NEON GENESIS EVANGELION
Genesis Q':103
電車が到着すると同時に、淡いピンク色のスカートを広げて、少女が一人飛び出した。
「シンジ様ぁ、早くぅ!」
傍目には可憐に写る、小さな帽子の下に見える顔も少し小さめで愛らしい。
休みの日の行楽地だ、早朝と言っても人は多い。
皆、特に男性は女の子に『様付け』で呼ばせている相手に興味を持って、視線を送った。
「そんなに急がなくってもさぁ」
バスは電車の到着に合わせて運行しているのだ。
しかしいきなり寝坊したミズホにとっては。
「でもでもぉ」
う〜っと小さく握り拳を作って訴える。
頭の何処かで沢山言葉を並べるよりも、そうして口を尖らせた方が早く理解してくれると分かっているのかもしれない。
「わかったって、行こ?」
「はいですぅ!」
えへへっと差し出された手を握る。
その幸せそうな顔に目尻を緩めた幾人かの男性達が、連れの女性に足を踏み抜かれて飛び上がるというおかしな光景が展開された。
Neon Genesis
EvangelionGenesisQ'103
「純情・花マルGIRL」
入場口をくぐった二人がまず向かったのは、その脇にあるコインロッカーだった。
ミズホが持って来たお弁当の入ったバッグなどを預けるためである。
「さてっと」
シンジは一つ伸びをして、あまり青くない空を見上げた。
冬に相応しく薄い雲が張り、日の陽射しを陰らせている。
それはそれで今ひとつな感じがしないでも無いが…
(涼しくて助かったかな?)
シンジは周囲のひといきれを見て想った、羽織って来たジャケットだけでも、来しなの電車の中で背中に汗をかいてしまったのだ。
「どこから行こうか?、ミズ…、ホ」
「シンジ
さまぁ〜
」
「ああっ、ミズホ!?」
うきゅ〜っと人ごみに飲まれて流されていくのが見えて、シンジは慌てて追いかけたのだった。
●
「お客様、入るなら入るで早くして下さいよ」
「うっさいわねぇ、いま入ったらマズイのよ!」
そんな二人を入場口脇の角に隠れて、様子を窺っている二人組が居た。
誰と説明するまでもないだろう。
「ミズホの奴、上手くやってるじゃない」
「そっかなぁ?」
レイはちょっと首を捻った。
どう見てもさらわれたのは地の成せる技であって、計算だったとは思えない。
結果としてシンジが凛々しく…、凛々しく?、助けてくれたとしてもだ。
「あ、ほら!、腕なんか組んじゃってもう!」
(…はぐれないようにじゃない)
はぁっと溜め息。
「…なによ?」
「なんでもぉ?」
レイは先を行くように歩き出して護魔化した。
「あ、ちょっと待ちなさいよ!」
慌てて追って来るアスカに再度溜め息を吐く。
(文句があるなら、最初っから行かせなきゃ良いのに)
この気の良い『姉』は、そう言う面で素直じゃない、とつくづく思う。
(まあミズホだもんねぇ…)
涙目になられては、どうしても勝つことが出来ない相手だ。
(我が侭なんだから、もう…)
ミズホではない、アスカのことだ。
(結局シンちゃんなのよねぇ…)
ミズホのことを言いながら、アスカの目はシンジだけを追っている。
(あのばかシンジがってとこかな?)
レイは自分の想像にクスリと笑った。
ミズホが優しくされる事に異存が無いのは、アスカも自分同様であると想像できる。
ならなにが気に食わないのか?
(シンちゃんってば、もう…)
その笑顔を自分にも向けろ、と言いたいのだろう。
(アスカじゃ無理だもんねぇ…)
それは自分にも言える事だった。
幼馴染である以上、遠慮会釈の無い部分がある。
レイに対してもそうだ、中学時代の同居が『家族に対する遠慮の無さ』を生み出しているのだから。
その点、どちらにも分類されていないミズホは有利なものを持っている。
(って言っても、わかってるんだか、わかってないんだか…)
そんなミズホの自覚の無さを、レイは本気で羨んだ。
「あんた、さっきからなに考えてんのよ?」
「なんでもないって」
ひらひらと手を振る。
アスカを見たのは確認だった。
アスカとはライバルとして張り合える、だから牽制もし合えるのだ。
勝てない相手ではない、勝負になるから。
(なぁんで許しちゃうかなぁ?)
