「もう!、マユミってばずるーい!」
マユミの部屋で、ごろごろと転がっているマナ。
「シンちゃんと帰っちゃうなんて!、せっかく待ち伏せしてたのにぃ!」
マユミは「はぁ…」っと大きくため息をついてしまった。
「そんなの…、だっておトイレに行っちゃってたマナが悪いんじゃない」
「うう…、なんてタイミングが悪いの?、その5分ぐらいの内に帰っちゃうんだから…」
「で?、いつまで待ってたの?」
「六時半…」
校門閉められなかった?、とは、さすがに物悲しくて聞けなかった。
●
「で、どうだった?」
「どうだったって、なにが?」
「かー!、センセ、何とぼけとんのや!」
「だから何が!?」
「海外だろ?」
「うん」
「そして海や!」
「そうだけど…」
「女が開放的になるには、十分なシュチュエーションじゃないか!」
「そや!、一夏のアバンチュール、これしかあらへんで!」
電話の向こうには、ケンスケとトウジ。
「これしかって…、まだ5月だよ?」
「もうすぐ6月やないか!」
「そんなこと言ったってさ…、あ、ちょっと待って」
シンジは人の気配に振り返った。
「シンちゃん…」
「ん?、なに?」
シンジの部屋、ちょうどカヲルは居ない…というか、学校も欠席だった。
まあいつものことだから…、シンジも気にしなくなっている。
「ちょっといいかな?、…電話中?」
「うん、あ、でも…」
「いい、やっぱり…、いい」
「ちょっと待ってよ、どうしたの?、変だよ」
レイは首を振るだけ。
「なんでもないの」
「レイ…」
シンジはレイの手首を取って引き止めた。
「シンちゃん…」
ジュゴーッと、ストローをすする音。
「かー背中痒いわ」
「ほんとほんと」
ケッーーー!、やっとれんわと、吐き捨てる二人。
「あ、違うよ二人とも、そうじゃなくて…」
シンジ達は、受話器の向こうからの声に赤くなってしまった。
「ケンスケぇ、もうジュース無いんかぁ?」
「あ、あたし取って来るぅ…」
「は、ハルカちゃんまで居たの?」
焦るシンジ。
「と、とにかくさ、後でちゃんとかけ直すから…」
「なにー!?、こんな時間から何する気ぃや!」
「いいって、いいって、かけ直さなくてもさ」
「まーセンセはよろしくやっとれや」
「んじゃな」
「あっ、ちょっと!」
ツーツーツー…
電話はとっくに切られていた。
これは後でちゃんと電話しないと…
どんな噂をばらまかれるか分からない。
「シンちゃん…」
「あ、ごめん!」
レイの手首をつかんだままだった。
シンジが離すと、レイは手首をさすりながら、階段を上げて蓋をした。
これで屋根裏のロフトは密室になる。
「なに?、大事な話でもあるの」
からかいに来たわけではないことは雰囲気で分かる。
「やっぱわかっちゃうかなぁ?」
シンジは「うん」と頷いた。
言いづらそうに、でもレイはシンジに告げた。
「あのね、今日お父様達に薦められたんだけど…」
カヲルの持ち込んだ小さな冷蔵庫からジュースを出す。
レイはそれを受け取りながら、今日の校長室での話をシンジに話した。
●
「編入?、四類…ってシンちゃんのクラスにですか?」
レイは担任に睨まれて、ちょっと首をすぼめてしまった。
「もちろん君の自由意志だけどね、これには大人の都合もあるのさ」
「校長…」
先生のたしなめなど通じない、加持は裏表を作る気などもうとう無かった。
「都合…、ですか?」
「そうだ」
後をゲンドウが引き継ぐ。
「実験校の意味合いが強い以上、外部に対するPRは必要になって来る」
「印象を良くしようというのよ?」
ユイの説明の方が分かりやすい。
「でも、それとあたしと…」
「レイちゃんはテレビに出てる」
タタキが乗り出す。
「事務所に入って活動しててもおかしくない、でも本業は学生だから、その点は俺達がシャットアウトして来たのさ」
ふうん…と言う程度の感慨しか受けない。
まあ、元々あたし、お小遣い稼ぐだけのつもりだったし、っと気楽だ。
「問題は綾波さんが、四類の誰よりも早くデビューしてしまった事なんだな、これが」
