NEON GENESIS EVANGELION
Genesis Q':102
ドサ…
布団の上に仰向けに身を投げ出す、制服のままで。
(なによ…)
赤い髪とスカートが大きく広がり、体の下敷きになっていた。
射殺さんばかりに誰かの顔を思い浮かべて睨み付ける。
アスカの目に写っているのはシンジだった。
それも霧島マナと仲良くいちゃついていた…
(だからって、掃除をサボろうとするなんて!)
邪推である、だがシンジにはサボろうとするつもりがあって、だから教室で謝ったのだと、アスカの中では誤った真実が形作られつつあった。
むくりと起き上がる。
「バッカみたい…」
(なんであたしが…)
こうむしゃくしゃしなければならないのか?
その原因たるものを探り当てる。
「シンジのせいよ!」
アスカは枕を持ち上げ、締め切った窓の向こうにあるシンジの部屋めがけて投げ付けた。
バン!
「…なんだろ?」
シンジはふとカーテンの外が気になったが、開けるのはやめておいた。
(どうせアスカだ…)
昔から時折アスカが苛立って窓に何かをぶつけているのを知っていた。
カーテンは締め切ったままだから、何をやっているのかは分からないが。
「いいさ…」
机に向かい直して宿題に手を付ける。
もう一年、カーテンを開けてはいなかった。
小学校六年生の時だった、カーテンを締め忘れたアスカが「人の寝相を覗くな」と逆切れしたのだ。
シンジは大人しく従い、カーテンを締め、窓も開けないようにした。
それが今でも続いている。
(アスカは忘れてるだろうな…)
いや、元々自分のことなど歯牙にもかけられていないとかぶりを振る。
「はぁ…」
ついペンを手で弄んでしまう。
シンジはアスカのことを強引に切り離すため、今日の出来事を振り返った。
「霧島さんか…」
『それじゃあまた明日ね!』
元気にバイバイと手を振っていた。
「明日か…」
どうせ顔も合わせないだろうと予想を立てる。
クラスが違うのだから、その気が無いのなら接点は生まれないはずだ。
そしてシンジは彼女にもまたアスカ同様に馴れ馴れしくしないよう心に言い聞かせていた。
(落ち着けって…)
胸に手を当てて深呼吸をくり返す。
(霧島さんにはムサシ君がいるんじゃないか…)
ズキンと胸が傷んだ、しかしそれが心地良い。
(そうだよ、僕なんか…)
自虐的になっていく。
肩にはまだマナの頭の重みが残っていた。
しかしそれらは全て錯覚なのだ、だから思い上がってはいけない、思い込んでもいけない。
霧島マナは立ち直って、そして自分などすぐに忘れさってしまうのだから。
(そうだよ)
そして自分はまた孤独に戻る、いいや元から孤独なのだと、なんとか言い聞かせることに成功した。
だが翌日。
「あ、シンジ君!」
「え?」
シンジの予想は、思いもかけない形で裏切られることとなったのだった。
●
「ね、ねっ、ね!、どう!?」
マナはわくわくとアスカの感想を待った。
「はぁ…、まあ、あんたにしてはまともな話しよね?」
「でしょ!?」
耳から入った感想は「良い話し」にコンバートされたらしい。
アスカはそんなマナをジト目で睨んだ。
「でもだからって、なんであたしが」
手伝わなければならないのかと不満が募る。
「だってそれ、アスカのイメージで書いたんだもん」
マナのしれっとした一言にムッとするアスカ。
「やっぱりパス!、あたしこんなにひねくれてないもん」
それに、っと付け加える。
「やるんならあんたたちでやればいいじゃない」
視線の先は芸能科の三人へだ。
「レイはどうなのよ?」
アスカはその中でも、一番自分寄りだと思うレイに話を振った。
ん〜っと、余り好ましくない反応を見せるレイ。
「…カヲルがムサシって役をやるんなら、マナの役がやりたいかもね?」
「なんでよ?」
てへっと照れたように笑うレイ。
「だってカヲルを振ってシンちゃんとくっつくんでしょ?」
「あんたねぇ…」
「この後きっとマナは良いお友達でいましょうねって電話ですっぱりとどめさして、シンちゃんの傷を癒してあげるためにアスカと対決していくのよ」
アスカはその連想にはっとした、その筋でなら『アスカ』を『マナ』で出し抜くことができるからだ。
「マナ、あんた…」
既に背を向けて忍び足で逃げようとしてる。
「ちょっと待ちなさいって、こらぁ!」
「ひゃっ!」
逃亡するマナを、角を生やしたアスカが追いかけていく。
「…図星だったみたいだね?」
カヲルは苦笑して見送ってから、少し険のある視線をレイへ送った。
(僕を振って傷つけると言う役を、そんなにやりたかったのかい?)
