NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':103 


「ああもう!、見失っちゃったじゃない!!」
 アスカは苛立ちを抑え切れないまま、穴が空くほど地図をじぃっと睨み付けていた。
「ねぇねぇ、二人ぃ?」
「一緒に回らなぁい?」
 そんなアスカと暇そうに佇んでいるレイとの組み合わせだったからだろう。
 軽薄そうな二人組が近付いて来た。
「ねぇ、それってナンパ!?」
 ソフトクリームを舐めていたレイは、突然好奇心一杯に瞳を輝かせ始めた。
「うん」
「そうだけど…」
 軽薄ではあるが、悪い人間ではないようだった。
 レイのあけすけな物言いに、『可愛い』=『純情』と短絡的な公式を想像していた若者二人は気後れしてしまったようで、赤くなった。
「アスカぁ、ナンパだって」
 これにはレイとアスカがナンパや告白に慣れている、と言う裏事情があるのだが。
「ああ?、それがどうしたってのよ!?」
 シンジの行動を予測するのに必死なのだろう、目が血走っている。
「ううん、どうしたってわけじゃないんだけどぉ」
 レイはやっぱり楽しそうに声を出した。
「休みの日に男の子二人で遊園地に入るのって、恥ずかしくなかったのかなぁって」
「バカ!」
 アスカは慌ててレイの手を引っ張った。
「い、痛いっ、アスカ!、アイス落ちちゃうって!!」
「うるさいわね、まったくもう!!」
 そそくさとその場を離れるべく、アスカはより足を速める。
 後には真っ白燃え尽き、あるいは陰に滅に入って地面にのの字を描く少年達が残されたのだった。






「シンジ様…」
「う、うん…」
 通り間際に、何気にお子様向けアトラクションをやっていたので目を向けたシンジとミズホは、そこに見てはいけないものを見付けていた。
「行こうか」
「行きましょう」
 そそくさと立ち去る。
 戦隊ものらしい、効果的な爆発音。
 そこから聞こえる悪役少女の高笑いは、二人の知っている誰かとそっくりで、どうしてもデジャヴを引き起こすには十分だった。


「こっちはお子様向きって事になってるけど…」
 シンジは周囲を見渡した。
 逃げ込むように、人の流れに沿って入ったそこは、道の両脇が青々とした人工芝の公園だった。
 低い柵の内側にはウサギが放し飼いにされている。
「シンジ様ぁ、可愛いですぅ」
「そうだね?」
 しゃがみこみ、手を伸ばして鼻先を嗅がせるミズホに和む。
 お子様も多いが、そんな可愛い一面に微笑むために、多くの男性が彼女を連れて来訪していた。
「柵を越えて逃げないのかな?」
 シンジはそのようにしつけられているのか、あるいはそう言う種類なのだろうと思うことにした。
「どうなさったんですかぁ?、シンジ様ぁ」
「あ、うん…」
 ポリポリと頭を掻く。
(言わない方が…、いいよな?)
 品種改良されたと考えればそう言う物なのだが、シンジは何故か思い出していた。
 以前、青森へ行った時のことだ。
 シンジはガラスケースの中でさらしものにされている仔猫を見た事があった。
 いま思い出すのはその猫のことだった。
 人の都合でそのようにされた動物が果たして幸せなのかどうか?
 シンジはあえて無視する事にした。
 今の笑顔を壊すよりはいいと思えたからだ。
「時間がさ」
「ふえ?」
 シンジは時計を見せた。
「結構ここまで歩くの大変だったでしょ?、そろそろ戻らないと、お昼までにお弁当取りに行けないから」
「そうですねぇ…」
 ミズホはふきゅうっと指を唇に当てた。
「どうしたの?」
「やっぱり、寝坊したのが…」
「ああ」
 苦笑する。
「まだ気にしてたの?」
「うきゅう…」
 さらに落ち込む。
 そんなミズホの頭をシンジは撫でた。
「どっちにしてもあんな荷物を持って遊び回れないよ、さ、戻ろう?」
「はいですぅ!」
 ミズホは握られた手をギュッと掴み返して、少し大きめに元気に振って歩き始めた。
(今日のシンジ様は少し違いますぅ!)
 手を握ってくれたのだ。
 シンジから!
 ミズホはかなり有頂天になっている。
「みぃつぅけぇたぁ…」
 そんな二人をようやく発見して、アスカは低く呻いていた。
「…アスカ、嫉妬に狂った行き遅れのおばさんみたい」
「誰がおばさんよ!」
「あ、行き遅れってのは否定しないんだ?」
「あんたもでしょうが…」
 はぁっと深い溜め息が重なった。
「行こうか」
「うん…」
 どよ〜んと暗い影を背負って歩き出す。
「なんかあたし達って」
「…言わない方がいいわよ?、絶対」
 二人の前方には、幸せ一杯のカップルが存在していた。






