NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':103 


「それにしても…」
「なんですかぁ?」
 ついきょろっとしてしまうシンジを怪訝そうに見上げる。
「いや…、今日は静かだなぁって」
「そうですねぇ」
 言われた途端、ミズホも不審に想ったのだろう。
 シンジに縋り付きながら、確認のために辺りを見回した。
(お邪魔虫さん達が出て来ませぇん)
 酷い言いようだが、二人とも被害妄想が凄いのかもしれない。
「でも、のんびり出来ていいですぅ」
「はは…」
 そうだね?、の一言は、なんとなく『誰か』に聞かれてしまいそうで恐かった。






「落ち込むなって」
「でもなぁ…」
 さて、先程レイによって深い傷を負わされた二人であるが、自棄になって男のカップルで観覧車に乗るなどと無茶をし、余計に傷口を広げていた。
「ちくしょう…、そりゃ俺たちはモテないよ、モテなくて悪いかっての!」
「一緒にするなよ…」
「なんだとう!?」
 周りは彼らをあざ笑うかの様にカップルだらけだ。
 そしてそのことが余計に彼らを追い詰めていく。
「あっと、ごめん」
 その内、片割れがとんっと人にぶつかった、反射的に謝る辺りに人の良さが見えている。
 それに友人に押された反動でもあったから。
「ふえ、こちらこそぉ」
 ついでに相手が可愛い女の子と言うのもあった、ただし彼氏付きなのだが。
 はにかむような微笑みに心が洗われた、と彼は後に語っている。
 その少女の腕は自分らと余り変わらないレベルの少年に絡んでいた。
 これには多少はむかついたが、その程度のものだ。
 しかし彼の友人には刺激が強過ぎたようである。
「ちくしょう!」
「うわ!」
「お、おい、やめろって!」
「何をなさるんですかぁ!」
 シンジと少年その一が、二人がかりで暴れ出した彼を取り押さえようと大慌てになった。
「ミズホ離れて!」
「でもでもぉ!」
 おろおろとするミズホ。
「なにトチ狂ってんだよ、お前は!」
 彼も友人の痴態に呆れたようである。
「みんなお前みたいな奴が悪いんだぁ!」
(なんだそりゃ!?)
 呆れ返る一同の力が一瞬抜けた。
「うわ!」
 シンジは『やられる!』っと両腕を組み合わせて体を庇った、しかし…
「ちょっとあんた達!」
 その迫力ある透き通る声に…
 その場は凍りついたのであった。


 レイとアスカはずっとシンジの後を張っていた。
 赤い髪と青い髪の組み合わせは否応無く目立つものだ。
 勘のいいお子様などは…
「あ、あのお姉ちゃんたち、まだ『びこう』してるぅ」
 最近探偵物でも見たのだろう。
 その子の母親に至っては、「女の子には、そういう時があるものなのよ」と訳知り顔で可愛い我が子に諭すほどだった。
「アスカぁ…」
「わかってるわよ…」
 お互い非常に情けなくなってきている、しかし傷口が広がる前に撤退することを選択できるレイとは違って、アスカにはきっかけが必要だった。
 そして…
「あ、アスカ!」
「え!?」
 きっかけはやってきたのだ、望み通りに。


「あんた達、何やってんのよ!」
「な、なにって、別に…」
「別にって事は無いでしょう!?」
「大丈夫だった?」
「レイさん!?」
 ミズホは背後から両肩に置かれた手にほっとした。
 シンジに対しては荒事は期待よりも心配が先走ってしまう。
 しかしこの二人は違う。
 ミズホは安心と安堵を同時に覚えていた。
 同じ女性に持つ期待ではないだろうに…
 それにそれとして。
「やっぱり着いて来てたんですねぇ?」
「うっ…、い、いいじゃない!、邪魔はしてないんだから!」
 ミズホはそんな内心を出さずに、やっぱりとジト目をレイへと向けた。
「ぷぅ」
 ほっぺを膨らませる。
「ほらシンちゃん」
「え?」
 押し付けられたミズホを受け取る。
「レイ?」
「行って行って、後はわたし達で処理しておくから」
「しょ、処理って…」
 シンジは哀れみの目を少年達に向けた。
 この後の運命は、彼には予測するまでもないものだ。
「ちょ、ちょっと待てって、俺はほんとに」
「うがー!」
 この場合、不幸だったのは彼が本当に友人を選んでいなかった事だろう。
(絶対、縁切ってやる…)
 相手が女の子であるというのに、彼は本能が天国への道のりを望めと喚き散らしているのを感じたのだった。






