NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':101 


 クニカズの目を引いたのがサヨコであり、自分はそのおまけとして気付いてもらえたのだとしても。
(これ以上、負けられないのよ)
 ミヤはそう気張るしかなかった。
 これが一山幾らの連中であったなら、サヨコに目を奪われたまま自分には気が付いてくれなかっただろう。
 それがいつものパターンなのだ、そしてその点、サヨコの見た目に気を奪われなかったクニカズは、合格点をクリアした希有な人物として受け止めていた。
「じゃあ、わたしは」
 えっと、ミヤは顔を上げた。
 サヨコが席を立ったからだ。
「あ、サヨコ?」
「ご好意に甘えなさい?」
 そう言われても、と、ミヤはクニカズに顔を向けて困惑した。
 どうやら自分の思考に落ち込んでいる内に、話がまとまってしまったらしいのだ。
「失礼しますね?」
 サヨコは何処までも丁寧に席を辞した。
「…さてと」
 まだおろおろとしているミヤに、クニカズは微笑みかけた。
「秋月さん?」
「は、はい!」
 相変わらず声が裏返っている。
「映画でも見に行こうか?」
 そんな心情を見抜いているのか?、笑みをやや苦笑に変えて、クニカズはレシートに手を伸ばした。






「秋月さんは、友達と映画を見たりしないのかい?」
 クニカズのさり気ない話題に、ミヤはなんとか「いいえ」と答えた。
「田舎に…、いましたから」
 ふうんと鼻を鳴らす。
「シンジ君とでも、誘えば出て来てくれるんじゃないかい?」
「え…」
 ミヤは困惑した。
 ここで何故他の子の話を持ち出すのだろうかと。
「正直、ね…」
 クニカズは本音をこぼす。
「不安なのさ、頼まれたからこそ、無下には出来ないだろう?」
「それって…」
 駄目って事?、と、不安に陥る。
 遠回しに断られたのかと。
「そうじゃないさ」
 クニカズ達は映画館内の端に席を取っていた。
 警音が鳴り、暗くなる。
「顔や履歴で付き合ったりするのかい?、違うだろう」
 それはミヤにも分かる理屈だった。
 コマーシャル映像の明かりに浮かび上がる横顔を見つめる。
「そうですね…」
 相手の内面を知り、自分の心をくすぐられて、初めて好きになってしまう。
 例えばシンジに持った感情がそうだった、ただ、恋愛に発展するほど強いものでは無かったが。
「恋愛に憧れていて、その相手を探してるだけと言うなら、僕にとって君と付き合うのは子供をあやすのと同じになるんだ」
「はい…」
 素直に頷く。
「デートを重ねて、好きになって、キスをして、そんな段取りに夢を見ているのなら、それを叶えてあげればいい、でも、それでは恋人同士と言えるのかな?」
 ミヤは反射的に口にしかけた『はい』と言う返事を噛みつぶした。
「でも、まだわからないじゃないですか」
 好きになるかもしれないし、そうならないかもしれない。
 自然な友達付き合いの中から相手を見付けるだけでなく、いい人に引き合わせてもらって相性を確かめるのも手ではないのか?
 だからお見合いなどもあるのだから。
「…合格」
「え…」
 クニカズははにかんだ笑みを見せた。
「付き合いがね…、デートとかが面白いかどうかってんじゃなくて、俺を見て欲しいと思ったからね?」
「あ…」
 ミヤは何故彼がそのように突き放したかを理解した。
「意地悪なんですね?」
 言葉とはうらはらに笑ってしまう。
 映画にカラオケ、次は何?
 そんなことにドキドキしたいだけならば、デートマップを片手に歩いて回ればいい。
 誰かと一緒に歩く事こそが重要で、その相手が居てくれて初めて感じられる物があるはずなのだ。
 それはクニカズでなければ感じられない物で、またそれがミヤの感性に合うかどうか。
 それこそが重要なのだと教えてくれているのだ。
「じゃあ、当分キスはお預けですね」
 口にしたものの、そんなことにはならないだろうと心を穏やかにしてしまっていた。
 コマーシャルが終わったので、映画に集中しようと座り直す。
(ごめんね、シンジ君…)
 彼はいい人で自分の好奇心を満足させてくれはするが、そこまでの人だとミヤは見切った。
 シンジに謝ったのは、紹介してくれたのに悪いなぁと思ったからだった。