「ミズホって料理上手くなったよねぇ」
「ありがとうございますぅ」
 ほくほくと水筒から蓋にお茶を注ぎ、ミズホはシンジに手渡した。
 他にもカップルや家族連れが、この芝生の上にはレジャーシートを広げている。
 シンジとミズホも同じようにしていた。
「最初の頃なんて、すっごい量入ってたのにねぇ?」
「あれはぁ、アスカさんとレイさんがぁ」
 もし聞こえていたら、『なんですってぇ!』と怒鳴り声が上がっていた事だろう。
 それに聞き様によっては、「前は不味かった」と聞き取れない事も無いのだが、そう言う意味でないのはミズホにもようく分かっていることだった。
 全てに置いては日進月歩、アスカのように『放っておくだけで育っていく胸』やレイの様に『異性を意識させない内に擦り寄る能力』も手にしていないミズホにとっては、何につけても努力こそが大事なのだ。
 と、ミズホはそう信じているのかもしれない。
(シンジ様もシンジ様ですからぁ)
 その辺りについては嘆息せざるを得ない、ミズホもまたアスカやレイ同様に、男子からの熱い視線を浴びて来た過去を持っているのだ。
 同年代の男の子に比べて、シンジの『照れ』は奥手な程だと感じざるをえない。
(もうちょっと積極的にぃ)
 なっていたらどうなるのか?
 ミズホから見てもアスカの蠱惑的な体つきやレイの魅力的な笑顔は羨ましいものなのだから、彼にとってもそうなるだろう。
(だめ、駄目ですぅ!)
 ぷるぷると首を振る。
 女ったらしのシンジなどやはり想像できるものではないのだ。
 したくもないが。
 どちらにしても、二人の武器が通じていないからこそ、勝機は自分にも残されているのである。
(うんうん、ですぅ)
「どうしたの?」
「あ、はい!」
 ミズホは座ったままで背筋を伸ばした。
 余り知られたくない考えでもあったから。
「これからどういたしましょうかって」
 その言い訳を容易く信じる。
「鞄をどうするかだよね…、またロッカーに預ける?」
 ミズホはユイの指示に従ってサンドイッチを作って来ていた。
 包みは捨てられるよう紙製のお弁当パックだ。
 おかげで午後から鞄に詰めるのは、レジャーシートと水筒だけになっている。
「…時間がもったいないですぅ」
「そうだねぇ…」
 シンジは思い返した。
 ついさっき荷物を取りに行って、混雑ぶりにうんざりして来たばかりでもある。
「じゃあ鞄を持ったままで遊べるような所を探そうか?」
「はいですぅ!」
 ミズホは満面の笑みを返した。
 結局、何処で遊んでもいいのだろう、シンジが誘ってくれるのならば。






「バカみたい…」
「だから帰ろうって言ってるのに…」
 そんな二人のラブラブぶりに、はぁっと溜め息がぶつかり合った。
 アスカの脳裏にリフレインされているのは、レイがナンパ小僧達に放った台詞。
(こっちだって女の子二人で、なにやってるんだか…)
 これでは『寂しい者同士』と宣伝しているようなものではないか。
(それもこれもシンジが!)
 相手はすぐそこに居るのだ、しかし隣に居る少女の顔を見るとやる気も失せていってしまう。
「ミズホもあんな顔するのねぇ…」
「今更なに言ってるの?」
 怪訝そうにレイは覗きこんだ。
「ミズホだってシンちゃんのこと好きなんだし…」
「そうじゃないわよ」
 アスカは背筋を伸ばし、人ゴミの隙間から見えるシンジの横顔を眺め見た。
 ミズホと何か言葉を交わしているのだろう、笑っている。
「結局、シンジが誘ってくれたってのが嬉しいんでしょうねぇ…」
「そりゃそうじゃない?、あたし達だって…」
「さそってくれるんなら、ね?」
 しかし何処に行っても喜ぶミズホとは違い、どうしても注文を付けてしまう。
(素直じゃないのよね、あたしって)
 どうせなら最高のデートを、と考えるのは贅沢なのだろうか?
「アスカ?」
「レイは…」
「ん?」
 アスカは神妙な顔つきで尋ねた。
「シンジが連れてってくれるなら…、どこでもいいとか、思う方?」
「シンちゃんらしかったらねぇ」
 レイの答えは簡潔で…
 だからアスカも、「なるほど」とつい納得してしまうのだった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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