「…悪いことしちゃったね?」
「そんなことありませぇん」
「そう?」
「そうですぅ」
 ミズホはまだふくれていた。
 お邪魔虫二人によって良かった雰囲気はぶち壊されてしまい、さらには別の二人が出て来た事で、シンジの意識が自分から離れたのを感じてしまったのだ。
 先程まで、シンジの頭は自分のことでいっぱいだった。
(それはそれは、とても嬉しい事でしたのにぃ!)
 二人は入園口から、園内でも一番奥にまで進んでいた。
 こちらにも出口はあって、一応バス停は存在するのだ。
「もう時間だね」
「そうですねぇ…」
 一応、アスカやレイと「晩ご飯には帰る」と約束して来ている。
(でぇもぉ…)
 先程、その約束を信じてくれていなかったのを目撃してしまったばかりだ。
(そうですねぇ)
 ちょっとぐらいは。
 そんな悪い心が沸いて来る。
「ミズホ?」
「は、はい!」
 ミズホは慌てて笑顔を取り繕って、シンジの向こう側にあるバスの時間表に気が付いた。
 そこに書いてある芦の湖港の文字。
「どうしたの?」
「これ…」
「え?」
「遊覧船に乗ってみたいですぅ」
「遊覧船?」
 シンジは振り返って同じものを見、ああ、とようやく納得した。
「だめでしょうかぁ?」
 少し上目遣いをする。
 しかし答えよりも早く、シンジの返事は分かってしまった。
 シンジが優しく微笑んでくれていたからである。






「ただいまぁ!」
「ですぅ」
 シンジはぽいぽいっと、ミズホは少し屈んで靴を脱いだ。
「おっそーい!」
 どたどたと走って来る音。
「何処で何やってたのよ!」
「え?」
 シンジはわざとすっとぼけた。
「どこで…、って、知ってるじゃないか」
「ですぅ」
 ミズホもべぇっと舌を出す。
「あんたねぇ!」
「まぁまぁ」
 レイは宥めた。
「それよりぃ、早く、ご飯食べようよう…」
「え?」
 シンジは驚いた。
「まだ食べてないの?」
 時間を見る。
 八時になっていた。
「アスカがぁ、帰って来るまでって食べさせてくれないのぉ」
「あ、ははは…、それは」
「シンジぃ…」
 パキポキと指を鳴らす。
 アスカのこめかみには、引きつるほど血管がくっきりと浮かんでいた。
「分かってるでしょうねぇ?」
「う…」
 一歩下がる。
「あ、わたし、その前にお風呂に入って来ますぅ」
「じゃ、あたしは先に食べてるねぇ?」
「待って、待ってよぉ!」
 あるいはシンジが逃げなければ、それ程大事にはならなかったのかもしれないが…
 長年染み付いた習慣は、そう抜け切らないものである。
「あらミズホちゃん、お帰りなさい」
「はいですぅ」
 ミズホはユイに満面の笑みを返した。
「その様子じゃあ、良いことがあったみたいね?」
「え?、い、嫌ですぅ!」
 頬を両手で挟み込み、ミズホは慌ててバスルームへと逃げ込んだ。
「…ほんとに何かあったのかしら?」
 首を傾げるユイ。
(シンジ様…)
 ミズホは脱衣所の床にペタンと座り込んでぽうっとしていた。
 頬の火照りは最高潮である。
 あまり乗り物に乗らなかったからお金が余っている、といつものように気を遣ってくれたシンジの笑顔。
 船のデッキ、二人で風に吹かれて見る夕焼けと、少しの波でもミズホを想って支えるシンジ。
 自然とシンジの体にミズホは包まれるようになっていた…
(シンジ様…)
 シンジの胸に背中を預ける、頭はシンジの首元に。
 潤む瞳でシンジを見上げて…
 その後、ぽうっとのぼせたミズホの記憶は跳んでいた。
 何があったのか?
 そこには妄想の域を出ない現実だけが、延々長々と横たわっているのであった。



続く







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Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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