その上、『声』でまでレイを責める。
「ま、カヲルも『顔だけ』ならいいしねぇ」
それを真っ向からやり過ごす。
「…顔の良い男の子の情けない姿って、見て見たくない?」
ねぇシンちゃんっと振られて、シンジは曖昧に笑って護魔化した。
「あー!」
悲鳴を上げるレイ、ミズホはと言えば…
『すぅ…』
シンジの肩にもたれて、幸せそうにぬくぬくと眠っていた。
●
ミズホは夢を見ていた。
「シンジ様ぁ〜〜〜!」
大きな丘に向かって一本の道が伸びている。
手を抜いた絵本のような景色の中を、ミズホはうさぎとなって走っていた。
「シンジ様っ」
うきゅっとしゃがみ込んでいるシンジの背中に飛び付く。
「なにをなさっているんですかぁ?」
肩越しに前を覗きこむと、赤い目に青い髪をした白兎が、悩ましげなポーズでシンジに足を預けていた。
「し、シンジ様、なにを!?」
「ちょっと待ってね…、痛くない?」
シンジはミズホへの対応もぞんざいに、白兎に向かって問いかけた。
ウサギは白い肌を紅潮させつつも、くじいたらしい足をさすり、頷いた。
足にはシンジの巻いた包帯が痛々しくも見受けられる。
ミズホはちょっと面白く無さそうな顔をした。
「さ、シンジ様ぁ…」
ねだるように腕を取る。
今日はお出かけなのだ。
どこへ、かは定かではない。
だがシンジのお出かけなのだからそれでいいのだ。
「シンジ様ぁ」
甘えた声を出すが、やはり気にしては貰えない。
「ちょっと待ってって…」
さすがにミズホの顔に気が付いたのだろう、シンジは苦笑しながらミズホにお願いした。
「この子を送ってってあげようよ、ね?」
シンジの優しげな目に見つめられると…
「はいですぅ…」
うきゅうっと、声をしぼめさせてしまうしかない。
この目が困ったり悲しんだりするのは見たくないのだ。
だが一方でミズホは、「あ、またですぅ」と考えていた。
聞き分けが良くて物分かりがいいと、どうしても損をしてしまう。
またシンジも、どこかそれが分かっていて、ミズホにお願いと我慢するよう頼んでいるように見えるのだ。
『嫌ですぅ、シンジ様ぁ!』
ミズホは我が侭な心を圧し込めた。
「ふぅ…」
アンニュイな午後はお腹の膨れ具合に比例しているらしい。
少々胃がもたれてしまう程の満腹感の中に、ミズホはさきほど夢に見た内容を反復して気をおとしめていた。
『夢は潜在的な欲求や不満、願望が形となって現われる』
ミズホは『国語の先生』のお言葉を聞き流しながら、その意味を確かめていた。
「お二人ばっかり、ずるいですぅ」
ぽろっと口からこぼれてしまう。
レイの抜け駆けデートを考えると、自然と頬が膨らみ、ぷんぷんと頭から湯気が吹き上がる。
これで後、遊園地へ『お出かけ』していないのは自分だけ。
だが自分からお願いするとどうなるのか?
(しょうがないなぁ…)
シンジのそんな声が聞こえるようで、ミズホはちょっと悲しくなった。
結局順番は最後になるのだ、それもしかたがないからとおまけのように。
(ずるいですぅ…)
もちろんシンジから誘ったわけでは無いことは分かっている。
(でもでもぉ)
たまには『一番』になりたいのだ、女の子として。
(シンジ様ぁ…)
はふんと頬を上気して、潤んだ瞳で黒板を眺める。
『ミズホ』
そこには自分だけを見つめているシンジが居る。
(はっ、いけません!)
ぶるんぶるんと首を振る。
いつも想像で満足しているから、自分は凄く安上がりなのだ。
『いけません!』
ミズホはむんっと、机の上で拳に気合いを入れた。
(わたしだって、ですぅ!)
シンジのために頑張っているのだ。
たまにはご褒美だって欲しくなる。
(なんだ?)
ころころと表情を転がすミズホには、怪訝そうな教師、クラスメートの視線が集中している。
しかしミズホはそんな事も気にならないほど自分の思いにはまり込んでいた。
我が侭になろう。
ミズホはそんな風に、イメージを壊そうと奮起した。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
Q'
は
Genesis Q
の
nary
さんに許可を頂いて私
nakaya
が制作しているパロディー作品です。
内容の一部及び全部の引用・転載・加筆その他の行為には
作者である私と原作者
nary
さんの許可または承認が必要です、ご了承ください。
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