「ほんとにここに居るんでしょうねぇ?」
 疑わしげにアスカ。
 それもそのはずで、ネオセントラルパークは電車とバスを乗り継ぐ遠さである。
 ここまで来て『居ませんでした』では洒落にならない。
「でもでもぉ、シンジ様とレイさんの反応は確かにここにぃ」
(この子、侮れないわね?)
 気付かれないようレイとシンジの携帯電話の電池を『赤木印』に交換したのはミズホである。
 もちろんその中に発信機が仕込まれていることは言うまでもない。
(まさか、あたしのも…)
 後で調べようと心に誓う。
「でもでも」
 うぅ〜っと唸るミズホ。
 今時珍しいがま口を持ち、その中を覗いている。
 はっきり言って、交通費で使い果たしてしまったのだ。
「入場料が払えませぇん」
 えぐえぐと逆さに振ろうとして…、やめた。
 残っている小銭をぶちまけてしまうと気が付いたらしい。
「それについてはいい考えがあるわよ」
 アスカはニヤリと笑うと、ていっと後ろ回し蹴りをミズホの背中めがけて放った。
「ひゃう!」
 ぽんっと膨らむように、ミズホのコートが白く丸くなる。
「なにするんですかぁ!」
 後頭部を押さえて、のたのたと動く巨大ウサギ。
 どうやらオートガードが働いたらしい。
「いいから!、ほら、行くわよ!!」
 アスカはミズホを押して、従業員用の出入り口に向かった。
「いいこと?、あんたは客引き用のバイトなんだから、余計な事を言うんじゃないわよ!」
「ええっ、そうだったんですかぁ!?」
「バカ!、嘘に決まってるでしょうが…」
 ヒソヒソと言いながら、ミズホを盾に警備員の目を護魔化しこそこそと潜り込む。
「…アスカさんって、ほんっとに手段を選ばないタイプですねぇ」
「うっさい!」
 のてのてと歩くうさぎは「ふぅ」っと呆れたように嘆息した。
 アスカはアスカで着ぐるみの出っ張った腹に隠れるために小さくなっていたので、迫力を作り出す事が出来なかった。





 その頃二人は…
「これならいいでしょ?」
 巨大観覧車。
 レイのにんまりとした表情に、シンジはどう答えていいものか戸惑った。
(これって…、別の意味で恐いんだけどな)
 一周何十分かかるのだろうかと言う大きさである、当然人の目はどこにも無い。
 普段であればもっと人が乗っているので気になるだろうが、平日の今日は空きが多い。
 反対側に吊られているボックスを見ても、人影は確認できなかった。
「あ、ほらほらシンちゃん、遊覧船!」
(考え過ぎ、かな?)
 シンジはレイが張り付いた窓に顔を向けた。
 芦の湖が見える、そこに船が浮いている。
 特徴のあるペイントが見て取れた。
 隣に座って来なかった事をシンジは意外に感じていた。
 そんな自分を訝しく思う。
(変なの)
 積極性が恐いくせに、温もりが消えると寒さを感じる。
(緩急つけないとね)
 隠れてペロッと舌を出すレイ、今日は本気のようである。
 勝負モードに入っている事をシンジは見抜けるはずもなく…
「どしたの?、シンちゃん」
「いや、悪寒が…」
 ケケケと隠滅な笑みに気付けないでいた。


