NEON GENESIS EVANGELION
Genesis Q':102
『ピンポーン…』
いつものように隣のインターホンを鳴らして、シンジは幼馴染の『アスカちゃん』が出て来るのを待った。
小学校五年生、胸には宿題用のノートを抱えている。
『ガチャ』
「あ…」
ドアが開く音にアスカを期待して顔を上げたシンジは、そこに知らない女性を見て戸惑った。
「あの…」
その女性は何を思ったのか、食指が動かされたようにニヤリと笑った。
「ちょっと待ってね?、アスカー!、ボーイフレンドが来てるわよん☆」
どたどたと階段を駆け降りて来る音が響き渡る。
「ちょっとなに言ってんのよ!、いい加減なこと言わないでよね!」
「はいはい」
大きな胸の前で腕を組んで、その女性は苦笑した。
「シンジも!、用があるなら先に電話しなさいよね!?」
「あ、うん、ごめん…」
顔が腫れるほど真っ赤に膨らませたアスカに、シンジは脅えて後ずさった。
「んで?、何しに来たのよ!?」
「あ、宿題…」
「宿題〜?、あんたねぇ、わかったわよ、手伝ってあげるから、あんたの部屋に行くわよ!」
キッとアスカは女性を睨み上げた。
「じゃ、行って来るから」
「行ってらっさ〜い」
その女性は葛城ミサトと言って、アスカの母がドイツへ出張に行く二週間の間、アスカの面倒を見るために来た女性だった。
(まったくもうっ、ママったらよりにもよって…)
アスカは赤くなって溜め息を吐いた。
(今度はなにを言いふらされるか…)
それを考えると憂鬱になる。
以前にも尾ひれの上に胸びれまで付けて誇張した噂をばらまかれた事があったのだ。
なによりも彼女は憧れの『加持さん』の彼女でもあった。
シンジの事を話されるのは面白くない。
(それもこれもこのバカが!)
遊びに来たせいだ!、っと横目に睨み付けようとして気が付いた。
いつもなら隣にいるシンジが、一歩後ろを歩いていたのだ。
(なによもう!)
うじうじっとした暗い顔に苛立ちが募る。
しかしシンジは見た目以上に落ち込んでいた。
「あの…、アスカ」
「なによ!」
怒鳴り声にびくりと震える。
「ごめん…」
はぁと溜め息。
「もういいわよ、バカ!」
アスカはクオーターだが、先祖返りでも起こしたように鮮やかな赤い髪と青い瞳を持っていた。
皆が奇麗だなんだと『憧れの目』を作り遠巻きにする中で、関係無くじゃれついて来るのは隣の家に住むこのシンジだけだった。
しかしそれも早熟な少女の中では『邪魔なもの』として処理されてしまう。
そしてシンジも、それを敏感に察していた。
Neon Genesis
EvangelionGenesisQ'102
「なあばすぶれいくだうん」
お昼休み、青空が広がっているとはいえ、やはり身も縮むように肌寒い。
「っていう本書いたんだけどぉ」
お昼休み、青空の下に集うと言うかマナによって揃えられた一同の顔ぶれは、アスカにレイ、ミズホ、シンジ、カヲル。
あまりに人数が多いので、校庭側の芝生の上での昼食会となっていた。
「…それでぇ?」
空になった弁当箱を放り出し、レイは小膨れにふくれたお腹をぽんぽんと叩いた。
マナのニヤけ顔に警戒心を抱いているのか?、それを伸ばした足で表現している。
さり気なくシンジとの間を遮るようにして、マナを細かに牽制しているのだ。
しかしマナはそんな態度にすら気が付いていなかった。
「もう、まぁだわかんないかなぁ?」
本を丸めて、キラキラと目を輝かせる。
「これでビデオ作んない?」
「ビデオ?」
キョトンとするレイ。
「そ、インディーズ」
一人盛り上がるマナに対して、周りの反応は非常に落ちついたものである。
「あんたばかぁ?」
天を見上げたまま動かないマナに、ようやくアスカが突っ込みを入れた。
「高校生にもなって、どうやって中学生の役やるのよ?」
アスカはのんびりとお茶をすする。
「それに、あんたの魂胆なんて見え見えなのよね」
そして呆れた視線はアスカだけでは無かった。
「ま、そうだねぇ」
カヲルも相槌が続いたのだ。
「インディーズの9割はアダルトだからねぇ」
偏見である。
「そんな事考えてないってぇ」
四対一では分が悪いのか、マナはあっさりと引き下がった。
「その証拠にほら!、このお話だと最後はアスカとくっつくような感じでしょ?、ね?」
「そうなの?」
「ねっ、ね?、まあ取り敢えず最後まで読んでみてよ」
