、赤黒く顔を変色させた。
「ばっかシンジの奴ぅ!」
 激怒するアスカに、浩一はほくそ笑んだ。
 ちなみに電話したのはレイであってシンジではない。
(ま、恋敵だからねぇ)
 その点は意図的に説明しなかったのだ。
「どうでもいいですけどぉ」
 それはともかくとミズホ。
「マナさん、だらしないですぅ」
「ほえ?」
 背筋を伸ばしたまま舟を漕いでいるマナだった。






「まだ悩んでるの?」
 後ろに手を組み、下から楽しげに覗きこむ。
 レイはご満悦な様子で、機嫌の良さを振りまいていた。
「…そりゃ遊園地に行こうとは言ったけどさぁ」
 はぁっと溜め息。
「休みの日でも良いじゃないかぁ」
 恨めしげに見るが通じない。
「だめだめ」
 レイは肩を並べると、シンジの小指に指をかけた。
「だってそれじゃ、アスカ達も来ちゃうし」
「誰が怒られると思ってるんだよぉ」
 それを考えると気落ちしてしまうのだ。
「いいじゃない、どうせもう怒られるの決定してるんだから」
「う…、そりゃまあ…、そうだけどさ」
 実際問題、もう二人きりでここに居るのだ。
 帰ってからの追及は熾烈を極めるし、どうせ満足のいく答えとそれを上回る謝罪を行うまで許しては貰えないだろう。
(だから嫌なんだけどな…)
 財布の中身を考えると頭が痛くなってくる。
 今日の散財は、当然その『お侘び』のランクを下げる事に繋がってしまうだろう。
 ミズホはともかくとして、アスカがそれで許してくれるだろうか?
(そんなわけないよな…)
 ずーんっと暗く落ち込んでしまう。
「ん〜、どれから乗ろうか?」
 レイは入場券売り場で貰ったパンフにわくわくしていた。
 片手で丸めるように持ったそれには、幼稚な絵で園内の地図が描かれている。
 一面目に付くように、イメージキャラクターが絶叫系の乗り物やお子様向けの機関車に乗っているイラストがちりばめられていた。
「ね、シンちゃんはどれが良い?」
「…安いやつ」
「え?」
「あ、なんでもないっ、なんでもないよ!」
 シンジはとほーっと肩を落とした。


「こっちこっち!」
 第三新東京市、ジオフロント中階にある婦人服売り場に、元気な声が軽く響く。
 人のざわめきに飲み込まれる寸前に、彼女は追い付こうと人の間をすり抜けた。
「困った子ねぇ」
 と言いつつもニコニコとしているのはサヨコである。
「あれだけあって、まだ足りないの?」
「当ったり前!、もっと気合い入れなきゃ」
(お祭りみたいな物かしら?)
 気分的にそうなのだろうと、サヨコははしゃぎ様を見て想像した。
 浮かれる様に一人で盛り上がっているのだろうと。
 暖房が効いているのかそれなりに暑くなって来ていた、サヨコはコートを脱ぐと畳んで腕にかけ、落ちついた。
 タートルネックの黒のセーター、胸の大きさが黒に別の陰影を付けている。
 それらのコントラストはサヨコの黒髪に良く映えた。
「冬ねぇ…」
 周囲の視線が遠慮するように向けられる、どこか目を引かれるのだがサヨコの清楚さに失礼だと思い直して前を向く。
 何人かは無遠慮な視線を投げかけて、自分の彼女に頬をつねられたりもしていた。
 そんな衆目をサヨコは感じもせずに、ミヤ同様に目移りをさせていた。
 普段居る場所が居る場所だけに、あまり厚着をすることがない。
 それなりに服は持っていても、主婦同様にどこか実用的な簡素さが目立っていた。
 冬服は特別なものである。
 下着から始まり、オーバー、コートと、何枚も重ねる事になる。
 それだけに組み合わせは多様で、色合いにも気を使うし、その苦労がまた楽しい。
「サヨコも何か買っちゃったら?」
 ミヤはサヨコの目が自分と同じになっている事を見て取り、彼女の心情を快く思った。
 仲間が増えると読んだのだ。
「甲斐さんからお小遣い貰ってるんだし」
 小遣いというと語弊があった、実際にはただの『生活費』だ。
「そうねぇ…」
 サヨコは珍しく、人のことよりも自分のことを考えた。
 それだけミヤの浮かれように毒されてしまっていたのかもしれない。
(サヨコに似合いそうなの…)
 ミヤは少し考えて…、やめた。
 サヨコの身長とモデルよりはやや落ちついた感じのする肢体、それに流れるような髪と、物腰から来る穏やかさ。
 あまり派手な物は似合わないだろうが、どれを選んでもそれなりに着こなしてしまう様な気がしてしまったからだ。
(エプロンより割烹着がいいんじゃないって…、すすめてみようかな?)
 少しの嫉妬を交えた自分の冗談に、ミヤは忍び笑いを漏らしてしまった。






『いやだ!、おりるぅーーーー!』
 シンジは心の中で叫びながらがくがくしていた。
(落ち着け、落ちつくんだ!)
 地上数十メートル、いわゆるフリーフォールである。
「たっかいねぇ?」
 ケタケタと笑うレイに、『頼むから静かにして!』っと目でお願いしようと試みる。
 だが恐くて首が動かせないので視線を合わせられなかった。
 ちょっとでも動けば椅子が外れて、地上へ向かって真っ逆さま。
 そんな最悪の想像がシンジの体を硬直させている。
 まあどの道、落ちる事にはなるのだが。
「キャ」
 レイの小さな悲鳴はがくんとストッパーが外れたからだった。
『ぅうううううううううう、わああああああああああ!』
 落ちる、落ちる、落ちていく。
 大口を開けたが恐さに声が出なかった。
 目は涙がにじみ出る痛みと急激に『上がって』くる地平線にパニックを与える。
(あ、ちょっと出たかも)
 シンジはわずかに残っていた冷静な部分で、気付かれないよう内股になるのを堪えていた。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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