「おっかしいですぅ」
「壊れてんじゃないの?、それ…」
 ぐるぐる眼鏡をかけたウサギは、不安がるように半径一メートルの円を描いて回っていた。
「それよりあんた、それ…」
「はい?」
「いい加減、元戻しなさいよ」
 恥ずかしいわねぇと付け足さなかったのは、自分が変身させたと言う負い目があるからである。
「ぽかぽかですぅ」
「あ、そ…」
 諦める、どっと疲れたからだ。
「それにしても…」
 ミズホのレーダーはシンジが『ここ』に居る事を示しているらしい。
「ゆっくりゆっくり歩いてますぅ」
「変ねぇ…」
 アスカは見上げて、ぼうっとした。
「…ねぇ?」
「はいぃ?」
「上…、ってことはないの?」
 ミズホは見上げて…、のてのてとこけかけて踏ん張った。
「ああ」
 ポンと手を打つ。
「みたいですぅ」
 にっこりと。
「あんたねー!」
 どうやらミズホのレーダーは、平面にだけ表示されているらしかった。


「ね…、シンちゃん」
「何?」
 ほんの五分前であれば、『来た!』っと身構えていた事だろう。
 だが警戒心と緊張感が飽和して、シンジの気は『考え過ぎだ』と緩む事を選択していた。
 有り体に言って、疲れたのだ。
 レイは少しだけ身を乗り出すように腰の両側に手を突き、目を細めた。
 連動したように口元にも笑みが浮かぶ。
 高い場所だからだろう、冬だというのに透き通った日の光がレイの微笑に輪を掛けた。
(奇麗だ…)
 その一言を口にしなかったのは僥倖だった。
 真実は硬直するほど緊張してしまっただけなのだが。
「また来ようね?」
 レイの限りなく無作為っぽいポーズに鼓動を高鳴らせてしまう。
「…そうだね」
 シンジは乾いた喉から、何とかそれだけを搾り出した。
 下手な言葉を吐かなかったために、雰囲気は持続し続けた。
「シンちゃん…」
(しめしめ…)
 もし素直に誉め言葉を口にしていたのなら、照れのためにレイは冗談で護魔化したかもしれない。
 だとすればそれは現状を維持したということ、シンジにとってはその方が嬉しかっただろうか?
 だが現実は進展を押し進めている。
 レイは椅子の上にあるシンジの手を押さえるように、腕を伸ばした。
「レイ…」
 シンジの緊張が重ねた手から伝わって来る、レイは心持ち唇を尖らせ、目を閉じようとした。
 びよ〜ん…
 唇が触れ合う直前、そのバックの窓の外に、跳ね飛んで落ちていくウサギの背中が小さく見えた。
 硬直する二人。
「あの…」
「気のせいよ、うん」
 レイは再度進行を計った。
 びよ〜〜ん。
 今度も上手くジャンプできなかったらしい、横向きで逆さだった。
「えっと…」
「ああもう!」
 レイは怒気を吐き散らして窓の外を睨み付けた。
 びょ〜〜〜ん。
 飛び跳ねて来たウサギがにこやかに両腕をばたばたさせてまた消えた。
「シンちゃん!」
 レイは目を血走らせて振り返った。
「な、なに…、うわぁ!」
 ガシッと頭を掴まれる。
「こうなったら、降りるまでにキス!」
「だ、だめだってば、そんなの!」
 シンジはレイの顔を押し返そうとしたが。
「むぅ〜〜〜!」
 タコのように口を尖らせたレイの腕力の方が強いらしい。
 ミズホが一人で追って来たはずは無い、それはシンジの中で絶対の確信だった。
(早く、早く、早く!)
 今、シンジに出来る事は…
 唇が奪われる前に、アスカの邪魔が入ってくれるよう、堪えながら祈り続ける事だけだった。



続く







[BACK] [TOP] [notice]


新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
内容の一部及び全部の引用・転載・加筆その他の行為には
作者である私と原作者naryさんの許可または承認が必要です、ご了承ください。

本元Genesis Qへ>Genesis Q