苦笑いを浮かべる加持。
「でも、それならシンちゃんだって…」
「いや、悪いけどレイちゃんの方が遥かに知名度が高いんだ」
「この差は大きい、レイ、決めるのは後で良い、今は話を聞きなさい」
「はい…」
ゲンドウにそう言われては仕方が無い。
命令には従っとこう…
それ程大袈裟なものでもないのだが…
「それに普通科と分けていたのにも理由はあるんだよ」
「そうなんですか?」
「ああ、周りの声が、わずらわしくはないかい?」
別に…とは思ったが、口はつぐんだ。
今はそんなこと無いけど…、あるかな?、ラブレターって量増えてるし…
何故学校の机の中に、普通郵便や速達が混じっているのか不思議ではあったが。
「騒ぎが大きくなる前に、ね?、わかるだろう?」
「わたしはやはり反対します」
レイの担任教師はその一点張りである。
「特別だからと隔離し、差別するようなことは…」
レイはちらりとタタキを見た。
だからタタキさんも呼ばれたのかな?
じっと見つめる赤い瞳に気がつく。
くすっとタタキ。
「なにかな?、頼りになるおじさんに助けを求めたいって?」
「タタキさんは野次馬の方だと思います…」
「こりゃきついねぇ…」
くっくと笑う。
「俺が来たのは、もしアイドル専科に移るんなら、その先の話に進むかもしれないからってだけだよ」
先?
問いかけるような視線を投げかける。
「まずは学校のパンフの製作、案内書とかだな、それにアイドル専科の事を説明するためのイメージビデオとか」
「ええー!、それあたしがやるのぉ?、なんでぇ!?」
レイは驚きのあまり、ついいつもの調子で驚いた。
「さっきも言われたろ?、実績がある、知名度が高い、「誰だこいつ?」ってことになったら話にもならない、それよりは「誰だろう、この子?」って最低限興味を引かせないとな?」
うう、でも…
助けを求めるようにユイを見る。
「いま決めなくて良いの」
「ああ、後でシンジに相談しなさい」
シンちゃんに?
どうして?っと首を傾げる。
もちろん相談は持ち掛けるだろうが…
どうしてシンちゃんに聞けって言うの?
レイ自身にも、シンジが答えを出してくれるとは思えなかった。
●
「そっか…、でもレイはどうしたいの?」
「わからないの…」
「レイに決められないものを、僕が決めるわけにはいけないよ」
そう言うと思った…
シンジの答えは予想通りだった。
しかし…、シンジの脳裏には、夕方のマユミとの会話が残っていた。
応援するって言っちゃったし…
少し方向が違うかもしれない。
だがシンジにとっては、レイが何かに夢中になって離れていくこと、それ自体に違いは無かったのだ。
「忙しくなったら会えなくなっちゃう?」
「え?」
「それは寂しいと思う」
「シンちゃん…」
レイの様子に、今の台詞に喜んでくれてるのかな?っと、確認するように見てしまう。
いけない、こんなこと考えちゃ。
シンジはその先を続けた。
「でも、これってチャンス…、なんでしょ?」
「そうなのかな?、あまり興味ないから…」
「興味がないなら、どうして相談したりするの?」
レイはばっと後ろを向いてしまった。
「知らない!」
えっ!、えっ!、えっ!?
どうして急に怒るんだよ?
レイは首筋まで赤くなっていた。
だから余計に困惑してしまう。
怒ってないの?
なら余計に理由が分からなくなる。
シンジはため息をつきたいのを堪えて天窓を見上げた。
今タペストリーは外している。
「レイ…、月だ」
「え?」
「月が奇麗だよ?」
シンジはそう言って電気を消した。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
Q'はGenesis Qのnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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