それに対して、ミズホとは勝負をする気になれないでいる。
ミズホとデートと言う事になって、何故だか正面きって反対できなかった。
もちろん抜け駆けした事への罪悪感も手伝っているのだが、それだけでもない。
(結局みんな、ミズホには甘いって事か…)
またも長々と息をつく。
「あんたさっきから、なに溜め息ばっかり吐いてんのよ?」
「はぁ…」
(他の女なんか見ないで、あたしだけを見て!、なぁんて…、アスカならシンちゃんす巻きにしてさらってっちゃうか)
「なによもぉ!、なんでそんな目で見てるのよ!!」
レイはそっと、不敏なシンジに涙を拭うと同時に、自分だけは『つつましく』してあげようかと思うのだった。
●
「うわー、うわー、うわー、ですぅ」
シンジの腕に組み付きながらも、ミズホは目を輝かせて上を見上げていた。
幾つもの絶叫系のマシーンから、楽しそうな男女の悲鳴がたくさん降り注いで来るからだ。
(乗りたいの、あるのかな?)
シンジは何度も並んでいる人の数を確認しては、人の流から外れてそちらに向かおうとしていた。
しかし、その度にミズホが目移りをするので動けないでいる。
「シンジ様、あれ、凄いですぅ!」
少し多めに持って来た小遣いには自信があった、しばらくしてシンジは、まずミズホの好奇心がおさまるのを待つことにした。
「乗る?」
返って来た返事は、やっぱり「いいですぅ」という遠慮であった。
(遠慮じゃないか)
どうやら見ているのが楽しいらしい、とようやくシンジは気が付いた。
ま、いいかっと単純に考え、それに付き合うことにする。
多少きょろきょろとする度にぷつかって来るミズホの髪が鬱陶しかったが…
(あれもチョット凄そうですぅ)
一方、ミズホは確かに遠慮はしていなかった。
単純に恐かったのだ。
『いい?、ミズホ』
今朝、出かけ際にアスカにとっつかまり、厳重注意を受けていた。
『遊園地のトイレにはね?、下着の自動販売機があるの、覚えておきなさい?』
『嘘ですぅ、そんなの誰が買うんですかぁ?』
『あっまーい!、コースターとかお化け屋敷とか、女の子には恐いものが一杯なんだからね!』
(アスカさんの言ってらっしゃったことは本当でしたぁ)
うきゅうっと悩む。
確かに、多少きつそうだと考える。
ミズホは目移りさせながらも、何度かに一度はシンジの顔を見て思い直していた。
(うう、そんなのはぁ…)
気付かれてしまうのは恐い、なによりレイの指導の元に…
『だめ!、ちゃんと見えない所にも気合いを入れるのが礼儀ってもんなの!!』
ってことで、下着にまで気合いを入れて来ているのだ。
上下セットの下だけが変わる事には、言い知れぬ不安と抵抗を感じる。
だからミズホは臆病にはなっていたのだが。
(でもでもぉ)
ギュッとシンジの腕を強く抱き込む。
(これはこれでぇ)
えへへと幸せにどっぷり浸る。
今は人の流れに合わせてうろついているだけだが、ミズホはそれでも十分満足していた。
(そうですぅ!)
ようやくミズホはいい事を思いついたようである。
ぴょこっと後ろの髪が軽く跳ねた。
「シンジ様ぁ」
「乗りたいの見つかった?」
シンジの返事には首を振る。
「違うの?」
「えっとえっとぉ、シンジ様、アスカさん達とはどのようなものにお乗りになられたんですかぁ?」
シンジは一瞬キョトンとしたが、催促する様に腕を引かれて少し慌てた。
「えっとねぇ…」
つらつらといくつかの名前を上げていく。
お化け屋敷に、観覧車にと…
「じゃあじゃあ、こっちの方はだめですねぇ…」
「なんでさ?」
先のレイ同様に、ミズホは片手で器用に地図を広げていた。
「シンジ様がまだ遊ばれていないのはぁ…」
ミズホの意図を悟って大仰に慌てる。
「いいよ、悪いよ、ミズホが乗りたいのでいいって」
「駄目ですぅ、それにぃ」
ミズホは照れた。
「ホントは全部回ってみたいくらいなんですぅ」
そう言って、ミズホは純粋に微笑みを浮かべた。
どの道全部には乗れないのだ、なら両方が乗りたいものだけ乗ってもいいと…
(ほんと、良い子だよなぁ、ミズホって…)
ついぼうっとシンジはミズホに見とれた。
「シンジ様?」
はっとする。
「あ、あ、うん、そうだね…、じゃあ」
ミズホが軽く持ち上げた地図を覗き込む。
ミズホの優しさにほだされて、目が曇ったシンジは忘れていたのだ。
(みなさんと同じでは!)
このミズホとて、あの二人と正面からタメを張っていた少女であった、そのことを。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
Q'
は
Genesis Q
の
nary
さんに許可を頂いて私
nakaya
が制作しているパロディー作品です。
内容の一部及び全部の引用・転載・加筆その他の行為には
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本元
Genesis Q
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