「…まったくぅ」
まだ疑惑の目を向けつつも、アスカはマナから貰った脚本を開き、ざっと目を通し始めた。
●
二年後。
二人は中学生になっていた。
「惣流って、アメリカンスクール行くんじゃなかったっけ?」
そばかす顔の相田ケンスケが、登校途中にシンジに漏らした。
朝の空気は春特有の、少し尖った感じが受けられる。
「私立に落ちたんとちゃうかぁ?」
けけっと笑ったのは鈴原トウジだ。
「さあ?、僕も良く知らないから」
シンジは適当に受け流した。
「なんだ、冷たい奴だなぁ」
「おまえらほんまに仲悪いのぉ」
呆れ顔の目。
シンジは苦笑を返す。
幼馴染で家も隣り通しだが、シンジがアスカと遊んだのはあの日が最後になっていた。
「ちょっとバカシンジ!」
シンジは鞄に教科書を詰めている最中に怒鳴られ、きょとんとアスカを見上げた。
「なに?、惣流さん」
ピクンとアスカの眉が跳ね上がるが、シンジは気が付かなかった。
「あんた掃除当番でしょ!、なに帰ろうとしてんのよっ」
「そうだっけ?」
「あんたねぇ!」
「まぁまぁ」
間にトウジが割り込む。
「ちょっと忘れとっただけやないか」
「サボり魔がなによ!」
「なんやとう!」
顔を覆うケンスケ。
「バカ、それじゃあ自分で言ってるようなもんだろうが」
ケンスケの呆れ顔を余所に、二人は男子対女子の構図を作り上げて行く。
幾人か…、男子は明らかによく掃除をサボる面子で固まっている。
それ以外のものは傍観組だ。
シンジは立ち上がると、ごめん、と呟いた。
「悪かったよ、サボろうとして」
「シンジはなんも悪いことあらへん!」
「わかったんなら、さっさとやんなさいよ!」
「…うん」
冷めた顔で無感動に頷く。
シンジが掃除用具を取りに行くのを睨み付けながら、アスカは怒気を膨らませていた。
(なによ、バカ!、誰もサボりだなんて言ってないでしょうが!)
忘れてると注意しただけだ、なのに…
アスカには大きな不満が募っていた。
『いつの頃』からか、シンジが急によそよそしくなったからだ。
気が付いたのは珍しくシンジの宿題を見てやろうと言う気になったある日のことだった。
『ごめん…、母さんに教えてもらったから』
あ、そうと言って肩透かしを食らったその日の晩。
アスカは「人がせっかく」と腹立ちを抱えていてはっとした。
シンジの両親も自分の家と同じく多忙で、勉強を見てもらう様な暇は無いはずのだ。
以降、これまでも今日のように口数が多くならないよう、なるべく早く会話を切り上げているのに気が付いた。
(なんなのよ、もう!)
だがアスカはその原因が自分にある事に、まったく気が付いていなかった。
シンジは教室を出ると音楽室へ向かって歩き出した。
吹奏学部に入っているわけではない、昔チェロをやっていたことがあり、その時、同じ音楽教室だった先輩に強引に見学に誘われたのだ。
(チェロ、か…)
シンジは好きでは無くなっていた。
それもこれも音楽教室の先生が『加持さん』だからかもしれない。
シンジをダシにするようにアスカは訪れ、先生にじゃれついていた。
あれを弾け、これを弾け、できないの?、バカね、下手くそ、上手いもんじゃない。
アスカの拍手。
シンジは思い出して、胸を痛めた。
別にアスカだからと言うわけでも無い。
誰かが喜んでくれる、面白がってくれる。
それだけで嬉しかった、嬉しくなれた。
だから楽しかった。
(いいじゃないか、もう…)
父と母、アスカ、アスカの両親。
『あの日』、シンジは気が付いてしまった。
どんなに頑張ってもいつか飽きられてしまうものなのだなぁと。
自分のチェロは、もうアスカにとって一番ではないのだと悟ってしまったのだ。
それはシンジからやる気を削ぐには、十分過ぎる理由であった。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
Q'
は
Genesis Q
の
nary
さんに許可を頂いて私
nakaya
が制作しているパロディー作品です。
内容の一部及び全部の引用・転載・加筆その他の行為には
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nary
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