NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':102 


「あれぇ?、シンちゃん、何持ってんの?」
 レイはまだ教科書をまとめようとしないシンジに近寄って、彼が弄んでいるものを覗き込んだ。
「これ?」
 シンジはそのチケットをレイに見せた。
「この間行った時にね?、貰っておいたんだ…」
 手にしているチケットはネオセントラルパークの無料入場券である。
「あ、配ってた奴?」
 レイの瞳が輝き出す。
「じゃあまた連れてってくれるの!?」
「ごめん…」
 シンジはバツが悪そうに謝った。
「誘ってくれないんだぁ」
 いいもんいいもんと床の上にのの字を書きだすレイ。
「だ、だってさ!?」
 シンジは冗談だと分かっていても慌てた。
「ミズホも連れてってあげないと…」
 そんなシンジの両手を、白い手のひらが包み込む。
「シンジ君は優しいねぇ」
「カヲル君…」
「シンちゃんの手に触らないで」
 レイはいじけポーズで気を引こうとしていたのを邪魔されてむくれた。
「君の心、好意に値するよ」
 しかしカヲルは目もくれない。
 くれているのはシンジへである。
「皆に楽しみを分かち合ってもらいたいと言う君の想い、美しいよ」
「なにを…、難しくて良く分かんないよ、カヲル君」
「おおとりは僕だねって事さ」
 ガン!
 カヲルの顔面に鞄がめり込む。
「か、カヲル君!?」
「ミズホ…」
 レイは久々の加減ない攻撃に冷や汗を流した。
「シンジ様…」
「え?、あ、な、なに?」
 どうやら話を途中からでも聞いていたらしい。
 夢遊病者のような足取りで迫って来る。
「それ…」
「ああ、これ?」
 シンジは苦笑しながらひらひらと振った。
「ミズホと行こうと思って、だめかな?」
 シンジの大胆な誘いに、ブンブンと首を振る。
「よかった」
 ほっとした瞬間、緊張がほぐれたのだろう。
 シンジは本当に奇麗な笑顔を浮かべた。
 その笑顔の破壊力は推して知るべし。
(シンジ様から、お誘いして下さいましたぁ…)
 そのあまりの幸福感に…
「ああっ、ミズホ!」
 ミズホはバタンと、後頭部を打つ勢いでぶっ倒れたのだった。






 翌朝…
「うきゅう…」
 ミズホは目覚めると、時計を手に取り針の位置を確かめた。
「八時…」
 そして振り返る。
「…良い夢でしたぁ」
 珍しくそのまましゃきっと起床せずに、再び布団の上にぽてんと転がる。
「シンジ様がお誘い下さって、お弁当の下ごしらえして、アスカさんが何か言ってらっしゃいましたっけ…、そうそう、抜け駆けは駄目だって…」
 ほくほくと幸せを噛み締める。
「レイさんはお弁当のおかずを摘まもうとなさって…、あれが本当なら」
 ミズホはぐしゅっと鼻をすすった。
 夢の世界の自分が、余りにも幸せに満たされていたからだ。
 そして現実は残酷だった。
「ミズホ、まだ寝てるの?」
「…ふえ?」
 襖ごしの遠慮がちな声に起き上がる。
「シンジ様?」
 こんな時間に?、と訝る、今日は土曜で学校は休みだ。
「朝一番から遊ぶって…、準備とかしなくていいの?」
「ふっ、ふえ!?」
 その瞬間、ミズホの目に飛び込んで来たものがあった。
「ふえええええ!」
『ふっ、ブタうさぎのあんたにシンジを誘惑する色気があるのかしら?』
 アスカだけが出来る余裕の発言、レイはこの瞬間だけミズホの味方だった、そして…
『わたし、ウサギやめますぅ』
 ミズホはそう宣言したのだ。
 じーっと部屋の隅に投げ棄てられた赤木印のうさコートを見つめる。
「ミズホ?」
「うきゅーーーーーーーーー!」
 ミズホは目を回した。
 立ち上がろうとして躓く。
 どてっと家が揺れた。
「み、ミズホ!?」
「だ、大丈夫です、ですぅ!」
 慌ててはだけた裾を直し、ずり下がったパジャマのズボンを持ち上げる。
 万が一にもシンジが飛び込んで来たらと思うと、はしたない恰好に涙が滲む.
 机の上の鏡を覗きこむ。
「うきゅー!」
 髪がめずらしくぴんぴんに跳ねた上に絡まっていた。
「うきゅきゅきゅきゅ!」
(どうしてですかぁ!)
 泣きながら櫛を通す、ここまで酷くなることはめったにない。
 それは浮かれたミズホが何度も寝返りを打ったためなのだが、当然本人は気付いていない。
「シンジ様、しばし、しばしお待ちをぉ!」
 ミズホは涙混じりに懇願した。
 どうやらデートは、始まりから躓いてしまったようだった。



続く







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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